ナチュラブ・日記パート８

ナチュラブ・日記　　　　Ｐart　８

　Part １（その1～9）　ナチュラブ代表が観た逢坂さんの政治観　Part ２（その10～22） 衆議院選挙
　Part ３（その23～36）　選挙後雑感、永田町での逢坂議員　　　Part ４（その36～48）靖国神社「遊就館」レポート
　Part ５（その49～60）エリート教育　　　　　　　　　　　　　Part ６（その61～69）負の連鎖・「元気の種コレクション」
　 Part ７（その70～77）真っ当な生き方のススメ
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ナチュラブ・日記　その８３（2006年8月6日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　61年目の夏に　

■■　（1）日本国憲法・前文　■■■

「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、
われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、
ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、
その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。
これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、
名誉ある地位を占めたいと思う。
われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、
政治道徳の法則は、普遍的なものであり、
この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（現代仮名遣い仕様）

これは1946年（昭和21年）11月3日に発布され、1947年5月3日に発効された現在の日本国憲法の前文です。
1945年8月15日に日本が敵方・連合国側のポツダム宣言を受け入れることで、それまでの戦争に全面降伏した後に、
連合国側のアメリカ合衆国が中心になって英語で起草した原文を、日本語に翻訳した文章ですから、
その印象にちょっと違和感があるという人も多くいます。
私が、この文章を初めて目にしたのは小学6年生のとき、1959年（昭和34年）でした。
子ども心にも、とても格調が高く、高揚した気分になったのを覚えています。
また、平和をこそ求めた時代でした。

あの戦争で命を落とした夥しい人々こそが、戦後日本の復興と現在の繁栄の礎になったといわれます。
もしそうならば、靖国神社の英霊として祀られている戦闘員・軍人ばかりがそう言われ、ありがたがられるのは、片手落ちです。
61年前の8月6日、人類史上初めての原子爆弾によって一瞬にして焼かれた広島市の非戦闘員（疎開できていた他県の人々も）も
間違いなく、その後の日本の復興と繁栄の礎になったのです。
そして彼らだけではなく、日本が侵略したアジアの国々の人々や、
もっと言えば、あの戦争で亡くなったアメリカ軍人だって同じ戦争の犠牲者として、
戦後日本の復興と繁栄の礎になったに違いないのです。

そして特に・・・沖縄戦でなくなった方々を忘れてはなりません。
彼らの犠牲なくしては、“本土”はどうなっていたか・・・沖縄戦の悲劇と犠牲を忘れるのは許されません。

そういうことを全部内包して、この日本国憲法の前文が書かれ、
それを日本国民は当然のこととして受け入れたのだと思うのです。
20世紀の戦争は、非戦闘員も殺される戦争になりました。
そして21世紀の戦争は、ますますその観が深くなりました。
その証拠に、今日も中東でイスラエル軍が、
テロ組織として断定し、その抹殺を決意したイスラム抵抗軍ヒズボラ攻撃のために、
ヒズボラの本拠地があるレバノンのまちを、
学校や病院を含めて無差別攻撃して、何百人もの非戦闘員を殺しています。
子どもも含めて！確信犯のごとく。
哀しいことに、それが今の世の現実です。

その現実の前で、私たちは今日も為すすべもなく、自分の無力さを恥じ入るかのように、ため息と共に黙りがちです。
また、こういう現実の前に、戦争に反対することを、いかにも非現実であるとあざ笑う層が大きくなってきています。
あれだけの被害を受けて、
「もう二度と戦争はいやだ。戦争をしないと誓う憲法が出来て、本当に良かった」
という圧倒的に多くの国民に支持された日本国憲法を、その制定当時から否定し、
やがては第9条の戦争放棄規定を外し、再び戦争を出来る国にしたいという層がありました。
そして彼らは、世界の絶えることのない争いを非軍事で解決しようと努力せず、反対に世界の紛争を利用し、
長い時間をかけて巧妙に善良な国民を操作して、やはり軍隊を持たなければ自国を守れないと導いてきた
・・・そう、61年もかけて。
たとえば、国民が、自由な状態で考えられないように、精神の自由を奪うような仕掛けを常に仕掛けて。
そして、61年かけて、私たち日本人は、堂々と「戦争反対・憲法改悪反対」を主張できなくなった
・・・そのように仕掛けた層が成功を収めようとしている・・・・・

