1991年〜2003年の日本の移植コーディネーターの活動について

2004.03.26. by てるてる

以前、「日本の移植コーディネーターのドナーアクションプログラム」というコンテンツで、おもに、1997年の臓器移植法施行後の、静岡県と新潟県の院内コーディネーターの活動をとりあげました。特に静岡県の院内コーディネーター活動は、厚生省の研究予算がついていて、厚生省は、以前より、患者本人の同意がなくても家族同意での臓器提供がふえるように方法を研究しているのがわかります。

その後、1997年以前からの活動報告を含めて、2003年までの日本の移植コーディネーターの論文や学会発表などを読みました。これらは、院内コーディネーターだけではなく、臓器移植法施行前の腎バンクや移植センターから派遣された移植コーディネーター、救命救急センターの救急医、そして、日本臓器移植ネットワーク発行後の移植コーディネーターの報告です。

それで思うのは、移植コーディネーター活動も進歩している、ということです。インフォームト・コンセントのとりかた、ドナー家族への移植後の経過報告などは、だんだん、充実していくようです。しかし、移植コーディネーターの、臓器提供が脳死患者の家族の悲しみを癒すという考え方は、楽観的ではないか、死の受容は長くかかるのではないか、と思われます。


(1)臓器提供を承諾した家族の死の受容の過程への寄り添い

1980年代、臓器提供を自ら申し出られた吉川隆三さん、スギケン先生の手記を読むと、移植後、連絡がなく、またレシピエントがドナー家族に連絡しようとしても移植医に止められたりして、ドナー家族の心が傷ついたままで癒されないことが怒りをもって書かれています。
*参照
「臓器・組織の提供の三つの側面 -- 贈り物、寄付、資源 -- について(おもにPamela Albert の論文をもとに考察する)」(2001年5月15日、てるてる)
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/discussiononAlbert.htm

1990年代以降の移植コーディネーターの論文を読むと、そのへんは改善して、ドナー家族への移植後の経過報告を移植コーディネーターが行うことがふえてきたようです。

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『移植』Vol.28, 1993年, supplement
(p.519-522)
「脳死移植に向けて移植コーディネーターの立場から」
東京医大八王子医療センター腎移植センター: 玉置勲

IV.考察(p.521)
そして、移植ネットワークを充実させていく必要がある。これには移植希望患者の正確なデータの収集、たとえば患者の緊急度や組織適合性等の他に移植希望者の選択方法の公正さが必要となる。後はいかに国民の理解を得るかと、いかに移植施設が移植ネットワークに協力するかにある。移植個票がまわってこない移植ネットワークにだれも協力するはずがなく、多くの臓器が分配されて初めて移植ネットワークが動くものと思われる。このためにも移植施設や救命救急施設に属さない臓器移植情報センターを設置し、移植コーディネーターを中心に運営していくことが望ましいと考える。
つまり、ドナー病院から脳死情報が入手されるとドナーコーディネーターがドナー家族と面会し、臓器提供の申し入れをする。その間に、ドナーコーディネーターはドナー情報を収集したり採血した検体を検査部門に送る一方、ドナー家族と親密なコミュニケーションをはかり、脳死での摘出が承諾されればクリニカルコーディネーターがそれぞれの移植サブセンターを介して臓器別の移植希望患者が登録されている移植実施施設に連絡する。そしてドナー病院との時間調整をしたうえで各臓器の移植施設に摘出時間などの指示をし摘出に向かうことになる。
摘出後はドナーコーディネーターが遺族宅に移植後の経過報告をし、クリニカルコーディネーターが移植患者の移植前に収容されていた施設に移植後の経過報告をする。初期の移植医はこの業務に手がまわらなかったがために今日の移植医療が「臓器をとりっぱなしにしている」と非難されることもあったが、最近、ようやく術後報告の重要性が認識しはじめられ、遺族の心の拠り所になっている。これらは、本来移植コーディネーターが行うべき重要な業務であると思われる。

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第35回日本移植学会総会: 1999年9月15日(水)〜17日(金)
一般演題 移植システム1(9月17日)
「299 献腎遺族に対する提供後心情と提供理由に関するアンケート調査結果」
(社)日本臓器移植ネットワーク・北海道ブロックセンター: 西垣文敬、大須田浩輔、平野哲夫、水戸○○(漢字が変換できない)
市立札幌病院・看護部: 佐藤真澄

[目的]
移植医療の普及・推進のためには、臓器提供後の遺族の心情が極めて重要な要因の一つと考えられる。そこで、献腎遺族に対してアンケート調査を行ったので報告する。
[対象]1995年〜1998年の間に北海道内で献腎を行った9遺族。
[方法]
献腎6ヶ月〜1年後に、郵送にて5遺族、直接訪問にて4遺族。アンケート内容:1.提供後の心情。2.提供理由(選択式、複数回答可)
[結果]
9遺族15名から回答が得られた。15名全員が提供してよかったと回答した。
提供理由(選択式):体の一部が生き続ける(11名、73.3%)、
人の役に立つ(9名、60.0%)、
移植コーディネーターの説明が熱心(5名、33.3%)、
最後にしてあげられること(4名、26.7%)、
家族内に賛成者(4名、26.7%)、
本人の意思(3名、20.0%)、
焼かれてしまうので(3名、20.0%)。
[考察]
全員が提供してよかったと回答した理由は、病院スタッフによる家族対応と移植コーディネーターによる提供後の家族対応(全例葬儀出席、定期的な報告、必要に応じた遺族訪問)がよかったのが一因と考えられた。
提供理由に「移植コーディネーターの説明が熱心」が見られたが、複数回答の一つであることと、決して提供依頼は行なっていないことから、移植コーディネーターに対する好感と考えられた。今後も研鑽を重ね、臓器提供者遺族が後悔することのないような対応を行なっていきたい。

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『移植』Vol.35, No.5, 2000年
第33回日本腎移植臨床研究会記録
(p.330)
「N-25 臓器提供における家族の悲嘆家庭への関わり」
(財)鳥取県臓器バンク: 江草延枝
(財)島根県難病研究所しまねまごころバンク: 日野幸
(財)岡山県臓器バンク: 安田和広
国立岡山病院: 田中信一郎

【目的】
心停止後の腎提供者家族の悲嘆過程を分析し、コーディネーターの関わりを検討する。
【方法】
1998年から1999年に鳥取・島根・岡山県で提供された3事例を、フィンクの危機モデルにより分析する。
【結果】
@家族は患者の死に直面し危機状態となっていた。
Aその後悲嘆過程を辿り、腎提供された時点で適応の段階に至っていた。
Bコーディネーターが家族説明を行う時期は、承認の段階以降であった。
C悲嘆過程の中でも、様々な要因から危機状態を繰り返していた。
D家族は、目的を持って提供を決断していた。
E家族の状態を把握する看護婦とともに対応することは有効であった。
F提供後、家族は提供に満足感を持っていた。
【まとめ】
コーディネーターは、提供者家族の悲嘆過程を理解し、時期に応じた援助を行うことが重要である。その援助が適切である場合、家族は臓器提供を道標とすることで、悲嘆の過程を軽減し死を受容することができる。

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ところで、日本の移植コーディネーターのドナーアクションプログラムでは、岡田篤志さんの「臓器提供とドナー家族の悲嘆心理」を紹介しています。

岡田篤志は、USAの文献とともに、日本の移植コーディネーターの文献や臨床的脳死の患者の心停止後臓器提供を申し出た家族の手記を分析している。移植コーディネーターの側からは、概して、臓器提供が脳死患者の悲嘆を軽減する好影響が述べられるのに比較して、提供者家族の側からは、臓器提供が患者の死を受け容れるための物語作りに組み込まれ、臓器提供の決断は事実としての死の受容の段階で行われたにすぎず、情緒的な死の受容は、むしろそのときから後々まで長く続くことが述べられている。

 

「臓器提供とドナー家族の悲嘆心理 -- 内外の文献研究から -- 」(岡田篤志)
大阪大学大学院医学系研究科医の倫理学教室『医療・生命と倫理・社会』第二号,62-82頁2003年3月20日掲載。
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/4760/donorfamily1.html

