第3巻第2号
第3巻第2号(1948/03/01)
LOCK 2・3月合併号
目次
短編 帖木児の紅玉:西川満:p.2
短編 鉄に溶けた男:戸田巽:p.15
短編 絢爛たる殺人:マイリンク:p.23
懸賞探偵小説 第1回予選通過作品:p.27
コント 官費旅行:北町一郎:p.28
短編 小倉の色紙:三好一光:p.30
短編 清瀧川の惨劇(1):北洋:p.40
短編 銃弾の秘密:鬼怒川浩:p.49
短編 帖木児の紅玉:西川満
チムール(帖木児)という表記は、当時の小説にはしばしば使われています。蒙古系の人名です。
作者は福島県生まれで戦前は台湾におり、終戦後に帰国。探偵小説系の作家ではないが、経歴から中国方面を舞台にした作品が多い。
舞台はイラン方面で、主人公の日本人がチムールの紅玉を持つ女性と知り合いその助けで脱出に成功する話です。
実は女性は会津生まれの日本人ですが、それは隠して現地の人間となっている設定の秘境小説に近い構成です。
短編 鉄に溶けた男:戸田巽
作者は戦前・戦後に犯罪小説を書いたアマチュア作家ですが、2008年に作品集が出版されました。
本作は、溶鉱炉工場で経理を炉の中に投げ入れ、金を奪った犯人に見せて逃げた2人の犯人の逃亡後の話です。
不思議と言うか、筋違いの展開は予想外というか無茶苦茶というか、コメントしづらい展開の作品です。
短編 絢爛たる殺人:マイリンク
青江耿介訳となっています。
ペルシャの宴での奇怪な事件ですが、訳者が連載している犯罪実話の東洋版というべき内容で突然の翻訳作品という 登場はよく分からない所があります。
懸賞探偵小説 第1回予選通過作品
わずか1ページに、予選通過作品と作者名を掲載しています。応募数も不明であるいは全作の可能性もあります。
こののち掲載された作品や、その後有名になった作家の名前が見えるのが興味があります。
コント 官費旅行:北町一郎
2009年に読んでも、何がユーモアなのか皆目わかりませんが、戦後すぐに書かれた事を思い出せばそうかもと思えます。
それにしても、自由主義や若い内閣総理大臣や貴族だとか、かなりいいかげんな内容です。
当時のユーモアがこのレベルと感じると、ユーモア小説は風化が激しいと思えます。
短編 小倉の色紙:三好一光
時代小説というか捕物帖という内容です。戦時中は文学が制約があり、防諜物か時代物ばかり目立ちました。
戦後も、時代物・捕物帖はますます多く書かれたように思えます。背景と登場人物と展開に大きな差がないように見えます。
2009年現在は異常なまでの時代小説ブームですが、特に捕物帖は戦前から戦後の作品と比べて何が変わって進歩したかを考えると 明確に指摘できません。
実際に当時の作品がまだ多く読まれていると言う現実があります。
短編 清瀧川の惨劇(1):北洋
全体的に見るとまだ少数派の本格探偵小説です。やや長いので2回に分冊された様です。
原因は不明ですが、誤植か原稿ミスが目立ちます。題名が間違っているのは、誤植でしょう。
光岡物ですが舞台は京都です。作者が京大物理学教室在籍なので、地元です。
中編を2分割しただけですが、章分けが奇妙になります。
短編 銃弾の秘密:鬼怒川浩
「鸚鵡裁判」が有名な作者ですが、本作も「伊吹憲太郎」が登場します。犯罪研究家というのは首をかしげる設定ですが・・。
本格探偵小説風ですが、トリックと言うのでしょうか謎が奇妙です。
小説の長さに制約が多い時代の作品は、乱歩の「二銭銅貨」の様に新聞広告から事件が始まるものが多いです。
本作もその一つですが、唐突でも時代性ともいえます。展開的には論理的では無いですが、この時代では極めて少数でしたので それを要求しすぎる時代では無かったのでしょう。