でも、やはり諦めてはいけないし、諦めない人もいます。
他でもない、上田文雄・札幌市長もそのお一人です。
上田さんは、その思いを先日ご披露されました。
それは、7月23日の連続シンポジウム最終章｢次世代への道標｣第二部でのことでした。
第二部は、上田さん・逢坂さん初め参加者の皆さま、
それにナチュラブ・北海道のスタッフ全員による立食形式のパーティーでした。
上田さん・逢坂さんが皆さまの中を回って歓談するという時間をご一緒しましたが、
最後にちょっとショータイムを作り、上田さんご自慢の喉をご披露していただきました。
曲目は、上田さんのご希望にお任せしましたが、上田さんは即座に「日本国憲法前文を歌います」とおっしゃった。
上田さんが得意とする他の多くの歌のどれでもなく「日本国憲法・前文」を。
そして7月23日には、多くの参加者の皆さまの前で、日本国憲法・前文を、声高らかに謳いあげられました。
それは“次世代への道標”そのものでした。

■■　（2）　“反核平和の火”リレー　■■■

8月3日は札幌も夏の暑さでしたが、反核平和の火がリレーで札幌に着いた日でもありました。
大通公園で、その火と、火をリレーでつないで届けた人々を迎える集会がありましたが、
そこへ上田札幌市長が出席され、マイクを握られました。
「皆さん、心の中で平和を唱えているだけでは力にならない。
それを形に出さなければ、行動しなければ平和を守れません」と、訴えられました。

先日の日本国憲法前文を歌われた上田さんに感動したばかりですが、
この日あらためて、このような市長を持った私たちの幸運を思いました。

今、世の中は「市長という立場上、特定の主義や主張を持つべきではない」という考えが支配的です。
一見いかにも中立的な立場に見えますが、これは詭弁です。
特に今は、憲法を守るという立場が、特別の主義や主張にあたると考えられがちですが、それは全く違います。
なぜなら、国民の生命と財産を守る立場にある首長には、憲法を遵守する義務があるからです。
その憲法が定める平和条項に沿う反核平和の行動は、首長として断固守り育てなければならない対象でこそあれ、
それを無視することが中立であると見なされるべきではないのです。
でも、憲法を遵守する行為は揶揄されがちな状況にあります。
その中で上田市長は、あえて愚直という言葉に相応しく、ご自分の信じる平和への行動を自ら率先して示されたのでした。

■■　（3）愛国心　■■■
　
姜尚中さんが、先夜のテレビ（確かＴＢＳ系列のＨＢＣ）で、愛国心について発言されました。
以前、ある雑誌に書かれた内容をごく短くまとめたお話でした。
その話は、私も以前に感動したアメリカのスコット・リッターさんのことでしたが、
今のこの時期に相応しい内容ですので、私の言葉に書き換えて、皆さまにお伝えさせていただきます。

スコット・リッターさんはアメリカ海兵隊上がりで、イラクの大量破壊兵器査察に携わった経験の持ち主です。
「95％の確率で、イラクには大量破壊兵器は存在しない。
残りの5％の疑惑のために戦争をするのは犠牲が大きすぎる。
今後も国連による査察を徹底すればよい。
だから、自分はイラク戦争には反対する。」
と彼は言い切ったのでした。

続けて「自分はアメリカを愛する愛国者だからこそ大義のない戦争に反対せざるを得ない」と宣言しました。
「アメリカを誰よりも愛し、アメリカが体現する自由や民主主義の価値に忠誠を誓うからこそ、
自分の理知的な判断から導き出された決定に従う。」と。

スコット・リッター氏も姜尚中さんも
「国の誤りを糾すのが愛国心である。国の歩みを検証してコミットするのが愛国心である。
その愛国心は、自由な状況におかれた人の心から生まれるものである。
愛国心は強制されるものではあり得ない。」と強調されています。