上記の論文には、国立嬉野病院の移植コーディネーター、廣田典祥氏の論文がくわしく紹介されています。

廣田典祥(国立嬉野病院)著
「死体腎移植における悲嘆家族への臓器取得のアプローチの原則」『移植』26(2)1991:182-184
「臓器移植のため肉親の臓器提供をされた1家族の喪の作業」『移植』29(1)1994:104-106

「臓器提供の決断は事実としての死の受容の段階で行われたにすぎず、情緒的な死の受容は、むしろそのときから後々まで長く続く」という事例にちょうどあてはまる報告が、1999年、北海道の移植コーディネーターから出されています。

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『移植』Vol.34, No.5, 1999年
第32回日本腎移植臨床研究会記録
(p.290)
「52 効果的な献腎提供後の遺族訪問について」
市立札幌病院看護部: 佐藤真澄
(社)日本臓器移植ネットワーク北海道ブロックセンター: 西垣文敬、大須田浩輔

移植コーディネーターの役割のひとつに提供後遺族訪問があるが、今回1事例を通して、遺族の心理状況を分析し効果的な訪問時期、回数、内容を検討した。
【事例】
ドナー: 48歳男性。原疾患: クモ膜下出血。家族: 両親と娘。
腎臓提供後7週、10週、6ヵ月、1年に自宅を訪問。
【母親の心理状況】
搬入時強い悲嘆の段階であったが、腎臓提供時は現状を受容。提供後7・10週では強い悲嘆がみられ、レシピエントの経過を聞きたいという思いがあった。6ヵ月・1年では強い悲嘆が消え、経過を聞きたいという思いが続いていた。母親について、息子の死亡後から再び強い悲嘆が表れた。
【考察】
訪問時期: 可能な限り早い時期に行い、遺族の心理状況を把握する必要がある。
訪問回数: 強い悲嘆がある時期には、訪問回数を増やす等の対応が必要である。
訪問内容: レシピエントの経過報告を主とし、遺族の心理状況に合わせた対応が効果的であると考える。

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もうひとつ、「臓器提供の決断は事実としての死の受容の段階で行われたにすぎず、情緒的な死の受容は、むしろそのときから後々まで長く続く」という事例にちょうどあてはまる報告が、2000年の静岡県の移植コーディネーターから出されています。これは腎臓提供の申し出から実際の摘出まで7ヶ月かかった、という事例です。

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『移植』Vol.35, No.5, 2000年
第33回日本腎移植臨床研究会記録
(p.329)
「N-24 意思表示から腎提供に至るまで7ヵ月が経過した一例〜ドナー家族と院内コーディネーターの関わりについて〜」
静岡県立病院院内コーディネーター: 松井初世

【はじめに】
今回、献腎にいたるまでのドナー家族との7ヵ月余りのお付き合いから、長期に亘る家族のケアに関わることも院内コーディネーターの役割と考えたので報告する。
【事例紹介】
S.Y. 59歳。男性。小脳原発星状細胞腫。本人、妻の二人暮し。
【現病歴および治療経過】
平成8年10月頭重感と歩行時不安定感で入院。11月後頭下開頭術兼腫瘍摘出施行。平成10年4月再入院。平成11年1月24日、妻より腎提供の申出があり、平成11年9月3日心停止後の腎提供となった。
【結論】
1.腎臓を提供するという気持ちがあることが死を受容していることにはならない。
2.現状では医師も看護婦も患者のことに精一杯であり、家族の援助までできない。院内コーディネーターは、家族の悲しみや嘆きに耳を傾け、死への対峙を援助しうる存在である。それは、家族を支援するひとつにもなる。

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「腎臓を提供するという気持ちがあることが死を受容していることにはならない。」という結論は、実に、ドナー家族の本質を表わしています。


(2)臓器提供の「申し入れ」と「申し出」

大阪府では臓器移植法施行前の1987年4月から国立循環器病センターが移植コーディネーター活動を始め、1990年からは大阪腎臓バンクで移植コーディネーターの活動がおこなわれるようになりました。その活動は、救急施設への訪問活動を中心とした日常業務、腎提供者発生時業務、経過報告などの腎提供後業務の三つに大別されます。

「救急施設への訪問活動を中心とした日常業務」とは、救命救急センターで脳死の患者が出たら連絡してもらえるように、ふだんから協力できる関係を築いておくことです。

「腎提供者発生時業務」は、脳死患者発生の通報を受けた際に移植チームに協力して臓器摘出終了までの業務ですが、ここに、脳死患者の家族への臓器提供の「申し入れ」をし、説明し、インフォームト・コンセントをとる業務が含まれます。

「経過報告」は、東京医大八王子医療センター腎移植センターや日本臓器移植ネットワーク・北海道ブロックセンターの報告にもあるとおり、移植後のドナー家族や、また、臓器提供側病院への報告です。

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『移植』Vol.27, No.1, 1992年
第24回日本腎移植臨床研究会記録
(p.112-113)
「39 大阪府下における腎移植コーディネーター活動について」
財団法人大阪腎臓バンク: 野尻政浩・安井豊・小中節子・中原宣子・藤原正恵・湯浅光利・泉隆次郎

平成2年6月、大阪府の援助の下に大阪腎臓バンクに6名が移植コーディネーターとして任命された。約2ヵ月の研修期間を終え、府下の腎移植施設の協力を得て、9月より府下の主な救急医療施設を対象とした移植コーディネーター活動を開始している。先行して行われた国立循環器病センターでの移植コーディネーター活動を参考にしているが、施設訪問時には移植医と同行し、各救急施設の医師、看護婦を中心とした医療スタッフに、日本における移植の現状、特に死体腎移植の必要性などを広く理解して戴き、臓器提供者の通報に関しての協力を要請している。今回、整備された広域の移植コーディネーター活動により、大阪府下のほとんどの救急医療施設を網羅するようになり、臓器提供者の増加につながると考えている。府下全域における移植コーディネーター活動について、救急医療施設訪問を中心とした活動状況とその効果について報告する。

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「40腎臓バンク移植コーディネーターとしての役割について」
財団法人大阪腎臓バンク: 中原宣子・小中節子・藤原正恵・野尻政浩・安井豊・湯浅光利・泉隆次郎

平成2年度より死体腎移植推進のために、厚生省は腎移植推進委員(移植コーディネーター)を全国14の地方腎移植センター、第3次救命救急センター5施設に配備している。大阪府では平成2年6月に大阪腎臓バンクに非常勤の移植コーディネーター6名を決定し基本的に週1回の救急施設訪問を主体とした移植コーディネーター活動を開始している。移植医療一般及び脳死を含めた救急医療に関する研修を終了後、大阪府下の6腎移植施設の協力の下に、9月より移植医と同行する形で救急施設訪問を行っている。大阪腎臓バンクとしては第3者的な立場として、どの移植施設とも離れた偏らない活動を理想としており、現在各移植施設に一人配備する形を取り、大阪府全体としての臓器移植コーディネーター活動としての業務内容および移植施設との連絡体制のあり方について報告する。

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「41 通報のみで腎提供に至らなかった症例についての検討」
医療法人高橋クリニック: 西尾万平・金澤信悟・堀尾一哉・湯浅光利・伊原義博・高橋香司
国立循環器病センター: 林良輔・鈴木盛一・雨宮浩

死体腎移植のためのドナー獲得を目的として、1987年4月より国立循環器病センター近隣の救急医療施設を対象に、移植コーディネーター活動を行ってきている。その結果90年末までに合計58回の死体腎提供通報があり、そのうち38例から腎提供を受け、76回の腎移植に使用されている。腎提供に至らなかった通報症例は、87年が通報9回のうち3例、88年が通報12回のうち1例、89年が通報20回のうち4例、90年が通報17回のうち12例、合計20例であった。それらの原因として、合併症・高齢などの医学的不適応例が9例、最終的に家族から拒否された例が9例、その他身元不明、施設の協力不可によるものが各1例であった。今後も積極的な移植コーディネーター活動により、臓器提供協力施設に対し誠意を持って理解・協力をお願いする必要性と共にマスコミなどを通じ、広く一般市民に理解を高めていく努力の必要性を痛感している。

