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とある物語・・・

   INCANCELLABILE・・・消し得ぬ想い・・・


15、闇に消えゆく経費の行方(LA GUERRA)

 ロベルタの居なくなった翌週の火曜日、ちょうどクリスティーナが来ていて、今週の注文を済ました後、降りしきるの雨ため外に出かけない我らが子供たちみんなに、シンチア、パオラ、エド、つまり全員でいつものごとくお喋りをする態勢に入っていた時、突然、クラウディオが皆に話があると言い出した。
 その話はいたって簡潔明瞭で、要するに、2月に使われた経費の額が、通常をかなりオーバ―していたために、上からのお咎めがあり、注意するように、とのこと。そして後から付け加えたのは、例の特別ディナーに使われた高価な食材の代金を払うように、とパオロヘ一言(なんと払っていなかったらしい)と、ロベルタの退職についてはあれで良かった、パオロが正しいとの見解。この時までこの手のことに一切ノー・タッチだった彼のこのコメントは、瞬く間に、そしてとても大きな波紋を起こした。 一体、何を期待しての発言だったかは知る由もないが、例えそれがなんであれ、効果抜群のものであったはずである。 少なくとも皆が声をあらわに自分の意見をそこらじゅう好き勝手にぶちまけるようになった。 その筆頭は当然、サンドラであって、理由は簡単。 何故かというと、このホテルの支出の中で、唯一、上がり下がりするのものは、食材の購入に関するものであるから、要は、自分のことを責められているのだと、解釈した訳である。 そしてそれは彼女にとって、耐え難い、いや、許し難い"侮辱"であったに違いない。

  『Chika, Lo Sai Cose`Che Non Va?(チカ、何がいけないか分かる)』 と、厨房内に二人で引きこもるやいなや、決壊した堰から流れ出す水のように、斬り始める。 僕なりの見解はあったが、とりあえず、黙っていた。

  『e Birra, Che Beve Paolo!(パオロの飲むビールよ)』 確かに、それもある。 ただ、この場合、申し訳ないが僕も飲んでるから、僕のせいでもある。

  『No! e Paolo Che Ti Fa Bere. Ma, Tu, Se Non Ti Chiedesse Paolo, Prenderesti Da Se?(いいえ、パオロがあなたに飲ませているのよ、だって、もし、パオロに聞かれなかったら、自分から飲んだりしないでしょ)』 それはそうだけど、楽しんでいたのも事実だから、責任も感じるよ。

  『Poi L´hai Sentito Che Non Ha Pagato Ancora I Soldi Che Aveva Speso Per Le Cose Costose?(それに、聞いた。 パオロまだ払ってなかったのよ、あの高価な食材の代金)』 聞いた。 100%疑いなくパオロが悪いけど、今回のことで、すぐ払うでしょ。

  『Chika, Lo So Che Ti Piace Paolo. Perche Per Te Lui e Gentile, Fa Tante Cose. Pero, Chika. Mi Dispiace. Ti Giuro Che Lo Mando Fuori. Te Lo Giuro.(チカ、あなたがパオロの事好きなのは、だって、あなたには優しいし、色々としてくれるから、知ってる分、申し訳ないけどね、チカ、私はあの男のこと葬り去るからね、誓ってもいいわ)』 なんて事を言い始めるんだ、サンドラ。 気持ちはよく分かるけど、行き過ぎだよ。 パオロのことを好きだから言うのじゃなくて、第一、君のことだって大好きだ。 とにかく、彼をここに引っ張ってきたのがクラウディオなら、彼を消し去るのもクラウディオであって、その彼が、たった今君が並べたこと知らないと思うかい、パオロに対し不満があるように見えたかい、それにもかかわらずパオロが長なのには、何かしら理由があるはずさ。 そもそも、もし彼がその気なら、パオロは既にここに居ないはずだってことが分からないのかい。

  『Non Lo So, Chika, Non Lo So,,,,(分からないわ、チカ、分からない、、、、)』 とても辛かった、そう言うサンドラの姿を目にするのは。 そして、何よりもショッキングだったのは、サンドラの最後のセリフ、"分からないわ、チカ、分からない"。それはとてもあの常に冷静なサンドラの口から飛び出すセリフには思えず、その後もしばらくは僕の頭の中でこだまし続けていた。 そう、 サンドラが我を見失い始めていた。

