ナチュラブ・日記パート１０

ナチュラブ・日記　　　　Ｐart　１０

　Part １（その1～9）　ナチュラブ代表が観た逢坂さんの政治観　Part ２（その10～22） 衆議院選挙
　Part ３（その23～36）　選挙後雑感、永田町での逢坂議員　　　Part ４（その36～48）靖国神社「遊就館」レポート
　Part ５（その49～60）エリート教育　　　　　　　　　　　　　Part ６（その61～69）負の連鎖・「元気の種コレクション」
　 Part ７（その70～77）真っ当な生き方のススメ　　　　　　　　　Part ８（その78～83）風（全５回）、６１年目の夏に
　Part ９（その84～88）　政治家と有権者　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　トップページへ

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ナチュラブ・日記　その１０１（2006年12月18日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（８）

この1週間は、身の回りに辛いことが続きました。
自分自身のことでないことは、かえって辛いということがありますが、まさにそういう辛さでした。
それで、さすがに、この稿を書く気力をなくして鬱々としていました。

その間に、ただでさえ気分が晴れないのに、改正教育基本法の成立という、
私が宿題として抱えている問題のあるべき解決方向とはまったく逆の動きが決定的になり、
いっそうの無力感に襲われ、明日の朝は目を覚ましたくないなぁと思ってベッドに入るようにさえなりました。

心底本気で反省をするべき対象の“戦後”を、“もう”60年も経ったから脱却して、
国民が自分より国を重視する愛国者を育てようとしている勢力がある。
そして、この国の形を変えてしまう“憲法改正”をしようと彼らは狙っている。

上田文雄・札幌市長が、おっしゃっていた下記の言葉とおりですね。
　　「長い間かかって、そう、今の憲法ができたときから既に、
　　いつかはこの憲法を変えようと言う勢力があって、
　　彼らやその後継者たちが60年かけて、その準備をしてきたんですね。
　　あまりにも少しずつさりげなく巧妙に準備されてきた。

　　つまり、国民が自分の頭で物事を考えないように教育のありようを徐々に変えてきて、
　　その結果、ちょっと考えれば憲法に違反しているような言動が権力側から出てきても、
　　国民が、まぁその程度ならいいか、と大目に見るようになってしまった。

　　その例のひとつが、国旗国家法ですね。
　　憲法で国民の権利として規定されている精神的自由があるから絶対に強制しない、
　　と国会で答弁して法律を成立させた。
　　でも、その後どうなってしまったかは明らかですね。
　　また、自衛隊についてはもっと時間をかけて、
　　ついに“合法的”に、国外に出してしまうまでになった。

　　このくらいのことなら、それ程度のことなら、と、私たちが見逃してきたから、
　　私たちの責任といわれるとそうですが、
　　でも、そのくらい巧妙に敵は、今の憲法を変え、
　　再び戦争をできる国にしようと執拗に取り組んできたのです。」

それでも、私は正気を取り戻さなければ。
そしていつものように、私にできることをするしかない。
それは、2005年8月19日に開催された連続シンポジウム特別編「ともにアジアに生きる」で、
姜尚中さんがされたお話を、私の編集責任の下、この日記に載せることです。

実はこれまで、出席された多忙な講師の方々に無理を申し上げて校正いただくため長い時間がかかりましたが、
毎回シンポジウムの記録集を作成してきました。
が、姜さんは特別お忙しそうで・・・超多忙と言っても過言ではないでしょう。
そういう姜さんに、校正を無理強いするのはさすがに気が引けますし、
それを待っていてはいつに記録集が日の目を見るか見当もつきません。
でも、今こそ姜さんのお話は旬です。
私だけが、独り占めするのは罪のように思えます。
それで、私の責任校正ということで、ここに披露することにします。
また、姜さんについてインターネットで検索しますと、
シンポジウムでのご講演や討論の発言の多くが、校正責任が示された形で、オープンになっている場合が多いので、
それに倣うという意味でもあります。

ということで、次回から、姜尚中さんのお話を載せることにいたします。

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ナチュラブ・日記　その１００（2006年12月9日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（７）

皆さまには、望めば行けたのに行かなかったところ、
あるいは、どうしても行けないところは、ありますか？

私は、ハワイや沖縄に、なかなか行けませんでした。実は、広島にもまだ行っていません。
でも、“真珠湾”に行けばいいのだと気がついて、10年前に初めてハワイに行きました。
真珠湾では、乗り組み戦闘員とともに沈んだ軍艦“アリゾナ”の上に建てられた記念館へ行き、
お参りしたあと、ダイヤモンドヘッドに登って、地平線のかなたまで続く太平洋の美しさを満喫しました。

また、最初にせめて“ひめゆりの塔”にお参りしてから、美しい碧い海を楽しめばいいのだと思って、
今春、初めて沖縄に行きました。
“アメリカ軍基地”は、過去のものではなく現在そのものですから、
簡単に軽々しく露払い的な行動では済ませられない、
観光旅行のついでに立ち寄ってはいけない場所だと思い、わざと外しましたが。

長崎は、もう40年近い昔の学生時代に、九州一周貧乏旅行をした折に行きましたが、
平和公園内の平和祈念像や、被爆直後「水を・・」と言って死んだ夥しい人々の冥福を祈る“平和の泉”の前で、
原爆を投下した国・アメリカの観光客が大きな声で笑い興じながら写真に納まっている姿を見て以来、二度と行けません。
またそういうトラウマのせいか、広島にはまだ行けません。

このような自分がどこか偽善的で嫌だと思ってもみますが、
それが私自身だから仕方がないと、近頃は諦めるようになりました。
でも、沖縄から帰って、私よりはるかに若い沖縄出身の女性に
「日本本土の住民は、沖縄の人々には戦争中はもとより戦後も犠牲を強いて、
そのおかげで繁栄してきたという後ろめたさが私にはあって、
なかなか沖縄には行けなかったのです。
でも、私ももう直ぐ60歳ですから、逃げずに沖縄を見なければと、思いきって行きました。
友人たちとの観光旅行でしたが、楽しむ前にまず“ひめゆりの塔”にお参りしなければと思いました。」
と言ったのです。

すると、いつもは快活な彼女が目に涙を浮かべて
「そのように沖縄に思いを寄せてくれる人は初めてです。」と絶句しました。
彼女は、私が沖縄旅行をすると事前に伝えたときには、
観光案内的なアドヴァイスだけをしてくださっただけでしたのですが。

これが沖縄の人々の本心であると、今は解ります。
彼らは、本土の日本人を試している。
いいえ、本土の私たちが沖縄の人々に試されていると、言いなおさなければいけない。
沖縄の人々は、自分たちはもちろん自分たちの親兄弟たちの戦争時における悲惨な体験を、
本土人には自ら語ろうとはしないけれど、
本土人である私たちが彼らに心を寄せて、彼らの体験を謙虚に聴こうとすれば、
心を開いて語ってくれるのですから。

実際、沖縄では、そのようなシーンに巡り遭いました。

そのひとつが“ひめゆりの塔”での体験でした。
ひめゆりの塔については皆さまもよくご存知でしょうから、ここでの説明は省きますが、
生き残った高齢の女性が、私たち“観光客”に当時の状況を話して聞かせてくださっています。
たまたま私が聴いたのは、なぜその彼女が生き残ったかという理由でした。

引率の先生が「さぁ、この薬をのんで・・」と言ったとき、
ある女生徒が「もう一度お母さんに会いたい！」と叫んだそうです。
そのとたん、そこにいた女生徒たちが全員「私も、もう一度お母さんに会いたい！」と口々に叫びだし、
その心が先生に届き、「そうか、お母さんに会いたいか」という声になって返って来て、
気がつくと彼女たちは死なずに生きていたのだそうです。
なぜ、急にといわれても理由などなく、思わず本心がほとばしった瞬間だったということでした。