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『移植』Vol.27, No.5, 1992年
第25回日本腎移植臨床研究会記録
(p.680-681)
52 腎バンクの移植コーディネーター活動〜現状の問題点と今後の課題〜
(大阪腎臓バンク)
野尻政浩・安井豊・中原宣子・藤原正恵・小中節子・湯浅光利・泉隆次郎

目的: 平成2年6月より大阪府の援助の下に、大阪腎臓バンク非常勤として6名が移植コーディネーターとして任務につき、大阪府下6腎移植施設と協力し、地域における臓器提供者の増加を目的とした。

方法: 移植医療、救急医療などの研修を終えた後、平成2年8月より基本的に週1回の移植コーディネーターとして活動日を設け、主に移植医と同行する形で救急施設訪問を行い、日本における腎移植の現状、特に死体腎移植の必要性などを広く理解して戴き、臓器提供者の通報に関しての協力を要請している。また、通報を受けた際には移植チームに協力して臓器摘出終了までの業務、及びその後の報告などの業務を請け負っている。

結果: 訪問対象施設は、第3次救急救命センター14施設、公的病院15施設、民間病院38施設、計67施設であり、活動開始から現在までの訪問回数は延べ537回で、この間に71回のドナー通報があり、その内、21例の死体腎提供者を受けるに至ったが、通報のみに終わったのは、50例で、その理由の54%が拒否例と多くみられた。

結論: 大阪府下における移植コーディネーター活動は、大阪府、大阪腎臓バンク及び腎移植施設の協力により、その活動は府下全体に広がり、徐々に救急施設側の協力が得られるようになっているが通報例中で拒否例がまだまだ多く、今後臓器移植への理解を広く一般市民にも求めていく必要性も感じており、移植コーディネーター活動を行っていく上で、現状の問題点と今後の課題を検討し、一般社会への移植に対する理解を深める活動を行っていきたいと思う。

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このような移植コーディネーターの努力は、ときに、訪問先の病院への手土産などで出費がかさみ、不祥事の原因となることもあります。

2000年12月、北海道で移植コーディネーターのチーフとして活躍してきた人が、臓器移植ネットワークの費用を1000万円余り着服していたことが発覚し、懲戒解雇されました。移植施設側から臓器移植ネットワークを通じて臓器提供施設側などに支払われる医療費を流用していました。この元コーディネーターは、1997年の臓器移植法施行後、全道の臓器提供病院を訪問していました。当時の北海道新聞に、その元移植コーディネーターとの一問一答が載っています。

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北海道新聞
12月5日のニュース
着服したうちの100万円、一般会計から流用

 日本臓器移植ネットワーク北海道ブロックセンター(札幌)のチーフコーディネーター(43)が経費を着服していた問題で、同ネットワークは五日、着服した約千百六十万円のうち百万円程度は事業費や事務経費などが計上されている道ブロックセンターの一般会計から流用していたことを明らかにした。

病院との交際費膨らみ着服、競馬で穴埋め失敗

 日本臓器移植ネットワーク北海道ブロックセンター(札幌)の男性チーフコーディネーター(43)が、腎臓(じんぞう)移植の際に移植を行った病院から同センターを通じて臓器提供病院などに支払われる医療費など約千百六十万円を着服した問題で、同コーディネーターは四日夜、北海道新聞社の取材に対し、「臓器提供病院との交際費や土産代などが膨らみ、競馬で穴埋めしようとしたができなかった」などと動機などについて明らかにした。一方、厚生省は同日、同コーディネーターを業務上横領の疑いで警視庁愛宕署に告発した。

 一問一答は次の通り。

 ――なぜ、ネットワークの資金に手を出したのか。
「三年前からでした。いつ何が起こるか分からないので常にネットの金を約二十万円持っていました。その中から(賄っていた)臓器提供病院への交際費や土産代が膨らんでいきました。最初は何か持っていった方が会いやすいと思いました。人間関係をつくろうと使ったものもあります。当初は給料で穴埋めしていました。だが、次第に競馬でしか返す道がなくなり、一千万円になってしまいました」

 ――なぜ、三年間も発覚しなかったのか。
「特別会計は事務職員に任せず、私一人で管理していました。複雑なうえ、甘いシステムで、収支に動きがあった月のみ、月末に簡単な報告を出すだけでした。一九九七年ごろまでは報告も不要だったのです。入金があると競馬に使い、穴埋めできるお金ができれば以前の摘出費用として収入に計上していました」

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1991年から1992年にかけて脳死と診断された患者から腎臓・膵臓・眼球が提供された3例は、当時、マスコミにも騒がれた、といいます。最初の事例は、脳死の患者からの初めての臓器提供というのでたいへん騒がれたというのですが、私は記憶にない。この3例は、当時担当の移植コーディネーターによって、『今日の移植』Vol.5,No.5,1992年9月号、および、『移植』Vol.28, 1993年、supplementで報告されています。いずれも、家族が自ら臓器提供を申し出、脳死を死とし、心臓が動いているうちに全臓器を摘出することに同意していたが、交通事故で脳挫傷になって脳死となったので、検視のため、また、心臓は適合するレシピエントがいなかったなどの理由で、いずれも心停止後の移植になった、と言います。

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『今日の移植』Vol.5,No.5,1992年9月号
(p.477-480)
「多臓器移植に向けての移植コーディネーター活動」
医療法人高橋クリニック: 湯浅光利、林良輔、高橋香司

症例 [症例1]20歳・男性、1991.3.14. 臓器提供
交通事故による脳挫傷にて脳死となった症例で、救命センターに搬送されて数日後に、患者の状態が脳死に近い状態であるとの説明を受けたために、脳死確定以前に家族会議が開かれ、そのときに脳死状態ならば全臓器の提供をしたいとの家族の合意があり、脳死確定時に、移植のための全臓器提供を主治医に申し出た。早速各方面に通報がなされたが、心移植は適合するレシピエント側の都合で、また肝移植は血液検査の肝機能異常が正常化しないために実現せず、結局心停止後の臓器提供となり、腎移植2名、腎移植後の膵移植1名、角膜移植2名の計5名に役立った。現在すべての臓器が生着中である。

[症例2]51歳・男性、1991.7.4. 臓器提供
交通事故による脳挫傷にて脳死となった症例であり、脳死確定時の主治医の説明により、生前の故人の意志を尊重する形で家族が全臓器の提供を申し出た。しかし、心移植は適合レシピエントがいないために実現せず、その後警察の検視問題が絡んだために、心停止後の臓器提供(肝・心臓弁・膵・腎・眼球)ということになったが、開腹して肝に繊維化のあることがわかり、肝臓摘出を断念した。

腎移植1名、膵腎同時移殖1名、角膜移植2名に臓器が用いられ、膵臓は2ヵ月後に拒絶反応のために残念ながら摘出されているが、その他の臓器は生着中である。心臓弁は4年間の保存が可能であるため、適応患者があれば、使用を検討したいとのことで、現在準備中である。

[症例3]18歳・男性、1992.1.29. 臓器提供
同じく交通事故による脳挫傷にて脳死となった症例であり、第1回目の脳死判定の際に主治医より簡単な説明がなされたが、家族、特に両親が、生前の故人の意志を尊重して、脳死確定時に全臓器の提供を申し出た。しかし、管轄警察の強い要望により心停止後の臓器提供を余儀なくされ、心移植は成立しなかった。

肝移植は、移植施設側が心停止後の肝臓摘出にやや難色を示し、そのときの適合レシピエントには、脳死肝での移植を行いたいとする意見が強いために実現できず、腎移植1名、膵腎同時移殖1名、角膜移植2名のために臓器摘出が行われ、現在すべての移植臓器が生着中である。

臓器提供者家族の移植前後の心境(p.478)

全臓器提供を申し出た3家族は、いずれも心臓が動いている間にメスを入れても構わないから、全臓器を困っている人々のために役立たせたいとする意見を持ち、移植コーディネーターとして、脳死移植に関しての日本での現状などを説明したあとでも、その申し出をかえることはなかった。それぞれの第一の提供理由は、最後の社会貢献をさせたい、困っている人を一人でも救いたい、故人の身体の一部でも生かしつづけたいというものであった。

また、万一のときには臓器提供したいとする生前の故人の意志が2名から確認できており、他の1名も主治医の説明以前に家族会議を開いて、脳死下での臓器提供に協力したいとする合意事項を決定していた。3家族とも、脳死が本当の意味でも死であるという意識を持ち、あるいは持つようになり、脳死確定後は心停止を待たずに、全臓器を提供してもよいという意見であった。

