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やぶれっ!住基ネット情報ファイル


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このページの目次

1.第1回口頭弁論の状況

2.「住基ネットは目的外提供」−兼子鑑定意見書指摘

3.国・都側の提出した書面について

4.データ・マッチング批判に対する国・都のすり替えの手口

(1)「データ・マッチング」と「目的外利用」とのすり替え

(2)「本人確認情報」と「基本4情報+住民票コード」とのすり替え

本文はじめです、本文をとばします。

1.第1回口頭弁論の状況

杉並区の住基ネット受信義務確認等控訴審の第1回弁論が、2006年7月6日10時30分から東京高裁825号法廷で行われました。

杉並区からは、控訴状、控訴理由書のほか、国家賠償請求についての「訴えの変更申立書」が陳述され、書面として証拠説明書(1)、甲第47号証から甲第56号証までの書証と、中島徹教授を証人として申請する証拠申出書が提出されました。

国と東京都からは、杉並区の控訴状、控訴理由書に対する「答弁書」が陳述され、書面として証拠説明書と乙第15号証から乙第21号証までの書証、そして証人尋問は不要とする意見書が提出されました。

これらの書面は、甲第47号証を除き、杉並区サイトの「住基ネット訴訟」>「東京高裁・第1回口頭弁論」のページにpdfファイルで掲載されています。

控訴審の裁判長は大内俊身、裁判官は江口とし子、小川浩、野口忠彦です。

当日、大内裁判長からは「老婆心ながら」とことわりながら、「この問題は法律論よりも決め手は個人情報が漏れるという技術的なことで、この見極めは専門的に検討すべきことで、裁判所というよりは専門的な対応が必要ではないか」という発言がありました。

住基ネットの技術的な問題点を取り上げていこう、という意味なのか、こういう問題は裁判でやることではないよ、という意味なのか、いま一つ真意はわかりません。

次回は、杉並区が証人申請した中島徹教授の意見書が9月初めまでに提出されるため、その後ということで、10月3日11時から825号法廷で行われる予定となっています。

2.「住基ネットは目的外提供」−兼子鑑定意見書指摘

杉並区から提出された書面のうち、甲第48〜54号証は国家賠償請求に関して、機器の賃貸借契約書、転出入手続きの郵券代、などの証拠です。甲第55号証は兼子仁都立大学名誉教授の、甲第56号証は阿部泰隆中央大学教授の鑑定意見書です。

阿部教授の鑑定意見書は「法律上の争訟」に関する内容で、判例や学説を検討し、最高裁の判例そのものの問題点や国と自治体の関係は「行政権内部」ではなく「独立した行政主体間の紛争」である、ということを改めて詳述し、地裁判決を批判しています。

兼子名誉教授の鑑定意見書も、「法律上の争訟」に該当することについて述べた上で、住基ネットへの住民票個人情報の「目的外提供」について、自治体首長の裁量権と住民個々人の選択的意思を住基法は容認している、と結論づけています。


この「目的外提供」という点について、兼子鑑定意見書(甲第55号証、pdfファイル、705KB)は次のように述べています。

住基法の本来的目的は「住民の居住関係の公証」(第1条)であるが、住基ネットによる「本人確認情報」としての利用は、居住関係情報であることを越えて広範囲に本人識別目的で活用するものであり、『したがって、住基ネットを通ずる「本人確認情報」の取扱いは、改正法定の根拠を有するとはいえ、「住所」情報を居住関係の公証という住基法上の本来収集目的を越えて「本人確認」のための識別情報として利用することを意味するのであって、「目的外の利用・提供」と解するのが、個人情報保護法制の原理に照らして相当である』(14ページ)。

そして目的外利用・提供を特別に根拠づける「法令の定めがある場合」とは、『行政権限行使の根拠法令をすべて無条件に指すものではありえず、本人同意に代わる個人情報保護の手続として、実質的限定を擁した法令規定でなければならない』(15ページ)。したがって、住基法第36条の2に基づくデータ・セキュリティの観点からのチェックと並んで、個人情報保護法制における目的外提供のコントロール制度をクリアーすべきであるという「体系的解釈」の見地からは、本来、住基ネット送信の技術的執行方法を定めるという特質がある住基法第30条の5の適用には、しかるべき限定解釈が必須である、と指摘しています。