今、噛みしめなければならない言葉です。

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アメリカによる原子爆弾が広島に落とされた1945年8月6日から61年目にあたる今日、
この拙文を、あの原子爆弾によって殺された人々の霊と、今もなお原爆症に苦しむ人々に、
そして世界中の戦争犠牲者に、捧げさせていただきます。

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ナチュラブ・日記　その８２（2006年7月22日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　風　（５）

「４回のシンポジウムを拝聴して分ったことは、
お恥ずかしいことに、古希を迎える歳いなってあらためて勉強させていただいたことになるのですが、
民主主義とは、民（たみ）が主（あるじ）であるというごくごく簡単明瞭な一点が、
日常の呼吸として理解できたことです。
これまでは頭でっかちの理解に終わり、自然の呼吸としての理解ではなかったことに気がつきました。」

これは、6月25日の第9章を終えた後、ある参加者から頂いた感想です。
この文を読んで、あっと思いました。
私たちは、「これが欲しかったのだ」と思いました。

政治を考える当連続シンポジウムの目的は、
「政治は、政治家という専門家だけの専売特許ではなく、
私たち普通の市民こそが自ら積極的に参加するものである。
この連続シンポジウムによって、一人でも多くの普通の市民が、
それに気づき、何らかの行動を起こす契機になれば」ということでした。
それゆえ“民主主義の何たるかを理解した”という言葉こそ、
私どもの願いそのものでした。

上田札幌市長と逢坂衆議院議員のお二人が、
毎回繰り返し繰り返し、言葉を尽くして民主主義の大切さを説かれました。
シンポジウムのテーマが何であれ、
そのテーマに関する問題の解決の手段としては、
民主主義しかないとお二人は異口同音に言い切られました。
しかも、お任せ民主主義ではなく参加型民主主義であらねばならない、と。

民主主義は、能動的なものであるとお二人は訴え続けられました。
たとえば、選挙で首長や議員を選んだ後も、彼ら政治家にすべてを任せるのではなく、
彼らをサポートしていく積極性を持つと同時に、自分の選択に責任を持って欲しい、と。

そして、政治にあまり関心のない市民の皆さんが、
参加型民主主義者になるためのレッスンをする場として
当連続シンポジウムを企画運営してきたナチュラブ・北海道は、
先に紹介した感想を読んで、その当初の目的を少しは果たせたと思いました。

　“風”が生まれたのだと思います。

そして、たぶん、他にもいろいろな“風”が生まれつつあるような予感がしております。
7月23日の連続シンポジウム最終章の会場では、
そういう“風”があちらこちらで感じられるような気がしております。
皆さまには、ぜひ、それらの“風”を確かめていただきたく思います。

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ナチュラブ・日記　その８１（2006年7月20日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　風　（４）

ナチュラブ・北海道主催の連続シンポジウムに参加くださった皆さまは、どのような“風”を起こされたか。
それをご紹介する前に、もう少し“風”について考えてみたいことがありました。
　
いささか旧聞で申し訳ありませんが、
2006年サッカーワールドカップ報道に見る日本のテレビ・新聞のはしゃぎぶりには、
スポーツ音痴の私(サッカーゲームのルールどころか、サッカーの一チームの構成人員数も知りません)でさえ、
うんざりでしたが・・・

いえ、私が申し上げたいのは、いまさら日本のメディアの不甲斐なさではありません。
また、私にさえ、“世界のチーム”を相手に戦っている“日本人のチーム” は、
世界の大人が日本の子どもの遊び相手をしているように見えましたが、
そういう“日本人のチーム”の情けなさでもありません。

“日本人のチーム”は、何のことはない、まさに今の私たち日本人そのもの、
私たち日本人の代表に相応しかったのではないか、ということです。

つまり、今の日本社会で生きている人々の“覇気のなさ”をこそ代表していたのじゃないかしら、と思ったのでした。
そして、言いたいことを言わない・言えない、
そもそも言いたいことさえないような人間に育ってしまい、自己主張も出来ない覇気のない日本人が、
自分たちの分身であるサッカー選手にだけ“覇気”を求めるのは、違うんじゃないでしょうか、ということです。
無責任。それが、私たち日本人の多くの姿じゃないか、ということです。

