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このページの目次

1.第5回口頭弁論の状況と今後の進行について

2.大阪高裁判決を批判する国・都側の準備書面(3)

3.3高裁判決を比較検討した中島教授鑑定意見書

4.控訴審 次回8月9日で終結予定

本文はじめです、本文をとばします。

1.第5回口頭弁論の状況と今後の進行について

杉並区の住基ネット受信義務確認等控訴審の第5回弁論が、2007年5月24日11時から東京高裁第825号法廷で行われました。

準備書面として、被控訴人国・都から5月24日付けの準備書面(3)が陳述され、書証は乙第36号証〜乙第39号証が提出されました。

控訴人杉並区からは、書証甲第83号、甲第84号証(中島教授鑑定意見書)が提出され、吉戒修一裁判長は「中島教授の一問一答の書証で主張がよく理解できた」と述べました。

これらの書面は、6月11日に杉並区サイトの「住基ネット訴訟」>「東京高裁・第5回口頭弁論」のページに公開されています。

裁判長が、今後の進行について双方にたずねました。

杉並区側は、国・都の準備書面(3)が前回提出の杉並区の準備書面に対する反論というより主として大阪高裁判決についての新たな論点提示であり、次回反論を提出したいと述べるとともに、愛南町の住民情報の漏えいについての書証を提出したい、としました。

国・都側は、本件訴訟の本質的な議論は尽くされていると考えるので、裁判所の判断を求めたい、としました。

裁判官が合議した結果、杉並区に対して国・都側準備書面への反論と愛南町についての資料の提出時期をたずね、国・都側に対しては、杉並区の反論が出てきたら反論を考えているか、とたずねました。国・都側は「本質的議論は尽くされていると考えている。どういう書面か不明だが、基本は早期終結を求める」との意見を述ぺました。

これをうけて裁判長から、「昨年7月に第1回弁論を行いすでに5回目であり、互いに弁論は熟してきているので、終結の時期を睨んで進めたい。控訴人から書面を2か月で出してもらい、国の反論をうけて次回終結する予定で進めたい。」との考えが示され、杉並区側に7月27日までに書面を提出するよう求めました。

杉並区側は、書面提出をできれば8月にしたいとの意向を示しましたが、裁判長は「これだけ大きな事件なので、裁判所も検討に時間がほしい。それで裁判所の夏休み前に終結させたい」との判断を示しました。次回第6回弁論は2007年8月9日(木)11時になりました。

2.大阪高裁判決を批判する国・都側の準備書面(3)

国・都側は準備書面(3)は、大阪高裁判決の誤りについて、次のような理由をあげています。

第1 自己情報コントロール権の解釈の誤り

1)自己情報コントロール権は差止請求の根拠たり得る実体法上の権利としては認められない

2)本人確認情報は、自己情報コントロール権の保護対象とはならない

第2 住基ネットはプライバシー権を侵害しない

1)行政機関個人情報保護法より住基法の規定が優先される。行政機関個人情報保護法では一定の要件のもとで「利用目的の変更や目的外利用」が認められているが、本人確認情報については住基法が優先して適用され、「目的の範囲内の利用等に当たらないデータマッチング、すなわち、受領者における同法所定の事務処理に必要とされる限度を超えた本人確認情報の利用、提供は、全面的に禁じられており、行政機関個人情報保護法の規定の適用により、その禁止が解除される余地は全くない。」(国・都側の準備書面(3)19〜20ページ

2)住基ネットの個人情報保護対策に欠陥はない

  • a.データマッチングで個人情報の集積・利用の具体的危険はない
  • b.目的外利用を監視する第三者機関は置かれている
  • c.住民が本人確認情報の利用状況を把握できる
  • d.本人確認情報の民間利用禁止の実効性ある措置がとられている
  • e.自衛官募集の情報収集の事案は、住基ネットと無関係
  • f.住基カード利用の名寄せの危険性はない

