ナチュラブ・日記パート１１

ナチュラブ・日記　　　　Ｐart　１１

　Part １（その1～9）　ナチュラブ代表が観た逢坂さんの政治観　Part ２（その10～22） 衆議院選挙
　Part ３（その23～36）　選挙後雑感、永田町での逢坂議員　　　Part ４（その36～48）靖国神社「遊就館」レポート
　Part ５（その49～60）エリート教育　　　　　　　　　　　　　Part ６（その61～69）負の連鎖・「元気の種コレクション」
　 Part ７（その70～77）真っ当な生き方のススメ　　　　　　　　　Part ８（その78～83）風（全５回）、６１年目の夏に
　Part ９（その84～88）　政治家と有権者　　　　　　　　　　　　　Part 10（その89～101）風の盆。　宿題を抱えたままで
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ナチュラブ・日記　その１０８（2006年12月24日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（７）

　---　ごあいさつ。今年はこれで終了いたします　---

「私たちの宿題～ともにアジアに生きる～」シリーズは、このまま年を越します。

5回に分けて掲載した姜尚中さんのご講演の記録内容は、質量ともに重いものです。
と同時に、1年以上前のお話でありながら、まさに旬そのものです。悲しいことに、と言ったほうが的確かもしれません。
なぜなら、姜さんが「2005年の今年こそ、過去から脱却して将来に向けてアジアの再生の舵取りをできるのは日本です」
と期待された課題がそのまま残っているからです。解けない宿題として。

時期的に、皆さまのこころに重く沈む“クリスマスプレゼント”になってしまったでしょうか。
折りしも、六者協議が不協和のうちに幕を閉じてしまったようですし・・・。
今年は、文字通り“宿題を抱えたままで”年越しです。

でも、皆さま、来年はどういう年になるのやら、と言う他人事のような言葉ではなく、
来年こそは良い年にしなければ、という積極さを合言葉にしましょうよ。

なお、この「私たちの宿題」シリーズの続きは、2007年1月からスタートいたします。
新しい年の“お年玉”として。
来年また、このホームページ上でお逢いしましょう。
では皆さま、つきなみではありますが、お元気で新しい年を迎えられますように。

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ナチュラブ・日記　その１０７（2006年12月23日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（６）

　　　　　-------　【第一部】　姜尚中（カン・サンジュン）東京大学大学院情報学環教授のご講演　⑤/5-------
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（講演日：2005年8月19日）

（姜尚中さんのご講演、下段の続き）

ところが、まるっきり逆に動きました。そして抗日戦争60周年のこのときに、日本は常任安保理事国に声を上げました。
私は、これは無理だと思いました。アメリカが許さないと思いました。こう考えていくと、日本外交の蹉跌だったと思います。
ただ、今申し上げたように、この六者協議を通じて問題が解決され非核化が進めば、朝鮮半島と日本は、
核を持っている旧ソビエトロシア、中国、アメリカに代わって、非核地帯を作ることができます。
モンゴルが非核宣言をしていますから、モンゴルを入れると、2億近くの人口がこの東北アジアの中で、
非核という原則の下に生きられるわけです。

核の先制攻撃を許さない。そのことを、超大国に約束させる。しかし我々は核をもたない。持ち込ませない。作らない。
こういうことが、現実味を帯びてくるわけです。そしてその延長上に、この地域に、おそらく軍備管理、軍縮が進んでいくと思います。
そうすれば、私はかつての全安保会議（と聞こえましたが）のミニチュア版がここにできあがると思います。

中国、ロシア、アメリカ、南北両朝鮮、日本を入れたこの六者は、世界の有力な国々です。
東アジア共同体構想には、アメリカもロシアも入っていません。しかし、六者会議にはロシアもアメリカも入っています。
そして核保有国が三つあり、核をもたない非核の下にある国が三つある。
こういう中で信頼醸成というものが進み、六者の常設的な安全保障の枠組みができれば、
それと平行して私は南北が統一へと向かうと思います。
その場合の統一は、30年かかると思います。10年かけて南北は主権国家になる。つまり国家連合です。
主権国家の連合としての国家連合。38度線を維持しながら、二つの国家は、主権を持った独立した国家として連合体を作る。
10年かけて、後にこれを連邦制に移す。連邦制に移せば、二つの自治政府の下に一つの国家ができあがります。
これを10年続けた後に、完全統一。やっぱり、20年から30年かかる。
これは特に、金大中（キム・デジュン）前大統領の三段階統一論ですけれども、
私はそうだと思いますし、全面的に賛成できると思います。
従って、今統一する必要もありませんし、統一するだけの可能性もありません。
ただ南北が共存できるように、まわりの国々が、クロス承認をするということです。

そして、北朝鮮の今の惨状を何とか内側から変えられるように導いていくということです。
私の言葉で言うと、北朝鮮を平和的に羽交い締めにするんですね。
彼らが動けないように平和的に羽交い締めにして、10年20年かけて、
北朝鮮の社会が少しずつ中国型の改革開放に向かうように、まわりが誘導していくということです。
韓国は、そこに命運をかけていると思います。では、その可能性があるかどうか。
あるとも言えるし、無いとも言えると思います。
無い可能性はただ一つ、金正日（キム・ジョンイル）が、次の後継者を自分の身内から出したときは終わりだと思います。

台湾は、蒋経国が蒋介石の二代目を継ぎました。世襲でした。
しかし蒋経国は、次の三代目を身内から指名しませんでした。李登輝がなりました。
本省人、外省人ではない本省人を、三代目の総統に選びました。そして今の陳水扁になります。
つまり台湾も、社会主義国家ではないにしても、世襲国家だったわけです。

今の北朝鮮は、二代目まで続いています。じゃあ金正日（キム・ジョンイル）が、
三代目を自分の息子から選ぶかどうかです。私は、そうなったときには非常に難しいと思いますね。
もし彼が歴史を知っているならば、自分の血の通った子どもたちの中からは後継者を選ばないと思います。
今のところいろいろな噂が出ていますが、はっきりと明示的に後継者を指名はしていません。
私は、もし自分の身内から後継者を選ばないという可能性があるならば、
北朝鮮の改革開放は進んでいく可能性はあると思います。
今そういう点で、北朝鮮も重大な曲がり角にあると思います。

そこで私の結論ですが、東北アジアに、もしそのような非核地帯ができあがり、
日本と韓国が中心になって車の両輪としてこの地域に非核化を進め、
軍備軍縮管理と安全保障上の信頼醸成措置をとれるような六者機関が、多国間の安全保障の枠組みになりえるならば、
私は、それこそ日本国憲法の精神が、この地域主義の中に生かされると思います。

日本国憲法を生かすというのは、そういうことだと思います。
私は、護憲だけのスローガンでは、この蕩々とした改憲の動きには到底あらがえないと思います。
具体的なビジョンを作り、その具体的なビジョンを実行するための理想として、日本国憲法の平和主義というものを生かす。
それは自分の足もとから作っていくということですね。
もしこれに成功すれば、私は、日中の対立は少しずつ治まって行くと思います。

私の考えでは、この地域は、非常に恐ろしいことに、ヨーロッパ、西ヨーロッパの1870年代ぐらいに似ていると思います。
普仏戦争があって、ドイツ第二帝政ができあがり、ヨーロッパの政治地図が変わりました。
新興国家のロシア、ドイツが台頭し、やがてイギリスやフランスもひっくるめて、第一次世界大戦が火蓋を切りました。
そして第二次世界大戦もありました。

今のこの東アジアのこの地域は、中国と韓国と日本を入れただけで、世界のＧＮＰの１／３近くにはなると思います。
これは世界の、ある種の経済の中心ですね。ここで、今のような相互不信に、軍事的な対立や安全保障上の対立が
重なった場合に、アメリカがかつての大英帝国のような役割を果たすとすると、
ヨーロッパの大陸で第一次・第二次世界大戦が起きたと同じようなことが起きる可能性はないとは言えません。
ヨーロッパは、二つの大戦を経てＥＵへと向かっていきました。学習したわけです。
日本も中国も韓国も、学習しなければいけないと思います。二度とあのようなヨーロッパの轍を踏まない形で、
この地域に安全保障上の信頼できるような枠組みを作らなければなりません。

これは歴史の皮肉ですが、北朝鮮という危機を通じて六者協議は立ち上がったわけです。
日露戦争から今年は100年ですね。韓国ではこれをウルサ条約といいますが、第二次日韓協約からも100年ですね。
韓国という国は100年前になくなりました。地上から。
100年たって、日露戦争の100年から、ここに六者が集うような場ができて、ここがうまく発展すれば、
日本の平和憲法がやっと生かせる、自分の地元で生かせる、そういう機運が今やっと出てきつつあるのではないかと思います。
そういうような方向で、北朝鮮との関係をとらえていっていただきたいですし、
今の世論を少しでもそういう方向に変えていくしか、この地域と共に歩んで行く道はないのではないかと私は思いますね。