そういう日本人が“風”になるためには、どうあらねばならないのか。
それは、しっかりとした自分を確立した個人になるべく努力する人であること。
そして、そういう個人が集まって一つの組織、“風”を生む。
そうじゃないでしょうか。

さて、あらためて、
ナチュラブ・北海道主催の連続シンポジウムに参加くださった皆さまは、どのような“風”を起こされたか。
これまで毎回、参加くださった方々から、当シンポジウムに関して、ご意見やご感想を頂いてまいりました。
シンポジウム当日配布する用紙に書いてくださるだけでなく、メールやファクスやお手紙もいただきました。
どのご意見もご感想も、書いてくださった方々の思いが強く伝わってくる内容でした。
好意的な感想、お褒めの言葉が多かったのですが、
もちろん大変厳しく私どもの姿勢やシンポジウム運営方針を批判くださった方のご意見を、
以後のシンポ運営に反映させていただいたこともありました。
その中で、私が考える“風”に相応しいご感想やご意見のご紹介は、次回に。

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ナチュラブ・日記　その８０（2006年7月18日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　風　（３）

少しでも住みやすい世の中をつくりたいという共通の目的に向かって、
様々なグループで市民活動に関る私たちは、
どういう“風”になればよいのか。

自分自身の頭で物事を考える“風”
自分と違う考えを認める柔軟さをもち、お互いに議論できる“風”
　
そういう“風”になれば。
　
そういう“風”こそ、上田・札幌市長と逢坂・衆議院議員が、
首長として、国会議員として、みずから率先されている価値観そのものであると、
もう皆さまにはお分かりでしょう。
そう、“民主主義という風”ですね。

お二人は、既に10回を数えた私どもの連続シンポジウムで、
毎回、ほんとうに繰り返し繰り返し、言葉を尽くして民主主義の大切さを説かれました。
シンポジウムのテーマが何であれ、そのテーマに関する問題の解決の手段としては、
民主主義しかないとまで言い切られています。
しかも、お任せ民主主義ではなく参加型民主主義であらねばならないと。

ですから、民主主義は単なる多数決の原理ではないとか、
少数意見を大切にするべきである、という民主主義の教科書的定義を超えて、
もっと能動的な“風”が本来の民主主義です。

たとえば・・・選挙で首長や議員を選ぶだけでなく、
その後も彼ら政治家にすべてを任せるのではなく、
彼らをサポートしていく積極性を持つこと。
と同時に、自分の選んだ政治家たちの活動をチェックすることで、
自分の選択が正しかったか否かチェックする。
そのためには、様々な政治的課題を、自分ならどう考え、どう決断するかを、
自らに課す作業も必要でしょう。

その作業の際に必要な知識や、考える方法を身につける場でありたいと私どもは願い、
その実現のために当連続シンポジウムは、在ったのです。
お任せ民主主義ではない参加型民主主義という“風”を起こすための引き金として、在ったのです。

そして、民主主義は、自分で考えることのできる人々の起こす“風”であると考えていらっしゃる上田市長、逢坂議員は
異口同音に「私たちをチェックしてください」と自ら申し出ることで、
当連続シンポジウムの目的に率先して応えてくださいました。

では、当連続シンポジウムに参加くださった皆さまは、どのような“風”を起こされたか。
次回に、ご紹介しましょう。

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ナチュラブ・日記　その７９（2006年7月13日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　風　（２）

「山が動いた」という表現がありますね。
でも、山は動かないし、動けないものの象徴です。
決して変わらない・絶対変えられないと思われていた状況が変わったとき、
動くはずのない“山”が動いたという表現で、
それがあたかも奇蹟のような大きな変化であったことを示そうとします。

それに比べて風は、変わるものの代表でしょう。
目には見えないし、その本質は気まぐれ。
吹いて欲しいときに吹いてくれるわけでも、望むような吹き方をしてくれるわけでもない。