3家族の移植後の心境は、いずれも臓器提供をしたことに満足しているとのことである。家族の意見ではあるが、3家族とも本人も満足しているであろうとしている。困っていた人々が助かり、少しでも社会貢献が出来たことに誇りを持っていると答えており、提供後の種々の報告にも満足されているとのことである。

移植コーディネーターとしての対応(p.479)

大阪府下での移植コーディネーター活動は、1987年4月から、国立循環器病センターが、近隣の救急施設の協力を得た活動を本格的に開始し、1990年からは死体腎移植の活性化を図るために、大阪府下の6移植施設の協力のもとに、日本で最初の第三者機関での活動として大阪腎臓バンクに籍を置く形で行われている。

全臓器提供を申し出たこれらの3家族のかたがたへの対応は、当初より移植コーディネーターとして接し、臓器提供の実際、心停止以前での臓器提供の可能性、マスコミとの対応などを説明し、提供申し出が自発的で強制されたものではないことを確認し、種々の説明のあとでも意志がかわらないことを第三者敵立場で確認した。症例1では、家族、主治医とともにコーディネーターも立会い、話し合いを持ち、その結果をマスコミに説明したが、家族の意見を直接聞きたいとするマスコミ側と、家族を守りたいとする救急側、あるいは移植コーディネーター側との間に溝が出来ていたために、以後の2例では誰が話しているかを明らかにしながらテープに録音して、必要に応じてマスコミに流すようにした。

提供後もレシピエントの情報を家族に伝えているが、3家族ともにほぼ完全に移植が成功していることに満足されているようである。アンケートなどにも気軽に答えてもらっており、移植コーディネーターとしても、臓器移植あるいは脳死に対してこのようによく理解されたうえで、身内の死に直面した悲しみを乗り超えて、人類愛に基づいた臓器提供を快く申し出られるような家族と接することが出来、一日もはやく脳死臓器移植が実現され、臓器移植・脳死に理解を持った一般市民が多くなることを望んでいる。

考察(p.479-480)

大阪地区での、6年余りの移植コーディネーター活動を集約して、死体腎移植の臓器獲得を目的とした移植コーディネーターの業務を、救急施設への訪問活動を中心とした日常業務、腎提供者発生時業務、経過報告などの腎提供後業務の三つに大別している。

特に日常業務においては、移植施設訪問の横のつながりを強化し、一丸となって協力いただいている。救急施設への対応を誠心誠意で臨むことを常に心掛けており、それに関連して移植後の経過も詳細に報告するようにしている。以前に行ったアンケートからも、移植コーディネーター活動の一環となる救急施設訪問は、重要であるという認識があることがわかり、頻回の施設訪問の必要性は、臓器提供をつづけていくうえで救急医療からの要請でもあるという結果を得ている。

また、移植後の経過報告も、より詳細に知らせてほしいとする意見が多く、救急側としても、臓器提供により移植医療に深く係わっているという意識を持つ人が多いことがわかっている。移植コーディネーター活動を行っていくうえで、以上のような救急側の意識を十分認識し、積極的に行動すべきであると考えている。

最近、脳死問題を絡めた臓器移植医療がマスコミを賑わすようになったため、一般市民の多くは移植・脳死についての知識を持つようになっている。救急医療の現場でも、脳死、あるいは臓器提供に関する説明は以前と比べると時間のかからないものとなっているに違いない。同時に臓器提供に関する説明への反応も、イエス・ノーがはっきりとして短時間に答えが返ってくる傾向にあるようである。

全体的には、臓器提供数が急激に増加してきているということはないが、肯定派の中には、今回紹介したような全臓器の提供を申し出る場合も多くなっている。

今回、3症例の全臓器提供の申し出を受けたが、結局は心停止後の臓器提供となり、待ち望まれている脳死臓器移植の実現には至らなかった。しかし、3例の膵・腎・眼球の多臓器提供者の家族とも、脳死をもって人の死とする科学的な考え方を身をもって容認し、家族が脳死と確定された場合、心停止以前でも臓器摘出をしても構わないとしたうえで、臓器移植のために全臓器を提供したいと申し出られた。

現段階では大変貴重な事例に、移植コーディネーターとして参加することが出来、マスコミとの対応、ドナー家族との話し合いなど非常に有意義な経験が出来た。特に、3組のドナー家族との話し合いの機会を持つことが出来、それぞれ提供理由に多少の相違点はあるものの、移植コーディネーターからの確認事項については、すべて家族全員の合意のもとに決定されたものであり、説明を追加する必要もほとんどなかった。

そればかりか、心臓および肝臓が移植のために用いることが出来ないとわかると、歯がゆいくらいの残念さを訴えておられたのが印象的である。

今後はこのような全臓器提供の事例が増え、心・肝を含めた多臓器提供が実現されていくであろうが、その際の移植コーディネーターの役割は大変重要なものとなり、脳死臨調の答申にも盛り込まれているように、移植側でも救急側でもない第三者として、提供者、あるいは家族の立場でものを考え、提供に関する確認を公正に行っていかなければならないと考えている。

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『移植』Vol.28, 1993年、supplement
(p.523-526)
「臓器移植医療における移植コーディネーターの役割」
医療法人高橋クリニック、大阪腎臓バンク移植コーディネーター・国立循環器病センター研究所:
湯浅光利・林良輔

I. はじめに
大阪での移植コーディネーター活動も6年目に入っているが、当初の国立循環器病センターを中心にした活動から、現在は大阪腎臓バンクの移植コーディネーターとして第三者的な活動に移っている。
実際に全臓器提供を申し出た3例の脳死者のコーディネーションを経験したので、ドナー家族の意識および心境をまとめ、今後わが国でも盛んに行われるようになるであろう脳死臓器移植にも則った移植コーディネーターの役割についても言及したい。

II. 症例
症例@: 20歳、男性、1991年3月14日臓器提供
交通事故による脳挫傷にて脳死となったが、脳死確定以前に家族会議にて、脳死の状態ならば全臓器の提供をしたいと合意し、脳死確定時に主治医に申し出た。心移植は適合するレシピエント側の都合で、また肝移植は肝機能障害が正常化しないために実現せず、結局心停止後の臓器摘出となり、腎移植2名、腎移植後の膵移植1名、角膜移植2名の5名に役立った。現在すべての臓器が生着中である。

症例A: 51歳、男性、1991年7月4日臓器提供
交通事故による脳挫傷にて脳死となり、脳死確定時に主治医の説明により、生前の故人の意志を尊重して、家族が全臓器の提供を申し出た。心移植は適合するレシピエントがないために実現せず、検視問題が絡んで心停止後の臓器提供(肝・膵・腎・眼球)としたが、肝臓に繊維化があり摘出を断念した。腎移植1名、膵腎同時移殖1名、角膜移植2名に臓器が用いられ、膵臓は2ヵ月後に拒絶反応のため摘出されているが、その他は生着中である。また、同時に心臓弁の提供を受けており、現在のところまだ使用されていないが、4年間の保存が可能であり、適応患者に使用検討中である。

症例B: 18歳、男性、1992年1月29日臓器提供
交通事故による脳挫傷にて脳死となり、第1回脳死判定の際に主治医により簡単な説明を受け、生前の故人の意志を尊重して、脳死確定時に家族より全臓器提供の希望が出された。しかし、管轄警察の要望により心停止後の臓器提供を余儀なくされた。肝移植は、移植施設側がその時の適合レシピエントには脳死肝での移植を行いたいとする意見が強いために実現できず、腎移植1名、膵腎同時移殖1名、角膜移植2名のために臓器摘出が行われ、現在すべて生着中である。

III. 臓器提供者家族の意識
全臓器提供を申し出た3家族の移植に対する意識を表1にまとめた。提供は、最後の社会への貢献をさせ、困っている人を1人でも救いたい、故人の身体の一部でも生かし続けたいという理由からであった。また、万一の時は臓器提供したいとする故人の生前の意志が2名から確認できており、他の1名も主治医の説明以前に家族会議を開いて、脳死下での臓器提供に協力したいとする合意事項を決定していた。3家族とも、脳死が本当の意味でも死であるという意識を持ち、心停止を待たずに全臓器を智恵京してもよいという意見であった。