こういう事実を、私は知りませんでした。
また、もう80歳にもなろうという語り手の真実味ある声に、引きずり込まれ、私はそこから動けませんでした。

また、沖縄では運転手さんがガイドを兼ねる観光タクシーで回ったのですが、
その運転手さんたちは、たいそう親切にあれこれ説明をし、また、どこでも写真撮影を勧めたのですが、
ひめゆりの塔だけでは、まるで別人になったように、説明ひとつしてはくれなかった・・
「さぁ、本土の皆さん、よく見なさい。あなた方に、わかるだろうか・・・」と、無言で言われたような感じさえしたのです。
ここでも私たちは、試されていると思いました。

私は今後、その試しに応えられるだろうか、と思ったものでした。
本土人として、私がするべきことは何かという問。それも、私の“宿題”になったのです。

その“宿題”は、見学旅行で訪れる高校生たちは「素直な目で見て素直な心で聴き、涙を流します」と、
友人の高校教師から聞いたときに思ったことにもつながります。
そういう素直な高校生たちが、日本を越えてアジアや世界へ出て活躍するようになったとき、
祖父母の時代の戦争責任という負の財産を背負わなくてもよいように、
また、これから生きていく子どもたちが、沖縄や、日本がかつて蹂躙した国々に対し、
今の私のような後ろめたさを持たなくてもすむように、
私たちが、こういうことで気に病む最後の世代になるように、
今のうちに、その後始末をつけておかなければ。
これが私の究極の宿題だと思います。

さてその宿題に、どのように取りかかればよいのか・・そのヒントを次回から書く予定です。

それともうひとつ再確認したことがあります。
前述したように、私が自分では偽善的であると自虐的に思っていた行為は、結果的にはそうではなかった。
言葉に出し行動することで、相手にまっすぐ届き、私は救われた。
つまり「言わなければ、伝えなければ、思いは伝わらない」ということです。
どんなに思っていても、それを表現しなければ伝わらない。
人間は、意思の疎通をはかる道具として言語を有する生き物である以上、
黙っていても解って欲しいというのは甘えに過ぎないし誤解を生むことがある、と改めて思いました。
そして、それに励まされて私はこうして拙い文を綴るのですが。

宿題をかかえたまま、そんなことを思った今年の“12月8日”でした。

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ナチュラブ・日記　その９９（2006年12月5日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（６）

11月30日・テレビ朝日の「報道ステーション」によれば、
北九州市では、生活保護率全国一という汚名（と、この国では受け取られているのでしょう）返上のために、
生活保護申請者に請求用紙を渡さない方法を「水際作戦」と名づけて実施し、
生活保護受給率を下げたそうな。
そのために自殺や犯罪に走らざるを得ない住民を生み出している、その福祉観を是とする行政意識。

小泉政権下で200回近く開催されたタウンミーティングは、
特に教育基本法改悪（と私は思います、愛国心の強制・ボランティアの強制が柱だなんて）の世論形成のために
主催者（行政）のヤラセ発覚。
おまけに、その静岡開催時に信じられない無駄遣いという追い討ち。
タクシーのワンメーターで十分な距離、つまり歩いても5分程度の距離を大臣達が移動するのに、
東京からわざわざハイヤーを要請し、多額の税金の無駄使いをしたと言う事実が判明。
国会の委員会で安倍首相でさえ、苦虫を噛み潰した表情で答弁していましたね。
一般国民はもちろん、多くの公務員でさえ“切れる”に違いない、
このような恥ずべき感覚を生み出す行政組織。

これらが単に氷山の一角としたら・・・と思わせるような得体の知れない不気味さや不快さが、
今の社会に蔓延しています。

例えば、毎日のように暴露される首長クラスの汚職の構図。
例えば、政権与党の“政治家使い捨て論”と、それに屈する政治家たちの本音“寄らば大樹の陰”。
そういう政治家たちが、子どもたちには「勇気を持ってわが道を行け」とお説教する滑稽さ。
例えば、前述の嘘で固めたタウンミーティングを繰り返した大人たち・政治家が、
子どもに「嘘をつくな」と言う嗤（わらい）話。
例えば、現憲法下で幸運にも戦争を体験せずに来た政治家たちが、
その幸運を次世代には引き継がないとばかりに、防衛庁を、軍事に関する専門省・防衛省にあっさり格上げし、
やがては憲法改悪して戦争をできる国を目指すそうな。
そういう戦争の犠牲になるはずの今の子どもたちに意見を言う場を与えずに。
卑劣な大人の不正義を、皮膚感覚で感じ取って、無言で反抗するしかない子どもたち。

大人である私でさえ、この腐臭に吐き気がしてならないのに、
そういう大人の社会に押し潰されそうな子どもたちが、どうして健全に育つだろう・・・・
なんだか、国が壊れそうな・・・・・

唐突のように思われるかもしれませんが・・・・・
一国が崩壊するときは、外からの武力のせいではなく、既にその国の中が崩れてきているから・・・
そこにとどめの一発のように、外的物理力が働き、国が滅びるのじゃないかなぁと、
私には思えてやりきれないのですが・・・
論理的ではなく、極めつけの主観ですけれど。

内部が崩れてきている国（今の日本は、まさにそういう感じがします）では、
国民が自国に愛想を尽かしているから、どんなに国家権力が愛国心を押し付けようとしても、
そんなもの、誰が納得するものか・・と思いません？

真面目に働けば暮らしが立つ安心して暮らせる国、子どもを持ちたいと思える国、
そういう国であれば、国が押し付けなくても“愛国心”は自然に育ち、国民同士の連帯感も生まれ、
外からの理不尽な侵入を受ければ、強制されなくても国民は外敵に自ら立ち向かうに決まっている・・・
もっとも、それは長い人類の歴史上でも理想かつ悲願にしか過ぎなく、
そういう国はほとんどない故に至る所で争いが絶えないのが、残念ながら現実ですけれど。

今の日本の事態も悪しき現実の典型的な例で、
国の権力者は国民のなかに不穏なエネルギーが溜まりつつあるのを感じ取って、
国民を信じられずに、愛国心を押し付けなければならないのでしょう。
僅か60年前に一度それで失敗して反省したはずなのに、
想像力のない権力者どもが、愚かさを繰り返そうとしている。
そして、その先は・・・反省する人々もいなくなるほどの壊滅・・・
そう思えてならないのです。

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ナチュラブ・日記　その９８（2006年11月30日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（５）

このシリーズは、姜尚中さんからの宿題について考えるために書き始めたのですが、
途中、違った意味での宿題としての問題ばかり生じ、本来の目的になかなか取り掛かれません。

今回も、また・・・　
いったい、どこまで国民・有権者をバカにすれば気が済むのでしょうね、安倍内閣と与党自民党関係者は。

政治なんてそんなもんだ、という物分りの良い国民・有権者が圧倒的に多いから、
今回も安心して恥も外聞もなく、私利私欲で背に腹代えられず、
国民罵倒劇をやっちゃったとでもいうんでしょうか。
昨年2005年衆議院選挙時に当時の小泉政権が主張した郵政民営化法案に反対して、
造反組みとレッテルを貼られ自民党を追い出された無所属議員の復党茶番劇。

「もう、やってられないわ、ばっかじゃないの！」というのが私の感想。

この件については、ここ数日メディアが取り扱っているので詳細は省きますが、
復党を願い出た造反離党組みも、それを受け入れた安倍政権・与党側も、
ここまで国民・有権者をバカにするか、という思い。
双方もっともらしい理屈を並べているけれど、なに、本心は私利私欲、
つまり与党側は来春の参議院選挙目的、造反組みは一人分約2,000万円と言う政党交付金目当て！
やってられないでしょう？！
　
こういう連中に、行け行けどんどん・みんなでやれば怖くないとばかりに、
教育基本法や憲法の改悪が握られているという絶望感。