最近になって、靖国参拝をする方々と話し合う機会がたくさんあります。
自民党の方々もそうですし、東条英機さんのお孫さんもそうですし、いろいろな人と話をします。
死者を、しかも肉親が亡くなった場所を弔うのは当然のことです。たとえそれが、Ａ級戦犯であれＢ級戦犯であれ、
自分のおじいさんであり自分の父親であれば、それを悲しまない子どもや孫はいないと思います。

しかし、靖国神社は追悼施設ではありません。顕彰施設です。ですからＡ級戦犯は殉難者。
殉難者という言葉は、広辞苑を引けばわかるとおり国家社会宗教のいわば難局に対して身を捧げた人々になっている。
英雄ですね。靖国神社内の遊就館というところには、先の戦争は自存自衛の戦争であった、アジア解放の戦争であった、
とちゃんとうたわれています。やはり私は、東京招魂社から始まった靖国神社は、時間が戦前で止まっていると思います。

それに、赤紙一枚であの戦争で亡くなった人と、
戦争最高責任者、いわば生きて虜囚の辱めを受けずというような戦陣訓をたれたような最高責任者とを、
一緒のところに祀るのはいやだという人は、結構いるのではないでしょうか。

あの戦争では、日本軍の兵隊の5割以上は、ほとんどが餓死と病死ですよね。
我々が考えている戦没者というのは、華々しく戦争で亡くなったというよりは、病死と餓死です。
5割以上が。なぜそうなのか。
これはやっぱり、生きて虜囚の辱めを受けずという戦陣訓が生きていたからでしょう。
こういうような悲惨な戦争の惨禍を招いた人は、たとえ極東裁判があっても無くても、
日本国民は当然何らかの責任を追求したはずです。
ですから、戦争責任者について外側の国が言っているからというのではなくて、
日本の国民が、そのような責任者は誰であるのかということを当然、追求しなければなりませんし、
多くの日本の人々はそう思っていると思います。
赤紙一枚で病死したり餓死した戦友を持った人と、あの戦争を指揮して最後まで無謀な戦争に導いていった人は、
やはり私は違うと思います。
しかし、Ａ級戦犯、ＢＣ級戦犯の人を弔いたいという肉親の情は、当然これは普遍的なものだと思いますね。

やはり、私がそういうＡ級戦犯、ＢＣ級戦犯の肉親である人たちと話し合って感じるのは、
他者に……他者にさらされた自画像ということが思い浮かばないのです。他者がいません。
他者のいない、自分だけのモノローグで、あの戦争を語っているわけですね。
「中国で戦争が起きた。いや、戦争は不幸なことがあるだろう」と。この一言で片づける人がいます。
中国で1,000万人とも2,000万人ともいわれる多くの人々が亡くなりました。今でも、その傷は癒えていないと思います。

そう考えますと、私はやっぱりアジアに、歴史の問題と同時に、
その問題を解決していくためには共同のプロジェクトを作らなければならないと思います。
共同のプロジェクトに向かって、人々が未来に向かって、共同のプロジェクトをともにやり遂げるということですね。
私は、それが、この六者協議が将来あり得る東北アジアの安全保障、信頼醸成の多国間の枠組みだということだと思います。
これに向けて日本が動いていけば、歴史の問題も自ずから、それとともに少しは解決されていく道があるのではないかと思いますね。

いずれにせよ、今、日本は重大な時期に来ているのではないかと思います。憲法の問題やいろいろな問題があります。
私はやはり、この東北アジアで日本が生きられる、ここで生きるんだという決意を示せば、
若い人々の中に、ナショナリズムのような病にかからない人々が、中国にも韓国にも日本にも起きてくるのではないかと思います。
ナショナリズムをどうやって越えるのか。
私は、やっぱりこれは今申し上げたような多国間の生きられる場を作ることによってはじめて、
その可能性に一歩一歩前進していけるのではないかと思うのです。

ヨーロッパ石炭鉄鋼同盟から始まったあのＥＵは、今のＥＵになるなんていうことは、50年前には誰も言いませんでした。
それを言えば、気が触れていると言われました。
東北アジアの問題で、六ヶ国協議を私が話をしてもなかなか耳を傾けてくれる人は今までいませんでした。
しかし可能性はあると思います。10年20年後のこの地域を考え、私たちは、かつての恩讐を越えて
若い人々が自由にこの地域を行ったり来たりし、自分たちの可能性を実現できるような、
そういう世界をやはり残しておきたいと思いますし、そういう意味でも、ぜひとも世論を少しでも変えて、
少なくとも日朝の国交樹立と六者協議への積極的なコミットをする、そして、それを通じた拉致問題の解決をはかる。
これが私は一番皆さんに申し上げたいことですね。

あまり、まとまりがない話になりました。どうも、ありがとうございました。（大きな拍手）

（以上、その１０３～１０７、５回で姜尚中さんのご講演を掲載しました）

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ナチュラブ・日記　その１０６（2006年12月22日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（５）

　　　　　-------　【第一部】　姜尚中（カン・サンジュン）東京大学大学院情報学環教授のご講演　④/5-------
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（講演日：2005年8月19日）

（姜尚中さんのご講演、下段の続き）

では、今その問題はどうやって解決できるのか。
イラク戦争が起きたときに、日本のテレビ局のディレクター達のなかには、
「あんなにアメリカが簡単にイラクを攻撃できるんだ。それだったら北朝鮮もやってもいいのではないか」と、
私に平然と語る人もいました。
僕自身も戦後生まれで戦争の恐ろしさは知りませんが、
30代40代のディレクターにとっては、戦争はシミュレーションゲームと同じようなものです。驚きました。

でも皆さん、どうでしょうか。イラクは本当に今、平和になったでしょうか。
私はイラクは、アメリカにとっては中近東の満州だと、ある時に話しました。
アメリカは、日本がやろうとしたあの満州国の失敗を学んでいるならば、
日本と同じような占領改革によって、民主的な国家を中近東のイラクに作るというのは、これは明らかに戯言だと思います。

日本とイラクはとうてい比較になりません。大正デモクラシーがあり、
いろいろな民主主義や、自由主義、自由民権運動があり、いろいろな分厚い歴史を持っている日本と、
ある種祭政一致方の国をずっと作り、バース党によって独裁国家を作った国とを比較し、
アメリカはイラクを第二の日本にすると言いました。私は、これは失敗すると思いました。
日本よりは、韓国がイラクに近い。つまりイラクは、南北両朝鮮と同じように分断国家になる可能性があるのではないか。
分断国家にならなくても、シーア派・スンニ派、そしてクルドで、宗派と民族に分解する可能性がある。

でも、その反対でした。反対でしたが、イラク戦争のときには、多くの学者や軍事アナリストや専門家達は、
結局アメリカのイラク戦争を肯定しました。
あの戦争がなんであったのかというのは、もうメディアの中から消えて無くなりました。
今イラクはどうなっているかということについて、ほとんど関心がない人が多いのではないかと思います。
明らかに、イラク内は内戦の一歩手前にあると思います。内戦になる可能性はあると思います。

アメリカのイラク戦争は明らかに失敗でした。失敗です。
ですからそれを考えれば、北朝鮮に奇襲攻撃をして、核施設を崩壊させて、
金正日（キム・ジョンイル）体制チェンジをやるというのは、私から見れば戯言ですね。

なぜ、日本の拉致被害者家族会の方々を支える人々が、
金正日（キム・ジョンイル）体制を倒さなければ問題は解決できないと言うのか、理解に苦しみました。
もし体制崩壊に向かえば、拉致被害者の方はおそらく生きて残ることはできないと思います。
生きて残ることができないだけではなくて、北朝鮮では、かつての日本の沖縄と同じように、多くの人たちが死ぬと思いますね。

それだけではなくて、もしかしてそれが韓国に波及した場合には、ソウルはどうなるかということ。
この２年数ヶ月に及ぶ日本の世論と、韓国およびその周辺とのあまりの温度差に私は驚きました。
韓国にとっては、北朝鮮の問題は自国の命運がかかっています。国の存続自体がかかっています。
日本は、なるほどテポドンが飛んでくるかもしれません。
しかし、日本という国の基盤が崩壊するということは、私は、あり得ないと思います。
ましてやアメリカは太平洋の向こう側にいて、北朝鮮というちっぽけな国が崩壊しても、痛くもかゆくもないと思います。
こういう中で、拉致問題というものが最優先課題になったわけです。

