コラム第5回映画の中のアリゾナ 〜西部劇だけがアリゾナじゃない! (1)
映画の中のアリゾナと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、西部劇の様々なシーンでしょう。荒野を馬で駆け抜ける男たち、古い街並みで突如として始まる撃ち合い…。 しかし、アリゾナで撮影された映画というのは、何も西部劇だけにとどまりません。現代のアリゾナを舞台にした映画や、アリゾナで撮影されたシーンのある映画というものは、意外と多くあります。 そこで、今回から何回かにわたり、そのような映画を思いつくまま紹介していきます。第1回となる今回は、1960年代にヒットした映画の中から、アリゾナで撮影されたシーンを含むもの3本です。
イージー・ライダー EASY RIDER (1969)
監督:デニス・ホッパー
出演:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン
「イージー・ライダー」はワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)の2人が改造バイクにまたがり荒野のハイウェイをひた走る、アメリカン・ニュー・シネマを代表するロード・ムービーです。 「ワイアット」と「ビリー」という名前、馬とバイクの相似性、西部劇とは逆に「西」から「東」への進行、と本作は様々な面で西部劇を意識した作品です。しかしこの映画で描かれているのは、ドラッグ、ヒッピーのコミューン、排他的な保守層という、当時のアメリカの「現実」であり、そして名ばかりの「自由」という、現代にもつながりうる問題意識です。 さて、旅の序盤、ピーター・フォンダが腕時計を投げ捨てた直後、2人はコロラド川に架けられた橋を渡って、カリフォルニア州からアリゾナ州に入ります。ちょうどトポック(Topock)のあたりです。 「高速道路の見知らぬ人」(ルーク・アスキュー)がヒッチハイクをするのはサンセットクレーター火山の脇のあたりのことで、直前にはこの山が大写しになります。また、途中で給油するガソリンスタンドは、フラッグスタッフからUS−89を北上したところにあり、映画の中では背後にサンフランシスコ山地が美しく見えています。そこからしばらく進むと、カラフルな色の付いた荒野を走りますが、これはキャメロン(Cameron)から少し北上したあたりです。 そして、モニュメントバレーです。夕闇が迫るころ、黒いシルエットとなって浮かび上がるモニュメントバレーのビュート(丘)を、この映画では描いています。これを壮大な風景の描写ととらえるか、それとも西部劇に対するアンチテーゼととらえるかは、見る人によって異なるかもしれません。 (写真:サンセットクレーター火山)
サイコ PSYCHO (1960)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ジョン・ギャビン、ベラ・マイルズ
シャワーを浴びている女性。忍び寄る影。そして、叫び声。「サイコ」を見たことがなくても、この映画史上あまりに有名なシーンだけは何となく知っている、という人は多いかもしれません。 「サイコ」は、ヒッチコック作品の中では異色のサスペンスとなっています。サイコ・サスペンスのルーツともいえるこの作品では、恐怖感をあおる音楽や、考え抜かれたカメラショットが、モノクロ・フィルムとともに独特の雰囲気を醸し出しています。 さて、この映画は「アリゾナ州、フェニックス」というキャプションから始まるとおり、最初の舞台はフェニックスです。冒頭のシーンでは、ダウンタウンのビルから北方向に向けられたカメラが、左(西)から右(東)へとゆっくりと市街を撮していきます。 撮影から既に半世紀近くも経過しているため、今は残っていない建物も多く見られます。ただ、屋上に巨大なアンテナのある建物は今も健在で、映画にもそのアンテナが一瞬だけ写っています。 ところで、1998年には、オリジナル版に忠実に1から撮影し直したというリメーク作品が発表されています。こちらの冒頭部分もやはりフェニックス市街の俯瞰から始まりますが、ただしビルからではなく、ヒッチコックが本来考えていたという空撮によるものです。しかも、カメラが近寄っていくのは、オリジナル当時の雰囲気を残す「屋上に巨大なアンテナのある建物」という、細かいこだわりをみせています。 (写真:ダウンタウンのすぐ北側にある「屋上に巨大なアンテナのある建物」)
猿の惑星 PLANET OF THE APES (1968)
監督:フランクリン・J・シャフナー
出演:チャールトン・ヘストン、ロディ・マクドウォール、キム・ハンター
宇宙飛行士たちが不時着したのは、猿が人類を支配する「惑星」だった。逆転の発想とも言うべき衝撃的な設定、当時としては革新的であった猿のメーキャップ、そしてショッキングなラストシーン…。 「猿の惑星」は、このような要素により大ヒットとなったSF映画です。「ベン・ハー」「十戒」で既に大スターとなっていたチャールトン・ヘストンが主演をしたことも当時の反響を呼びました。結局、この映画はシリーズ化されて「続・猿の惑星」以下4作もの続編が制作され、またテレビ版も制作されるに至りました。 さて、この「惑星」の砂漠地帯は、グレンキャニオンで撮影されています。宇宙船が着水する湖はもちろんレイクパウエルであり、カメラは上空からグレンキャニオンを撮影し、回転しながらレイクパウエルの湖面へと接近していきます。宇宙飛行士たちは、不時着後はレイクパウエルをゴムボートで移動し、それからその周辺の砂漠地帯を歩いていきます。 CGも何も一切使わずに、ただそこにある風景を撮影するだけで、そこが「地球とは異なる惑星」であることを強く印象づけるグレンキャニオンとレイクパウエル。改めて、その幻想的な風景の貴重さが感じられます。 (写真:レイクパウエル)
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