こういう連中に、「いじめの実態調査を」だの、「いじめをなくするための施策は」、
なんていわせておかなければならない、私たち国民の哀れさ。

行財政改革の名の下、格差社会を進め、
リストラなどされて家族離反したり自殺しなければならなかった国民を生み出してきた張本人たちが、
自分たちだけは、お金のためにあっさり転ぶというのか。
（今回復党できなかったただ一人の議員は、実のところ、
　政治資金4億円を集められる実力者だから逆に屈辱に耐えられないという見栄を張れたという事実が、
　他の11人が、お金のために復党せざるを得なかったといえる根拠でしょう。）

ほんとうに情けない。

自分は政治家であると思うなら、
僅か2,000万円くらい（政治家にとっては、僅かでしょう？）は、自分で稼ぎなさい、って。

自民党という看板が無くなって政治資金集め目的のパーティができなくなったのなら、
政治活動の原点に戻って、辻説法でもミニ集会でもこなして支持者を増やし、
彼らから清潔なカンパを集めるくらいの本気さを示しなさい、って。

自分の政治的信条や信念や主義主張をあっさり捨てて、おまけに屈辱的ともいえる誓約書にサインして、
これから先、何をすると言うのか、何を語ると言うのか。
安倍政権・与党にも、復党組みにも、天下国家を語る資格なし。

ほんとうに情けない。

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ナチュラブ・日記　その９７（2006年11月24日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（４）

このシリーズ（3）で、“愛国”ならぬ“国粋”は、“いじめ”と同じ構図に見えると書きました。
「宿題を抱えたままで」のシリーズは、解決できない宿題について考えることを想定していて、
主に昨年、姜尚中さんから私たちに与えられた宿題について考える予定でしたが、
いじめをめぐる問題が緊急を要する今、解決するべき宿題のひとつとして、
今回は、いじめ、特に子ども達の世界のいじめを取り上げたいと思います。

単刀直入に言えば、私は、いじめられた子どもが追い詰められて自殺する程の“いじめ”は、
ある意味“犯罪”であると考えています。
子どものいじめ問題を教育に限定するのは・・・
教育界にだけ、家庭にだけ、責任をもたせる教育問題に限定するのは、間違いであると思っています。
いじめを教育問題として考えるなら、加害者にこそ必要と考えています。

でも、私のそのような考え方を、ここでちょっと書いたところで、
いじめられている子や、そのために自殺をしようとする子を救えるはずがないと思います。
それでも、私はいじめられている子たちに言わずにいられない、
「死んじゃいけない。逃げなさい、学校なんて行かなくていい。とにかく、今の辛い状況から逃げなさい」と。
「死なないで。命より大切なものなんてない。学校なんてどうでもいい。逃げるのは負けじゃない。」と。
ただただ、そう言いたい。伝えたい。

そして、子どもの親が今するべきことは・・・
いじめにあって、辛くて辛くて死にたいと思いつめているわが子を抱きしめて、
死んではいけないと肌で伝えることしかないでしょう。
あなたは、私の大切な子だから死なないで、と。
あなたは、私にとって、かけがえのない存在であるから決して死なないで、と。
私が、あなたを守るから死なないで、と。

きれいごとを並べるだけで、自らの保身しか考えられない教師集団の学校に殉ずることなどしてはいけないと、
子どもに、大人が教えなければいけない。
それが大人の責任でしょう。それが親の責任でしょう。
もちろん教師の中にもまともな人がいるのも当然で、その割合の方が圧倒的に多いと信じたい。
けれどそういうまともな教師たちが、子ども達を守る状況を自分たちの力で創れないのも情けない。
それを現場の教師たちは、大いに反省して、子ども守って欲しい。命を守って欲しい。
また、学校を統率する教育委員会や文部科学省なんぞ、現場の学校を指導する資格もない。
　
命の大切さを子どもに教えられるのは誰か。
命の大切さを子どもに教えられるのは、まず“親”でしょう。
その卑近な例として、私と息子のことを書きます。

いじめと言うより不登校が問題化していた1988年（昭和63年）に息子が小学校に入学した時、
私がたったひつだけ固く決めていたことがあります。
それは、学校はすべてではない、ということです。
義務教育は反面、教育を受ける権利でもあるのですし、
学ぶ場は学校だけではなく、
また、学ぶ時を本人や親ではなく国が決めるのも何かおかしいと思っていたという理由のほかに、
本能的に、とにかく何があっても息子を守ろう、息子の味方でいよう、と思ったのでした。
息子が学校を嫌がったら、原因を探るのは当然ですが、
それを後回しにして、とにかく学校を休ませようと決めたのです。

そうまで思いつめていた結果は、息子は、これまでにも書いたように先生や友だちに恵まれ、
学校が大好きな子に育って、私の決意は杞憂で済みました。
でも、私は、自分が、自分と息子が幸運だったから、それでお終いとは考えません。
この幸運を何とか、一人でも多くの人々に引き継ぎたいと思うのです。

こんなにも、いじめにあって死にたいと思いつめている子どもが多い今、
そう言うお節介が必要だと思うからです。
大人が子どもを守らないで、どうする・・・そう、思います。
親、先輩、教師、とにかく、大人が子どもを守らないで、どうするのですか。

これを読んでくださっている皆さまのなかで
小学生から高校生のお子さん（今は大学生も入るかもしれませんね）をお持ちの方々、
あるいは皆さまのお知り合いでそういう年頃のお子さんをお持ちの方々にお願いしたい、
「何があっても、決して死なないで。あなたは私の大切な大切な子、宝であるから。私があなたを守るから」と
本気で、お子さんに伝えて欲しいと。

私は、息子をこの胸に抱いたその日から、彼にささやき続けました、
「あなたは私の大切な命。私があなたを守る」と。
息子に名前がついてからは、「お母さんの可愛い、可愛い、○ちゃん」と、毎日必ず呼びかけました。
気恥ずかしいことを書きましたけれど、でも、親として当然と思われる子どもへの情を素直に表現することを、
今、多くの親御さんは捨ててしまっている、そういう気がしてならないのです。

まず、大人である親が、素直に愛情を表現しましょうよ。
子は、親のすることを見て真似するのですから。
愛されて育った子は、いじめをしないと思います。
いじめは、愛されていないと思う心、愛されずに育ち自分に自信を持てない不安な心などから、発生すると思います。
それなら、まず親としてまず今、
目の前にいるご自分のお子さんをもっともっと愛すること、愛していると伝えることから始めましょうよ。
それをあなたの友人に広めて行きましょうよ。
できることから始めて、一人でも多くの子どもを守りましょうよ。
そうることで、子ども界のいじめの芽を摘みましょうよ。
それなら、特別な勁さは不要、誰にだってできるでしょう？
あぁ、母親だけでなく父親も、当然ですよ！

以上、この稿は、子どものいじめに関して、親の立場で書きました。
書かずにはいられなかったのです。

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ナチュラブ・日記　その９６（2006年11月18日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（３）

朝日新聞夕刊に連載された「わたしの教育再生」の11月7日分は、
ハンガリー出身の数学者にして大道芸人、日本在住歴18年のピーター・フランクルさんのお話でした。
フランクルさんは、日本の学校の運動部の部活動、小学生からの英語教育などに関して、批判的な持論を展開した後に、
愛国心教育について下記のように述べています。

　『愛国心は必要だと思っている。
　ただし、安倍首相の「美しい国へ」や、藤原正彦氏の「国家の品格」とか、
　何冊もこういう本を読んだけれど、これらの本は愛国心といいながら、国粋主義の思想。
　外国人が日本の悪口を言うと嫌われるから、ボクにとって一番言いにくい問題だけど。

　愛国も国粋も、自分の国を愛する気持ちは一緒だけれど、
　愛国主義者は、自分の主観的気持ちだと認めている。
　でも、国粋主義者は客観的だと思っている。
　いつも外にスケープゴートを探して、何かをやり玉に挙げる。
　日本はいいけれどもほかの国は悪いとか、都合の良い比較になっている。
　自分のお母さんを愛しているのは自分のお母さんだから。
　世界で一番料理がうまくて、美しく賢いからではない。

