ナチュラブ・日記パート９

ナチュラブ・日記　　　　Ｐart　９

　Part １（その1～9）　ナチュラブ代表が観た逢坂さんの政治観　Part ２（その10～22） 衆議院選挙
　Part ３（その23～36）　選挙後雑感、永田町での逢坂議員　　　Part ４（その36～48）靖国神社「遊就館」レポート
　Part ５（その49～60）エリート教育　　　　　　　　　　　　　Part ６（その61～69）負の連鎖・「元気の種コレクション」
　 Part ７（その70～77）真っ当な生き方のススメ　　　　　　　　　Part ８（その78～83）風（全５回）、６１年目の夏に
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ナチュラブ・日記　その８８（2006年8月29日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　政治家と有権者　（５）

私がこのシリーズ「政治家と有権者」で最も主張したいことは、“有権者の責任”についてです。
それを考える手段として、私は自分自身を“材料”にいたします。

私は、2003年11月から2年に渡って、札幌市の委員を務めさせていただきました。
上田文雄・札幌市長の選挙公約のひとつが「市役所改革」で、6月に市長に当選されて直ぐに、
その公約実現のために、構成委員の半分を一般市民から公募する「市役所改革市民会議」を立ち上げました。
私は持論である“有権者の責任”を自ら果たすべく応募し、運よく“当選”いたしました。

私は、上田さんの公約の多くに賛同し、こういう人にこそ札幌市長になって欲しいと思い、
上田さんに1票を投じました。
でも、私はそれだけでは有権者としても支持者としても不十分で、
上田さんがめざす本格的な「市民自治」実現のために、有権者自らが積極的に政治に参加するべきであると考え、
私が関れることは何かと探っていました。

公募に当たって、それまでの政治や行政への私のスタンスをもう一度、確認しました。

　「首長一人だけに責任を負わせる有権者であってはいけない。
　首長だけに過度の期待をするのは、逆に言えば、自らの有権者としての権利放棄になる。
　首長と同様に有権者としてもそれなりに汗を流さなければ。
　お任せ民主主義はいけないし、権利の上に眠る者であってもいけない。」

　「行政(官)と市民(民)は、お互いに対等であり、対立する関係ではない。
　双方が公平で公正に協働するべきである。
　市長が、自分の支持者だけの市長ではなく、自分に批判票を投じた有権者の市長でもあるように。」

　「それに、札幌市長という首長に、上田さんを選んだという責任がある。
　上田さんも当選されたときに、皆さんは、“上田文雄・札幌市長の製造物責任者です”とおっしゃったし。」

そう確認したのでした。

「市役所改革市民会議」は、
指名委員（いわゆる学識経験者の中から当会議委員として相応しいという人を市役所側があらかじめ選んだ方々）と
一般公募委員併せて15人程度の委員で構成されました。
私のような明確な上田支持者はいなくて、
逆に、市役所（役人・公務員）に対して不平や不満があるような公募委員も見受けられ、
そのことは、ほんとうに公平＆公正な人選である証拠でした。

私は最初の自己紹介で、上田さんを支持したことを鮮明にして、
けれど今後は、上田さんに対しては是々非々で行く、と今思えば、
ちょっと肩に力が入りすぎた感のある趣旨の発言をしましたが、
でも、それくらいの覚悟でしたし、そう宣言することで、ずうっと緊張を保てました。
“なあなあ・まあまあ”のような妥協は一切しませんでした。

また、公的な会議であるからには、正論を通しましたし、やせ我慢もしましたよ。
そういうような委員であったからこそ、
ある意味、委員仲間からも市役所側からも信用いただけたと自負しています。

そして任期の2年間は、市役所職員さんとの共同作業は、確かに辛くて苦しい時間も多くありましたが、
市の幹部職員初め区役所等の職員の皆さんとの意見交換会などで、本気・本音で渡り合ううちに、
お互いに誤解も多いと気づく機会にもなり、最後は連帯感が生まれました。

