杉並「住基ネット裁判」報告(13)控訴審第2回口頭弁論 2006年10月3日
1.第2回口頭弁論の状況
杉並区の住基ネット受信義務確認等控訴審の第2回弁論が、2006年10月3日11時から東京高裁第825号法廷で行われました。
準備書面として、控訴人杉並区から、2006年9月26日付けの準備書面(1)が陳述され、書証として杉並区から甲第57号証〜甲第69号証が提出されました。
国・都からの陳述はありませんでした。
今後の進行について、裁判長からたずねました。
杉並区からは「杉並区住基ネット調査会議で、国・都側が提出した横浜市の審議会答申(乙20号証)に対応する意見書を作成中だが、委員の事情で間に合わなかったため、次回弁論までに提出したい」「中島徹教授の鑑定意見書を提出したが、これにもとづく主張を補充したい」との発言がありました。
国・都側からは、杉並区の準備書面(1)への反論を検討したい、との発言がありました。
その結果、双方にまだ準備があるとして、次回、2006年12月21日11時から第3回の口頭弁論が行われることになりました。
2.杉並区の陳述と書証について
書面は、2006年10月21日、杉並区サイトの「住基ネット訴訟」>「東京高裁・第2回口頭弁論」のページにpdfファイルで公開されました。
ただし今回は、甲第58号証から甲第67号証までが非公開となっています。その内容は、東京地裁が2006年4月19日に行った、北海道斜里町(住基ネット端末の操作マニュアルなどの流出)、福島県塙町(住民票コードが記載された名簿配布)、北海道帯広市(住基端末の業務外閲覧)に対する調査属託書と回答、その他、小川町、所沢市、さいたま市、朝霞市、狭山市の調査属託書回答と、「長野県侵入実験」に関する聞き取り報告書(甲第66、67号証)です。
杉並区に問い合わせたところ、調査属託書は閲覧可能でしたが、他は行政執行情報として非公開扱いとされています。
今回、公開されているのは、区の準備書面(1)と中島徹早稲田大学法務研究科教授の意見書、そして横浜地裁での中島教授の意見書と証人調書です。
3.杉並区の準備書面と中島鑑定意見書について
杉並区の準備書面(1)は、国・都の答弁書に反論しつつ、いままでの主張を整理した内容です。
第1章で国賠請求について、第2章で受信義務確認の訴えの適法性について反論し、第3章で「合憲的限定解釈論」と杉並区が述べる「選択制を認めなければ住基ネットは違憲になる」という主張をし、第4章で区の裁量権を地方自治法制や個人情報保護法制と関連して主張しています。
全体として住基ネットに関しては、この間の裁判の動向をふまえてと思われますが、いわゆるセキュリティの技術的な問題点よりも、目的外利用やデータ・マッチングなど運用面での危険性の指摘に力を入れて述べています。
中島徹教授の鑑定意見書(甲第57号証、pdfファイル、2.1MB)は、住基ネットとプライバシー権について56ページにわたり詳しく述べたものです。この間の各地の裁判での国の主張を念頭に、「内容が不明確だ」とプライバシーの権利性を否定する論や、プライバシーは私的生活領域が対象で公的領域で保障される権利ではないという論、あるいは住基ネットはシステムの安全性を確認すれば足りプライバシー権を論じる必要はない、という見解を批判しています。
とくにこの間、各地の裁判で、原告の主張は住基ネットの「抽象的危険」を指摘しているだけで「具体的危険」の証明がないから安全だ、と訴えが退けられていることについて、システムの安全対策が公開されていない場合に安全でないことの立証を原告に求めるのは不可能を強いることであり、「本件訴訟の核心は、技術的安全性の評価にではなく、法的に保障されるべき個人の権利・利益の有無と、それを保護すべき法的責任の所在・とり方の問題」(12ページ)であり、「100%安全であるとはいえないシステムについて、いかなる法的安全措置を講じる義務が管理運営主体にあるか」(23ページ)が法律上の論点だ、と指摘しています。
そのうえでプライバシー概念の歴史をたどりつつ、「住基ネットの管理運営主体が果たすべき『責任』の内容が、情報主体に対し情報収集・利用への『同意』の機会を保障すること」(28ページ)であることを明らかにしています。
4.杉並の会が区の対応について質問書
この3年間、杉並区の住基ネット問題は裁判を中心に推移してきましたが、控訴審も年度内には結審すると思われます。杉並区としての「その後」の対応が問われます。
「住基ネットに不参加を!杉並の会」では、2006年8月1日、裁判以外での杉並区としての取り組み状況について、山田区長に次の3点の質問書を出しました。
- [1]横浜方式の採用を発表した2003年6月4日の「住基ネット対応方針」で、区として講じるとされた、杉並区における運用を監視する第三者機関の設置、長野県の状況調査など全国的な運用状況の把握、自治体共同による監視機関の設置について、その後の取り組み状況
- [2]非通知申出実施の際の広報(2003年10月11日号)で、長野県の実験の調査結果によっては改めて接続か否かの検討をすると発表したが、その後の調査と判断はどうなっているのか
- [3]控訴を報じた区のホームページで、当初、「住基法を改正して選択制を法定するように求めていくことが必要」となっていたのが、「求めていくことも考えられますが」に変更された理由と区の姿勢
2006年8月18日に担当課長からの返答があり、さらに8月29日に担当課長からの説明を受けました。
[1]については、回答書では、裁判が係争中でそれらの設置に向けた準備はしていない、ということでしたが、担当者としては、技術的な観点からセキュリティなどの安全性を専門的にみていける専門集団や、制度的法律的観点から住基ネットに問題意識をもっている自治体とともに利用を監視する機関を作れないか、考えている、との話がありました。
[2]の長野県実験を踏まえた検討については、回答書では住基ネットの基盤となる部分に弱点があるとは言えるし、訴状に書いた「全国の市町村のどこかで侵入があっても不思議ではない」は、区としての見解だが、この実験結果を踏まえて「横浜方式」採用の是非に関する検討はしていない、というものです。
侵入の危険性があると認めるなら横浜方式採用を再検討すべきではないか、たずねましたが、そういう危険性もあるから段階的参加を求めているということで、補足として以下の説明がありました。
- 2004年4月に長野県を調査し「技術検討報告」を議会に説明しているが、その後、区としての判断をまとめてはいない。
- 広報で報じたことに、当時区として的確に答えていないとは思うが、長野県実験から時間がたっており、裁判中であり、いまの時点で判断を示すことはしない。
- 今後、どういう形であれ接続するときには、長野県実験を含めて、技術的な安全性についての区の意思決定理由を総合的に区民に説明する。
[3]については、選択制を求めることは区長のポリシーだが、区の方針(庁議決定)として選択制の法定の要求を決定しているわけではないので、表現を限定的なニュアンスに変えた、ということで、引き続き確固とした個人情報保護法制の確立に向けて取り組むことが求められている、という回答です。
杉並区の準備書面では、横浜市の全員接続決定に対して『「住基ネットは総合的に見て安全であると判断し」たという根拠は希薄である。横浜市が方針変更に至るまでの間に住基ネットの安全性を確認できる新たな事実は特に発生していない』(第3章 第3の7)と述べています。
このように認識するのなら、判決がどうあれ杉並区としては、裁判のなかで指摘してきた様々な住基ネットの問題点が解決し安全だと確認できる措置が実現するまでは、住基ネットに接続すべきではありません。住基ネットについて率先して問題提起をしてきた杉並区に恥じない対応を、引き続き求めていきます。
Copyright(C) 2006 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2006年12月15日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/court13.html