そして最後に、住基ネット訴訟の状況と、名古屋高裁金沢支部判決を要約して、大阪高裁判決はこれまでのほとんどの判決と相反する、と、まとめています。

国・都側の主張は、あいかわらず法律の文面に書いてあるから大丈夫、というような内容で、前回の弁論で杉並区が指摘した具体的な問題点にほとんど答えていません。

わずかに都の本人確認情報保護審議会が機能していないと批判したことに対して、審議会内に設けた住基ネット部会で本人確認情報の提供や本人開示の方法、住基ネット運用管理規程の見直しなど議論をしている、と反論していますが、この部会ではセキュリティに関する事項を取り扱うため議事を非公開としており、都のwebサイトでも審議内容を明らかにしていない(国・都側の準備書面(3)28ページ)と述べています。

情報主体である都民に秘密に本人確認情報の取扱い方を決めるような機関が、いったい「第三者機関」の名に値するのでしょうか。

また第2の1)では、「行政機関個人情報保護法の規定の適用により、(目的外利用・提供の)禁止が解除」されるとしています。それが住基法には適用されない、という弁論ですが、住基法30条の34では本人確認情報の受領者は法律の定める事務の範囲内で他に提供することが認められており、本人確認情報が国等の機関に転々と提供されていくうちに、どこまでを「本人確認情報」とするか曖昧になり目的外利用が許容されていくことにならないか、かえって心配になります。

3.3高裁判決を比較検討した中島教授鑑定意見書

 杉並区側の書面は、中島徹早大教授の「鑑定意見書」(甲84号証)と名古屋高裁判決文(甲83号証)です。鑑定意見書は、Q&A形式でプライバシー権、自己情報コントロール権、本人確認情報の解釈について、3高裁判決(.名古屋高裁2007年2月1日判決、.名古屋高裁金沢支部2006年12月11日判決、.大阪高裁2006年11月30日判決)を対比しています。

まずプライバシー権の歴史をふまえ、「情報の秘匿」と「自己決定」の2面が内在していることを指摘しています。そして3高裁判決について、いずれもプライバシー権を憲法13条にもとづく人格権の一内容としつつも、A・Bはもっぱら国家権力の権力行使の限界として論じ、そのため権利の限界を帰結しやすい議論となっているのに対して、Cは「自己決定」に着目して自己情報コントロール権を積極的に言及している点を分岐点としています。

〔A・Bは〕今日の社会状況の下で「一人で放っておいて」もらうために、個人がいかなる権利を保障されるべきかという視点が欠けているのです。その結果、プライバシー権が法的保護の対象であることは認めつつも、その制限が比較的容易に認められることとなりました。

「鑑定意見書」10ページ

本人確認情報の法的保護の程度に3判決で差が生じた理由としては、

  • )本人確認情報の法的性格の理解
  • )住基ネットという特殊なシステムの性格とそこで本人確認情報を利用することの意味の考慮

について、比較しています。

A.名古屋高裁判決

ア)本人確認情報は秘匿する必要性は高くはないが、みだりに開示されないという限度では法的保護に値する、とする。しかし、住基ネットでは自己情報の利用の把握が難しく、「正当な目的」であればとするのは、法的議論として説得力に欠ける。

イ)4情報の行政利用は、住基ネット以前から行なわれていたとする。しかし住基ネットでは、全国的規模で統一的に処理される点で質的に異なる。また本人確認情報はコンピュータ・ネットワークを介してセンシティブ情報への入口となる情報で、4情報としてだけ把握するのは適切ではない。

B.名古屋高裁金沢支部判決

ア)Aと共通の認識に立ちつつ、高度な個人識別性の故に管理・利用・運用の実情いかんによっては憲法13条違反と評価され得ると、本人確認情報と他の情報の「一体的利用」に言及しているが、最終的には本人確認情報だけで結論を導いている。