また、市役所改革という大きな目標が、ほんとうに僅かずつでも感じられるようになり、
それは一般市民の皆さんからの声となって挙がってきたことからも実感できました。
それこそが、私たち委員に対する市民の皆さんからの評価でしたので、
公募委員として少しは責任を果たせたと思い嬉しかったことを思い出します。

私自身にとっては、“有権者の責任”として公募に名乗りを挙げたからこそ持てた充実感でもありました。
私の考える“有権者の責任”は、以上のようなものです。
（注：札幌市の「市役所改革市民会議」の詳細は、そのＨＰをご参照ください。

現在も札幌市の職員さんたちによる職場単位での改革の工夫が継続的になされています。
そういう姿勢こそ、「市役所改革市民会議」からの要望でした。）

さて、このシリーズの総括です。

私は「あなたのように、何に対しても正論で取り組めるほど、多くの人は勇気がない。
みんなは、あなたのようには勁（つよ）くない。」と言われ続けてきました。
私は、そのように勁く生まれついたとしか言いようがありません。
ただ、常に公正かつ公平に正論で行くには、それなりの緊張と集中力が要り、
心身にかなりのエネルギー負荷がかかっています。
また特に、議論上、個人的には何の恨みもない人を徹底的に論破しなければならない場合は、
たいへん後味が悪く、ストレスになります。
でも、情け容赦のない人と誤解されてもかまわないし、敢えて弁解しないという覚悟はあります。
また、私と同じように行動してくださいと皆さまに強要したことはありません。
私は何であっても強要されるのは嫌いです。
それゆえ｢自分がされて嫌なことは他人もしない｣が、モットーです。

でも、今の我が国の政治状況をみて、私はモットーを少し修征しなければならないと思い始めていて、
このシリーズを書きました。

皆さま、どうぞ、こころして勁くなってくださいと、言わなければと思うからです。

そうでなければ、私たちは相変わらず小泉首相と同レベルの政治家を
次期首相として迎えなければならない破目に陥ります。

8月15日に靖国神社参拝をした小泉首相を批判した加藤紘一議員宅が、放火されるという事件がありました。
首相の靖国参拝を熱狂的に支持する右翼が犯人であると推測されていますが、
小泉首相も次期首相予定（でしょう？）の安倍官房長官も、夏休み中とて直ぐにはコメント一つ出しませんでした。
今頃になって｢警察で鋭意操作中｣とか｢言論を暴力で阻止するのは許されない｣とか
ありきたりの言葉を短く並べるだけです。

ニューヨークが、“9・11テロ”の犠牲になって以来、反テロ戦争を掲げるアメリカのブッシュ大統領に応えて、
自衛隊を無理やりイラクに派遣したのは、ほかならぬ小泉首相でした。
そうであるなら、自国の“右翼のテロとの戦い”を傍観するとは何事か、
と声を挙げなければならないのは、私たちの日本国民です。
そのときに問題にしなければならないのは、
「あれだけ靖国参拝を“心の問題”としてのみ取り上げた“情けのある”小泉首相が、
自国の政治家仲間の非常時に際して見舞いの一言もないという“情けがない”のは酷い」
というようなレベルではありません。
テロを黙認する行為は国家の責任者として許されないという正論で、声を挙げるべきときです。
単なるお茶やランチの席でのおしゃべりや、飲み会の席での愚痴のついでに、反小泉の気炎をあげてごまかすのではなく、
自分で出来る範囲でもっと有効な手段を考えて実行してください、ということです。

「国民は自分のレベルにあった政治家しか持てない。」と自らを揶揄するのはもうやめましょうよ。
後世から「なぜ戦争を阻止しなかったのか」と責められたくないでしょう？

第二次世界大戦前夜と、今は似ているといわれますが、一つだけ徹底的に似ていないことがあります。
それは、第二次世界大戦前夜は、当時の国民は普通選挙権さえなく、言論の自由が認められなかったから、
国民は戦争反対を唱えられなかった。
でも今は、国の交戦権を認めない憲法の下で参政権を持つ私たちは、戦争反対を堂々と主張できるのですよ。
それなのに、戦争を出来る国にするために憲法を変えることを公約としている人物がリーダーになるのを
ずるずると見逃すのは、なんという無責任か。
後世から「なぜ戦争を阻止しなかったのか」と問われて答えられない情けない人間は返上しなければ。
それが我々国民・有権者の責任でしょう。