言うまでもなく、横田さんをはじめとする顔の見える犠牲者の悲痛な叫びというものは、多くの人々の胸を打ったと思います。
子を思う親の気持ちというものは、国民すべてが共感を持って迎え入れたと思います。
しかしその問題を解決するために、北朝鮮の体制を崩壊させるということは、私は別問題だと思います。

ではどうしたらいいのか。そのために私自身は、２年数ヶ月にわたって六者協議ということをずっと言ってきました。
六者協議は、１年と１ヶ月、ずっと休会になり、開かれませんでした。
この２年間、私にとって何が苦しかったかというと、その六者協議ということに対して、
日本の世論や政治がほとんど興味を無くしつつあったということです。
そして、やがて北朝鮮の制裁に向かわなければいけない。
私は、制裁は日本がＡＢＣＤ包囲網によって自滅的な戦争に突入したというふうに考えるならば、
その轍を踏まないように、それを避けるべきだと考えました。
しかし、世論はそうではなかったです。日本国内では、多勢に無勢でしたし、
北朝鮮と平和的な交渉をすべきだということ自体が、非国民的であるという状況に追い込まれていきました。

しかし皆さん、やっと六者協議が開かれました。１年１ヶ月たって、六者協議が開かれました。
今、休会に入っています。なぜ、この六者協議が重要なのかということを最後にお話しして、
この「アジアと共に生きる」という今日の論題に変えさせていただきたいのですが、なぜこれが重要なのか。

まず一番大切なポイントは、国交を結んでいない国との間に、不信感と憎悪と敵対的な関係が残っているという点です。
米朝、日朝はそういう関係です。日朝は、直接戦争をやったわけではありません。
しかし事実上日本は朝鮮戦争の時に米軍基地を置くという形で、間接的に戦争に参加していました。
そしてその軍需の特効薬を日本は存分に享受しました。
しかし、米朝の間には休戦協定しかありません。
休戦協定というのは、撃ち方やめの状態です。いつでも戦争は始まるということです。

人口2,300万人のちっぽけな国が、トマホークや核を横須賀や嘉手納に置いていた世界の超大国を相手にして、
すさまじいほどの包囲網にさらされているというその内側に、
かつての日本の敗戦間際の、いわば「欲しがりません、勝つまでは」というような
異様な精神主義がはびこっているということはだいたい想像できると思います。
竹槍でＢ29に当たればいいと、これと同じようなことが現在の北朝鮮では、まことしやかにおそらく言われていると思います。
これは自滅の道ですね。取り返しのつかない自滅の道です。
こういうようなことを、やめさせなければなりません。どうしたらいいのか？
私の考えでは、核問題を解決し、そして国交断絶状態を打開させ、そして拉致問題を解決する。
私自身は、これしかないと思いました。

２年前の多くの日本の国民の願望は、
拉致問題を解決し、しかる後に核問題が解決し、日朝は国交を結ばない、ということではなかったでしょうか。
これが一番良い方法と思っていたのではないでしょうか。おそらく、6割以上の方はそう思っていたと思います。
しかし皆さん、植民地になった国と、宗主国の間で、60年間も国交がないというのは、
世界中見渡して日朝以外にありません。
ヨーロッパで、ヨーロッパ以外に植民地を持った国はたくさんあります。
ベルギー、オランダ、スペイン、ポルトガル、フランス、ドイツもそうですし。
それらの植民地を持った国々と植民地になった国々の間に、国交が60年以上にないという関係は、一つとしてありません。
つまり、植民地支配をした国とされた国との間に国交を結ぶことは、これは文明のスタンダードなのです。
変な言い方をすれば、日本は文明国ではないことになりますね。

もちろん、現在の北朝鮮は非文明的な国家です。
しかし、その非文明的な国家であれ、その国と国交を結ぶことができないというのは異常な事態です。
北朝鮮が異常であるから結ばない、そういう理屈は当然成り立ちます。
しかし、日本が独立を獲得してから、ずっと北朝鮮と国交を結ぶチャンスはありました。
例え韓国は反対したにしても、機会はありました。
それを考えますと私は、国交を結ぶということそのことによって、日本の国民が北朝鮮に足を踏み入れることができる。
これを通じて、拉致の問題についてもっといろいろないわば事実関係を調べる可能性も開かれてくるでしょうし、
何よりも私はそれによって、場合によってはいろいろな報道規制があるにせよ、直にカメラが、
平壌（ピョンヤン）の中に足を踏み入れることができるというのが大きいと思います。

まず核問題が解決できるかどうか。私は、これはどうしても解決させなければいけないと思います。
もしこれで解決できなかったならば、どうなるか。
国連安保理に付託されて、私は非常に危機的な状況に陥るのではないかと思います。非常に緊張が高くなると思います。
その核問題の中で、手短に言いますが、一番の問題は、プルトニウムとウランの問題です。
ヨンビョンは、ウラニウムではなくてプルトニウムを精製していますから、これは航空写真でいつでもキャッチできます。
しかしウランは、しかも高濃度のウラン開発は、これは偵察衛星ではキャッチできません。
北朝鮮には、数千から万単位のトンネルがあると言われています。しかも北朝鮮という国は、岩盤が非常に固いです。
ヨーロッパで言うとバルカン半島に近い、そういうような国の土壌ですね。
これは、イラクに使ったバンカーバスターのように、ああいう爆弾をアメリカが投下しても多分貫通しないと思います。
そうすれば、アメリカが本格的に戦争をやろうとするならば、小型の戦術核を使う可能性は当然出てくると思います。
小型の戦術核を使えば、地中1,000メーターまでは、多分貫通すると思います。
皆さん、もし小型の核をアメリカが本格的に開発して使うとなったらば、大変なことになります。

したがって、この六者協議でまず必要なことは、
プルトニウムから入っていって、ヨンビョンのプルトニウムを完全に廃棄させる。
私の考えでは、このことを北朝鮮に完全に宣言させ、そして濃縮ウランの問題は最後の方に回す。
段階を追って、この非核化に向けて北朝鮮と交渉をしていくというようなプロセスを踏んでいくしか方法がないと思います。
北朝鮮には、明示的かつ不可逆的な核査察を受けさせる。
ＮＰＴに復帰させる。ＩＡＥＡの核査察を徹底してやらせる。
今問題になっているのは、北朝鮮に核の平和利用を求めるかどうかです。
私は、これは非常に重大な問題の一つだと思います。
しかし総論としては、明らかに北朝鮮の非核化ということは、米朝の中で一定の合意は得たと思います。
問題は、北朝鮮に核の平和利用を認めるかどうかという問題です。これは、私は非常に難題だと思います。
難題ですけれども、私は、クリアーできないことはないと思います。

皆さん、六者協議のときに日本はどこにいたのでしょうか。完全にはずされていました。
外野席にいる状態とまるっきり同じだったと思います。
これは明らかに、日朝・平壌（ピョンヤン）宣言で日本が作り出した重要なイニシアチブを自ら放棄し、
結局は六者協議の中で、ある種おまけのように六者の中に何とかぶら下がっているという状況でした。
これは、明らかに日本外交の失敗だったと思います。
拉致問題を解決するためには、どうしても核問題を解決しなければいけません。

一昨年、外務省関係者から北朝鮮問題について意見を求められたことがありました。
この国との外交を巡って、外務省内での方針が割れているような感じでした。
私がそのとき一つだけ申し上げたのは、
「外交はゼロサムゲームではありません。私たちは100を取る、おまえたちはゼロだというのでは、戦争しかありません。
外交はゼロサムゲームではなくて、プラスサムのゲームです。ならば北朝鮮に、2割はあげるけれど、8割は日本が取る、
それが外交ではないでしょうか。ゼロか100かならば、これは戦争しかありません。戦争は、望まないでしょう。
戦争を望まないならば、プラスサムのゲームをやるしかありません。
北朝鮮という国がどんなに無軌道でひどい国であっても、相手を認めて外交で平和的に問題を解決するしか方法がありません。」
そう言いました。

そしてもう一つは
「北朝鮮に出口を示してほしい。あの国が暗闇の中で、どうしたらいいのか分からないときに、
『あそこに出口があります。でも、あなた達はあの出口に出るためには、これだけのハードルを越えなければいけません。』
と言うべきです。はっきりとそのハードルを越えられれば出口がある、ということを示してあげるのが良いのではないか」
と言いました。今でもその考えは、変わりません。