イ)旧住基法と住基ネットの下での本人確認情報の利用の質的違いを認識しているが、救済を求められるのは違憲状態が住基ネット規定によるものであるとき、と条件づけ、顕著な欠陥や不正利用などの異常事態に限定し、本人確認情報により行政機関の保有する情報に接続することのできるネットワーク・システムであるという点を看過している。

C.大阪高裁判決

ア)本人確認情報の要保護性についての社会的承認を前提にした自己情報コントロール権への言及を除くと、一般論レベルではA・Bと大きな認識の違いはない。

イ)住基ネットが既存のコンピュータ・ネットワークとは質的に異なるシステムであることを踏まえ、プライバー保護を単に法制度を形式的に判断するだけでなく、予測される運用(データマッチング)も視野にいれて具体的に検討している。

そして杉並区住基ネット訴訟の東京地裁判決に対しては、プライバシー権と自己情報コントロール権とを異質の権利と把握して後者の権利性を否定し、本人確認情報の要保護性を認めず、住基ネットの目的の正当性を評価しデータマッチングの具体的危険性を認めない、という内容であり、A以上に形式的な思考をしていると批判しています。

この住基法や個人情報保護法の解釈における「形式的思考」と「実質的思考」の違いが、判決の違いを生じさせた、としています。

名古屋高裁判決と名古屋高裁金沢支部判決は、法の条文に書かれているから個人情報保護の措置がとられている、と、形式的に判断しています。しかし実質的には、利用事務は法で定めれば、そして行政機関の裁量によって利用提供が拡大できる仕組みで、それを市民が確認することは事実上不可能であり、安全確保措置もそれをチェックする第三者機関はなく、「データマッチングは物理的に可能だが法で禁じられているから行なわれることはない」という説明は、盗聴器を設置しても法で盗聴が禁止されているから盗聴はできない、と言っているのと同じだ、と批判しています。

中島教授がこの鑑定書のなかで再三指摘しているのは、「一般市民が〔住基ネットの〕利用対象を把握することは実際には極めて困難であり、本人の同意や利用をめぐる異議申立ての機会は保障されていないも同然」(28ページ)ということです。それはまさに私たちが、総務省や東京都に対して利用事務を明らかにするよう再三もとめても、まったく明らかにされないことで実証されています。

大阪高裁はこれらを実質的に検討し、「個人情報一元化の具体的危険があるとはいえないが、結合・利用されていく危険性は小さくない」と認めていますが、中島教授はさらに「住基ネットにおいては具体的危険が抽象的危険と常に隣り合わせにある」こと、また住基ネットで問われているのは「具体的危険性」の有無ではなく「プライバシー権保障における公権力行使のあり方」であることを、指摘しています。

そして「具体的危険の発生を回避する制度」として、第三者監視機関の設置が住基ネットを正当化する必要最小限の条件だと指摘し、「そうした制度が存在しない現状では、自分の情報を守るための最終手段として、住基ネットからの離脱を選択する自由が保障されるべきことが、憲法上のプライバシー権保障の帰結である」(44ページ)と結論づけています。

4.控訴審 次回8月9日で終結予定

控訴審も終わりが見えてきました。

東京地裁判決は、杉並区の求めた都の受信義務については門前払い(不適法な訴えとして却下)し、国・都に対する国家賠償請求については訴えは適法だが希望者のみの送信は違法だとして、請求を棄却しました。

控訴審でも国・都側は、そもそも不適法な訴えとして却下するよう求めていますが、ここ数回の弁論、特に2006年12月に吉戒裁判長に代わってからの3回は、もっぱら選択的・段階的送信の合法性についての弁論が続いています。

特に裁判長は、一連の高裁判決に対する双方の判断をていねいに求めてきました。

それがなにを意味するのか。「大きな事件であり検討に時間がほしい」という裁判長の発言もあわせて、判決の行方に注目です。

(原田富弘・記)
本文おわりです。
奥付です、奥付をとばします。
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Copyright(C) 2007 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2007年08月07日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/court16.html
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