　国についても母なる国、母国、そういう愛の気持ちは大切。
　日本には優しい人、美しい場所、すばらしい文化がたくさんある。
　そういうことを子どもたちに感じさせるように校外活動を増やせばいい。
　国を愛しなさいとか、毎朝君が代を斉唱しなさいとか、強制的なやり方ではなくてね。』

“愛国”と“国粋”の違いと、“主観”と“客観”の違いの指摘、とても論理的です。

この意見に接して、はっと気がついたのは、
“国粋主義（今の日本の“愛国”は“国粋”であって、本来の愛国ではない）”と“いじめ”は根が同じというか、
繋がっているのではないかしら、ということでした。

『いつも外にスケープゴートを探して、何かをやり玉に挙げる。
日本はいいけれどもほかの国は悪いとか、都合の良い比較になっている。』
との指摘、これはいじめの構図と同じ！
“国粋主義者”を“いじめる人”と読み替えれば、そのまま通じるでしょう？
外にスケープゴートを探して、何かを槍玉に挙げることで、自分とその仲間だけを良しとして、他は悪いと言う構図。
自信がない場合、自分より弱い立場の人を痛め、自分の優位性を確認しようと言う行為を本能的にとる人々を時に見かけますが、
そういう恥ずべき卑しさと、“いじめ”は同根だと思えるのです。

また、私は今世の中に蔓延するいじめは、いじめる側の人々の不安が大きな原因であるような気がします。
そしてまた、子ども界（学校という閉じられた系の中）での“いじめ”が原因の子どもの自殺を、
大人の世界の映しそのものとも思っています。
（もっとも、いじめだけでなく子どもの行為は大人の行為の映しであると私は考えていますが）

つまり、これまでいろいろな稿のなかで書いてきたように、
大人の世界での強者による弱者いじめ（格差社会そのもの）の構図と同じです。
強者=自国民、弱者=外国人という国粋主義（似非愛国主義）の構図。
おぉ、いやだ、いやだ。

しかも、真の愛国主義ならぬ国粋主義に立脚して、滅私奉公を強いる「教育基本法」が、
この国では成立しようとしているという現実。
それを阻止できないわが身の力のなさ・情けなさ。
よほど気を確かに持たなければ、正気を保てない。
それが、この稿をなかなか書き進められないことの一因でもありますが・・・。

ところで、ピーター・フランクルさんのお話は、教育論ばかりではなく、
全編共感できて唸ってしまいました。
彼は、小学生からの英語教育に反対する理由も、本質を突いていますよ。
日本人が英語を話せない最大の理由は、日本語ができないことだ、と。
つまり自己表現能力が低いから。
日本人は日本語でも自己表現が苦手だから、英語でできないのは当たり前じゃないか、と。
それを改善するには、○×式試験をやめて論述式にすること、だと。
全く、まともなお考えじゃないでしょうか。

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ナチュラブ・日記　その９５（2006年11月9日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（２）

10月20日の名古屋でのシンポジウムでは、
一方的に壇上の姜さんを私が仰ぎ見る（！）という形でしたが、
姜さんにお会い（というかしら？）してきました。
もちろん、個人的なご挨拶は遠慮しました。（この理由については後述）

さて、このシンポジウムでは、姜尚中さんと佐伯啓思さんを“左と右”になぞらえて
（今の時代、無意味な色分けのように思えますが）
お二人のそれぞれのご講演の後、対談でした。

お二人のご講演は聴きごたえがありましたが、対談は残念ながら・・・・・
司会者（弁護士）の質問に、お二人が答えるというやり方でしたが、
お二人とも質問には真摯にお答えになり、その流れで、お互いに対話をしようという姿勢が見えたのですが、
主催者側がそこまで期待していないようで残念なことでした。
でも、これは、よくあるシンポの形態で、そういうシンポに不満だった私どもは、
ナチュラブ・北海道のシンポでは、あるべき対話＆鼎談を示したかったのです。
それは、“逢坂誠二”という名コーディネーターを得てこそ可能でした。今さらながら、そう思います。

と、つい我田引水になってしまったところで、話を戻しませんと・・・

ご講演も対談も「国家と個人」というテーマに合わせて、憲法・国家・個人・愛国心・愛郷心・地域・・・と、
さすが姜さんと佐伯さんという代表的論客だけあって、大変示唆に富むものでした。
私は、佐伯さんのお話を初めて聴きました。
これまでは雑誌や新聞でしか読んだことがありませんが、
その論調に相応しく、風貌に皮肉さを感じていましたが・・・それは正解でした。
姜さんも、
「佐伯さんは、戦後の民主主義や国家に対してシニカルな想いを抱いておられるというように見える」
と感想をおっしゃいました。
今、まっとうな保守主義者は、どこか諦念を抱いていて、
それから派生する皮肉に陥らざるを得ないような場にいるのでしょうか・・・
現政権や空っぽの右派論客（！）に、佐伯さんのような方は、絶望しているという感じです。

但し、私は、佐伯さんのご著書を一冊も読んでいませんので、コメントを書く資格も能力もありません。
また、そういう私が、佐伯さんのある意味過激な発言
（廃憲論者であるとか、教育基本法改正に賛成というのも、その思想の当然の帰結と納得行くものでしたが）
等を、私が書くのは大きな誤解を招きかねませんので、割愛します。ご諒承ください。

姜さんは、全編通じて、見かけは明るく攻撃的でさえありましたが、より絶望が深くなっているような・・・
彼の持論の東北アジアの安定が、朝鮮戦争以来の危機に陥っていることへの怒りが内包というか、
やりきれなさが漂うというか・・そういう感じがしました。
姜さんは、最近対談したお相手・鶴見俊輔さんから伺ったという日本国憲法誕生の逸話から始められました。
その内容は10月24　日付・朝日新聞「鶴見俊輔さんと語る　核と戦後民主主義」にも載っていますが、
鶴見さんは次のように言われたそうです。

　「連合国総司令部で憲法起草の担当者が見た、戦後の東京の焼け野原の風景こそ、
　日本国憲法の前文と第9条の原点です。
　敗戦国の悲惨な現状を見て、ひどいことを人間は人間にするものだという、
　アメリカ人としてではなく、一人の人間としての感慨が湧き出た結果でしょう。　
　それが戦争放棄の9条につながった。
　だから外国人が関与した憲法だからだめということにはならない。
　アメリカは必要もないのに、日本に2回も原爆を落としたという原罪があり、
　それを日本が筋の通った言葉でつき返すのが、9条の核心にある問題です」　と。

それに対して、姜さんは
　「日本は、9条の根幹に二つの被爆体験を持っていて、
　それを掘り起こせば、今のアメリカと北朝鮮の核をうって返せるでしょう。
　痛みの中から生まれた憲法の痛さの原形を省みず、
　押し付けか否かという議論をしているのは、あまりにももったいない。
　戦後60年間は、被爆とは何かをアメリカに分らせるのが日本の責任でした。
　しかし、そうできなかった延長線上に、北朝鮮の核をはじめ核拡散の問題もあります。
　このままでは、核と言う魔物に乗っかった平和しかないことになります。」　と。

ご講演は、これから、国・くに・国家・地域・・・などにひろがって行きましたが、
実は出版されたばかりの「愛国の作法」（朝日新書）に沿った内容でしたので、
皆さまには、そちらをお読みいただ方がよろしいでしょう。

そういえば姜さんは、また、次のようにもおっしゃった。
　「在日韓国人として個人的には、1970年代までは日本国憲法には全く関心がなかったけれど、
　今は、この憲法を具体的に生かさないのはもったいないと思います。
　改憲派が大切にする“伝統”で言えば、
　戦後60年日本国憲法を守ってきたと言う事実こそが、もう立派な“伝統”でしょう。
　その憲法下で日本人は、日本国の名において一人の外国人も殺さなかったんですよ。
　それは誇っていい伝統です」　と。
　「私は、この憲法を守りたい。そういう意味では私は“保守派”です。」　とも。