そして今、やっと米朝は二国間協議をやるようになりました。２年前とくらべると考えられないような進展です。
私は、日本がもっと積極的な役割を果たせると思いましたし、日朝・平壌（ピョンヤン）宣言が出たときは、
私は東京で六者協議をやるべきだと言いました。日本が中心になって、東京で六者協議を開く。
そして、非核三原則をまがりなりにも持っている日本が、
それが例え事実上ザルであっても建前としては非核三原則を持ち平和憲法を持っているこの日本が、
拉致のような問題をかかえながらも六者協議を東京で開く。これは、私は画期的な意味があると思いました。
それによって日朝・平壌（ピョンヤン）宣言は生きてくるわけです。
朝鮮半島の問題を、多国間の平和的外交を通じて解決するとうたわれています。
これは外交的な勝利でしたし、国民の勝利だと私は思いました。皆さん、どうでしょうか。
もし今、東京で六者協議が開かれ、日本が中心になってそれをコーディネートし、
北京ではなくて、中国に代わって、今日本が北京ではなく東京で、それをやっていたとしたならば、
私は日本のアジア外交、というよりは日本へのアジアの信頼というのはもっと高まっていたと思います。
もしどうしても日本の国民が、国連常任安保理事国を考えるならば、おそらくその延長上にはじめて熟柿が落ちるように、
当然日本に回ってくる役割だったと思います。

（次号に続く）

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ナチュラブ・日記　その１０５（2006年12月21日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（４）

　　　　　-------　【第一部】　姜尚中（カン・サンジュン）東京大学大学院情報学環教授のご講演　③/5-------
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（講演日：2005年8月19日）

（姜尚中さんのご講演、下段の続き）

朝鮮戦争は’50年の6月25日に始まりました。’53年に休戦協定が結ばれます。
日本は’51年にサンフランシスコ講和条約を通じて主権を回復し、やがて平和憲法の下に戦後を歩んでいきます。
しかし、この’51年から’53年の2年ちょっとあまりの間に、北朝鮮では電信柱一つしか残りませんでした。
あとはすべて廃墟となったんですね。

考えてみれば、もし第三国が韓国を基地として日本を爆撃するとなった場合には、
言うまでもなく韓国は日本にとっては敵ですね。
日本はいわば占領下にあって、しかもマッカーサーというよりは、その当時のアメリカの国防長官ダレスは、
日本に対して20万から30万の軍隊を早く作れとプレッシャーをかけていました。
当時の吉田首相はそれをはねつけて、そして警察予備隊までは作りましたが、
基本的には日本は隣国の戦争にコミットしない、しかし基地は提供すると言ったんですね。
つまりこれは、現実主義的であり、かつ限定的な介入だったと思います。
それによって’49年に、日本の低迷した経済は、これはあたかもカンフル剤のように効いたというか、神風が吹いて、
九州では八幡に火がともりました。

あの当時のトヨタの社史を読みますと、トヨタでは800台のバスが売れなくて非常に困っておりました。
銀行融資を受けたくても受けられないという状況でした。
そういうなかで、アメリカ軍の800台のバスの購入が非常に大きな役割を果たしたと社史には書いてあります。
もちろんその社史の中に、隣国の戦争によって儲けたことに対する後ろめたさも少しは吐露されています。
しかしいずれにせよ、隣国の戦争は、日本経済を、あの廃墟の中からよみがえらせました。
こういう背景の中で、’53年に休戦協定が結ばれたわけです。

朝鮮戦争については、ベトナム戦争とくらべるとあまりよく知られてないと思います。
アメリカでは、これを忘れられた戦争と言います。
朝鮮戦争を、いろいろな辞典で調べますと、死者の数は約150万人以上と書いてあります。
実際は、最近のアメリカの著名な学者の話では、約400万人近く死んだのではないかと言われています。
中国が約100万人。北朝鮮がおそらく150万人死んだと思います。
米軍は、ベトナム戦争の時は5万6,000人死にましたが、朝鮮戦争では、それを上回るぐらいの死者の数を出しています。
これは大変なことですね。
わずか2年数ヶ月の間に、日本の国民があの15年戦争で失った300万人余の人口を上回る規模の人々が、
あの小さな半島の地上戦で亡くなったわけですから、大変なことです。
つまり、沖縄戦の数十倍の規模の殺戮があの半島で演じられたということですね。

ベトナム戦争では、ベトナム人が360万人、米軍が5万6,000人死にました。これも大変な戦争です。
しかし、3年以内という短時間に、約400万人の人が亡くなったということは大変なことです。
しかも、今1,000万人の離散家族がいます。
皆さんは、北方領土については北海道であれば身近な問題と思われる方はたくさんいらっしゃると思う。
そこで肉親が別れ別れになって戦後歩んできたとなると、断腸の思いの人々が多いのではないかと思います。
現在の朝鮮の北と南を合わせますと、韓国は人口約4,600万人。北朝鮮が約2,300万人として、
最大限見積もって南北合わせて7,000万人です。そのうちの7分の1が離散家族になっているわけですね。
もう第二次大戦後　約60年たちましたから、敗戦後、解放後、ほとんどの方が亡くなっていると思います。
これがあの国の現実ですね。これはやっぱり非常に悲劇的なことだと思います。

その中で北朝鮮という国は、核に手を染めたわけです。なぜ核に手を染めたか。

朝鮮戦争の時に、トルーマンは、マッカーサーもそうでしたけれども、約17発の核爆弾を中朝国境に投下する予定でした。
つまり一方では、ロシアに近いですから、そちら側からロシア軍が。もう一方、旧満州から中国軍が。
その退路を断つために核を落とすという作戦が直前まで練られていた、ということが最近の外交文書でも明らかになっています。
つまり日本とお隣の国は、歴史上はじめて核被爆国になった可能性が充分あるということですね。

そういう状況の中で、北朝鮮は朝鮮戦争が終わったあとに、かなり内部的に粛正をやり、
そして現在の金正日（キム・ジョンイル）の父親である金日成（キム・イルソン）によって独裁体制が敷かれました。
北朝鮮という国は、経済的には、’59年の帰還運動の際に言われたような地上の楽園どころか、
中国とソビエトのサポートなくしては存立できなかった異様な経済状態にあったと思います。

こういうなかで、日本と北朝鮮は国交を結べなかったわけですよ。
韓国が日本と国交を結んだのが1965年ですから、北朝鮮も日本と国交を結ぶということは考えておりました。
9万7,000人の在日の人の2,000人近く、1,600人ぐらいはいわゆる日本人妻といわれている人です。
この人たちが、’59年から’80年代の半ばまで海峡を越えて北朝鮮に渡りました。
私の知り合いも北朝鮮に渡って死にました。多くの人がどこに行っているかわかりません。
もちろんその中に、知識人分子や、あるいは手に職を持つ特殊技能がある人もいて、そういう人は別にしても、
地方にやられた人々はどうなっているかは、わかりません。

なぜ、あのようなことが起きたのか。いろいろな理由があります。
それはまず、北朝鮮の労働力不足ということも一説では言われていますし、
さらに北朝鮮が日韓の間に楔を打ち込んで、日韓よりは日朝を先に国交を結ばせるように工作をしたという考え方もありますし、
さらにもう一つは、日本がこの日本国内にいる旧植民地出身者を外に出したかったということもあります。
これは、最近ジュネーブで国際赤十字委員会の機密資料が解禁になってそれを分析した人がいますけどれも、
その人の分析によれば、日本政府は赤十字を前に立てて、この人々を海外に移送させる。
しかもその人々が、自ら進んで自分の国に帰るというわけですから、これほど好都合なことはなかったと思います。

おそらく誤解されている人が多いと思うのですが、今、在日の韓国朝鮮系の人で、
自分のふるさとが北にある人はおそらく1％から1,5％だと思います。
98％から99％は、なべてみんな38度線より南側に自分の祖国があります。
言ってみれば、北海道で生まれて育った人が、第三国に行ってやっと日本に帰れるというので沖縄に行くようなものです。
一度も行ったことのない沖縄で、そこを自分の祖国とする。
私は、これはやはり問題が多い表現で、帰還とは言わないと思いますね。
やはり正確に言えば、北送と言ってしかるべきです。北に送り出した。祖国へ帰還するというより北送です。
つまり、日本政府、日本の国にとっては余計もの、そして北朝鮮にとっては、その人間を受け入れれば、
南北対立の中で韓国よりは北朝鮮が国際社会において認知されると。

さらにもっと複雑な背景があります。
あの新潟から出発した船は、これはソビエト船でした。
1956年のスターリン批判をフルシチョフがやって、そこから中ソ関係が非常に気まずくなりました。
北朝鮮は間違いなく中国寄りになっていきました。そこに楔を打ち込むためにも、旧ソビエトは、
北朝鮮主導による帰還運動に積極的に働きかけ、いわばチャーター便を出したわけですね。

