第2巻第5号

第2巻第5号

第2巻第5号(1947/05/01)

LOCK 5月号

目次

連載  奇蹟のボレロ(1):角田喜久雄:p.4

随筆  新泉録:木々高太郎:p.20

短編  失楽園:北洋:p.26

怪奇実話  亜砒酸の悲劇:青江耿介:p.42

課題小説・三つの運命  企画・水谷準、構成・土岐雄三:p.56

 第一の運命・渡辺啓助:第二の運命・紗原幻一郎:第三の運命・海野十三:p.61

ロック大学  感情的犯人:阿知波五郎:p.83

短編  未知界からの燭手:北村小松:p.86

短編  緋色の女:今井達夫:p.104

奇蹟のボレロ(1):角田喜久雄

1906-1994。1922年に短編でデビューし、伝奇小説の大家と呼ばれます。

戦後に本格ミステリ長編を書き始め、探偵役に「加賀美敬介警部」を起用しました。連載1回目より加賀美は登場します。

1958に「笛吹けば人が死ぬ」で探偵作家クラブ賞受賞。全般に伝奇小説の大家として高名です。

新泉録:木々高太郎

盛んに「本質論」を繰り返しますが、特に新しい意見ではありません。

乱歩との交互の随筆ですが、大きな意見の対立はなく細部の意見の違いを探している状態になっています。

本質と平行して「形式」を掲げて、探偵小説文学論を「新しい形式」になりうるとぼかしてきています。

この附近の考えは個人差があり、定義できない事であり発展性のない袋小路に入っているように感じます。

失楽園:北洋

物理学者でその知識を生かした探偵小説を書こうとしたとされています。

本作は、「雑誌・幻影城」に採録、山村正夫のアンソロジー「死体消失」にもとられています。

アイデア的には海野十三のある作品と重なる部分もありますが、作風的に代表作とも言えます。

亜砒酸の悲劇:青江耿介

ロックではお馴染みの名前ですが、作者の情報はしりません。

例によって、実話か翻訳か翻案か創作かは不明です。

三つの運命:白骨美人:土岐雄三

発見された白骨死体が何故に美人とわかるのかは矛盾していますが、作者はそう思いたいという事です。

警察も捜査を諦めたし、自分も分からないので編集のM氏に相談して、判明している事実から自由に事件を組み立てる 事を専門家に依頼するという所までが、本編の内容です。

三つの運命:骨が鳴らす円舞曲:渡辺啓助

戦前から最近まで活躍した探偵小説界の長老です。

1人称で、白骨死体が生じた状況を描いています。推理ではなく、状況を作る作業にホラー的な要素を加えています。 この運命は事故なのでしょうか。

三つの運命:鉄の扉:紗原幻一郎

「魚の国記録」の作者でロックでデビューした数少ない作家ですが、その後は作品は発表していないようです。

この作品では殺人が行われて、その死体が何故3年も発見されなかったか、それは鉄の扉で閉ざされていたからだ。 ではその扉は如何にして開かれたかを描いています。時代を利用した構成でしょう。

三つの運命:帆村荘六探偵の手紙:海野十三

科学・電気技師としての著書も多く、本名や別名義でも作品や著書が多くあります。

「帆村荘六」は海野作品に登場するレギュラー探偵です。

ここでは、帆村の推理とそれを受けた私の推理の二つが掲載されています。帆村は「話自体が矛盾だらけなので、謎自体が 存在しない嘘」だとしている、それを受けた私は「そのような矛盾した事を行えるのは探偵小説作家である」として犯人を探すのは 容易であるとしています。

感情的犯人:阿知波五郎

連載のロック大学です。

戦後直ぐの雑誌ですので、取り上げる作品は戦前となります。それらは変格と呼ばれるもので、動機としては「感情的」と 言えるものが多くあります。これを具体的に上げたもので極めて常識的な話です。

未知界からの燭手:北村小松

脚本家で1901-1964 と同一人物と思われるが書誌が不明のため未確認です。

講談社「大衆文学大系」に「郡司次郎正片岡鉄兵浜本浩北村小松藤沢桓夫集」があります。

自動車・飛行機・宇宙・航空物の先駆者として知られ、作家の小松左京の小松は北村小松の名から付けらてたとの説もあります。

本作はSFでしょう。広島原爆で左手が変質して3次元空間を透過する性質になった人物の話です。障害物があっても突き抜けてしまい ます。警察はスリの犯人とみなしますが・・・。

短編  緋色の女:今井達夫

赤い服を着た女性が、水色の服を着て殺された事件です。その謎を追う本格の出だしです。

ところが途中から、根拠の薄いどんでんかえしを繰り返します。結局は、落ちのあるコントになったと思います。

ページ数の限界か、あるいは当時の作品の傾向かどちらかでしょう。