そう言われたときの姜さんは
「そういう憲法を全く使えず（理解できずにという皮肉も）捨てようとしている日本人には過ぎた憲法です」
という嘆きを隠せず、それが私には、苛立たしさを漂よわせているように見えました。
　
以上、臨場感をそのままお伝えしたくて（そう言うには、かなり時間が過ぎましたが）、
シンポ時のラフなメモ書きの感想を、そのまま綴りました。

この日のシンポジウムでは、
著書を読んだりテレビ等で討論を聞くことと、直接その場で見て聴くことの違いを、改めて実感しました。
　“迫力”が違いますね、やはり。
　“その場にいる”ことの力でしょうか。
ネットで偶然見つけた今日のシンポでしたが、参加できてとても幸運でした。

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ところで、冒頭に書いた「ご挨拶も遠慮しました」ということについて、その背景を説明いたします。
私が、考えようによっては無礼にもつながる欠礼（ご挨拶をしなかった）をした理由についてです。

このことは、2年半に渡った私どもの連続シンポジウムの運営姿勢にも関係します。
それは、参加者の皆さまのご不興を買うのは覚悟で、
毎回のシンポジウム時に、講師や上田さん、逢坂さんには面会謝絶にしたということです。
講師の方々が、講演をしたりパネルデスカッションに出席する場合は、緊張感と緊張を緩める休憩が必要です。
それで私どもは休憩時間を20分と比較的長くして、しかもその時間は、
参加者はもちろんスタッフでさえ控え室立ち入り禁止にしておりました。
そうすることで講師の方々には講演と議論に集中していただき、
最高のシンポジウムを参加者の皆さまに提供したいと考えたからに他なりません。
最終章では、その罪滅ぼしを兼ねて、第二部で上田さんと逢坂さんに、
参加者の皆さまのテーブルを回ってお話いただくと言う形式にしたのでした。

今回の中部弁護士会連合会主催のシンポジウムでは、私は主催者から参加者にと立場が逆になりましたし、
また休憩時間とはいえ控え室でお休みになる余裕もないようでしたので、
姜さんにとてもお声をかけることなどできない状況でした。
必要もないのに声をかけ貴重なお時間のお邪魔をするわけにはいかないと判断したのでした。

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ナチュラブ・日記　その９４（2006年10月28日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宿題を抱えたままで　（１）

プロ野球の日本ハム・ファイターズが優勝して、北海道民は大騒ぎのようです。
スポーツには全く関心がない私でも、新聞やテレビニュースが特集しているので、知っています。
そして、私には不思議に写る、大騒ぎしている北海道人の熱狂振りが
「こういう程度の“愛郷心”が、罪がなくていいなぁ」と思っています。
なぜなら、このところ、“愛国心”が大流行で・・・
そういう風潮に違和感というより嫌悪感に近い感情が日増しに募っているからです。
愛郷心。愛国心。この似て非なるもの。
そういう日々に、北朝鮮の核実験
（ほんとうに核実験？マグニチュードから行っても小さな地震程度なのに、というのが私の最初の反応でした）
という、なんとも愚かな事件が起きて、日本の“愛国心”に、いっそうの弾みをつけました。

核に関しては、原子力発電にでさえ反対の立場の私ですので、
いかなる核実験にも反対であることも、展望のないことをした北朝鮮を許さないことも前提ですが、
核兵器王国のアメリカが、他国の核実験を許さないと息巻くのは、何を思い上がっているのかと思います。
お山の大将は俺様だけというブッシュ大将はじめ取り巻きのレベルがレベル（日本もその一環）だから、
北朝鮮の独裁者をなだめすかすこともできなかった結果と考えています。

広島と長崎が核兵器の犠牲になった日本にこそ、北朝鮮を批難する権利があると思いますよ。
それなのに政府関係者初めメディアに登場する連中は、“北朝鮮をやっつけろ、行け行けどんどん”ですものね。
こういうときこそ、冷静に平常心を、というのが危機管理の鉄則でしょうに、
それどころか、またぞろ確信犯的官僚が核武装まで言い出す始末。
そして、それに呼応するかのように、60％もの日本人が、北朝鮮に経済制裁賛成だって？！　　　　　

日本人の反戦平和思想なんて、そんな程度なんだ。そんなに底が浅いんだ・・・・・と、鬱々としながら、
ふと、姜尚中さんはどうしていらっしゃるのかと思いました。
あの姜さんは、こういう事態に何を思っているのかしら、と。

それでインターネットで検索して、名古屋で10月20日の午前中に、あるシンポジウムに出席されることを知りました。
中部弁護士会連合会主催の「憲法改正問題における人権制約論を考える」という講演と対話のシンポジウムでした。
タイトルは「対論　姜尚中 vs. 佐伯啓思『国家と個人』」です。
『憲法改正が争点となっている現在、日本を代表する論客２人が戦後民主主義やナショナリズムを論点にして
「国家と個人」のあり方を熱く語り合う！』という内容で、先着順に誰でも５００名参加OKというのです。

なんて偶然かしらと、思いました。なぜなら、私は18日から1週間の予定で上京することになっていたのです。
東京からなら名古屋には日帰りも可能です、それなら姜さんのお話を聴きにいけると思いました。
　
私たち「ナチュラブ・北海道」は、連続シンポジウムの特別編として、
2005年8月に、姜尚中さんをお招きして｢ともにアジアに生きる｣を開催しました。
姜さんのご講演テーマは｢アジアに生きる私たちと日本国憲法｣でした。

そのシンポジウムで、私たちは、姜さんから大きな宿題を課せられました・・・・
「60年前の日本は、今の独裁国家北朝鮮と同じであった。それゆえ日本こそ、北朝鮮を理解できるはずである。」
という言葉で始まる宿題でした。

その宿題を全く何一つ解かないうちに一年が過ぎ、北朝鮮を追い詰める側に立ってしまった、という負い目。
そういう情けなく、恥ずかしい想いを抱いたまま、姜さんに“お会い”するのは、とても勇気のいることでしたが、
でも、姜さんにすがる様な気持ちを抱いて、行ってきました。
そうです、宿題を抱えたままで、です。

次回から、このシンポジウムを中心に、また、ご一緒に考えるつもりです。
が、私はちょっと心身疲れ気味で思考がスムーズに進みません。
それで、日を飛ばし飛ばしになりそうですがご容赦ください。

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ナチュラブ・日記　その９３（2006年10月16日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　越中八尾　“おわら風の盆”　（５）

おわら“風の盆”の余談です。
いいえ、正確には、私の余禄かしら。

9月3日に、JR富山駅に降りたった私たちを迎えたのは、大きなポスター“たち”でした。
もちろん、おわら“風の盆”のポスターです。
ひと目で、まだ見ぬ本物の“風の盆”を余すところなく表現している、と直感しました。
そして、その大きなポスターを欲しいと思いました。
それでも、至るところに貼ってあるそれらのポスターを、まさか剥がすわけにも行かず、
富山市や八尾町で目につくたびに、ため息とともに眺めました。

でも、八尾町で売っているのを発見。
いつもの私なら、即、買い求めるところですが、そのときはなぜか、後で、と思ったのです。
たぶん、もう直ぐ始まる本物の“おわら”のために気もそぞろだったのかも知れません。
それで・・・町流しのあと、ポスターを売っていたところへ行ってみたら、売り切れ！文字通り、後の祭り。
ところが・・・・なんと、翌朝ホテルのフロントに、ポスターが2枚届いていたのです。

今回の風の盆見物には、宮口先生行きつけの富山市の“居酒屋　一番鳥”さんも、ご一緒したのですが、
私のもの欲しげな様子を見ていたらしく、彼のお店に貼ってあったポスターを、翌朝早くホテルに届けてくださったのでした。
大切に抱いて帰ってきました。