私たちは住基ネット導入を『住民基本台帳法改正に名を借りた「国民総背番号法」の制定であり、住民基本台帳を「住民サービスの台帳」から、「国民管理の台帳」に変質させるものだった。』と批判してきました(やぶれっ!住基ネット市民行動編『私を番号で呼ばないで』16〜17ページ)。

住基法の目的はもともと「住民の居住関係の公証」、つまりたとえば山田太郎という人がこの住所に住んでいる、ということを公証し住民に関する事務の基礎とするもので、「この人は山田太郎である」という「本人確認」をするものではありません。住基ネット導入によって「本人確認情報」という新たな規定が接ぎ木されたものの、住基法第1条に「本人確認」「本人識別」という目的は書いてありません。

この「居住関係の公証」と「本人識別」との矛盾が、いま、総務省が「本人確認書類として使用できる」と宣伝する「住基カード」の成りすまし問題として、現実化してきています。

住民票情報を「本人確認情報」として外部提供し利用することは目的外提供である、というこの指摘は、いま改めて検討すべき住基ネットの本質的な問題点です。

3.国・都側の提出した書面について

国・都側の提出した書面は、住基ネット違憲訴訟の東京地裁、名古屋地裁、福岡地裁、千葉地裁、神戸地裁の各判決文と、横浜市の本人確認情報等保護審議会答申、そして横浜市が全員参加を表明した記者会見資料です。

国・都側の「答弁書(pdfファイル、1,283KB)」は、地裁判決が「法律上の争訟にあたる」として棄却とした国家賠償請求についても却下することを求めつつ、杉並区の控訴理由書に対して「法律上の争訟にあたらない」と反論しています。

つぎに住基ネットについて、杉並区の主張する「合憲的限定解釈論」に対しては、プライバシーの権利は判例上確立していない、自己情報コントロール権は憲法上の権利とは言えない、などの反論をしつつ、データ・マッチングについて述べています。

また杉並区の「住基法・地方自治法から導かれる区の裁量権論」についても逐一反論しています。そのなかで「目的外提供」については、住基法は改正前から「国及び地方公共団体の行政の合理化」が目的とされ、居住関係を公証する相手方として国などの行政機関も予定されており、住基法別表に掲げられた行政目的のために提供することは本来の目的内の利用だ、と反論しています(答弁書33ページ)。

なお「横浜方式」では支障があるとして、横浜市本人確認情報等保護審議会答申を引用し、年金等の現況確認にあたり「非通知者は死亡した方など他の消除者同様、現存していないと判断されてしまい、年金の支給を停止する可能性があり、これを避けるため、横浜市の本人確認情報は通知者を含め全て利用できない状況である」(26ページ)と例示しています。

しかし、この答申の認識が誤りであることは、すでに新聞報道などで明らかになっています。私たちの社会保険庁への質問に対しても、「住民票コードを確認できなかった方につきましては、従来どおり現況届を提出していただくことにより現況確認を行いますので、住民票コードを確認できなかったことをもって年金を停止するようなことはございません。」と、はっきり回答されています。

4.データ・マッチング批判に対する国・都のすり替えの手口

「答弁書」の反論は、最近の国の「すり替え」の手口の典型です。

(1)「データ・マッチング」と「目的外利用」とのすり替え

「答弁書」は次のように主張しています(18ページ)。

「目的外利用」ということと、個人情報を特定のキー・コードにより照合・結合して新たな個人の属性データをつくる「データ・マッチング」とは別のものです。

法で認められていない事務への目的外利用は、法令が遵守されることを前提にすれば起こりえない、ということはできるでしょう。しかし住基法で利用が認められている事務だと行政機関が判断すれば、「住民票コードを名寄せのマスターキーにすること」は起こります。