3家族の移植後の心境は表2に示したように、いずれも提供したことに満足であると答えている。症例Bは初めてのケースということもあり、マスコミ各社の取材が激しく、家族のみならず、自宅の近所にも迷惑を掛ける結果となり、家族が近所にお詫びに回らなければならない程であった。マスコミ各社に過剰な取材の自粛を呼び掛け、特に家族の方々に対する過剰取材は減少している傾向にあるようだが、それでも少なからず迷惑を掛けているようである。

IV. 考察
大阪地区での6年余りの移植コーディネーター活動を集約して、死体腎移植の臓器獲得を目的とした移植コーディネーターの業務を、救急施設への訪問活動を中心とした日常業務、腎提供者発生時業務、経過報告などの腎提供後業務の3つに大別している。

脳死問題を絡めた臓器移植医療がマスコミを賑わすようになったために、一般市民の多くは移植・脳死についての知識を持つようになっている。救急医療の現場でも、脳死あるいは臓器提供に関する説明は以前と比べると時間の掛からないものとなっているに違いない。同時に臓器提供に関する説明への反応も、イエス・ノーがはっきりとして短時間に答えが返ってくる傾向にあるようである。

全体的には臓器提供数が増加してきているということはないが、肯定派の中には今回紹介したような全臓器の提供を申し出る場合も多くなっている。死体腎移植の臓器提供者の増加を目的としてはいるが、私達が行ってきている活動は当初から死体腎移植にのみ焦点を絞ったものではなく、多臓器移植の推進を目的としたものであり、このような全臓器提供を申し出られる場合にもスムーズに多臓器移植が行えるように、救急医療側、移植医療側および脳死者家族の間に立ち、公平・公正を旨とした第三者的な調整者としての任務を遂行していかなければならないと考えている。

今回、結局は心停止後の臓器提供となり、待ち望まれている脳死臓器移植の実現には至らなかったが、3例の膵・腎・眼球の多臓器提供者の家族の方々に接する機会を得た。3家族とも、脳死をもって人の死とする科学的な考え方を容認し、家族が脳死と確定された場合、心停止以前でも臓器摘出をしても構わないとした上で、臓器移植のために全臓器を提供したいと申し出られた。現段階では大変貴重な事例に、移植コーディネーターとして参加し、マスコミとの対応、ドナー家族との話し合いなど非常に有意義な経験が出来た。

ドナー家族の方をマスコミの取材攻勢から守ることは、これからは移植コーディネーターの大きな任務となるであろう。特に症例@の場合は、ニュース性が大きかったために、ドナー病院およびドナー家族に対しての取材が激しく、非常な迷惑を掛ける結果となった。

移植コーディネーターとして家族の方々に接し、家族の立場でのものの考え方を重視し、脳死の容認の確認から入って、臓器提供が自分達の意志によるもので、周りからの強制や説得で承諾していないことを確認し、心臓が動いている時にメスを入れることで全臓器の提供がなされて本当によいのかなどを確認した。インフォームド・コンセントを確認する意味で、社会的にマスコミの納得のいくようにテレビカメラを前にして確認しなければならないという意見もあったが、症例AおよびBでは、誰が発言しているのかが分かるように詳しくテープに録音し、必要に応じて公開するものとした。ドナー家族に接して、3家族とも提供理由に多少の相違点はあるものの、移植コーディネーターからの確認事項については、すべて家族全員の合意のもとに決定されたものであり、説明を追加する必要もほとんどなかった。そればかりか、心臓および肝臓が移植のために用いることが出来ないと分かると、歯痒いくらいの残念さを訴えておられた。

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移植コーディネーターは、大阪の3例を喧伝して、だから脳死臓器移植は家族同意でやってもいいんだ、既に心停止後移植をやってるし、そのときの家族はほんとは脳死移植をしてほしかったんだ、と主張しようとしているようですが、そうはいかない。すべての家族がそういう考え方をするとは限らない。また脳死を死とすることを科学的な考え方を受け容れているなどと書いているけど、脳死を死としない考え方も充分科学的です。アラン=シューモン博士は、一か月以上脳死状態が持続した事例を集めて傾向を分析して研究論文を発表しています。もっとも、だからといって脳死移植に反対はしていません。
*参照
「日本の『脳死』法は世界の最先端」(森岡正博、『中央公論』2001年2月号)
http://www.lifestudies.org/jp/noshiho01.htm

『移植』Vol.28, 1993年、supplementではまた、大阪府立千里救命救急センターの医師が、脳死と診断された患者から腎臓を提供した家族へのアンケート調査の結果を報告しています。

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『移植』Vol.28, 1993年、supplement
(p.515-518)
「脳死臨調最終答申後の現在、脳死臓器移植を推進するためになにをなすべきか〜救急医の立場から〜」
千里救命救急センター: 川嶋隆久

I.はじめに
大阪府立千里救命救急センターでは、年間約40人の脳死症例が発生し、1979年12月の開院以来、脳死症例からの腎臓提供は30件あった。うち26件が1987年以降の5年間に集中している。心臓提供6件、肝臓提供7件の申し出もあったが、初版の事情で故人・御家族の希望はかなっていない。また救急医のなかには、全力を傾けた後に臓器提供など頼めない、警察・マスコミなどに巻き込まれたくないとの理由で、脳死症例からの臓器移植に消極的な意見がある。そこで、脳死症例家族の脳死と臓器提供に対する考え方を検討し、今後の救急医としての脳死・臓器移植医療に対する取りくみについて提言する。

II.対象と方法
大阪府立千里救命救急センターにおける腎臓提供のあった脳死症例30例のうち、自験例9家族14人、内訳としては故人からみて配偶者6人、子供4人を対象とし、脳死臨調最終答申後の1992年6月、脳死と臓器提供についての意識調査をインタビュー方式にて行った。

III.結果
1)脳死について
以前から脳死について多少は知っていた人13人、知らなかった人1人であった。しかし、脳死と心臓死との区別については、知らなかった7人、多少は知っていた6人、よく知っていた1人で両者の区別を十分理解していた人はわずかに1人であった。

2)脳死を人の死と考えるか
家族の脳死体験前に、脳死を人の死と考えていた人5人に対し、考えていなかった(3人)・わからない(6人)と答えた人が9人と多かった。家族の脳死体験後現在脳死は人の死と考える人は12人と増え、反対に考えない(1人)・わからない(1人)と答える人はわずか2人となった。

3)臓器移植に賛成か
臓器移植について賛成12人、わからないが2人であったが、自分が脳死になった時は全員が臓器提供したいと答えた。家族が脳死となった時の臓器提供は賛成人、いいえ・わからないが1人ずつであった。

4)脳死症例からの臓器提供の際、誰の意見を最も重視するか
故人・配偶者・子供・親が3人ずつ、兄弟姉妹・わからないが1人ずつであった。

5)故人の意思がはっきりしない場合の臓器提供について
家族の了承があれば差し支えないとする意見が12人、許されるべきではない・わからないとする意見がそれぞれ1人であった。

6)腎臓提供の話をきりだしたのは誰か
今回の検討では、全例医師であった。また医師からの腎臓提供の話がなければ提供しなかたとする人が9家族12人あった。その理由として全員が、家族が突然脳死におちいり、臓器提供まで考える余裕はなかったと答えた。

7) 腎臓提供理由
他の人が助かるからという人道的精神の発露、助からないまでも身体の一部だけでも生き続けて欲しいという家族の切実な願い、病院が故人の治療に熱心であったからという病院と患者家族との信頼関係を示す理由が多かった。

8)腎臓以外に他の臓器を提供してもよかったか
今回の対象例では、腎臓以外に2家族で全臓器の提供、1家族で膵臓の提供申し入れを把握していたが、調査の結果、腎臓・肝臓11人8家族、心臓9人6家族、肺9人6家族、角膜8人6家族の提供意思があった。総計9家族12人が腎臓以外の臓器提供もしてもよいと考えていた。

9)故人・家族からの希望があるにもかかわらず、臓器提供の意思がかなわない事例があることに対してどう思うか
9家族13人が故人・家族の意思を最大限に尊重すべきであると考え、現状では臓器提供がかなわなくても仕方がないとする人は皆無であった。