今申し上げたとおり、この日本から北朝鮮に帰った人々をめぐる問題は、
北朝鮮、日本、韓国、旧ソビエト、中国、この地域を巻き込んだ様々な思惑が交錯するなかでこういう状況になり、
あの人々は、おそらく北朝鮮でかなりの部分は亡くなったり、あるいはひどい生活状況の中でご苦労をされていると思いますし、
1,600人から2,000人の日本の女性がいるわけですね。その人々もどうなっているかまだ分かりませんし、
一部帰還しましたけれども、依然として消息はまだはっきりとはつかめていません。

そういうなかで拉致問題が起きたわけです。言語道断なことだと思います。
国家の工作機関が無辜の市民を拉致するというのは、おそらく日本の国民からすると考えられないことだったと思います。
ただ、よくよく客観的に見ると、戦後60年経っていますけれども、戦後が始まってサンフランシスコ条約を結んで、
日本が日米安保とともに主権を回復したときに、日本のまわりの国はすべて独裁国家でした。
旧ソビエト、中国、北朝鮮、韓国、台湾。どこに民主的な国家があったでしょうか。
戦後、日本の憲法にうたわれていたような、非軍事化と民主化、平和主義というものが、どこかに一つとしてあったでしょうか。
いや、アジアを見わたして、少なくとも’70年代の半ばまで、一つとして日本のような民主国家はありませんでした。
そういう国々と日本はかつて戦争をしたり、あるいはそういう国々を植民地支配し、
それとの歴史的な精算をしなければならないとなったときに、まわりの国はすべて独裁国家だったわけです。

しかも、ベトナム戦争が終わるのは1975年ですから、日本が敗戦になって30年間は、アジアの国は戦争だらけだったわけです。
朝鮮戦争で約400万人、ベトナム戦争で360万人、さらには、新しいところでポルポト派のあの虐殺で約150万人から200万、
インドネシアでは、スカルノ政権ができたときに、その前後に約100万人近くは虐殺されたとも言われていますね。
さらに敗戦直後は、済州島、現在のチェジュトウで、約5万から7万人の島民が殺されました。
台湾でも、あれはなに事件だったでしょうか、少なくともその当時の国民党政権によって、2万人から3万人の市民が虐殺されました。
つまり、日本ほどハッピーな社会はなかったわけです。これこそ逆に地上の楽園でした。

日本の中で公害があり、そして様々な問題がありました。
でも戦争があった国では、クーデターがあった国では、虐殺があったり、拉致があったり、
勝手に治安機関が人々を捜査したり、人権が侵害されたりというのは日常茶飯事でした。
このアジアの、日本を取り巻く国々では、平然としてそういうことが起きていたわけです。
つまり日本は、城内平和の中で、ある種の閉ざされた平和の楽園だったと言っても過言ではないと思います。

それは何によって可能だったのか。言うまでもなく平和憲法があったからだと思います。
しかし私は、冷徹に見ればそれだけではなかったと思うのです。やっぱり日米安保があったからでしょう。
しかし、それだけでもなかったと思います。

朝鮮戦争が起きて、もし北朝鮮が釜山まで攻めてきて、韓国という国が戦争に負け、米軍が撤退した、
つまり朝鮮戦争がベトナム型の形で終わったとすれば、現在の釜山にいたるまで、社会主義国家がそこにできているはずです。
では、玄界灘を隔てて、いわば冷戦構造の中で、日本が社会主義国家と対峙するとなった場合にどうなったでしょうか。
私は多分、平和憲法はとっくに改正されていたと思いますね。そして自衛隊の役割は、もっと強くなっていたと思います。
そしてさらに、日本の治安機関というのは、かつての韓国のように非常にハードな部分を残していたと思いますね。
韓国のＫＣＩＡ（韓国中央情報局）やあるいは韓国の国軍のような、
戦後日本が否定し、忌まわしい記憶として残っているようなものが、
オンパレードのように韓国は、戦後それでずうっと、’80年代の半ばまで日本の二番煎じをやっていたわけです。
とっくに日本が敗戦でそれらを卒業して新しい平和国家としてよみがえったにもかかわらず、
隣の国は、かつての日本を彷彿とさせるような軍を中心とする国造りをやり、開発独裁をやり、
治安機関は跋扈するという状況だったわけですね。

つまり日本が平和国家でいられたのは、隣の国が中国やソビエトと対峙するために、北朝鮮と対峙するために、
それだけの非常にハードな軍事偏重の社会へと変質していったからだということです。

私は多分、それに沖縄を一つ入れることができると思います。
日米安保条約によるアメリカ軍基地のだいたい７割近くを沖縄に集中させることによって、
日本は、平和憲法と日米安保の中で、まれに見るほどの平和と繁栄を一応は謳歌してきたと思います。
もちろん、中には歪んだ様々な問題がありました。
開発や経済成長に伴ういろいろな国土の荒廃や公害やいろいろな問題があったと思います。
しかしそれは、今申し上げたようなアジアの国々の、戦後の悲惨から比べれば、
私はやはり依然として平和な状態だと言ってもいいと思います。
冷戦の時代というのは、まさしく日本にとっては都合のいい状態だったわけです。
これが半永久的にずうっと続くという前提で、55年体制はずうっと存続していきました。

しかし、事態は’80年代の終わりから変わろうとしていました。
間違いなくアジアの国々は、特に中国や韓国は、経済的な成長開発にギアチェンジをして、
かつてのあのような息苦しい軍事偏重の社会から、経済社会へとテイクオフしていく、
そういう状況がはっきりと’90年代に出てきたわけです。
そしてそれと合わせるように、’90年代日本は、低迷の時代に突入しました。

言うまでもなく、平成の時代になって、日本にはこの’90年代の半ばからずっと長期低迷が進んできました。
小泉政権になってからも、名目の経済の国民総生産はマイナスになっています。
政府は、もう景気は上向いて長期低迷から脱却したかのように言っていますけれども、
名目の国民総生産を見ると、毎年０コンマ何パーセントずつ収縮しております。
つまり日本経済はこの10年以上にわたって、かつてのようなプラス成長が総体としては望めなくなってきている。
今の日本が何とかこのような状態に保っていられるのは、私は、やっぱり中国特需が大きいと思います。
中国がアメリカからかっさらってくる貿易黒字が、かなりの部分が日本に環流するシステムになっています。

かつてジャパンバッシングがあったときには、日米の貿易摩擦は非常に構造的な問題でした。
しかし中国が一枚加わることによって、一番得をしているのは日本です。
日米の間の貿易摩擦は、あっても目立たなくなりました。
こういう中でアジアの変化というものが、この地域に大きな渦のようなものをもたらしているわけです。
そしてそのときに、日本の総体的な経済的低迷というものが、一方で起きています。

韓国は、’97年のＩＭＦ危機から脱却して、一応Ｖ字型の回復路線に乗せました。
金大中（キム・デジュン）政権のときに、経済は大きく変わりましたし、社会も大きく変わりました。

最近私はソウルに行くと、かつてのＫＣＩＡ、今で言う国家情報員のナンバー2の人と気楽に会って話をします。
学者さんです。私の後輩で、大学を卒業した40代の人。これが情報機関のナンバー2です。
驚きました。僕たちが学生時代に一番恐れていた、泣く子も黙るＫＣＩＡといえば、誰でも恐ろしいと思っていました。
ソウルの南側にナムサンという山があります。そこにＫＣＩＡの本部がありました。
だからナムサンに連れて行かれると言えば、誰でも本当に萎縮して恐怖の虜になるような、そういう情報機関に、
学生運動をやった学者上がりの人がその中枢に座るようになりました。
もちろん国家機関ですから、いろいろ問題はあります。しかし、かなり変わったと思います。
間違いなくすさまじい勢いで、民主化が進んできたと思います。

明らかに北朝鮮は、本来そういう流れの中に乗るべきでした。
でも、それが乗ることができずに、結局、北朝鮮は’90年代の半ばから、おそらく、国民経済は1/3以下に収縮したと思います。
国民経済が1/3に収縮するというのは、我々には想像ができません。
今、北朝鮮の電力は、だいたい最大限使えば700万キロワットです。実際の電力は200万キロワットしかありません。
動いているのは200万キロワットです。こういう事態の中で、戦争はできません。
もうほとんど旧式の戦闘機で、戦闘訓練さえやってないと思います。
こういう中で彼らは、核というものに手を染めようとしているわけですね。

（次号に続く）

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ナチュラブ・日記　その１０４（2006年12月20日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（３）

　　　　　-------　【第一部】　姜尚中（カン・サンジュン）東京大学大学院情報学環教授のご講演　②/5-------
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（講演日：2005年8月19日）