(ア)住基法では,住基法別表の事務を行うため本人確認情報を受領した者は,当該事務処理の遂行に必要な範囲内で,受領した本人確認情報を利用し,又は提供することとされている(住基法30条の34)。

したがって,当然のことながら,この規定の定める範囲内で本人確認情報と他の個人情報ファイルに含まれる電子データを比較,検索及び結合すること(データマッチング)は許される。

東京地裁での国・都の準備書面(7)25ページ

したがって「公務員等が住民票コードを名寄せのマスターキーにすることも,上記のような住基法等の規定により禁止されている」ということはできません。そして「利用事務範囲内」のデータ・マッチングでも、行政による監視を強化して人格権を侵害していくことになります。

国・都の主張は、「目的外」という限定を付けたり外したりしながら、あたかもデータ・マッチングが行われないかのようにごまかすものです。

(2)「本人確認情報」と「基本4情報+住民票コード」とのすり替え

「答弁書」は、東京地裁判決を引用して次のように主張します(18〜19ページ)

基本4情報(住所・氏名・生年月日・性別)もこのたび住基法改正で公開制限されましたが、たしかにそれ自体は「個人の思想、信条等に関する情報」に比べれば秘匿の必要性は高くないでしょう。また「住民票コード」それ自体は、ただの11桁の数字です。

最近、国はこの「秘匿の必要性の高くない情報」プラス「ただの数字」イコール「本人確認情報は秘匿の必要性が高くない」というエセ数式をしばしば使います。しかし「基本4情報」と「住民票コード」が一体化することで、「本人確認情報」という新たな秘密性の高い個人情報が生まれます。

そのことは、もともと住基法を改正した第145国会では、政府委員みずから次のように説明していました。

氏名、住所、性別、生年月日の四情報などの個人を識別することが可能な情報と、全国を通じて重複しない特性を有する住民票コードが一体化した場合、全体として秘密事項となる

1999年4月20日 衆議院会議録情報 第145回国会 地方行政委員会 第12号、鈴木正明自治省行政局長の答弁

住民票コードというのがかなりの秘密性を持つ。しかも、コードと氏名との組み合わせ、コードと住所との組み合わせ、このことによりましてそういった組み合わせ自体もかなりの秘密性というんですか、プライバシー性を持ってくるということになってくる

1999年7月29日 参議院会議録情報 第145回国会 地方行政・警察委員会 第16号、鈴木正明自治省行政局長の答弁

さらにデータ結合の道具である「本人確認情報」と、「個人の思想、信条等に関する情報」などプライバシーの実質とを、同じレベルで比較してどちらの秘匿性が高いかをいうことは無意味です。「本人確認情報」があることによって、「個人の思想、信条等に関する情報」を含むあらゆる個人情報を第三者が把握・管理しやすくなり、いっそうプライバシー侵害の危険が高くなるからこそ、本人確認情報は秘密事項とされているのです。

だからこそ住基法では、住民票コードの民間利用、利用事務以外での利用、業として住民票コードを付加したデータベースの構成などを、罰則を付けて禁止しているのです。

国は、厳重な住民票コードの利用規制があることで利用が広がっていく危険はない、と主張する一方で、本人確認情報の秘匿性は高くない、とい言います。それならなぜ厳重に利用規制しているのか、まったく矛盾した主張です。

2006年の秋からは国民年金の現況届廃止を機に、年金受給者データベースに住民票コードが付加され住基ネットとの突合が行われることになっています。今後は「納税者番号」や「社会保障個人会計」、そして国のもつデータ共有化をめざした各省庁の「システム最適化計画」により、データ・マッチングの拡大が現実化しようとしています。

データ・マッチングについての国のすり替え・ごまかしを暴き、「住民票コード」とは何かを明らかにして、今後「本人確認情報」がなし崩しに利用拡大されていくことに歯止めをかけながら、住基ネットそのものを問い返していくことが、住基ネット裁判の大きな役割です。

(原田富弘・記)
本文おわりです。
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Copyright(C) 2006 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2006年08月24日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/court12.html
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