IV.考察(p.518)
脳死についての理解は結果1), 2)より、世間一般には未だ不十分であると予測される。つまり、脳死と心臓死の区別が十分理解されず、また今回の検討でも、家族の脳死体験を通して脳死と植物状態との区別がはじめてわかったと答える家族も多かった。このような現状で、脳死症例からの臓器提供の是非を世論に問うても十分な理解が得られるとは考え難い。今後脳死臨調を進めていく上で、脳死についての理解をいままで以上に広げる努力が必要である。医療従事者はもちろんのこと、マスコミの影響力・使命は多大であり、脳死とはどういう状態なのかを偏見なく正しくひろめる必要がある。

脳死症例からの臓器提供に際し、故人の意思確認が問題とされる。今回の検討では、故人の意思が明確な場合はもちろんのこと、明確でない場合でも家族の了承があれば差し支えないとする意見が大多数であった。これは、何もしゃべれない脳死者に代わり、家族が故人の意思を代弁しうるとの判断からであり、また、故人・家族の意思が最大限に尊重されうる体制が望まれていることを強調したい。

腎臓提供の理由として、人道的精神の発露、身体の一部だけでも生き続けて欲しいという家族の切実な願い、医師と患者家族との信頼関係を示すものが多かったが、注目すべきは腎臓以外にも臓器を提供してもよいと考えていた人が、我々の把握数をはるかに上回っていたことである。我々としては、家族の心情を十分に把握するべく、また臓器提供したいという故人・家族の願いをかなえるべく、脳死・臓器移植問題から逃避するのではなく、いままで以上に患者サイドの立場でこの問題に対応しなければならない。また故人・家族の臓器提供したいという意思は最大限尊重して欲しいという彼らの願いをかなえるべく、各方面の方と連携をとり努力するのが我々の責務であろう。その際、移植コーディネーターには、レシピエントサイドにかたよらず、揺れ動くドナー家族の心情をも理解し、ドナーサイド・レシピエントサイド両者の立場に立ち、彼らが冷静により良い判断を下せるよう支援してくれることを切望する。

最近、臓器提供ネットワークが組織化されるつあるが、移植医中心に進められている感がある。ドナーとその家族の心情、救急医の苦悩をも理解したネットワークづくりでなければ、今後の発展は難しいものと考える。移植コーディネーターには、各セクションの統括および今まで忘れられてきたドナー家族に対する心理面のバックアップ体制の確立についても期待する。

ところで、今回の検討で、医師からの腎臓提供の話がなければ提供しなかったとする人が9家族12人であった。これは臓器提供まで考える余裕が家族にはなかったからであり、今後脳死症例からの臓器提供を進めるためには、悲しみと混乱の中にある家族に対して誰が臓器提供を含めた説明を行い、彼らから如何に理解と賛同を得ることができるかにかかっている。そのためには彼らの苦悩をともに分かち合い昇華しうる人が必要不可欠であり、今後主治医たる救急医はもちろんのこと、移植コーディネーターにはこの方面での活躍をも期待する。

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千里救命救急センターのアンケート結果は、医師から臓器提供の話をされて、同意した、という例ばかりです。同意した理由には、「他の人が助かるからという人道的精神の発露、助からないまでも身体の一部だけでも生き続けて欲しいという家族の切実な願い、病院が故人の治療に熱心であったからという病院と患者家族との信頼関係」が挙げられています。そして、本人の意思表示がなくても家族の同意だけで臓器提供してもよい、という回答が多数でした。

これは、一つには、自分たちの看取り方を肯定する限り、当然の回答だと思いますし、肯定することも当然だと思います。ただ、「病院が故人の治療に熱心であったから」という理由については、医師側が、患者への治療の熱心さを、悪い表現をつかえば取引に使った、ということになると思います。

トリオ・ジャパンのシンポジウムで、東京都立墨東病院救命救急センターの浜辺祐一医師は、「はっきり言って、僕は落とすのが上手ですが、だけど落とすのが上手だとは言われたくないのです。だからこそ、かえって主治医は身を引くべきであろうと思います。」と述べています。
*参照
第8回トリオ・ジャパン・セミナー「臓器提供―現状と課題」(2000年7月8日)
http://square.umin.ac.jp/trio/seminar/seminar8.htm

さらにまた、家族同意だけでよいという、ドナー家族自身の意見は、その当の御家族の場合はそれでよかったと思いますが、法律として全国民を対象としてあてはめるのには賛成できません。なんとなれば、『移植』Vol.28, 1993年, supplementの「脳死移植に向けて移植コーディネーターの立場から」(玉置勲、[当時]東京医大八王子医療センター腎移植センター、p.519-522)の「IV.考察」にもあるように、移植コーディネーターは、患者の家族から最終的な承諾がとれる前に、既に、脳死患者の検体を検査部門に送り、適合するレシピエントを探し始めているからです。また、心停止下移植の場合でも、心停止前から、患者本人の治療のためではない、移植のための臓器保存の処置を始めます。このようなことが、患者の看取りとして、許されるのは、やはり、本人の事前の同意があり、その意思を尊重する、という基本原則が守られてこそだと思います。

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『移植』Vol.31, No.2, 1996年
第28回日本腎移植臨床研究会記録
(p.168)
「129 ドナー家族への臓器提供に関する説明を文書とともに行った1例」
市立札幌病院移植コーディネーター・腎移植科: 西垣文敬・平野哲夫・新藤純理

臓器提供の承諾に際し、ドナー家族とのインフォームド・コンセントは極めて重要である。そこで、インフォームド・コンセントを徹底する目的で、説明内容を文書にし、これを用いて説明し、承諾を得た。

心停止前のカテーテル装着の許可、低虚の諾否は強制でないこと、どの臓器を提供するかなど16項目を箇条書きにした文書を対象者全員に配布して説明した。

説明文書をもとに、承諾・許可が得られた項目、文書を作り直し、臓器摘出承諾書とは別に、ドナー家族と移植コーディネーターとが互いに署名捺印して交換した。

インフォームド・コンセントの不徹底は、社会に大きく影響を及ぼす場合がある。今回の試みは、家族が理解しやすく、後の問題も発生しにくい方法と考えられ、実際、スムーズに移植が行われた。今後も可能な限りこの方法の継続を考えている。

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岡山の移植コーディネーターは、いい仕事をしていると思います。臓器提供を希望したが、医学的な理由で中止した家族の悲嘆の過程につきあった事例を報告しています。

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『移植』Vol.33, No.3, 1998年
第31回日本腎移植臨床研究会記録
(p.247)
「136 移植コーディネーターが担うべきドナー家族対応の範囲」
岡山赤十字病院移植コーディネーター: 安田和広
鳥取県腎バンク移植コーディネーター: 江草延枝
国立岡山病院外科: 田中信一郎・藤岡正浩

【目的】
妻からの強い提供意思に基づくにも関わらず医学的理由で中止となった事例を基に、家族への関わり方を妻の悲嘆の経過を通して分析した。
【事例】
ドナーは、発症より8日目に医学的理由で斡旋を中止、21日目死亡退院となった。中止後も約2日毎に移植Coが訪問、妻との面接を行い、心理面への働きかけを行った。
【結果】
斡旋中止後は、感情的な反応を反復しながら経過し、時間とともに新しいアイデンティティーの確立へと移行した。3ヵ月半後の「お父さん、できる限りのことをやったよ。これでよかったんだよね。」との言葉で表現された。さらに、我々も時間を共有することにより、思い出づくりに関わることができ、ドナーCoの存在意義を再認識した。
【考察】
必ずしも「提供したい」との意思が叶えられなくとも、多くの人々によい影響をもたらすことができる。中止になった時点で終了ではなく、継続して関わりを持つ必要がある。

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ただ、本来は、患者本人の臓器提供の意思があったかどうかを重視すべきだと思います。

臓器提供意思表示カードの配布方法と所持率の関係を調べた研究があります。

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『移植』Vol.33, No.3, 1998年
第31回日本腎移植臨床研究会記録
(p.244)
「127 意思表示カードの普及方法に関する検討」
(社)日本臓器移植ネットワーク 北海道ブロックセンター: 西垣文敬・富山はるみ・作田真智子・平野哲夫・水戸○○(漢字が変換できない
市立札幌病院看護部: 佐藤真澄