（姜尚中さんのご講演、下段の続き）

そういう点で、中国や韓国、さらには今日少しお話をしますが、北朝鮮との関係というのは、
非常に難しい局面にあるのではないかと思いますし、
そのことは単に外交にとどまらず、今申し上げたような日本の中のある種の世論の空気、
あるいは政治的にいわく言い難い、ある雰囲気の変化というものが、
アジアの国々との非常に険悪な状況を迎えている。
そういうふうに見ることができるのではないかと思います。
その決定打は、言うまでもなく北朝鮮だったと思います。

北朝鮮つまり朝鮮民主主義人民共和国という世界的に見ても非常に特異な、
非常に閉鎖的な社会主義を一応掲げている、日本と最も近い、かつての高句麗王朝時代と関係の深い国との、
今のこの2年数ヶ月にわたる絶望的な関係。
これは、皆さんに私が縷々説明しなくてもお分かりのことだと思います。

80年代の終わりにベルリンの壁が崩壊して、あれから15年。
確かに北朝鮮という国は、言ってみれば世界のある種の落伍者として、
その体制維持に汲々としているのが現実だということは、皆さんもすぐお分かりになると思うのです。

かつて1959年から始まった在日の人たちの北朝鮮帰還運動のときには、
これは産経新聞から朝日新聞まですべての新聞が
「槌音の響く平壌、新しい社会主義国家への、その新しい国に託す夢」と書いてあります。
つまり北朝鮮という国を輝かしい社会主義新興国家とみなしたのは、
朝日新聞だけではなくて、産経新聞もそうだったということです。
そこには少なくとも、ためにする議論はなかったと思います。

つまり、自分たちの祖国に帰る人々がいる。その人達にとっては、それはいいことであろうと。
そしてなおかつ韓国と比べると、北朝鮮というのはちょうど今の韓国のような状況にみなされていました。
つまり、北と南の関係が逆転していたわけです。
したがって、お歳をめした方はすぐお分かりになる通り、韓国というと李ライン、そして漁船の拿捕、そういう状況でした。
ですから今の北朝鮮をやや薄めた形で韓国という国は日本の国民にとっては、非常に悪いイメージだったと思うのです。

50年代の半ばに東京都で、これは一般の市民が対象だったと思いますが、世論調査をしています。
どこの国が一番好ましいかという調査です。それは言うまでもなくアメリカ合衆国。
そしてもちろん、旧ソビエトに対するイメージというのは決して良くはなかったわけですけれども、
それよりもっとひどいボトムだったのが韓国でした。
つまり韓国は50年代には、日本国民のもっとも嫌いな国の一つだったのです。
つまり世論調査をすれば必ず韓国が一番嫌いな国、一番いやなイメージの国になっていました。

今年は、日韓条約締結からちょうど40年にあたります。日本と韓国との間に国交が開かれて40年ということです。
その40年間に隣国に対するイメージや交流は大きく変わったと思います。
つまり、かつての北朝鮮のようなイメージが現在の韓国になり、
そして現在の北朝鮮は、かつてのもっとも悪い嫌いな国の一つだった韓国と同じような状況になっているということです。
それほどまでに戦後約半世紀以上にわたって、
この二つの国に対する日本のイメージや一般の国民庶民の理解の仕方は変わったということですね。

しかし、よくよく考えてみますと、日本から見れば、
かつての韓国は北朝鮮になり、かつての北朝鮮が韓国になっただけであって、
南北は依然として分断されていますし、そして日本の多くの国民が北と南を見る目は依然として分裂していますね。

私が、ある新聞の中のコラムで書いた言葉を使えば、
それこそ北のキム・ジョンイル（金正日）と南のヨン様が同じ民族の出身であるということが、
非常に不可思議な現象になってくるわけです。
この二人は同じ言語で話します。
もちろん北と南は半世紀以上に分断されていますから、少しずつ言葉は変わっている面はありますけれども、
基本的には同じ言語です。同じ言語であり、同じ民族であり、同じような文化を共有し合っている、
この金正日（キム・ジョンイル）という人と、そして韓国の映画スター。
この二人は明らかに、日本の人々が一番よく知っている象徴的な人物です。
しかしこの二人は、外国に住んでいるのではなくて、同じ民族の分断された同じ半島に住んでいるということを、
多くの人は時々忘れてしまうのではないかと思います。
では、この二人が楽しげに談笑していたら、韓流ブームはなくなるでしょうか。
独裁者と自分たちのあこがれのスターとが二人が談笑している風景を見たときに、
急速にいわば韓流ブームというのはしぼんでしまうのかどうか。そういうことをコラムに書いたことがあります。

客観的に見ても、北朝鮮のあの仰々しい北朝鮮のプロパガンダ。
そして非常に苛烈な政治体制。そして、およそ世界では信じられないような世襲的な社会主義。破綻した経済。
そして国民を管理するやや前近代的な全体主義国家。私から見ても、何一つとっても良い材料はないと思います。
しかし間違いなく、あの2千数百万人の住んでいる国は、ゴミが住んでいるのではなくて、やっぱり生きた人間が住んでいるのです。

60年前、昭和天皇はいわゆる聖断という形でポツダム宣言を受諾しました。
もちろん、日本は、サイパンあるいはガダルカナルでの戦い以降、敗戦は必至でしたし、
大本営やあるいは日本の軍の中枢は、戦争がもうだめだということは１年ぐらい前からある程度は理解していたと思います。
少なくとも客観的に見ればそうでした。

しかし、日本国民の多くが、その敗戦前の約１年間にわたってたくさん死んでおります。
あのとき300万人近くの人が亡くなったわけですけれども、
もし1年近く前に8月15日が、つまり1944年に8月15日がもしあったと仮定すれば、
私は日本国民の300万人のうち半数以上は生きられたのではないかと思いますし、長崎と広島もなかったかもしれません。
にもかかわらず最後までこだわったのは、これは言うまでもなく国体を護持しなければいけないということです。
ちょっと北朝鮮と似ているわけです。

北朝鮮の現在の国体というのは、言ってみればいわば遊撃隊国家として出発した金日成（キム・イルソン）以来の
主体（チュチェ）思想に基づく社会主義国家で、これを一応彼らは大義名分として掲げています。
この国体を維持するために、この数年間にわたって北朝鮮は核という禁じ手を使った瀬戸際作戦に出ているわけですね。

私が、まず最初に申し上げたいことは、北朝鮮という国をもっとも理解できるのは日本ですということです。
現在の北朝鮮の異様な国体思想と言ってもいいようなものは、まさしく60年以上前の日本の姿、
その姿をミニチュア版にすれば今の北朝鮮になると思います。
70歳代、80歳代の方々が見れば、かつての日本の姿を、おそらくは北朝鮮に見ることができると思います。
まさしく似ています。非常な相似形ですね。

そのような異様な状況が戦後60年、日本のすぐ近くにあるということは、
これはおそらく溜息がでるほどの落差だと思います。
しかし、あの戦争の非常に異様な時代と空間をご存じの方々は、多分北朝鮮のことをよく理解できると思います。
つまり、北朝鮮のことをもっとも、その社会の仕組みから、それを駆動している人間の精神から、
あのような一人独裁の偶像崇拝化された専制君主に等しいような人物をたてまつっている国。
このような姿というのは、60数年前の日本の姿だと思います。

なおかつ、私から見れば、日本がなぜ１年近くも戦争を長引かせることで、出さなくてもいい犠牲を払ったのか。
死ななくてもいい人を死なせたのか。
それは言うまでもなく、ＡＢＣＤ包囲網によってすべてのエネルギーや物資が断たれていたからですね。
ＡＢＣＤ包囲網の中で、日本はやがて日中戦争から41年のパールハーバーへと向かっていくのです。
戦線は拡大し、のびきり、そして南方方面の資源やエネルギーを押さえるために、戦争は無制限に拡大していきました。

もしＡＢＣＤ包囲網がなかったとしたならば、日本の戦争は、もう少し変わっていた可能性があるのではないでしょうか。
このことは、全体主義的な国家や軍国主義的な国家を封じ込めて、そして兵糧攻めに向かっていけば、
逆に悲劇的な国家、悲劇的な状況が現れるということを、日本の人々はよく歴史を鑑みて知ることができると思います。
もし、そのような完全に包囲された状況の中で、自滅的な戦争に向かわずに、
日本がもう少しある程度早く終戦を迎えられたならば。
さらにもう一つ付け加えるべきは、日本がもし本土決戦に向かっていったら、どうなったかということです。

8月15日にポツダム宣言が受諾されるまでに、ポツダム宣言が出されて約3～4週間。
その間、日本の軍部や大本営は何をやっていたかということですね。
いろいろなことが工作されていましたし、その当時のリーダー達がいろいろなやりとりをやっておりました。
しかしそこには、国民の生命をいかにして守るかという視点はなかったと思います。現在の北朝鮮も同じだと思います。

