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このページの目次

1.第6回口頭弁論で結審 11月29日判決へ

2.国・都側の大阪高裁判決批判に反論する杉並区の準備書面(4)

3.住基ネットの違憲性と離脱の選択権

4.控訴審をふりかえって

本文はじめです、本文をとばします。

1.第6回口頭弁論で結審 11月29日判決へ

2007年8月9日、杉並区住基ネット訴訟の控訴審第6回口頭弁論が、11時から東京高裁で行われました。

杉並区側から、7月27日付けで準備書面(4)が出されました。

国・都側からは、前回提出した準備書面(3)の訂正書が出されました。

これらの書面は、9月1日に杉並区サイトの「住基ネット訴訟」>「東京高裁・第6回口頭弁論」のページに公開されました。

杉並区は中島教授を証人申請していましたが、吉戒裁判長は認めず、これで弁論は終結しました。

2007年11月29日(木曜日)13時15分、東京高裁825号法廷で判決言渡しの予定です。

2.国・都側の大阪高裁判決批判に反論する杉並区の準備書面(4)

杉並区の準備書面(4)は、国・都側が前回提出した準備書面(3)で大阪高裁判決を批判していることに逐一反論するとともに、従前の主張を補充しています。

まず前回、国・都側が、「自己情報コントロール権は差止請求の根拠たり得る実体法上の権利としては認められない」「本人確認情報は、自己情報コントロール権の保護対象とはならない」と主張したことに対して、国・都側が論拠とした杉原最高裁調査官の解説でも、むしろ自己に関する情報を自ら管理する権利をプライバシー権として肯定していることを指摘しています。また総務省の行政機関個人情報保護法の解説でも、自己情報をコントロールする必要性と正当性を認めていることを指摘しています。

さらにこの間の判決で、自己情報コントロール権を明文で認めている例や実質的に肯定している例を丹念に引用し、判例は確立していると指摘しています。

そして本人確認情報の要保護性についても、江沢民主席講演会事件最高裁判決についての杉原解説が氏名等の要保護性を認めていることや本人確認情報の「変更情報(付随情報)」のプライバシー性などを指摘しています。

第2に、住基ネットがプライバシー権を侵害することについて、国・都側は準備書面(3)で「住基法では目的の範囲内の利用等に当たらないデータマッチングは禁止され、行政機関個人情報保護法の規定の適用により、その禁止が解除される余地はない」と主張しています。これに対して、受領先がもともと保有していた個人情報を提供された本人確認情報で加工した場合に、どこまでが本人確認情報であるか不明になり利用目的変更も可能となるなど、行政機関の裁量による目的外利用・目的変更の可能性を指摘しています。

さらに国・都側が、住基ネットの個人情報保護対策に欠陥はないとして大阪高裁判決を批判した次の諸点に反論しています。

  • 「住民が本人確認情報の利用状況を把握できる」については、一般市民が事前に利用対象を把握することは実際には極めて困難と指摘
  • 「本人確認情報の民間利用禁止の実効性ある措置がとられている」については、民間利用を前提とした納税者番号制度や社会保障番号制度での住基ネット利用が検討されており、また漏洩で住民票コードを知られてしまう危険があり、違法な利用がたまたま発覚する以外に禁止を担保する制度は存在しないと指摘
  • 「自衛官募集の情報収集の事案は、住基ネットと無関係」については、行政機関の個人情報収集・取扱いの具体例であり、本人確認情報を利用したデータマッチングの具体的危険性を基礎づける一要素と指摘
  • 「住基カード利用の名寄せの危険性はない」については、法令上、市町村独自利用サービスで住民票コードの利用を禁止する規定がないことを指摘するとともに、国・都側が引用する証拠(乙第26号証、乙第39号証)では住基カード内に記録された情報が行政機関のコンピュータに残るシステムにはなっていないという主張の根拠が明らかでない、と指摘(このため今回、国・都側は準備書面(3)で引用した証拠を乙第40号証、乙第41号証に訂正する訂正書を提出しています)

3.住基ネットの違憲性と離脱の選択権

今回が最後の弁論になることから、杉並区は準備書面(4)の後半で、改めて住基ネットの本質からくる危険性を次のように指摘し、単に本人確認情報等のみを保有するシステムではないと反論しています。

  • 住民票コードをマスターキーとして個人情報の共同利用が可能
  • 漏洩した個人情報は、元に戻せない不可逆性がある
  • コンピュータ・ネットワークであり、大量の情報を迅速に処理可能
  • 本人確認情報により各行政機関が保有するコンピュータと接続可能
  • 参加/離脱の自由が認められていない