さて、このシリーズの最後にあって、やはり政治家の責任についても触れなければフェアではありませんね。
私が考える“政治家の責任”とは、

ひとつ、公人として常に身を糾（ただ）し、破廉恥行為等を慎むこと。
ひとつ、私利私欲を捨てること。
ひとつ、“公”を“私”に優先させること。
ひとつ、国民(住民)全体の奉仕者であるから、公正で公平な施策を高みから判断して行うこと。
ひとつ、有権者・支持者を裏切るべからず。有権者の名誉を守るべし。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（完）
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来る9月は、遅ればせながら夏休みを取らせていただきます。
さすがに3年間に渡った連続シンポジウム企画運営の疲れが出てきました。
また、シンポジウムの記録集作成等の仕事が残っていますので、
原稿整理などに集中的に関らなければなりません。
そういうわけで、9月は日記もお休みさせていただきます。
では皆さま、日記再開まで、ごきげんよう！

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ナチュラブ・日記　その８７（2006年8月28日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　政治家と有権者　（４）

長野県知事選挙では田中知事を選びながら、議会議員選挙では反田中派議員を選んだという、
長野県の有権者の意図は何でしょう？
でも、この問題は、長野県の政治家と有権者に限ったことではなく、
むしろ日本国内どこにでも当てはまる問題ですね。
現に札幌市だって然りです。
上田文雄・札幌市長を誕生させた有権者が、
札幌市議会議員選挙では、圧倒的多数の反上田派議員を当選させたのでした。
ですから、今後は、我が国全体の政治家と有権者として、話を進めることにします。

ちょっと思い起こすと、このような首長と議会のねじれ減少は、良くあることですね。
なぜ頻繁にそういう現象が起きるのでしょうか。

自分たちの望む政策推進を知事に期待しておきながら、
その知事に、反知事派県議会をプレゼントするとするのは、
知事の政策が否決されるのが目に見えている、すなわち矛盾以外の何ものでもないでしょう。
その結果、自分たちの望んだ政策を知事が推進できなかったから、それは公約違反であると、
知事を責めるのはいかがなものでしょうね、と私はそういう有権者を責めたくなります。
私には、そういう有権者が、首長には県・市・町・村の政治の改革を求めながら、
身近なところの議会議員は、地縁・血縁・義理・利権等で選ぶ、という“選挙の図式”が見えます。

つまり、理想（理念）と現実、総論と各論、建前と本音を無意識で使い分けているのではないか、
という疑問を持っています。
いや、そういう二分法的な議論の立て方以前に、率直に言えば、
政治とか政策とか立法とか行政とか民主主義とか、そういうレベルで、
選挙とか公約とかを真面目に考えているのかしら・・・
という疑問です。

ちょうど一年前、2005年の総選挙の結果を思い起こすまでもなく、
どうも我が国民は、政治を自分の頭で考えないような気がします。
理想と現実、総論と各論、建前と本音という範疇でさえも、選ぶ基準は、流行とか人気。
選挙イコール人気投票だった。

でもこれも、地方自治体の首長選挙や国政選挙の場合に当てはまるのであって、
地方自治体の議会議員選挙には当てはまらないようにも思えます。
身近な議会の選挙の際には、よほどの話題性ある人や有名人がいない限りは、
人柄（これくらいいい加減なものもないのですけれどね！）とか
知人に頼まれたとか近所付き合いで選ぶのではないでしょうか。
つまり、義理人情を優先させる。その基準は、自分のまちの利便性向上。
もっとはっきり言えば、自分のまちさえ良ければ満足というエゴ。
そういう欲を叶えてくれる“力”がある人に投票するという選挙意識。
その結果、そこに利権が発生する・・・・・。
そういう行為は、憲法の参政権が想定した有権者の要件ではないと、私は思ってしまいます。