そして、これにはまだ後日談があります。
“一番鳥さん”のお心遣いがうれしく、お礼にと札幌からお菓子をお送りしたのですが・・・
またまた、それに、思いがけないお返しがきました。

それは、富山のチューリップテレビが、八尾の人々の一年を収録し放映した“おわら・風の盆”のビデオテープでした。
そこには“おわら”に賭ける八尾町の人々の想いが溢れています。
つい先日観た“おわら”はもとより、三味線名人・杉崎さんの三味線のお稽古の様子や夜流し姿が、じっくり描かれていますし、
坂のまちである八尾の風情がとても良く出ているのですよ。

もう一つ、おまけの余談です。

宮口先生は私たちのために、
「富山市売薬資料館」や北海道には縁の深い「北前船回船問屋・森家」（重要文化財）に連れて行ってくださったり、
今年4月に新設した富山ライトレール（いわゆる次世代型路面電車・LRT）に乗せてくださったりしました。
また、先生自らが、ご自宅のお台所で、お料理をしてくださったのです！
富山名物の“イカの黒作り”という塩辛であえたスパゲッティ（イカ墨スパゲッティですね）と、
富山湾でしかとれない“白えび”のイタリア風いためもの。
その上、一番鳥さんの差し入れもあり、
ワインやビールで、それらをいただきながら、先生のお話を聞くと言う贅沢な時間を過ごしました。
この件は、内緒にしておきたかったのですが、つい自慢（！）したくて書いてしまいましたの。

ところで、来年は、三味線名人・杉崎さんの“夜流し”を観たいと申し出たら、宮口先生は同行をお許しくださるかしら。　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（完）

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ナチュラブ・日記　その９２（2006年10月14日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　越中八尾　“おわら風の盆”　（４）

さて、余談ですが・・・と書きかけて、今日（10月13日）の朝日新聞の夕刊をぱらっと開いて、びっくりしました。

これこそ完全な余談ですが、私は、相当な“ながら族”です。
何かに集中的に取り組むのは、切羽詰った事情があることに対してだけです。
そういう時は人格が変わったかのように、注意力と集中力の塊になります。
たまたまそういう状態の私を見てしまった人は、「怖くて近寄れなかった！」とか。

でも、そういうことはめったにあるものではなく、一年365日ほとんど、だらだらとした“ながら族”です。
ご存知ですよね、ながら族。一度に、あれにもこれにも手をつける。
パソコン（ノート型）に向かいながら、テレビニュースを“聞き”、
新聞や雑誌を“読み”、ふっと思いついたことをパソコンに打ち込み、
お湯が沸く音に慌てて台所に走り（！）コーヒーを淹れ、ついでにお米を研ぎ、
あれ、隣の家事室で洗濯機（今だに二槽式）が回っている・・・・その音に驚くと言った按配です。
あ、洗濯をしていたんだっけ、そろそろ“すすぎ”にしなくちゃ・・・って。

若い頃は違ったんですけれど・・・でも、いつの間にか、ながら族になってしまって、
ナチュラブ・北海道の連続シンポジウムに関っていたころは、一度に2、3種類の原稿を同時平行で書くなんてことがあり、
机や食卓テーブルやベッドの上などに、テーマごとに資料を撒き散らし（というか・・小さな山になっている）、
そこへパソコンを持ち運んで、必要な資料を引っ張り出して書き始める。
と、別のテーマについて、ふと頭をよぎる言葉が・・・・と、ぱっと身を翻し、そのテーマの資料があるテーブルに・・・。
その度に、どたばたと階段を昇降、パソコンを抱えて・・・・・。

もうお分かりでしょうが、私、かなり乱暴です。その被害を受けるのが、なんと言ってもパソコンです。
こんな繊細なお道具というかキカイは無いというのに、
コーヒー（一日に10杯程度は飲みます）を溢すなんて日常茶飯事、うっかり（！）落として壊したことも・・・、
あ、家の中のテーブルから床に。
心ここにあらずという状態で、コードも引っ張って、接触不良にしてしまったことも。

そして、ながら族の一番困ることは片付かないということです。
一つが終了しても、他はまだ途中ということで・・・そのうち、また新しいことを始める・・・
まるで輪唱（！）のような状態が続くわけですね。

あれ、私、何を書いていたんでしたっけ？！私の恥を曝している場合ではなかったはずで・・・
あ、「越中八尾“風の盆”」の原稿を書き始めて、ながら族よろしく、新聞を開いたんでしたね。
そして、びっくりした・・・

何に、びっくりしたか。
『「風の盆」使用に本家が待った』という見出しに、です。
続く記事は・・・・

　　東京墨田区の花街・向島で14日、富山市八尾町に伝わる「おわら節」を踊る「おわら風の盆 in 向島」が開かれる。
　　一昨年に続く2度目の開催だが、八尾町側から「おわら風の盆は登録商標」と名称使用に待ったがかかった。
　　向島側は「当日のプログラムで名称を『風の盆　in　向島』に変える」と理解を求めている。
　　八尾町側は「類似商標だ」と依然カンカン。しこりを残したまま、祭りは開催される。
　　　（以下、3段抜きで続きますが、略）

なんとも嫌な感じ、というのが私の率直な感想です。
おわら節は、1929年に東京下町の舞踊家・初代若柳吉三郎が洗練された踊りに修正し、
現在の形を作ったと富山県民謡おわら保存会の「越中おわら」にも明記されています。
その若柳吉三郎の2代目3代目が向島に移り住み芸妓たちへ踊りを指導してきた縁で、と向島側は言う。

こんなに有名になった「おわら風の盆」を、
町内会や区文化観光協会、料亭の組合で実行委員会をつくり、区も後援し、
ポスターやチラシで呼びかけ「向島の名物に」と期待を込める。
踊りを観るための有料の指定席を用意し、予約をとっている。
そのような安易なさもしさのために、おわら風の盆があるのでないでしょう、というのが私の言い分。
これでは、「おわら保存会」を創設して“門外不出の伝統芸能”としている八尾町が
怒り心頭というのも肯べなるかな、ですね。
一年に3日間だけの“おわら風の盆”のために、好きで好きでたまらないおわらを守るために、
日々精進を重ねながら、362日を生きている八尾町の人々にとって、
こんな侮辱はないでしょう。こんな哀しみはないでしょう。

向島側には、たぶん悪気はないと思いますが、
自分たちのまちの観光名物（売り物でもある）にするために、他のものを使おうとする、
その心根がさびしいとは思いませんか。
なぜ、自分たちで自分たち独自のものを編み出そうとはしないのか。
“痩せても枯れても向島芸者”という啖呵を切るお姐さん芸者も多い下町の意地を、
向島側は、是非見せて欲しいものです。

八尾の人々は、自分たちの大切なおわらを観に来てくれる人々には、無料で開放しているのですよ。
自分たちの最高な芸を観て欲しいと、一年中稽古に励むのです。
そういう八尾の人々の想いに、なぜ添えないのかしら、向島側は。
それは・・・本物の八尾のおわら風の盆を観たことがないからではないかしら。

観光を考える材料としては、使える“記事”でした。
でも、八尾の人々の心情を察するに余りあり、思わず感情的な感想を書き連ねました。

（本来書くべき余談は、また後日に改めて）

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ナチュラブ・日記　その９１（2006年10月13日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　越中八尾　“おわら風の盆”　（３）

八尾には3日間で２５万人といわれる観光客分の宿がありませんので、
毎年9月1日～3日は、富山市やその近隣のホテルが満員になるそうで、
私たちも宮口先生のお手を煩わせて富山市に宿を確保していただき、“八尾に通った”のです。
でも、この不便さこそが、
八尾を今でも“八尾たらしめている”大きな原因であるように思われました。

