映画「阪急電車 片道15分の奇跡」の背景と感想

物語の背景・舞台は、架空もあれば実在もあります。
そこに記念碑が出来たり、観光地になったりは少数ですが、ちょっと行ってみようと思うかもしれません。
ところが、そこが自分の生活圏ならばどうなのでしょう。

有川浩「阪急電車」の映画化の、「阪急電車 片道15分の奇跡」は、同じ背景です。
阪急電車は略称で、京阪神急行と呼びますが、地元では阪急が普通です。
関西には、阪神も京阪もあるのでこの辺が無難です。
小説と映画は、表現方法が異なるので全く同じにはなりませんが、背景は変える必要もなかった様です。
阪急電車は、現在は梅田(大阪)と三宮(神戸)を結ぶ神戸本線と、梅田と河原町(京都)を結ぶ京都本線と複数の線からなります。
たとえば、宝塚線・今津線・甲陽線・伊丹線・千里線・嵐山線・箕面線等です。
「阪急電車 片道15分の奇跡」は、宝塚と今津を結ぶ今津線の、南の一部を除く区間が舞台です。

今津線は、西宮北口で神戸本線と繋がっています。
同時に、宝塚で宝塚線と繋がり、西宮北口から南に2駅行った今津で阪神電車と繋がっています。
昔は、宝塚から今津まで通じていましたが、神戸線との交叉が文字どうりの直角交叉で、線路の摩耗と危険とがあるので、今津線は北と南に別れました。
現在は、阪急電車と阪神電車は合併しましたので、今津は重要な接続地点になりました。
従って、再度北と南をつなぐ可能性もあります。
その北側の、宝塚から西宮北口の8駅が舞台です。
確かに駅間隔も全体も短い区間です。
西宮北口は、大阪と神戸の中間にあり周囲は急激に開けて阪神間の中心に変わりつつあります。
ちなみに、作中でよばれている「にしきた」の略は最近の若い世代からの呼び名で、私は最初は何の略か、とまどいました。
短いながら路線ながらも、沿線はイベントホール・教育機関・住宅・ショッピングモール・競馬場・寺神社など沢山の施設があります。
伊丹空港は宝塚線添いにあり、全体に小説と映画の設定に架空のものはなさそうです。

細部は勿論、フィクションですから登場人物も細部の小道具も異なる所は沢山ありそうです。
小説では詳しく描かない所も、映像では写ってしまうので違う所が多数ですが、ドキュメントではないので気にするのは、見方が間違っています。
ただ、実名物は妙な見方をされる可能性はいつもあります。
何故背景に使用されたかを推測する事は、意味がないかも知れません。
原作者にとって、たまたま丁度良かっただけの可能性が高いからです。
ただ、舞台を阪神間に設定すると、本線や宝塚線は駅が多すぎで、千里線以外は3駅程度で少なすぎますし、千里線は、京阪間になります。
片道8駅ぐらいがドラマになりやすいのは、作品の構成と出来上がりで判ります。

鉄道ミステリや、東京周辺のドラマ以外で特定の場所が実在で使用される事は多くはないです。
そこで、背景になった地域の住民はというと流石にロケがあったという噂は大抵は知っていますが、映画を観た人は少なく感じます。
やはり、映画等は普段から観る人のものという感じです。
むしろ、原作の小説を読んだ人のほうが多いかもしれないです。
ただし、対象年齢層は高い時の印象です。

舞台や映像そして小説では、テーマにそって登場人物を設定します。
それが、ひとりあるいは1組ならば単純には時系列でも可能です。
しかしテーマが、複数の生き方等を扱う場合は、登場人物をふたり以上・2組以上に設定する方法が無難です。
映画「阪急電車 片道15分の奇跡」では、一番最初にその登場人物を羅列する事から始まります。
小説と異なり、前のページに戻れないために観る人に判り易くする手法です。
それは、本作の様に少なくても7人・組以上であれば効果的です。
そして、これらの人と組の出し入れを判り易く効率的に行う方法が、ストーリーとして重要です。
それを判り易く実現する手法が、8駅の乗車・下車による人・組の入れ替えです。
そして往路と、4-5ケ月の期間後の復路という構成です。

基本の骨組が出来れば、あとは同時進行の割り振りです。
これは、読むと観るとでは異なるのですが同時にどれがそれぞれのベストかも判りません。
ただし、8駅の短い電車区間がストーリーとテーマに合っている事は言えます。
そして、個別に並べるのではなくて併行して進む事が現在の流行ですし、最後に接点を持ってくる手法も同様です。
この映画は、まさに現代の流行方式をたくみに生かしています。

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