それで、どうやら次のように言えそうです。
「直接自分の生活とは関係ない
（そういう考えは明らかに誤りであり勘違いに過ぎない）国政や首長選挙の際には、
ちょっと気取って選択の基準は“理想”であり“総論”であり“建前”である。
（でも、やはり、選択の基準はあくまでも流行りや人気であり自分の頭で考えた結果ではない。）
直接関係あると思える市町村議会議員選挙の際には、私利私欲で選ぶ、
つまり選択の基準は、“現実”であり“各論”であり“本音”である。
つまり、国政や首長に望んだ政策自体は“きれいごと”であり、
実のところ実行されようがされまいがあまり関心がない。
でも議会議員に期待したことは“現実の欲”で、ほんとうに欲しいものだから、本気になる。」
そういう構図でしょうか。

推論ばかりで乱暴な議論になってしまいましたが、どうもそのような気がします。
でも、それではあまりにも有権者は無責任ではありませんか、
国の主権は有権者にあると憲法は謳っているというのに・・・ということについては、また次回に。

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ナチュラブ・日記　その８６（2006年8月24日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　政治家と有権者　（３）

お盆だからちょっとだけ日記もお休み、と一度自分に甘えたら、
またまたいつもの怠け癖が出て、10日間もサボってしまいした。

それにしても今夏の札幌は、終わらない夏という感じです。
お盆前後は30℃を越す真夏日が1週間以上続きましたし、
今も日中は25℃はあり、陽射しは相変わらず真夏のそれです。
ただ、朝夕はすうっと涼しい風が渡り、寝苦しい夜は、これまで一度もなかったのは、
いかにも北国らしいことです。

そうそう、私には無縁（こう書くといかにも朴念仁みたいで、そういう自分に我ながら驚くのですが）でしたが、
“夏の甲子園”で、つい先日まで、3連覇をかけて駒大・苫小牧の選手たちが熱戦を繰り広げたという事実も、
北海道を“終わらない夏”にした一要因だったみたいですね。

8月は、6日・9日・15日と、いかに忘れっぽい私たちでも思い出さずにいられない
（と思うのは、私の世代やもう少し下までのようで、30歳以下では、戦争があったことさえ知らない層があるとか！）
哀しく辛い日が続き、今夏も、戦争の懺悔と不戦の誓いと内外の戦争犠牲者への祈りの行事が行われました。
でも、“戦争の歴史”教育を受けていないように見受けられる若い層に、
内向きのナショナリズムのようなものが顕著に出てきたことで、この国の不気味さが際立った夏でもありましたが、
それらを含めて“戦争”に関しては、毎日テレビや新聞が取り上げていましたので、今さら私が書くまでもないでしょう。

ただ、今年は、この9月に予定される自由民主党総裁選挙に絡んで特に内外から、
日本の政治リーダー層の戦争観が問われましたが、
メディアでの扱い方は故意に靖国神社参拝の是非ばかりに照準をあて、
本質を外したやり方だったような気がしました。
国を挙げて思考停止状態が進んできているのを実感しました。

私の今夏は、そういう夏でした。
そして今日は、もう8月も末の24日です。
庭では虫の音が聞こえますが、
これは、どんなに暑い夏でも、お盆を境に毎年繰り返される、季節の移ろいを感じさせる音ですね。

それでは、今日からまた日記を書きます。

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さて、この｢政治家と有権者｣シリーズは、先の長野県知事選を題材にしていますが、
私が皆さんと一緒に考えたいことは、有権者の意識についてです。
長野県の有権者は、なぜ、水と油のように体質も公約も正反対の知事と議員を同時に選んだのか、
ということについてです。

6年前の長野県知事選で、長野県の有権者の多くは、
何かと問題がある県政を変えられるのは、それまでの知事とは何から何まで正反対で、
個性の強い田中康夫氏しかいないと期待して、彼に1票を投じた。
そうして田中康夫・長野県知事が誕生した。