日本では、長野県の松代大本営に地下壕を作って本土決戦の準備は整えられておりましたが、
日本の国民が本土決戦にまで入っていった場合、どうなったかといえば、あと数百万は死んだと思います。
日本は、本土決戦にならなくて良かったと思います。

もちろん、沖縄本土では民間人も入れて約20万人近く死にましたけれども、
少なくとも九州以北の本土が戦場にはならなくて良かったと思います。
もし九州以北の本土が戦場になっていたとするならば、
当然スターリンが北海道侵攻をはかっていたでしょうし、非常に悲惨な状況になった可能性はあります。

また、スターリンが戦後、北海道の割譲を一時期ルーズベルトに要求したということも、皆さん知っての通りです。
つまりそういうミゼラブルな悲惨な状況に日本があわなくてすんだ。
これはやはり、最悪だったにしても本土決戦に入らずに、戦争を終結できたということが大きいと思いますし、
にもかかわらず、やはり包囲網の中でじり貧的に自滅していった面があったのではないかと思います。

実は1994年、アメリカは間違いなく、
北朝鮮のプルトニウムを抽出しているヨンビョンの核施設をステルスか何かで爆撃する計画を立てておりました。
そのときのペリー国防長官の元で、アメリカの統合参謀本部とペンタゴンは、このヨンビョンの核施設を叩くと。
これをもし攻撃した場合には、北朝鮮が、どういう行動に出るのか。

今、南北の休戦ライン、これは幅4キロ、2キロ2キロで4キロになりますが、だいたい百数十万の軍隊が対峙しています。
世界中でもっとも高密度の軍事力が対峙しているのはここだけですね。
しかも、皆さんも知っての通り、地理的には38度線はソウルに近いですから。
38度線は、東京から考えると横浜くらいのところにあります。
これは平壌（ピョンヤン）と比べると、地政学的に韓国は非常に不利な条件です。
そこに北朝鮮の主力部隊が展開しておりますね。
もし戦争になった場合には、一挙にソウルを、いわば急襲するということになる、そういうシナリオです。

それで、アメリカ側のシミュレーションは、最大限で百万人が死ぬということです。
米軍は約5万から10万人が死ぬであろうと。そして最大限見積もって、その場合の費用が１兆ドルになっています。
94年の段階で1兆ドルですから、今なら少なくとも100兆円近くにはなるわけですね。

この間、地震も起きましたけれど、現在、東京に阪神淡路大震災くらいの直下型の地震が起きた場合に、
最大限115兆円くらいの損害が出る、そういう見積もりがありました。
それで、そのシミュレーションから、アメリカのクリントン大統領は朝鮮のヨンビョンの攻撃をやめました。
その代わりに、カーター元大統領が北朝鮮に行ったわけです。

それで、アメリカと北朝鮮の間に、米朝枠組み合意というのができました。
これは言ってしまえば、北朝鮮が核を凍結するかわりに、アメリカが北朝鮮に毎年50万トンの重油を与えて、
やがて２基の軽水炉を北朝鮮に作るという案でした。

皆さんも知っての通り、チョウミョンロクという事実上キム・ジョンイル側近ナンバー2の、
北朝鮮の軍の最高首脳がワシントンに行きました。
彼は小さい頃、キム・ジョンイルを懐に抱いて、パルチザンを戦ったといわれている人物です。
つまりもっとも金正日（キム・ジョンイル）が信頼している人物です。
その人間がワシントンに行きました。そして当時のアメリカ国務大臣のオルブライトが、平壌（ピョンヤン）に行きました。
おそらくクリントン政権があと2年続いていたら、クリントン大統領自身が平壌（ピョンヤン）に行ったと思います。
もちろん金正日（キム・ジョンイル）はワシントンには行かないでしょう。
キム・ヨンナムという人が、おそらくワシントンに行った可能性はありますが、
いずれにしろ米朝は国交正常化をし、事態はかなり変わっていたと思います。

しかし残念ながら、事態はそうはなりませんでした。
そしてなおかつ皆さんも知っての通り、小泉首相が平壌（ピョンヤン）を訪れて、
そしてあの拉致問題というものがにわかに日本で大きな問題になったわけです。

だいたい1970年代の半ばぐらいに、この拉致問題というのは起きているんです。
どのくらいの数なのか。私は、少なくとも3桁ではないと思います。
2桁で、おそらくそれは、20名か30名ぐらいではないかと思いますが、いずれにしても異常なことですね。

国家の工作機関が堂々と日本の主権領土の中に入り、無辜の一般の市民を拉致して、
そして工作に当たらせるためのスタッフとして、彼らを養成し、そしていろいろなことをやらせていたと思います。
ある意味において、北朝鮮労働党の工作機関。これが、そこでうごめいていたとみえます。　
ただひとつだけ、日本の国民が理解しなければならないのは、
朝鮮戦争の時に、横須賀と、そして嘉手納が、Ｂ29による北朝鮮への爆撃に大きな役割を果たしたということです。

（次号に続く）

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ナチュラブ・日記　その１０３（2006年12月19日号）
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（下段とあわせ２号を同時掲載。下からお読みください）

　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（２）

　　　　　-------　【第一部】　姜尚中（カン・サンジュン）東京大学大学院情報学環教授のご講演　①/5-------
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（講演日：2005年8月19日）

お忙しいなか、たくさんの方にお集まりいただき、どうもありがとうございます。
札幌市長の上田さんや、ニセコ町長の逢坂さんはじめとして、関係者の皆さんに多大のご迷惑というかお世話になりました。
ちょっと僕はずぼらなもので、いろいろとご迷惑をかけたと思うのですが、
本当にこんなにたくさんの方々にお集まりいただいて、逆に僕の方が恐縮しております。

まず今日は、アジアの問題について話をしてほしいということなのですが、
その前に、今、日本は解散総選挙ということで、郵政民営化に向けて選挙の前哨戦が始まっていますので、
その話から入ります。

戦後60年、しかも8月15日が終わっておそらく非常に重大な時期に、
果たして郵政民営化というのが、日本国民全体のもしくは今後の動向を占う重大な争点であるのかどうかというのは、
私自身は個人的にはやや疑問に思っています。
もちろん、郵貯や簡保が原資になって特殊法人にお金が流れて、いろいろな意味で財政的に垂れ流されているという点では、
この財政投融資に何らかの改革が必要だということは、おそらく多くの人が理解しているとは思うのですが、
それがなぜ郵政の民営化なのか？
さらに政府が出している案がなぜベストであるのかということは、私から見ましてもよくわからない。
ましてや北海道に至っては、やはりいろいろな意味で郵便、郵政というのは、
地域社会にとって死活的に重要な問題ではないかと思います。

これをシングルイッシューとして盾にして解散総選挙に打って出るという、
それ自体については、私自身はやや疑問に思いますし、
小泉首相が9月11日、つまりセプテンバーイレブンを敢えて投票日に選んだというのも、
何かこれは一つの符号なのかなぁと思っています。

しかし外側に目を転じてみると、日本の国や国民、地域社会も入れて、
非常に重大な問題に今、直面していることは間違いないと思います。
具体的に言えば、ここ数ヶ月にわたる韓国や中国との関係。
さらには外務省の、あれだけの資源を注ぎ込んだ常任安保理事国入りの問題。
さらには何よりも北海道と多分関わっていると思いますが、
イラクに派兵した自衛隊をいつ撤収させるのか、あるいは場合によっては駐留を継続させるのか。
それについての重大な決断が迫っていると普通は考えられるわけです。

さらに、私自身は北海道についてはあまり不案内で知らないのですが、
九州や沖縄に行きましても、若者の失業率が非常に高い。
例えば私が生まれた熊本に行きましても、熊本市内の商業高校の卒業生の就職率がだいたい６割ぐらいでしょうか。

全体的には小泉政権になってから構造改革が成功を収めて、経済が上向きだと大手新聞ではよく言われているわけですが、
実際には多くの人々の給与や賞与は間違いなく縮小していますし、
多くの場合には非正規の社員や非正規の就業という形で、
何とか生活を凌いでいるというのが現状なのではないかと思います。

そういう現状の中で、この郵政民営化が今の日本のもっとも重大な、最大の優先させるべき課題であるというのは、
私から見るとやや焦点がずれているのではないか。
焦点がずれているだけではなくて、そこに焦点を合わせることによって他の問題がほとんど遠景化され、
そしてその問題について白か黒か、二分法で敵と味方をわけるという、非常に強引な手法ではないかと思いますし、
多くの人々もそう思ってらっしゃるのではないかと思います。