そしてこのような住基ネットで漏洩やデータマッチングなどのプライバシー権侵害を回避する制度として、また本人確認情報の利用状況の把握が困難であることから情報の流れをチェックする制度として、独立公平な第三者監視機関が最低限必要であることを14ページにわたって詳しく述べています。

最後に「第9 住基ネットの違憲性」と題して「住基ネットからの離脱を選択する自由が保障されるべきことが、憲法上のプライバシー権保障の帰結である」とまとめ、都が選択的送信を受信すべき義務を負っており、受信しないことは住基法30条の5に反し違法、と結論づけています(46ページ)。

杉並区の書面で「住基ネットの違憲性」と正面から題したのははじめてです。いままでは「合憲的限定解釈」として、住基ネット参加を望まない住民の情報も送信することは違憲であり、違憲にならないようにするためには憲法13条に適合するように合憲的限定解釈をし「住基ネットからの本人確認情報の流出等の危険を重視しようと考える住民の個人情報については、市町村長は都道府県知事への通知義務を負わない」(控訴理由書54ページ)と述べていました。

今回も弁論の内容は同様ですが、「住基ネットの違憲性」と明確に指摘し、さらに「離脱の選択権」を憲法上の要請として明言しました。

4.控訴審をふりかえって

私たちはそもそも杉並区の「横浜方式(段階的参加)」への方針転換に反対し、確固とした個人情報保護の法制度が確立するまでは住基ネット不参加を継続すべきだと杉並区に求めてきました。それゆえ、杉並区の側からあえて「横浜方式」での参加を求めて裁判をすることにも反対してきました。

しかし裁判によって、特に控訴審の弁論により、住基ネットの主体である自治体みずからが住基ネットの危険性を具体的に指摘してきたことの意義は認められます。判決の如何にかかわらず、杉並区は裁判で指摘してきた住基ネットの問題点の解決のために取り組む義務を負っています。

とりわけ弁論の最後で、「離脱の選択権」を憲法上の要請として主張したことは、今後に向けて意味があります。控訴理由書では、住基ネットの安全性が総合的に確認できるまでの対応として、通知希望者の本人確認情報のみを送信する「段階的参加方式」を採用することは区長の裁量権行使として是認されるべき、と主張していました。「離脱の選択権」を憲法上の要請とするならば、区長が安全と確認すれば全員参加となる「段階的参加」ではすまない、ということになります。

2004年8月24日に東京地裁に提訴してから、3年余りが過ぎました。この間、金沢地裁、大阪高裁で全員参加を強制する住基ネットは違憲、とする判決がありました。他方、横浜市は「横浜方式」をやめて全員参加に踏み切りました。

これらを受けて杉並区も、一審で強く主張していた「横浜市との平等の扱い」論から、控訴審では特にデータマッチングの危険性を中心に住基ネットそのものの問題を指摘してきました。裁判長も、一連の高裁判決についての双方の見解を求めてきました。

東京地裁判決は、都に対する受信義務確認は不適法な訴えとして「却下」、国・都に対する国家賠償請求については「棄却」という杉並区側の全面的な敗訴でした。しかも国家賠償請求の「棄却」理由では、住基ネットを全面的に肯定し「横浜方式は違法」としました。住基ネットがなぜ問題になったのかということを考慮せず、自治体の苦悩も理解しようとせず、住基ネットの実態も見ずに法律の字面だけをなぞった、まったく不当な判決でした。控訴審判決では、住基ネットの危険性を踏まえた判断を期待します。

控訴審判決がある11月には、箕面市で大阪高裁判決を受けた「合法的」な措置として、住民票コードの削除が予定されています。杉並区は合法的な措置として「横浜方式」を採用した、としてきましたが、箕面市では職権消除である「横浜方式」とはまったく異なる形で、合法的に「住民票コード」の削除が行われようとしています。都が「横浜方式」を認めない中で、杉並区としてもこの「住民票コード削除」方式を検討すべきではないでしょうか。

その一方で、年内には「社会保障番号・カード」導入の基本構想が出される予定です。年金手帳と健康保健証、介護保険証の役割を兼ね、さらに健康情報の管理から果ては納税者番号にまで活用しようという番号とカードです。まさに国民総背番号制そのもので、住基ネットはその基礎になっています。指摘されてきた住基ネットのよるデータマッチングが、いよいよ現実のものになります。国民総背番号制を許さないため、杉並区のような「不参加自治体」の存在が、いよいよ重要になっています。

(原田富弘・記)
本文おわりです。
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Copyright(C) 2007 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2007年10月27日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/court17.html
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