ところが、その同じ有権者の多くは、長野県議会議員選挙に当たっては、反田中派議員に投票した。
その結果、田中知事と県議会との関係は、最初から最後まで両者譲らず、
知事の改革案がことごとく否決され続けた。
そして途中で知事がリコールされ、改めて知事選があり、そこでまた、有権者は田中知事を選んだ。

それら一連の動きを、メディアは、田中知事の派手なパフォーマンスとして、守旧派議員側の頑迷振りとして、
双方を否定的に伝えた。
ところがメディアは、有権者のねじれた投票行動について、ほとんど取りあげなかった。
そういう報道姿勢に、私は違和感というか、とても嫌な感じがした。
知事と議員双方を、したり顔で否定的に捉えるやり方に、政治を貶めるような不真面目で揶揄した意図を感じ、
メディア自らが、政治をその程度にしか考えられず扱えないということを暴露したように思えた。
また、知事と議員という“権力側”を否定してみせ、
“非権力側”の有権者の投票行動については、なぜか問題にしないメディアに、
無意識に有権者（つまりは多くの視聴者！）に媚びるような卑しさを感じた。

と、ついメディアの体質に話がずれてしまいましたが、
この稿は、あくまでも政治家と有権者の関係がメインなので、メディアについては敢えて今は問いません。
次回以降、政治家と有権者について、稿を進めます。

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ナチュラブ・日記　その８５（2006年8月13日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　政治家と有権者　（２）

今回の長野県知事選で、有権者の支持を得られなかった田中康夫氏は、
どういう知事であったのでしょうか。
何でもそうですが、私たちは、
直接知らない政治家（公の存在、公人）や出来事（残念ながら、ほとんどの人や出来事がそうですが）については、
多くはメディアを通じて見たり聞いたりして“知る”ですね。
でもそれらは、実はメディアにより創られたイメージであり、創られた出来事です。
私たちが実際に見て聞いて知りえた公人＆出来事ではない。
だから、逆にメディアの責任は大きいのですが。

さて、長野県知事選後のテレビ報道や新聞数社の社説を見る限り、
田中康夫知事とその県政執行手腕に関しては、ほとんど以下のように一致しているようです。
「当初の田中氏の取組は、“脱ダム宣言”と、“ガラス張り知事室”に象徴された情報公開によって、
県政の体質を一新しようと斬新だったし、公共事業を大胆に削り、県の借金も減らした。
が、組織プレーが出来なかった。
『政府・官僚・業者・学者・報道の五者の現状追認のペンタゴン（五角形）を溶かす』と訴え、
周囲を敵だらけにし、県職員の多くからも反発を受け、施策も実現しにくかった。
田中氏は新たな政党を作りその党首に納まるなど政治家として派手な立ち回りは演じられても、
行政の責任者としての役割は十分に果たせなかった。
大人の知事には成りきれなかった。」

でも、
「今回の選挙結果は、田中氏の激しい改革路線への県民の不満の表れであったが、
多くの有権者が田中氏以前の過去の不透明なばら撒き行政への逆戻りを望んだとは思えない。
田中氏の改革の方向は良かったけれど、やり方がよくなかった。
次期知事は、改革の方向性を見失わずに、もっと丁寧なやりかたで進めてほしい。」と。

　一見、ごもっとも。
ですが、田中氏は“ペンタゴンの一角”に報道（メディア）も入れていたという事実にちょっと笑っちゃいました。
そのレベルの揶揄は慎むとして、私がこれらメディアのコメントに対して持つ違和感は、三つあります。

一つは、簡単に「県の借金も減らした」とあるけれど、
ちょっと過小評価ではありませんかということ。
そもそも田中知事が6年前に当選したのは、
それまでの長い間の県政のあり方に嫌気が差した県民が田中康夫氏に投票したから。
当選した田中氏が、県民の期待や要求に誠実に応えようとすれば、それは改革ではなく革命だった。
そのうち、成功したのが県の借金の返済。
これは、今、他の地方自治体が一番悩んでいる部分でしょう、それを確実に成し遂げた点を、
単純にもっと高く評価しても不思議ではないと思うのですが、いかがでしょう？