【目的】
意思表示カードの効果的な普及方法を探る目的で、各配布方法における所持率、記入状況を調査した。
【方法】
カード、説明書、記入状況についてのアンケート用紙を配布した。
【結果】
各配布方法での配布枚数、アンケート回収率、カード所持率(提供意思有)を示す。
街頭配布: 425, 1.6%, 1.4%,
新聞折り込み: 4000, 1.2%, 0.9%,
病院常設: 744, 9.0%, 7.5%,
成人式: 1003, 5.2%, 4.1%,
高校授業: 161, 37.3%, 25.5%,
看護学校講義: 107, 38.3%, 34.6%,
職場(職員数1800名)と通じての配布(記入状況の調査なし)で、
727名のカード所持者(職員家族を含む)が得られた(対職員数比: 40.4%)。
脳死提供での記入状況: 数字と臓器に○を記入していたのは53.9%で、記入もれが目立った。
【考察】
カード常設施設の整備、説明を行った上での配布、職場を通じての配布が効果的と考えられた。脳死提供での記入もれに対する対策が必要と考えられた。

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「街頭配布」、「新聞折り込み」はほとんど効果がないけど、「病院常設」、「成人式」は、効果があるとみていいと思います。
問題は、「高校授業」「看護学校講義」の「カード所持率(提供意思有): 25.5%, 34.6%」です。この研究をした移植コーディネーターは、随分効果があったと思っているかもしれませんが、授業で臓器提供の話をしてその場で臓器提供意思表示カードを配って記入してもらってどんな記入をしたかアンケートで質問したのでしょうか?
それは思想信条の自由の侵害というものです。
その場でカードに記入なんかしたら、講師の話やその場の雰囲気に影響されやすいから、必ず、一旦、自宅に持ち帰ってから、各自、勝手に、記入するなり捨てるなり、してもらうべきです。
もしも、授業で話をしたときはカードを配っただけで、どんな記入をしたかは、後から、たとえば一週間たってからアンケート用紙を返送してもらったとかいうのなら、いいですが。
*参照
てるてる案「脳死否定論に基づく臓器移植法改正案について」(『現代文明学研究』第3号、2000年10月19日)
http://www.kinokopress.com/civil/0302.htm

2002年の心停止下臓器提供の数例では、脳死診断が問題になっています。1998年の関西医科大学の訴訟が影響を与えているものと思われます。心停止下移植において、患者本人のインフォームト・コンセントをとることが、尊重されるようになってきたのでしょうか。
*参照
救急医と移植医とが連携して行う臓器移植〜ターミナルケアと脳死身体の利用の接点〜
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/kyuukyuuishoku.htm

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第38回日本移植学会総会
http://www2.convention.co.jp/jst38/
会 期 :2002年10月17日(木)〜19日(土)
「S3-3 脳死診断が問題となったドナーカード所持の3症例」
(財)静岡県腎臓バンク・浜松医科大学泌尿器科学教室・焼津市立総合病院:
清水牧子・大田原佳久・鈴木和雄・藤田公生・鈴木利昌・石川晃

【目的】
臓器移植法施行後、脳死診断を巡り、心停止後献腎の術前処置実施について、ドナー主治医の葛藤がみられる。今回、ドナーカードを所持しながら、脳死診断で問題となった3症例を経験したので報告し、その問題を明らかにする。
【症例】
第1症例は、旧腎ドナーカードを所持。家族の申し出で献腎を希望した。法的脳死判定に準じた脳死診断を経て、術前処置を行い提供に至った。
第2症例は、旧腎ドナーカードを所持、家族の申し出で献腎を希望した。法的脳死判定に準じた脳死診断を実施する予定であったが、患者急変により、施設の意向に添い心停止後の処置を経て、献腎に至った。
第3症例は、意思表示カードを所持していたが、記載不備の為、心停止後の献腎対応とした。脳死診断において、高感度での平坦脳波が確認できず、また、家族からカード提出はあったものの死の受容ができないことから、献腎の承諾は得られなかった。
【考察・結語】
3症例に共通して、脳死診断が問題となり、提供医は法的脳死判定に拘りを見せた。心停止後の献腎における術前処置を行うことに関して、可能であれば法的脳死判定に準じた脳死診断を行うことが望まれるが、提供病院医師の判断、患者家族の臓器提供と穏やかな死の看取りの希望の中で、どのように意思を叶えることが出来るのか、提供現場での判断が重要な意味をもつものと考えられた。

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「S4-6 脳死診断がされていない心停止下の腎提供におけるコーディネーターの対応」
東京都臓器移植コーディネーター・東京医科大学八王子医療センター: 櫻井悦夫

現在、本邦においての心停止下からの臓器提供では、ヘパリン注入および心停止前のカニュレーションの処置は必須と考えられる。しかし、臨床的脳死診断が確定していない症例においては、これらの処置が行えないこととなっている。今回、臨床的脳死診断がされていない症例の対応を経験した。

症例は60歳代女性で勤務中に倒れているところを発見され、病院搬送後CT撮影にてクモ膜下出血と判明、手術適応なしと診断された。3日後主治医より家族へ、脳波は平坦とはいえないが長くてあと数週間との病状説明が行われた。発症6日後に臓器提供の意思ありと連絡を受けCoは病院へ伺い情報収集。主治医へは心停止直後の処置について依頼した。

家族へのインフォームドコンセントでは、通常の説明の他に、特にヘパリンの注入と心臓マッサージの必要性を強調した。その3日後に承諾を得た。承諾書受領後、主治医と急変時の対応として最初は血圧が60mmHgの時点とし、摘出チームには準備をお願いし、次の段階は血圧が40 mmHgの時点とし摘出チームとCoは院内待機とした。

実際待機し約2時間後に死亡確認、ヘパリン等の処置がされ摘出・移植された。共に1週間以内で透析より離脱、1ヶ月後の血清クレアチニンは2.1と1.6mg/dLであった。

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しかし、脳死下臓器提供の意思表示カードを持っている人が心停止下臓器提供になった、という事例が、制度上の不備の問題として、とりあげられています。

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『移植』Vol.35, No.5, 2000年
第33回日本腎移植臨床研究会記録
(p.329)
「N-23 脳死からの提供ができなかった家族との関わり」
(財)やまぐち角膜・腎臓等総合バンク: 蒲田真紀子
(財)島根県難病研究所しまねまごころバンク: 日野幸

我々は、本人・家族とも脳死下での提供を希望していたが、当該施設がガイドライン上の施設でない為心停止後の提供となった事例を経験した。この事例を通じて本人や家族の意志を実現できない場合の対応の難しさを感じ、家族との関わりについて検討した。症例は40歳代女性、脳出血で搬入され、第6病日にカードの提示があった。コーディネータ(以下Co)が説明を行ったところ脳死下での提供を強く望んでいたが、家族の納得の上で心停止後の提供が行われた。しかし後日「脳死下での提供をさせてあげたかった」と話された。今回の事例で「本人の意思を尊重してあげたい」という強い思いは、現行の規約により実現できなかった。Coは十分なインフォームドコンセントを行い納得していると思っていたが、家族には提供後も精神的動揺があることがわかった。今後「本人の意思を尊重する」という法の基本的理念が生かされるシステム作りとアフターケアの重要性を感じた。

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第39回日本移植学会総会, 2003年

「21 脳死下臓器提供のドナー情報で脳死下臓器提供に至らなかった事例の検討」
社団法人日本臓器移植ネットワーク: 芦刈淳太郎・小中節子・菊池耕三・浅野泰・寺岡慧・野本亀久雄

【目的】脳死下での臓器提供の意思表示カード(以下カード)を所持し、脳死下臓器提供を前提で日本臓器移植ネットワーク(以下NW)に連絡が入り移植コーディネーター(以下Co)を派遣したにもかかわらず、何らかの理由で脳死下臓器提供に至らなかった事例。
【対象・方法】NWに連絡が入ったカード所持のドナー情報602件(97年10月〜03年3月)を対象。
【結果】カード所持のドナー情報602件中、患者家族が脳死下臓器提供についての説明を聞く意思があるとの連絡をNWで受けた事例が36件(6.0%)であった。その36件のうち、Coを病院に派遣し患者家族に説明を行ったのは36件、脳死下臓器提供の承諾をいただいたのは33件、承諾をいただかなかったのは3件であった。そのうち、カード記載不備により中止となったのは1件、法的脳死判定中止になったのは5件、脳死と判定されたのは24件であった。

