杉並「住基ネット裁判」報告(6)第6回口頭弁論 2005年9月14日
1.法廷でのやりとり
杉並区が「横浜方式」での住基ネット接続と国賠請求を求めて国・都に対しておこした「住基ネット受信義務確認等請求訴訟」の第6回口頭弁論が、2005年9月14日11時10分から東京地裁民事712号法廷で行われました。
原告杉並区からは、準備書面(3)(9月4日付け)と準備書面(4)(9月7日付け)が陳述され、被告国・都側からは、国賠関係の準備書面(5)(9月14日付け)が陳述されました。
次回について、杉並区は、被告準備書面に対する反論とともに、証人申請をしたいとの表明がありました。
裁判長からは、次回の反論の書面をみた上での判断になるが、次回か次々回に証人調べをしないで終結することも考えているとの発言があり、証人申請を希望するならその必要性を感じられるような詳しく内容の厚い書面を提出するよう杉並区に求めました。
被告国・都側に対しては、杉並区側からかなり詳しい準備書面が提出されているので、それに対する反論を次回するよう求めました。
その際、裁判長から国・都側に、特に住基法30条の解釈について杉並区側が詳しく展開しているので、それに対する反論を求めました。また杉並区側に対しては、一部の住民について本人確認情報の非通知が許されるかどうかについて、さらに立証するよう求めました。
またこの住基法の解釈について、あまり資料がないために、被告原告双方に対して、住基法改正時の立法の資料についても用意してほしい、との要望がされました。
次回第7回口頭弁論については、裁判長は11月1日を提案しましたが、国・都側弁護人から反論が多岐にわたることと、場合によっては終結という話もあったので、もう少し時間をほしいとの希望がありました。その結果、11月15日10時40分から713号法廷でおこなうことになり、書面の提出期限は11月8日となりました。
裁判長からあと1〜2回で弁論を終える案が出されており、証人申請の推移とともに、裁判も山場を迎えてきました。
2.提出された書面
9月27日、杉並区のwebサイトに、9月14日に行われた第6回口頭弁論で陳述された書面が掲載されました。
書面は、国・東京都の準備書面(5)と、杉並区の以下の書面です。
- 準備書面(3)
- 準備書面(4)
- 証拠説明書(3)
- 甲第29号証(区)金沢地裁判決書(住基ネットをめぐる問題状況)
- 甲第30号証(区)日弁連意見書(プライバシー侵害の危険性)
- 甲第31号証(区)第145国会衆議院地行委議事録(住民票コードによる名寄せの危険性)
- 甲第32号証(区)横浜市における住基ネットイメージ図(杉並区作成)
(1)国・都の準備書面(5)について
国賠請求について、前回の口頭弁論で裁判長から指摘された「転入転出手続上の郵便費用」について補足するとともに、原告の損害に関する主張に対する反論を次のように補足しています。
『いずれも自治事務たる住民基本台帳事務の適切な運用を図る立場にある原告が,その公の事務の遂行に要することとなった費用の負担を被告らに求めるものにほかならず,国賠法上保護された利益が侵害されたことによる財産的価値の減少を主張するものではない。』
(2)杉並区の準備書面(3)について
訴えが「自己の権利利益の保護救済」を求めるものであり法律上の争訟に該当する、との主張を補充するものです。
高度な法律論の内容について論評する能力はありませんが、その中の妙にリアルな次の文に目がとまりました。
『全住民につき本人確認情報を送信すれば,否認派住民から訴訟を起こされる可能性があり,現に,多くの地方裁判所において実例がある。他方,全住民につき本人確認情報を送信しないとすれば,是認派住民から訴訟を起こされる可能性がある。....
したがって,是認派住民に関する本人確認情報のみを送信し,それを東京都が受信しない限り,原告としては住民から提訴されることを避けがたいのであり,是認派住民・否認派住民のいずれからも提訴されないようにするためには,前述のように裁量権を行使せざるをえないのであり,本件第1請求について裁判所の審査を受けることが不可欠であって,本件第1請求は,原告の「自己の権利利益の保護救済を目的とするもの」にほかならない。』
3.杉並区 データマッチングの危険性を詳しく指摘
注目は、杉並区の準備書面(4)です。東京都の受信拒否の違法性と損害賠償の根拠について、住基法や地方自治法の規定から説き起こして50ページにわたり全面展開しており、一読の価値があります。
書面では国・都側の「一部の住民に係る本人確認情報を通知を行わないのは、本人確認情報の都道府県知事への通知を規定した住基法30条の5に違反する」という主張に対して、次の諸点から適法であると反論し、さらに国賠請求についての国・都の主張に反論しています。
- 地方自治法の「分権保障原理(自主性・自立性の尊重、市町村優先の原則、自治事務における裁量権解釈の要請)」
- 住基法における市町村の役割・権限として、新設された住基法36条の2第1項「適切管理義務」
- 住基ネットをめぐる問題状況として、金沢地裁判決も引用しつつ「住民の利便増進」「行政事務の効率化」への疑問と、「セキュリティ上の問題」「個人情報保護法制の不備」「行政機関によるプライバシー侵害の危険性」を指摘。
『住基ネットは,その行政目的を考慮してもなお,看過しがたい重大なプライバシー権侵害をもたらす危険性を内包するシステムであり,市町村長に対し,その裁量に基づき,適切な管理のための必要な措置を選択して対応することを迫っている。』
(杉並区「準備書面(4)」) - 「横浜方式」により住基ネット全体の運営に多大な支障はない(セットアップ方法を「甲第32号証」で詳述)
杉並区の訴状に対して私は、以前「国民総背番号制の危険」という問題点がふれられていないことに不満を表しました。
今回は、「データ・マッチング」の危険性について詳しく展開しています。
主張としてはありふれている以下のような行政機関自身が個人情報を目的外に利用する危険性も、行政機関である杉並区みずからが指摘していることには重みがあります。
『例えば,当該行政機関又は行政機関一般に対して,苦情が多い人物かどうかで,事務処理上の対応を決めようと考えれば,行政効率化という観点から,当該事務処理の遂行上,本人確認情報を当該事務処理の核心部分ではない部分についてまでも利用範囲が拡大していくおそれがある。』
(杉並区「準備書面(4)」28ページ)
4.あと1〜2回で結審?
第6回口頭弁論では裁判長からあと1〜2回で結審する意向も示されており、おそらく国・都は「法律上の争訟にあたらない」という立場から門前払い的な反論をしてくると思われます。
はたして杉並区が準備書面(4)で指摘した住基ネットの問題がどこまで今後論議されるかはわかりませんが、これらの点が論議されないまま終われば、本当に不毛な裁判だったということになります。
Copyright(C) 2005-2006 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2005年11月27日、最終更新日:2006年02月12日
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