二つ目は、県職員との信頼関係を築かなかったという指摘です。
これは、田中知事と県職員双方あまりにも考えも手法も違って、
相手をお互いに異邦人と見て、そこから抜けられなかった悲劇でしょうか。
県民から改革ならぬ革命を期待された田中知事が、
単に功を焦っての、県職員否定や県職員無視ではなかったと思います。
田中氏には、急ぐべきものは急がねばという焦りはあったと思いますが、
そこに、民主主義のルール無視があったのは否めないでしょう。
民主主義は時間がかかるのです。
そのあたりの田中知事と県職員のすれ違いのニュアンスを、
メディアはもっと丁寧に伝える努力をするべきではなかったのでしょうか。
田中氏は、そういうことも含めて、ペンタゴンにメディアも入れたような気がします。

三つ目は、長野県議会と田中知事の関係についてのコメントですが、
これこそ、私が｢政治家と有権者｣という稿で書きたいことそのものですので、
次回以降にまわし、じっくり考えてみます。

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ナチュラブ・日記　その８４（2006年8月10日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　政治家と有権者　（1）

たぶん、そうなるだろうと思っていた通りです。
予想通りの“見出し”が新聞フロントページのトップに躍る。
怒りを通り越して、もの哀しさの中に、います。

8月6日に投開票された長野県知事選挙とその結果、つまり権力の交代という現実が、
政治家（権力者）と有権者とメディアの絡みと、その醜さを暴露したのでしょうか、
現職の知事・田中康夫氏の落選報道。

例えば「田中色一掃」の見出しは、それが事実だから、いい。
でも、昨日までは見られなかった田中康夫氏全否定の露骨な論調はいかがなものでしょうね。
当選した候補者を支持した有権者や県職員による田中知事批判のコメントを次々載せて、
田中支持者のコメントは1件だけ、でもそれでバランスを取ったように装う紙面。
田中知事が選挙で勝とうが負けようが、彼の功罪を理性的に検証するのがメディアの責任で、
それを堂々と発表するべきだった、田中知事が知事という権力の座にあったそのときに、です。
対象が権力者であれば、なおのこと。

それなのにメディアは、田中知事が権力の座にあった昨日までは、ここまであからさまに反田中色を出さなかった。
もし田中氏が選挙に勝ち権力が継承される結果になったとしても、
新聞は、田中知事否定という同じ内容を同じ論調で書いたかしら？
メディアの仕事は、権力のチェックではなかったかしら？
権力に迎合するだけのメディアに、有権者や“官軍”に迎合するメディアに、
いったいどういう存在意義があるというのかしら？

一方、「政治家の評価は、評価の座標軸の取り方で変わる」と常日頃思っていますが、
今回の長野県知事選結果とその報道振りを見て、改めてその観を深くしました。
民主主義は、ほんとうに実践しがたいなぁ・・というため息とともに。

次回から、今回の長野県知事選挙を題材に、
普通の市民つまり有権者がどうあれば、よい治世になるのかという民主主義の根本問題を考えてみたいと思います。

私は、これまで主催してきた連続シンポジウムを、
普通の市民が政治にどのように関るべきかを念頭に運営してきました。
ですから、政治に関するコメントをするとき、常にその視点から見て考えたことを書きます。
今回の長野県知事選挙結果に対しても、そういう立場から見て考えてみたいと思います。
もちろん、メディアへの有権者としての考えも書きますが、
それは政治家と有権者の関係を補完するものとして、です。

なお私は、彼の小説を1冊も読んでいないほど、“田中康夫”を苦手としています。
でも、田中康夫氏は苦手イコール彼の政治センス否定、とはなりません。
またよく言われるように彼の政治・行政手腕に難ありというだけで、
彼の政治家としての哲学や理念や改革の方向性を否定はしません。
いずれにしても、“田中康夫”に全く余計な思い入れなど持たない私には、
公平かつ公正な目で長野県知事選挙を見て、それを通して民主主義を有権者側から語る資格があると考えます。
よろしくお付き合いください。

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