八尾町には大きな宿がない上に、観光客相手の大きな飲食店もほとんどありません。
でも私は、それが八尾の見識であると思うのです。
そういう不便さを忍んでも、観るべき価値がある“風の盆”を観るために、人は外からやってくる。
そして、そういう人々のために、自分たち八尾の人間がするべきことは、
宿や飲食店などの拡充整備などではなく、
あくまでも“風の盆”そのものを守り通すことだとする“まともさ”、
それが逆に八尾を守っているのだと思うのです。

しかも、私たち観光客には、彼らのその姿勢が傲慢と思えないばかりか、
ただただ好きだから三味線や胡弓や唄や踊りを大切にせずにいられないという人々の一途さとして
伝わってくるのですね。
私たち観光客は、町流しや夜流しに、彼らのそういう心意気や“恍惚境”を見て、
自分も彼らの恍惚境を追体験するのです。
そのために、不便さをいとわずに八尾に行く、そう思いました。

私は、観光についてはほとんど考えたことがありません。
また、風の盆以外の他の踊りやこの種のお祭りに関心をもったこともありません。
そういう私が言うのは僭越かもしれませんが、
でも、風の盆と八尾のあり方には“観光”の普遍性が潜んでいるように思えます。
そんなことが、町流しの踊りを観ていて、浮かんできました。

八尾が、町の佇まいと町流し・夜流し双方のレベルの高さを維持しているのは、
町から日本のお祭りにつき物の香具師による屋台などの店を締め出したことも大きな要因でしょう。
富山市の中心から八尾町に行くと、まちの手前におわらにも唄われている井田川があるのですが、
その川の富山市側に屋台が連なり、駐車場がありますが、そのように移転させたのだそうです。

それ故、25万人の観光客の経済効果も八尾の住民にはほとんど期待できない。
それでも、自分たちの好きなおわらを守るためなら良いのだという潔さ。
これは、例えばイタリアのフィレンツェともちょっと違いますね。
かの地は明らかに観光客のために、観光で生きるために、
そこに住む人の不便さを我慢させても行政が、
まちの佇まいどころか家の内装さえも簡単にを変えさせないそうな。

内外の観光地とは、八尾はそこが全く違うと思います。
すべては“おわら”のために、守るべきは守る。
その見識こそ、他の観光地が見習うべき“観光”の普遍性ではないかと思いました。

でも、一方で、曲がり角だとも聞きました。
私も、その一人であった増え続ける観光客で静寂さが失われてきて、
風の盆の本質が汚されていくような・・・・・
観光客は、携帯電話やフラッシュを控えるのはもちろん、
ひそひそ声も慎むくらいの敬意を、風の盆には捧げなければ。
節度を持つ観光客にならなければ、いつか風の盆を堕落させてしまうのではないか。

私たち観光客は、風の盆を見せていただくのだと、という一種の惧れを抱きつつ、見物するべきでしょう。
そうすると八尾の人々は、自分たちのためばかりではなく観光客にも、
よりいっそう素晴らしいものを見せたいと精進する、そう思いました。

そう思いつつ、八尾の人々は観光客が一人もいなくても、
それもまた良しとして、自らの“おわら”に酔うのではないかしら・・・
彼らにとっては“おわら”は、そういう存在なのでしょうと、密かに思いもしました。
勁い、のです。

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ナチュラブ・日記　その９０（2006年10月10日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　越中八尾　“おわら風の盆”　（２）

今では、“風の盆”のお祭りの3日間で約25万人といわれる観光客に見せるためにあるような“町流し”は、
19時頃に始まり23時ころには終わります。
そのあと、これまた観光客用サービスとも思われる“輪踊り”があります。
それは、観光客が、そろいの浴衣姿の踊りの一団に入って一緒に踊る舞台としてあるのです。
観るだけではつまらない、八尾の踊り手の恍惚境に誘われて、思わず踊りだす人々も多いのでしょう。
その踊りも、日付が変わるころには終わります。

さて、私たちを招き入れてくださった三味線名人のお家では、
着物を着替えて正座した杉崎さんが弾く三味線に合わせて、
うちわで拍子を取りながら宮口先生が“おわら”をうたったり、
近所から差入れられた“鮎の姿焼き“などを肴にお酒を呑んだりして、
いかにもお祭りらしい時間が過ぎていきました。

「わしから“おわら”をとったら終わりだろうな」とぽつんと呟いた杉崎さんが、そろそろ三味線を抱えて町に出て行くころ、
私たちは八尾を後にしました。
（なぜなら、八尾にはほとんど宿がなく、観光客は富山市など近隣の町で宿を取らなければなりませんので、
残念ながら十分に夜更かしできないのです）
そして、それから、八尾の人々の“ほんとうのおわら”といわれる、“夜流し”が始まります。
夜更けの、観光客がほとんど消えたまちを、10代の踊り子たちに混じって、
笠をとり、家の片づけを終えた主婦たち（かつての踊り手たち）も加わって思いのままに暢びやかに、
でも静かな踊りが繰り広げられるのだそうです。
欲も得もなく、とにかく好きだから踊り、三味線を弾き、胡弓を奏で、おわら節を唄う。
誰に遠慮することなく、それに酔う。
それは、夜更けてもひっそり続き・・・・
明け方には、三味線と胡弓だけの流しになり、八尾の至高の歓びのときだそうです。

江戸時代に始まったおわら節と踊りは、この夜流しが基本でしょう。
思い思いの掛け合いの素踊りに唄がついたのか・・・・三味線やおわら唄が先だったのか・・
そうですよね、初めから他人の目を気にして唄う歌ではなく、踊りでもなかったでしょう。

唄わずにいられない切ないつぶやき、弾かずにいられない哀切な旋律。
それぞれがそれぞれのパーツで無心に唄い、弾き、踊る。
西洋の賛美歌や東洋のお経などにも共通する恍惚境。
洋の東西を問わず古代から連綿として続いてきた民衆の表現の典型ですね。
そこには、自然発生的な野趣や猥雑さはあっても、さもしさや卑しさがない。
ましてや、それで儲けようとする物欲しげなさまは、微塵もない。
そして、それらのうち、ある時、一気に洗練される偶然に恵まれたものが生き残り、
いっそうの洗練を得て、よそ者を惹きつける。

私は実際の夜流しを見ることはできなかったのですが、
まちの至るところに貼られた風の盆のポスターの、ある一枚を見て、
夜流しの本質がふぃに理解できました。
そうです、風の盆は・・・“ポスター”に似ています。

静寂。

ポスターには、当然、音がないでしょう？　
そこに写ったものを通して、そのものの本質が解る。
まさに、風の盆の踊りはそうです、音がない。
三味線や胡弓や唄がつきものの踊りに、音がないと言うのは全く形容矛盾ですけれど、でも、そうなのです。
両側を観光客がひしめいている石畳の道で踊る町流しでさえ音を感じないのですから、
観光客が切れた夜更けから明け方にかけての夜流しは、幻想的なパントマイムの世界でしょうか。

そして、この“ほんとうのおわら”を観たのが、「都築克亮と中出えり子」の二人だったのですね。
（1985年に出版された高橋　治の小説・『風の盆恋歌』の主人公）　
風の盆の3日間だけを、現実（うつつ）として生きた不倫関係の男女二人が、八尾で“生きた”のは、僅か2年でしたけれど・・・
「密かに思いをかけても実らなかった恋が過去に一度や二度はあったと思い出せる年齢になってこそ、
風の盆の歌や踊りは実感できる」と、おっしゃる男性諸氏も多いようですね・・・・・
都築克亮と中出えり子が、石畳の坂道の上から見た“おわら”こそ、
この世のものとは思えないほど美しかった夜流しだった・・・・・。

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ナチュラブ・日記　その８９（2006年10月8日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　越中八尾　“おわら風の盆”　（１）

