はじめに(ご紹介にかえて)
「INCANCELLABILE・・・消し得ぬ想い・・・」と題されたこの物語は、土居昇用(どい
のりちか)さんの体験談です。
1997年2月11日 イタリア。
イタリアンシェフの土居さん(以下chikaさん)は、ひょんなことから立ち寄ったユースホステルのシェフとして働くことになります。この物語は彼がそこを去るまでの約4ヶ月間にイタリアの小さな街を舞台に繰り広げられた、彼と仲間たちの時に楽しく、そしてせつない29のお話です。
ここで物語の主人公、そして筆者のchikaさんについて補足しておきます。
彼はイタリアでの約6年間の修行を終え、2003年春から東京・汐留「ベルベデーレ」の料理長として活躍していましたが、2004年3月、33歳で急逝しました。(chikaさんの経歴はコチラ)彼は「il chiasso com.(イル キアッソ コム)」というホームページ(2005年2月に閉鎖)を持っており、「INCANCELLABILE…消し得ぬ想い…」はその中に収められていたものです。
生前、chikaさんがご家族に宛てたメールによると、「(この話は)3年前から構想を始め、半年前に着手した一冊の本」であり、「100%真実の物語り」なのだそうです。chikaさんはこうも書いています。「僕はイタリアという国の”文化”に惚れた人間です」「(興味の対象は)”料理自体”ではなく、”料理にまつわる文化”なのです。それなら”文化”とは何か、それはワイン、歴史、風習、気候、風土、そして何よりも人々、そう、ジャーナリズム、そしてツーリズムに興味があるのです」
「INCANCELLABILE〜消し得ぬ想い」をワインに例えれば、腕ききの料理人chikaさんの人なつこいパーソナリティから醸造され、物書きとしての彼の確かな力量で熟成されたものだと思います。叙情豊かな表現、いきいきと描かれるイタリア人たち。ワインの余韻を味わうようにそれらを楽しんで頂けたら…とても嬉しいです。なお、物語に登場するイタリア語のやりとりは「イタリア経験者やイタリア語を勉強中の方へ配慮」(あとがきより)したものです。