全く質が違う山と風ですが、
人にとって共通なのは、思いのままにはならないということでしょうか。
それは人にとっての自然界そのものでしょうか。

私には、物事を考えるときに、抽象的なことを具体的なものに譬える癖があります。
それで、例えば人間界の事象を、次のように譬えます。

政治・行政のあるべき姿、政治家の理想的なありようなどは、
その究極のところは動かないもの・動いてはいけないものだから、山。
でも現実には、それらは決して理想的な姿でないことが多く、
それらをあるべき姿に変えるのが私たち市民であり、その運動が、風。

自由に場所を変え、方法を変えられる“風”が、動かない“山”の回りで工夫し調整しながら、
その結果、山を守り、山の果たすべき役目をサポートする。そのように考えます。

本来動かないはずの山・政治界が、あるべき姿から遠く離れてしまった状況に陥ったように見えるとき、
あるべき姿に戻すために、風・市民が積極的に動く。
自然界の山や風は、決して人の思い通りには動きませんが、人間界の山や風は、動きます。動かせます。
このように考えるのは、私一人ではなく、市民活動に携わる人々の共通の思いでしょう。

もちろん、風を作る人の側には、いろいろな価値観があります。
今回の北朝鮮のミサイル発射を利用して、憲法も法律もなんのその、
とにかく危機を煽って一気に軍事力の質的変化・増強を成し遂げようとする動きも、ひとつの“風”です。
この風は、とても強力です。
なぜなら、国の為政者とマスメディアが組んでいるのですから、私たち一般市民には一見勝ち目はありません。

でも、蟻もまとまれば、象を倒します。
一般市民が、たとえば軍事力増強に反対し、
外交やさまざまな知恵を総動員してアジアの平和に寄与するという大きな目的の前に、
それぞれの考えの小異を捨てて大同団結すれば、国を動かせます。

私たちが、そういう“風”になればよいのです。

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ナチュラブ・日記　その７８（2006年7月11日号）
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　風　（1）

私が住む札幌は、季節を問わず比較的風の強いまちです。
ただ、雨と風が一緒に荒れ狂うということはめったにありません。
植物園や大通公園、北大のポプラ並木など公の場はもちろん、
各まちの並木や家の植木の大方が無残にも倒れ、
市内の風景が変わったとまで言われた大きな被害をもたらした2004年夏の台風は、
1954年の洞爺丸台風以来、実に半世紀ぶりでした。

ところで2006年7月10日・朝、つまり昨日の朝は、ちょっと気になる強い風が吹きました。
快晴の美しい青空が、この風で吹き飛ばされるのではないかと心配しましたが、
午前中で収まりほっとしました。

自然現象としての風は、人間の制御不能な部分ですが、人間界の風はどうでしょう？
このところ、ずうっと計算され仕掛けられたような人工的な風が吹き続けているような気がしてなりません。
それは、日本国憲法改正(悪？)の動きに代表される“風”です。

北朝鮮のミサイル発射をダシに、一挙に軍事力増強の動き、軍事の質的変換をしてしまおうという動きが急です。
各新聞紙上でも、いかにも世論もそれを後押ししているというニュアンスの記事が載っていますが、
それは、そのように仕組んだだけで、批判的な論陣を張らないマスメディアの責任です。
（一年前、ニセコで金子先生が、イラク戦争報道に関して特に日本のメディアを痛烈に批判していましたが、
　それがいっそう極まってきただけでしょうか。）

本来、有事にこそ、冷静にならなければと思います。
1発のミサイルという“現実”の前には、悲惨な戦争体験・戦後60年の重み・戦争放棄の憲法など
吹っ飛んでしまうというのでしょうか。
イラクを挑発してイラクを叩いたように、北朝鮮を挑発して行動を起こさせ、それを叩くつもりのアメリカに、
日本が乗ることだけは阻止しなければなりません。
そのための道具としてのメディアでなければならないはずです。
でも日本の報道は、特に国際問題については、戦後ずうっとアメリカからの情報一辺倒のように思われます。