  その夜、夕食の片付けが終わったあと、いつものごとくテレビを見ながらくつろいでいた時、出し抜けにパオロが口を開いた。

  『Oggi, Controllato Anch´io, Le Fatture di Questi Msei, e Vero Che Abbiamo Speso Un po´ di Piu Che Prima. Che ne Dici.(今日、僕も目を通してみたよ、ここ数カ月の請求書たちを。以前より支出が多いのは事実みたいだ。どう思うかね)』 以前と言うのは、"僕が現れる以前"という意味だよね。

  『Si, Ma Mica Colpa Tua, Non Sei Tu Che Ha Speso Questi Soldi, e Sandra Che Deve Avere La Responsabilita.(そうだけど、そのお金を消費したのは君じゃないから、君のせいではないし、責任が負うべきなのはサンドラさ)』 違うよ、サンドラのせいじゃないよ。 僕が買うように頼んだものの中に、幾つかここの現状では必要のなかったものがあったんだろう。 とにかく、気を付けるよ。 ところで、経理は誰がやってるの。

  『Nessuno.(いないよ)』 いないって、どういうことさ。 クラウディオは違うの、第一、月末の決算はどうなっているの。 Claudio Non Sa Contare Numero, La Chiusura Fara Qualquno della Ditta.(クラウディオには数なんか数えれないさ、決算は本部の誰がやっているんだろう)』 そんな、本部の"誰か"、"やっているだろう"、まあいいわ。 ところで、僕も見ていいかな、その請求書たち、何がいけなかったか知りたいからね。

  『e Buona Idea! Cosi Controlli Anche Sandra.(それはいいアイデアだ。 それなら、ついでにサンドラのことも監視できるし)』 "サンドラを監視"、一体、何のこと言っているの。

  『Aspetta Che Ti Spiego. Allora Claudio Dice Che・・(待ちなさい,説明するから。 さて、クラウディオが言うには・・)』 と始めたパオロの説明によると、クラウディオは長年の付き合いだというサンドラが最近購入したファミリー・ワゴンの支払い方に疑問を持っていて、彼は、サンドラに一種の経費横領の疑い、具体的にいうと、最近クリスティーナへ注文が集中する傾向があるのは、完全歩合制で働いているクリスティーナに花を持たせておいて、そのおこぼれを懐に入れている、と見ているらしい。 バカバカしい、こうなると皆が正気を失っているとしか思えない。 しかし、今まで言葉少なで、遠くから観戦しているかのように見えたために何を考えているかを伺い知れなかったクラウディオ、こんな見方をしていたとは、驚きである。


  『Chika, Quante Volte, Quanto Ti Ha Dato I Soldi, Paolo?(チカ、何回、そして幾らパオロから裏金貰った)』 突然サンドラ。 3回、合計すると600,000リーレ(約4万8千円)。 だけど、どうして。 何か問題でもあるのかな。

  『No, e Giusto Che Tu Prendi I Soldi. Anche Perche Non´eri Ancora Stato Assunto, Vero?(ないわよ。 お金を貰うのは当然だし、それに、その時はまだ法的手続き済んでなかったんだわよね)』 そうそう。 それに、ジョバンニとミンモも、先月の2回の大きいパーティーの後、手伝ったからお金貰ってたよね。 幾らかは知らないけど。

  『Si, Ma, Stai Calmo Chika. Non e Che C´e Qualche Ploblemma. Solamente Volevo Sapere・・・(そうよ。 だけどチカ、落ちついてよ。 何かも問題があるのではなくて、ただ、知りたかっただけで・・・)』 と、 僕に笑いかけるサンドラ。 果たして、質問に答えて良かったのだろうか、少し心配になってきた。

  『Chika, Mi Fai Sapere. Se Giovanni Viene a Mangiare. Quando Non Ci Sono Io.(チカ、もし、ジョバンニが私のいない時に食べにきたら、知らせてくれるかな)』 と、パオロ。

  『Chika, Pensi Davvero Che Paolo Sia Vero Padre di Lucrezia? Io No, Hai Visto Suo Amico Che e Venuto L´altra Volta. Gli Somigliava Proprio・・・(チカ、あなたマジメにパオロがルクレッティアの本当のお父さんだと思う。 私は思わないわ。 それに見た、この間来た彼の友達、ホント彼女にそっくりでもう・・・)』 と、サンドラ。 確かに同じことを考えたこともあるが・・・どうやら戦争が始まったらしい。
 

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