製造業の国際化について

近年、日本製造業の生産拠点が急速に海外特に東南アジア・中国などに移転している。
結果的に日本国内の空洞化現象が指摘されている。
これについての是非・対策等は既に多く述べられているが、ここでは筆者なりに整理してみたいと思う。
生産拠点は現在では非常に戦略的要素が強いため重要である。
一方、変化が激しく先が見えない時代である事も各所で指摘されている。
ここに先が見にくいにもかかわらず生産拠点の移転という、ある程度の長期計画を行うという矛盾した事態が生じる。
この状況での展開は戦略的事業である。
しかし、移転を実施した全ての製造業がどれほどの見通しと調査を行い、これに基づき戦略的に海外移転を行っているのかは疑問が有る。

顧客の生産者にたいする要求は、(1)品質、(2)コスト、(3)納期 の継続的改善で有ることは、QS9000の要求事項でなくてもほぼ自明である。
顧客サービス・ブランド・過去の実績なども、細部に分析すれば上記の3要素に置き換えられる。
従って海外移転を計画する時は、3要素に対するメリットとデメリットを可能な限り検討する必要がある。
特に「将来の予想は先が見えないから出来ない」では極めて危険である、他が行うから自社もでは最終的にはメリットを生まない。
逆にいえば長期計画を考える体力が既にない場合は、戦略なき状態であり海外移転も難しいといえる。
(1)品質については何を何時・どのように生産するかによって大きく変わり、非常に検討すべき事が多いと共に個々のケースで異なる。
しばしば成功例が紹介されるが、では同じことを遅れて行えばどのようになるかと言えば当然ながら結果は異なる。
また製造と言っても分野が異なれば全く異なる結果にもなりうる。
これはコスト・納期とも切り離せない問題である。
一般に自然環境・電力等の生産用資源・隣接した協力会社の有無・文化・風土・治安などマイナス要素の方が多い。
(2)コストについては明確な事は現在の移転先の人件費が安いことである。
何の代償もなく安いのならば問題ないが、実際は製品に占める実人件費コスト比率の問題と品質等の他の問題と流通・管理・材料調達・そして製造設備の原価消却も絡むためいつもトータルで安くなる訳でない。
(3)納期についても同様に早くなる場合も遅くなる場合もありうる。
輸出絡みでは日本からの輸出と生産拠点からの直接の発送の比較になる場合が多いからである。

東南アジア・中国をまとめて議論される場合も多いが、状況は個々に異なりどの地域でも同じ訳ではない。
物価・人件費・技術力・現地調達環境・流通・法律・文化など事前に考慮すべき事は際限なく多い。
国・地域で異なる事は明らかである。
既に実績が多い地域もあれば、工業団地開発中の地域も多い。
実績といっても生産品目等で異なるし、中国広東省などのように極めて特殊事情をもつ地域もある。
一般に、特に人件費が安い地域は技術力・材料の現地調達環境をはじめとして製造の制約が多い。
また、法律・流通がネックになる地域もある。
この場合の法律は日本・生産地域・製造品出荷先の全てを含む。
流通も同様である。
管理と責任部署の所在と能力が非常に大きく結果を変える部分である。
いくら国際化といわれても、自由に物・技術・人が移動できる訳ではない。
また、可能であっても時間の長短の差は大きい。
たとえば、自社で流通作業をおこなうのか、専門業者に依頼するのかの判断は単純ではない。
今は国際宅配便も普及しているし、各国ともに支援航空会社を持つそしてその会社のみが特例で短時間対応可能な場合も珍しくない。
環境が整ってきて制約が少なくなると通常は人件費は上がってくる。
この地域には参入企業が多くなるので労働者も有利な職場を選ぶ事ができる、作業者の教育等で品質を維持しようとすればコストアップも伴う。
また、生産と品質を維持する為に必要な日本人技術者等の人数も無視出来ない。
海外で働く日本人の人件費は通常は逆に日本国内よりも高くなるからである。
安い現地人件費のみで海外生産を選定すると、意に反した結果になる可能性は充分に予想される。

基礎研究を除外した製品開発に限っても、開発拠点をどこにおくかは同時に決定する必要がある。
とりあえず生産のみの移転を行って開発拠点はその後で考えるという選択が多いと思うが、海外移転のスピードが速くなってくると同時に決定してシステムを作る必要がある。
特に共同開発が主流になりその中に産学・官民共同が含まれると非常に限定される。
また、生産地域の会社等との合弁の時も同じ事情になる。
現在は製品開発のスピードが非常に速くなっている。
開発拠点と生産拠点が離れるデメリットも多い。
そして、今後の新開発品での人件費の占める割合の低下も予想される要因である。

さらに必要なのは現在の生産拠点といわれている地域の、将来の市場としての見方である。
需要地生産という望ましい将来が可能性として考えられる。
将来的に独占的な優位性は期待出来なくても、マーケットの変動に遅れないメリットは期待できる。

日本国内に目を向けると労働人口の減少の問題が有る。
そして危惧されていることに労働者・開発者の質の低下がある。
付加価値の高い(人件費比率の低い)製品への移行、ロボットなどの製造技術の革新(少量多品種生産も含む)で解決できるか、あるいはそれも達成できるか予断は厳しい。
日本国内での産業間での人口移動はあっても、少人数での生産形態は省くことの出来ない選択枝と考える。
いわゆる生産物の住み分けの結果としての国内生産は必要であり残ると考えたい。
生産人口は減少しても生産量(金額?)が減少せず増加する道があると考えたい。
なぜならば日本が得意にしてきたのは、生産技術であって基礎技術ではないからである。
今後日本のビジネスシステムは変わる必要があるが、得意分野を捨てた所からのスタートは現実には不可能に近いと考えられる。
具体的には個々の分野で異なるが、海外生産への見通しなき全面シフトは戦略なき経営と言わざるを得ない。

逆に基礎技術・研究については国内の共同研究と同様に、逆の意味で海外化・国際化が進んでいる。

現在・未来は基礎から生産・流通その他すべてに渡って、単独での事業展開は困難と予想される。
独自の強みを持って、国内・海外を含めた外部の利用・共同での事業展開を戦略的に行って行くことで生き残り・成長が可能になると考える。

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