今回の北朝鮮の愚かな行為に対して、テレビ等マスメディアが、
政府やアメリカ等の情報だけを垂れ流す状況がますます強まり、
特にテレビ画面では、冷静そうに見える専門家男性諸氏も、
“北朝鮮は悪い。攻撃されないうちに叩け。行け。行け”という感じのコメントばかりを発し、危険です。
また、テレビに映る政府高官や防衛庁幹部たちは、どこか高揚しているように見えます。
ついに自分たちの出番が来たかと・・・。

北朝鮮はこれまで、自己中心的で乱暴で嫌われものの幼い駄々っ子のような行動をしてきたように思われますが、
そういう子が本心では自分の存在価値を認めて欲しい、愛されたいと他の誰よりも願っているのに、
今回は、その願いが叶わぬあまり、絶望的な行動に出たと思われてなりません。

もちろん、お断りするまでも無く、そういう駄々っ子の行動を笑って許すべきだなどと、思ってもいません。
また、北朝鮮による日本人拉致問題は、
いかなる事情があろうとも、またいかなる国にも決して許されない国家的犯罪であると断言できます。
拉致の被害者ご本人にも、そのご家族にも、私は心から同情しています。
私も子を持つ一人の親として、もし私がその立場なら、と想像するだけでも辛くてなりません。
そして、私なら、どうするだろうかと考え、その度に、昨年8月、姜尚中さんが、
「北朝鮮を一番理解できるのは戦前の独裁体制を経験した日本国民である。
　また北朝鮮を周囲の国々が“平和”で羽交い絞めしなければならない。
　そうして日本は北朝鮮と国交を回復し、お互いに行き来できるようにし、
　そこから拉致問題を解決の糸口を見つけられるのでないか」
とおっしゃっていたことを思い出すのです。

そして、気がついたのです。アメリカの価値観一辺倒の情報から、ちょっと逃れてみると、
私たちは、あることを完全に忘れているのではないかと、思い至りました。
私たちは北朝鮮による日本人拉致を、日本政府が知らなかったはずなど無いということを、忘れているのではないでしょうか。
忘れているというよりは、目隠しされていて見せられなかったという方が正確かもしれませんね。
なぜなら、日本政府が、北朝鮮による日本人拉致を知らなかったとしたら、
それこそ、国民の生命を守ることが第一義的義務である国の責務を全く果たしていない日本は、
いったいどういう国かということです。
危機管理が全く出来ない国ということになりませんか・・・

いや、だから、日本の為政者たちは知っていたはずです。
でも、無視し抛っておいた、その程度のことは、と。
先の戦争の国家間戦後処理が終わっていない北朝鮮が絡む面倒な事件として。
それなのに最近になって急に、熱心に拉致問題に取り組む姿勢を見せ始めたのは、
それなりの事情・理由が在るからと考えるべきではないでしょうか。

それは、何か。

それは、アメリカのアジア外交(自国の価値観と違う北朝鮮を潰すという思い上がった世界観)追従のために、
やおら北朝鮮の日本人拉致問題を利用し始めたのに過ぎないと思われてなりません。
また、拉致問題が出たときに対応するべきだったのにそれをサボったという為政者の不作為の責任を転嫁するために、
必死に「北朝鮮悪し」と攻撃しているとも考えられます。
これに関しては、拉致被害者家族からも
「今頃、経済制裁措置を言い出すのは、どういうつもりか。
　なぜ、当初からそのような強い措置を取ってくれなかったのか」
と不快感さえ表明されています。
　（なお、私は経済制裁措置には反対です。）

そして、私でさえこの程度のことは思いつくのに、日米両政府のコメントを鵜呑みにして、自ら本気で検証することもなく、
日米のコメントを垂れ流すだけのメディア。
とても嫌な気分です。
嫌な“風”が吹いてきているのは分っていましたが、ここに来て急にその“風”が強くなってきたと感じます。

“風”について、考えています。
実は、急に考え始めたのではなく、ここ数年ずうっと考え続けているテーマです。
皆さまにも考えていただきたく、数回に分けて連載いたします。

　　　　　　（なお、毎回の日記にも増して、この稿の全責任は、私・上野伸子にありますので、念のため申し添えます）

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