「運動量やテレビの視聴時間」と「うつ病の発症リスク」との関連性

2012年05月16日…No.120516-090

米国のハーバード公衆衛生大学院栄養学部のミシェル・ルーカス博士らによる研究チームによって、「運動量が少なくテレビを観て過ごすことが多い高齢女性は、うつ病の発症リスクが高まる」との報告がなされました。

うつ病(大うつ病性障害)は女性に多く発症する慢性的な疾患です。(*罹患率は男性の2倍以上)。米国では約2割の女性がうつ病にかかると言われています。うつ病は体調を悪化させるだけでなく、医療サービスの負担を増大させ、職場においても生産性を損失させるなど(*欠勤や非効率性による)経済的・社会的な影響も大きいため、うつ病予防のための新たな方針が求められています。

これまでの研究により、運動が抑うつ症状を低減させることが示唆されてきましたが、定期的な運動やテレビの視聴時間が、うつ病(*抑うつ症状が長期間続き、社会的にも影響を及ぼす臨床的うつ病)の発症リスクに影響を与えるかどうかは明確にされてきませんでした。

今回の研究は、「運動とうつ病との関連性」「テレビの視聴時間とうつ病との関連性」「運動とテレビを組み合わせた場合のうつ病との関連性」を明らかにする目的で調査が進められました。

この研究は、看護師健康研究(※1)(Nurses’ Health Study)の一環として、1992年より実施されました。研究チームは、被験者が報告した運動量やテレビの視聴時間を含む生活習慣に関するアンケート(※2)の結果に基づき、1996年の時点で抑うつ症状のない看護師(平均63〜64歳)を選出し、10年にわたって追跡調査を行いました。49,821人の被験者のうち、6,505人が、調査期間中にうつ病を発症(*医師の診断または継続的な抗うつ薬の服用(どちらも自己申告に基づく))しています。

調査の結果、運動量が最も多い(90分以上/日)女性は、最も少ない(10分未満/日)女性に比べ、うつ病の発症リスクが20%低かったことが確認されました。運動の中で最も多く実施されたウォーキングについては、適度またはそれ以上の速さ(2マイル以上/時)で長時間歩いた女性ほど、うつ病の発症リスクが低かったことが判明しました。一方、テレビの視聴時間が長くなるほど、うつ病の発症リスクが少し増加する傾向が見られたことが明らかにされました。また、運動量が最も多く(90分以上/日)、テレビの視聴時間が短い(0〜5時間/週)女性は、運動量が最も少なく(10分未満/日)、テレビの視聴時間が最も長い(21時間以上/週)女性と比べ、うつ病の発症リスクが38%も低かったことが確認されました。

運動がうつ症状を改善する効果として、自尊心の向上・否定的な思考の転換・自己コントロール力の向上・血中のβエンドルフィンの増加・適応力の変化・神経の強化などが知られており、それぞれのメカニズムが明らかにされています。研究者は、うつ病のリスク低減には、こうした運動による脳へのプラスの影響が関わっていると推測しています。また、テレビの視聴がうつ病にマイナスの結果をもたらした理由についてルーカス博士は、「テレビを観ることが多い女性は運動をあまりしない傾向があり、それがうつ病にマイナスの影響をもたらしているのだろう」と述べています。2009年の調査によると、テレビ・インターネット・モバイルビデオに多くの時間を費やす米国人が増加し、テレビの場合、1日平均約5時間も視聴していることが報告されています。研究者らは「座りがちな生活習慣を改め、積極的に運動するよう、公衆衛生キャンペーンで推進していかなければならない」と主張しています。

研究チームは「今回の調査の性質上、運動やテレビの視聴とうつ病との因果関係を証明することはできない。しかしこの結果は、定期的に運動し、テレビの視聴時間を短くすることが、うつ病の発症リスクを低減させることを示唆している」と結論づけています。

※1“ Nurses’ Health Study” は、1976年に始まった女性の慢性疾患に関する大規模コホート研究で(ガン・心血管疾患の危険因子の調査からスタート)、これまでに238,000人の看護師が参加しています。現在も継続した調査(2年毎にアンケートを実施)が進められ、ライフスタイル(食事や身体活動など)の改善による健康維持・促進効果が数多く報告されています。

※2アンケートは「ウォーキング・サイクリング・ランニング・水泳などの運動を1日に何分間行ったか(*1992〜2000年の間、2年毎に調査)」、「テレビを毎週何時間観ていたか(*1992年に1年間調査)」といった内容の他に、体重・喫煙習慣・結婚歴・食習慣・病歴・新たに診断された病気などについての質問がなされています。

出典:『American Journal of Epidemiology Vol.174 2011年10月号』

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