杉並「住基ネット裁判」報告(1)第1回口頭弁論 2004年11月2日
1.杉並区、住基ネット訴訟を開始
2004年8月24日、杉並区は国・都に対し住基ネット受信義務確認等を求める訴訟を起こしました。
この訴訟は、都に対しては「横浜方式」で送信する本人確認情報の受信義務の確認を、国・都に対しては「横浜方式」での参加を認めない違法行為により杉並区が被った約4500万円の損害の賠償を求めるものです。
この訴訟にかかる費用は、杉並新聞の報道では1900万円の予備費をあてるとなっています。
2004年11月2日には第1回口頭弁論が行われ、国・都側は請求棄却を求める答弁書を出しましたが、訴状への認否は行われず、次回の弁論は12月21日に予定されています。
2.訴状の内容と問題点
(1)住基ネットの問題点を指摘
杉並区のwebサイトで訴状が公開されています。
訴状では、住基ネットについて次のようなこと指摘しています。
- 住民票写しの広域交付・転入転出の特例処理・住基カードについて、利便性は乏しく、行政効率化のメリットは小さく、住民も有用性を評価していないこと
- 国の行政機関等への情報提供は情報流出の危険が大きい仕組みになっており、さらに拡大していく可能性があること
また個人情報保護が万全でないこと、セキュリティ上の危惧があることを指摘し、公共部門における個人情報管理に多くの国民が危惧を持ち、「住民が住基ネットによる個人情報の流出の危険を感じることについては相当の根拠が認められる」と述べています。
(2)横浜方式の適法性を主張
訴状は「横浜方式」をめぐって、次のような事実経過を説明しています。
- 横浜市の経過
- 2003年4月に総務省・神奈川県・横浜市・地方自治情報センターで「四者合意」したこと
- 杉並区の不参加の経過と「四者合意」をふまえて2003年6月に「横浜方式」の採用を表明したこと
- 都や国と協議したが横浜方式での参加を拒否されたこと
そのうえで「横浜方式による送信の適法性」について2点述べています。
- 憲法の地方自治の本旨と改正地方自治法で、地方公共団体の自主性発揮と地域特性への配慮が求められていること。
- 「住基法における原告の義務と権限」として、改正住基法で首長に住民票記載事項の適切管理義務が創設され、附則1条2項で定められた個人情報保護法制は不十分であり、相当数の区民が住基ネットに抱く危惧を無視できないこと。
そして訴状は、次のように結論づけ、都にも受信義務があるとしています。
「住基法36条の2第1項に基づく必要な措置として,少なくとも,上述の本人確認情報非通知希望者については,横浜方式の先例にならい,その本人確認情報を被告東京都に送信しない扱いをなし得るというべきである。そして,その限りで,住基法30条の5第1項及び2項に基づく被告東京都への送信義務の内容も限定されると解すべきである。」
私たちからみれば、そもそも前述のような問題点を指摘しながら、どうしてこうなるのか疑問だらけです。
- なぜ「不参加継続」でなく横浜方式なのか
- 享受を早急に配慮しなければいけない住基ネットの利便性があるのか
- 横浜方式採用なら「適切管理義務」を果たしたことになるのか....等々
横浜方式を認めさせる訴訟という性格からはこういう訴状になるのでしょう。ただそうだとしても不満なのは、区民の「選択権」に言及していないことです。「そもそも住民サービスのための住基ネットといいながら、なぜ全国民に参加を強制するのか」という住基ネットの本質にかかわる矛盾を、裁判では真っ向から突いてほしいものです。
(3)賠償請求の根拠
訴状はまた、都・国の受信を拒否する行為は国家賠償法上の違法性を有し、民法上の共同不法行為を構成するとし、そのことにより杉並区は住基ネット機器のリース代や転入転出手続上の郵便費用、住民票無料交付費用、住基ネットで削減可能な人件費の損害を被った、としています。
この損害賠償ということの意義と内容には、訴訟議案を審議した区議会でも多く疑問が出されました(議会では「非通知申出」にかかった費用も賠償対象と説明されていたが、訴状からは除かれています)。
私たちからみても、前述の住基ネットの問題点指摘と賠償請求内容には、矛盾を感じます。
3.訴訟に対する「住基ネットに不参加を!杉並の会」の見解
訴訟提訴にあたって「住基ネットに不参加を!杉並の会」(以下「杉並の会」という)では2004年9月7日、見解を出しました。
「不参加を継続しろ」「方針転換するなら住民投票で問え」という「杉並の会」の要望に答えず、区民への説明も不十分なまま訴訟に踏み切った区を批判するとともに、自治体の判断を認めない国・都を批判し、裁判は住基ネットの見直し・廃止につながるものとして進めてほしい、と要望しています。
そして、次の2点を改めて求めました。
- 「確固とした個人情報保護の法制度」が実現するまでは、住基ネットへの非通知を希望した区民の不参加を保障すること
- 「区対応方針」で「横浜方式」採用にあたって講じるとした措置を行い、住民投票で区民の判断を確認するまでは、接続はしないこと
杉並区は2003年6月4日、横浜方式採用を発表した際、区として住基ネットによるプライバシー侵害の危険性を少しでも抑制するための努力を継続するとして、5点の対策を示しています。
また杉並区は2003年10月の非通知申出調査の際に、長野県実験の結果によっては「段階的参加」方針も見直すと広報しています。
杉並の会としては、裁判を注視しながら、これらの施策の実施もチェックし、不参加継続をめざして活動していくことにしています。
Copyright(C) 2005-2006 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2005年07月21日、最終更新日:2006年02月12日
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