しかし巷のいろいろな噂やメディアでは、
やはり刺客が放たれたとか、あるいは永田町のどろどろとした怨念劇が非常に面白おかしく、
メディアの中で盛況を極めているわけです。

これは劇場型政治というよりは、京都大学の大竹さんの言葉を使えば、
日本型のポピュリズム（大衆迎合主義）と言いましょうか、
つまりメディアがヒートアップして、その中で何人かの人々をものすごく持ち上げ、そして今度はクールダウンして叩く。
このサイクルの中で国民は、ある種の観客として政治を見るという関心はあっても、
実際にそこに参加するというモチベーションを失ってしまう。
私は、こういう傾向が今、日本に強くなっているのではないかと思います。

さらに郵政改革自体については、
いわば社会的弱者もしくは経済的に非常に低迷するような状態になるかもしれない人々が、
自分の足下を掘り崩す原因を作った人に対して、ある種の期待を託すという、
これこそ非常に嗜虐的な構造が、今の日本に顕著に見られるのではないか。
つまり、自分たちの足下を突き崩す人を改革者として求めるという非常に矛盾した傾向が、
メディアや世論の中で顕著だと思うわけです。

そういうものとどこかでシンクロして、日本と非常に近い国々との関係が険悪になり、
そしてそこに明らかにナショナリズムと言っていいような現象が確かに起きていることは間違いないと思います。

もちろん中国や韓国の中に、国内問題としていろいろな問題があります。
これはおそらく、もっともっと詳しく研究していかなければならないことだとは思いますが、
しかし戦後60年たって、日本が最も近い国々とこのような悲惨な関係を迎えざるを得ないということに、
おそらく大方の人々は非常に落胆、あるいは失望、あるいは驚いたのではないかと思うのです。
いわばアジアの中の日本という足場がこれほどもろいものであるということに、改めて気づかされたのではないかと思います。

（以下、次号に続く）

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ナチュラブ・日記　その１０２（2006年12月19日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　「私たちの宿題　～ともにアジアに生きる～　」　（1）

　　　　　　　　　　　-------　シンポジウム講演内容の掲載にあたって　-------

これまでの「宿題を抱えたままで」シリーズの“宿題”を考えるヒントとして、
引き続き「私たちの宿題～ともにアジアに生きる～」を連載します。
内容は、『徹底討論！“北海道の明日”シリーズ特別編　「ともにアジアに生きる」』(2005年8月19日)の
第一部「アジアに生きる私たちと日本国憲法」と題した姜尚中・東京大学大学院情報学環教授のご講演と、
第二部の鼎談（姜尚中・東大教授、上田文雄・札幌市長、逢坂誠二・ニセコ町長［当時］)です。

なお、編集責任はすべて私・上野伸子にあります。
姜さんの口調をできるだけそのままお伝えしたく、できるだけ手を加えずにリライトしました。
また、　韓国語を含めて外国語は基本的にはカタカナ表示にしました。

では・・・私どもナチュラブ・北海道スタッフがどういう思いを込めて、この特別編を開催したか、
改めて知っていただくために、シンポ当日配布したご挨拶文を下記に再現することから始めます。

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（シンポジウム開催日：2005年8月19日）

私どもは2005年5月に当連続シンポジウム第5章｢憲法｣を開催しました。
日本国憲法は、公布後５９年、施行後５８年にあたる今年、その改正が大きく取りざたされております。
しかし国会周辺や各政党や一部マスコミなどで憲法改正を前提とした議論がされているほかは、
私たち普通の市民の中に憲法改正について大きな議論が起きているでしょうか。
そもそも議論する材料が、私たちの手元に十分そろっているでしょうか。

憲法の理念が実現されにくいからと言って現実に憲法をあわせるための憲法改正を、国会が簡単に発議したり、
私たち市民があっさり、それを認めることがあってもいいものでしょうか。
一国の憲法とは、どういう意味を持ち、どういう力を持つものなのか、私たちは充分に良く知っているのでしょうか。

私ども「ナチュラブ・北海道」のスタッフの間で改めて議論をしてみると、
ひとことで憲法とは何かを言えるものはいませんでした。
憲法改正が、これまでになく声高に言われているこの危機的な時期に、です。
それで、弁護士として２５年間、日本国憲法の理想を実現するべく活動されてきた上田・札幌市長に、
憲法をじっくり講義していただき、
その後、逢坂・ニセコ町長をコーディネーターに、会場参加者の皆さまを巻き込んで大いに議論をすることにしたのです。

これを聞きつけた私どものサポーターのお一人が
「この時期に憲法を取り上げるなら、単に護憲・改憲の議論ではなく、
日本国憲法が、世界なかんずくアジアではどのように作用し評価されているかという視点が必要で、
それを避けるのは知的怠慢でしょう。そして、それを語るには姜尚中さんが最も相応しいです。」
という示唆をくださいました。

はっとした一瞬でした。
これは偶然でしたが、その後も不思議なことに偶然としか思われないような経緯を経て姜尚中さんから、
私どものシンポジウムにご出席くださるというお返事をいただきました。
ただし姜さんのスケジュールが詰まっていて五月の第5章には参加できずに、今日のこの日になったわけですが、
上田市長も逢坂町長も「姜尚中さんのお話をじかで聴かれるなら万難を排します」と賛成してくださいました。

姜尚中さんのスケジュールのひとつが、
5月に東大で開催されたシンポジウム「朝鮮半島の共存と東北アジア地域協力」でした。
私どもスタッフも誘い合って参加いたしましたが、
金大中・前韓国大統領の基調講演、
各国大使・公使や日本外務省関係者との「六者会議と東北アジア地域協力」についての討論、
日本外務省関係者や韓国・中国・ロシア・オーストラリアなどの研究者との「東北アジア地域協力とその未来」に関する議論が、
2日間に渡って濃密な時間として繰り広げられました。

そして、この時に姜尚中さんがおっしゃった中で、三つのことが私の心に強く残りました。

一つ目は「すべてのわざには時がある」と言う聖書の一節を引用されて
「このシンポジウムは2年前に一度計画されたがそのときは開催できなかった。
今、まさにこの時期に、この日本で、こういうテーマで開催できたのにはそれなりの意味がある」と言われたことです。

二つ目は「シンポジウム開催準備が大変で、時には逡巡した日もあったけれど、こうして開催できた。
開催してしまえば何のことはない。ということは、六者会議だって開いてしまえば案外簡単ではないか。」と言う、
今まさに必要な楽観的なお言葉でした。

三つ目は「1945年以降、アジアで最も良くないことをしてきたのは北朝鮮と日本です」
とおっしゃった姜尚中さんご自身です。
在日二世であり、東大教授というポストを背負いながら、
そうはっきりと言い切られたことに僭越ながら感服いたしました。

翻って日本を見ると、姜さんがご指摘されたとおりの状況にあります。
靖国・北朝鮮による拉致被害・韓国＆中国の反日行動など、
すべてが戦後60年間に日本がしてきたことのため、あるいはすべきだったのにしなかったために
今引き起こされている問題ではないでしょうか。
それで、私どもは、姜尚中さんをお招きする特別編のテーマを「ともにアジアに生きる」とし、
姜さんのご講演テーマを「アジアに生きる私たちと日本国憲法」と決め、申し出ましたところ
「私の意に沿っています」というお返事でＯＫが出たのです。

特に“ともにアジアに生きる”には、
私たち日本人は近隣のアジア諸国民とのお互いの協力抜きには生きられないという現実や、
上田市長、逢坂町長はじめ私どもスタッフの思い入れが深く反映されております。

そして、いよいよ今日8月19日は、姜尚中さん初の札幌講演を迎えました。
これまでの不思議な偶然が重なった奇跡的な僥倖を、ひとりでも多くの皆さまと享受いたしたく、
このシンポジウム開催に向けて努力をして参りましたので、感無量でございます。
皆さまにとっても、良いお時間となりますように！

最後にあたりまして、毎回私が申し上げていることを述べて、締めくくりといたします。
私どもは、参加くださる皆さまとともにいろいろな政治問題を考える場として、
この連続シンポジウムを設定　いたしております。
わずかな時間で、すぐ結論を出すことなど不可能だと思っています。
それゆえ、このシンポジウムでの議論を、皆さまのそれぞれの生活の場に持ち帰って、
そこで発展させていってくだされば幸いでございます。

特に姜尚中さんの今日のお話や上田市長、逢坂町長との鼎談については、これまで以上に広く議論を起して、
たとえば、来る9月11日の衆議院議員選挙に備えていただきたく思います。
姜尚中さんは、多くの示唆に富むお言葉を私たちに投げかけてくださいますが、
そのひとつに「あきらめない」というのがあります。
それを、今こそ私たちもキーワードとして生かさなければならないと思っております。

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