札幌の今年の9月は、文字通りの秋晴れが続きました。
来る日も来る日も、空が高く美しく澄み、暑からず寒からず、風がさわやかに渡り・・・。
間もなくやってくる長い冬を前に、思わぬ儲けものをしたような、そんな感じの９月でした。
皆さまのまちの９月はいかがでしたか？
　
さて、その９月を、私はナチュラブ・北海道の代表というポストをお休みして
　（連続シンポジウムの記録集作成等の原稿整理を少しはしましたが）、
何もせずに過ごしました。
でも、一つだけお約束がありました。
それは、連続シンポジウム第７章の講師であった宮口とし迪先生からお誘いいただいた「おわら風の盆」見物でした。
先生のご好意に甘えて、札幌から５人で参りました。
　（宮口先生は富山市にお住まいで、週の半分を東京に出て早稲田大学で教鞭を取られています。
　もちろん、専門の地理学というお仕事がら世界中を旅されていらっしゃいますが。）

“越中八尾・おわら風の盆”。
今はテレビニュースでも新聞でも、いろいろなメディアが一斉に取り上げるので、私が改めて記すこともないのですが・・・
でも、たぶん多くの皆さまが一度は観たいと思っているはずの「風の盆」を、
私のような“素人”の目を通して文字で再現するのも一興かと思います。
それで、ちょうど、ひと月遅れの「おわら風の盆」をお届けします。

なお、初めにお断りしておきますが、
この稿は、これまでの政治に関する日記とは違って、時系列に論理的に書き進むのではなく、
気の赴くままにペンを・・じゃなかった、キーを叩きます。
心に深く刻まれたことは繰り返し登場するかもしれませんが・・・・皆さまも、気楽にお付き合いください。

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富山市八尾町（富山市と合併）の佇まいは一種独特でした。
ヨーロッパの古都に似て、昔の趣を生かして新しく整備するという賢さがあるのです。
それは、八尾の諏訪町の三味線名人・杉崎茂信さんのお宅での見聞でも明らかでした。
三味線を引き続けて60年になるという古希を過ぎた杉崎さんのご職業は大工さんだそうです。
彼が中心になり、諏訪町の家々は道路に面した部分が美しく整えられ、
“ぼんぼり”のデザインも優美に工夫されています。

生まれたときから子守唄代わりに毎日聞いた“おわら節”は、八尾の人々の一生を支配する。
彼らにとって、毎年9月1日から3日間行われる“風の盆”のために、他の362日はあるそうな。
車より高価な300万円もする三味線を、毎日毎日爪弾く。
その姿を、毎日見ている子が、そして孫が自然に引き継ぐ。
踊り手の男女は中学生になって、正式な踊り手になれるそうですが、それまでを毎年待ち焦がれる・・・
また、三味線も、江戸時代から取り入れられた胡弓も、もちろん弾く手予備軍は多いのでしょう。
ちなみに、杉崎さん宅では、息子さんは胡弓を、お孫さん(男）は踊り手を務めていました。

　“風の盆”の町流しの踊りは、日暮れて、八尾のまちが優しい万灯と雪洞（ぼんぼり）の光に包まれるころから、
11の旧町それぞれで始まります。
三味線・胡弓・太鼓が聞こえてくると、多少甲高いながら情緒ある“おわら節”に合わせて、
編み笠を目深にかぶった男女一団の踊りが近づいてくる・・・・

今回、いわゆる“お花代”を払って、
三味線名人・杉崎さんのお宅から、町流しを見物するという古くからの遊びの様式を経験しました。
整備されたとはいえ狭い石畳の道の両側に、今では三重にも観光客が座り込んでいる中を、町流しの踊りは進むのですが、
お花代を手向けた家の前にきた一団は、その家に向き直って、特別に踊ってくれるのですよ。
それを、家の中から、お酒を手にしながら、眺めるのです。
一般の観光客には味わえない贅沢な見物でした。　
　
八尾には、夕方6時ころ入りました。
7時頃から始まる町流しを見る前に、八尾の町や祭りの雰囲気を味わって欲しいという宮口先生のお心遣いでした。
町をそぞろ歩いていると、先生にはあちらこちらからお声がかかります。
ある商家では、先生の後をぞろぞろついて歩く私たち一行に、お祭りのお酒を振舞ってくださいました。
先生は、八尾では“顔”なんですね・・・・
三味線名人のお宅からの“風の盆・町流し見物”も、そういう先生のおかげでした。

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八尾には、11の町があり、各町がそれぞれの“おわら”を持っていて、
町ごとに独自の衣装や独自の振り付けの踊りがあるそうです。
私たち一行が観た諏訪町の町流しは、踊り手が13歳から25歳程度までの若い男女の一団でした。
ほんとうに初々しく美しい。
しなやかに膝が折れ、指先まですうっと伸びた手が宙を舞う、その洗練された優美さ。

踊りには女踊りと男踊りがあり、
基本の踊りは、種まき・稲刈り・稲のはさがけなど春夏秋冬の男女の農作業の身振りを表したものだそうです。
初めは極素朴だったはずですが、長い年月をかけて、磨きがかけられ、洗練されたのでしょう。

また、越中おわら節は、民謡です。現在、何種類もあるというおわら節の歌詞の定番は「八尾四季」。

　　ゆらぐ釣橋　手に手を取りて　渡る伊田川　おわら春の風
　　富山あたりか　あの燈火（ともしび）は　飛んで行きたや　おわら灯（ひ）とり虫
　　八尾坂道　わかれて来れば　露か時雨か　おわらはらはらと
　　若しや繰るかと　窓押しあけて　見れば立山　おわら雪ばかり

そういう踊りとおわら節の町流しは・・・唄い手と胡弓、三味線は、踊りの後から来るのです。
そのためでしょうか、静寂さのなかを、
傘を深くかぶった踊り手の柔らかさの中にも凛とした指の動きが、幽玄を醸し出すのですね。
あれは、音のない世界のようにも感じられます。
実際は古老の撥さばきも見事な三味線と胡弓、それに多少甲高い声のおわら節に合わせて、
踊りはあるのですが。

よくしなう女の踊りの手の手首や指先がひらひらと、あるいは波のように優雅に流れ、
時折、その両手を合わせて“ぽん”と打つのですが、その音のひそやかさ。
それに比べ、男踊りはメリハリがあり、これまた“ぽん”と足踏みしたはずなのに、
“ばたっ”と聞こえる音が、これも密かに篭もって聞こえるのです。
両手の打ち音や足踏みの音が、これほど官能的に響くのを初めて聴きました。

諏訪町は、八尾の11ある町通りの中でも、石畳の通りの両側にしもたやが多く、
いかにも町流しの舞台に相応しいから人気も大きいようです。
たまたま私たち一行が町流しを眺めた三味線名人・杉崎さんのお宅も諏訪町にあったのですが、
「他の町の踊りも観ていらっしゃい」と宮口先生に勧められて観た踊りは、
たぶんこれが発祥期の踊りであったと思われる野趣が出ていて、
“いい仲の男女の戯れ”とでもいうのでしょうか、
諏訪町の初々しさとはちょっと異なる風趣でした。
でも、文化にまで昇華されて、ほんとうに美しいものでした。

おわらの歌詞は、古謡といわれるものから現在の唄まで、数え切れないほどありますが、
すべてに、それなりの歳になれば分る程度の健康的な卑猥さがあり、
それが町人文化の所以でしょうか。
でも、万葉にしても古今にしても、みんな同じですね。
今、文化にまで洗練されたものは、
すべて民衆の日常生活の発露として自然発生的に始まったものばかりでしょう。
それらのうち、時間とともに、残るべきものが残り、
あるとき何かの力が働いて芸術の高みに達する・・・
もっと高みにという純粋な気持ちが、それらをいっそうの洗練に向かわせる・・・

これは、唄や踊りばかりじゃなく、たとえば日用の器や着物や家や・・・
それらの美しさが、時間をかけて磨かれ洗練されて文化となったのと同じ。

これは、残念ながら、歴史の新しい北海道では感じることのないことで、
歴史のある“本州”の古い町や沖縄で、時々感ずることですが、
富山の八尾でも感じたことでした。

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