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「24 関東甲信越地区におけるドナー情報の分析」
社団法人日本臓器移植ネットワーク東日本支部: 川村梨紗・芦刈淳太郎・大宮かおり・小野都・菊池雅美・浅野泰

【方法】2000年1月から2002年12月までの3年間に、関東甲信越地区の施設から連絡をいただいたドナー情報320件。
【成績】全ドナー情報320件のうち意思表示カード(シール)に関連した情報は168件で、全体の52.5%を占めた。また、臓器提供に至った77事例においては、ご家族からの臓器提供の申し出が65例と全体の84.4%を占め、医師からの選択肢提示により提供に至ったのは12例(15.6%)であった。提供施設の内訳は、ガイドライン上の4類型該当施設が55施設(71.4%)で、非該当施設が22施設(28.6%)であった。
【結論】意思表示カードに関連した情報が半数以上を占め、限られた施設で医師からの選択肢提示が行われているほかは、多くがご家族からの申し出により臓器提供に至った事例であった。さらなる意思表示カードの普及に努めるとともに、心臓停止後の腎臓提供においては必ずしも本人の意思表示が必要でないこと等、広く周知していただくための情報提供が必要と考える。

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四国の移植コーディネーターが、脳死を経ない心停止後移植の場合、心拍停止後摘出チームは10分間摘出に関する行為を行えないとする「10分間ルール」を、1998年の第31回日本腎移植臨床研究会で提案しています。

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『移植』Vol.33, No.3, 1998年
第31回日本腎移植臨床研究会記録
(p.246)
「134 心停止後の腎提供プロセスの検討〜四国地域の献腎症例から〜」
JATCO四国地域移植コーディネーター勉強会: 西肥アグル
(財)香川県腎臓バンク: 仲田篤敏
愛媛県腎移植センター: 加地環
小松島赤十字病院: 森下幸子
高知県腎バンク協会: 岡本やよい
市立宇和島病院: 西村直美
愛媛県立中央病院: 大岡啓二
愛媛大泌尿器科: 俊野昭彦
松山赤十字病院外科: 石川哲大
衣山クリニック: 河崎和美
きなし大林病院: 池田智江

91年から97年までの四国地域における献腎症例(23症例)から、心停止後の腎提供プロセスについて検討し、心停止ドナーの摘出基準(案)を考察した。
@竹内基準を満たした脳死診断が施行されている場合
A臨床的脳死状態と判断されている場合
B脳死を経ない場合の3カテゴリーに分けられる。
看取りの場所は手術室とICUまたは病棟の2通りが考えられ、
心停止を見守るプロセスとして、3カテゴリーに応じた人工呼吸器の調整・昇圧剤の調整の選択肢が考えられる。
適正なコーディネートのため、脳死状態を経た心停止ドナーにかかる摘出条件(案)として、
@ダブルバルーンカテーテルの留置条件
A人工呼吸器の中止 / レベルダウンの条件を示すとともに、
脳死を経ない心停止ドナーにかかる摘出条件を明確にすべきであるとし、
参考とし「10分間ルール」: 心拍停止後摘出チームは10分間摘出に関する行為を行えないとするルールを示した。

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この「10分間ルール」については、森岡正博さんの「『脳死・臓器移植』専用掲示板」で、守田憲二さんによるくわしいコメントをいただきました。

>第31回日本腎移植臨床研究会で提案された内容は、First International Workshop on Non-Heart-Beating Donors(1995年オランダ)にて提唱された、心臓死ドナーの分類=マーストリヒト・カテゴリーと臓器摘出ルール=10 minutes rule を、紹介または引用されたのではないのでしょうか。それは、同じ四国、愛媛大泌尿器科の大岡 啓二氏らによる「心臓死ドナーにおける腎摘出までの過程」、移植、33(1)、19−23、1998で紹介されています。

>「心拍停止後摘出チームは10分間摘出に関する行為を行えないとするルール」についてですが、大岡氏らは移植、33(1)、19−23で「血圧低下などバイタルサイン低下時点で手術室に搬送し消毒など腎臓摘出の準備をしたうえで、心臓死を確認、開腹してダブルバルーンカテーテルを挿入し・・・摘出」した5ドナーあったのですが、いずれも心臓マッサージを行い手術室へ搬送しています。このうち1ドナー(2腎)は、摘出時に血栓形成がありヘパリンの量と使用時期に問題があった、と認識されています。

>心臓死ドナーからの臓器摘出ルール=10 minutes ruleは移植、33(1)、19−23で要旨「脳死患者以外は、心拍停止の後10分間待った後に臓器摘出を開始するというルール。心臓死10分以内であれば蘇生する可能性があるという意味ではなく、心臓死の患者(脳死患者は除く)の全ての神経機能が心停止後10分経過すれば間違いなく停止すると考えられるからであり、心停止後2分または3分で全神経機能が停止するとは証明されていないためである」と書かれています。しかし、心臓マッサージを行っているのであれば、神経機能の停止過程は中断されます。全くの無血流になっても「全ての神経機能が心停止後10分経過すれば間違いなく停止する」との主張は、死体の剖検所見や脳死後心停止10〜20分後の電気生理学的情報から否定されると思います。

心臓死ドナーの分類=マーストリヒト・カテゴリーについて、1995年に、Kootstra G.が二つの論文を書いています。

Transplantation Proceedings 1995 Oct;27(5):
"Categories of non-heart-beating donors", Kootstra G, Daemen JH, Oomen AP, Department of Surgery, University Hospital Maastricht, The Netherlands, 2893-4.
"Statement on non-heart-beating donor programs", Kootstra G, Department of Surgery, University Hospital Maastricht, The Netherlands, 2965.

"Kidney transplantation from non heart-beating donors", N.R. Brook and M.L. Nicholson.で、その内容を紹介しています。
http://www.rcsed.ac.uk/journal/svol1_6/10600001.html

CATEGORIES OF NHBDs
Four categories of NHBDs (Table 1) were identified at the first International Workshop on NHBDs in Maastricht.

TABLE 1. MAASTRICHT CATEGORIES OF NHBDS
Category Definition
I Dead on arrival at hospital
II Unsuccessful resuscitation
III Awaiting cardiac arrest
IV Cardiac arrest in a brain-stem dead patients

Iは、病院についたときに心肺停止している人
IIは、病院で心肺蘇生術をしたけど蘇生しなかった人
IIIは、脳死ではないが重篤な脳障害で回復の可能性がなく、家族の同意によって生命維持治療を停止した人、
IVは、集中治療室で脳死になったが状態が不安定で臓器を摘出する前に心拍停止になった人

これらは、心拍停止の時期が予想される、コントロールされた心停止ドナーと、心拍停止の時期が予想されなかった、コントロールされていない心停止ドナーとに二分され、Iは、コントロールされていない心停止ドナーで、コントロールされていないと、臓器の機能が維持される時間が短いので、コントロールされている心停止ドナーのほうが移植の予後がよい、ということのようです。

IIIの、脳死ではないが重篤な脳障害で回復の可能性がなく、家族の同意によって生命維持治療を停止した人、というカテゴリーがありますが、 「心停止ドナーについて、ドナー・プール拡大の期待と倫理的問題」で紹介している論文の一つ、「論題: 心停止ドナーからの臓器提供に関する、一般市民と医療職の態度」に、 「一般市民も医療職も、生命維持治療を停止する決定がなされた後ならば、心停止ドナーを利用してもよいと考えている。しかしながら、どちらのグループも、生命維持治療停止の決定の下され方に注意を向けている。」という調査があります。 Journal of critical care 2002 Mar;17(1):
"Attitudes regarding organ donation from non-heart-beating donors", Keenan SP, Hoffmaster B, Rutledge F, Eberhard J, Chen LM, Sibbald WJ, 29-36; discussion 37-8.
*参照
「心停止ドナーについて、ドナー・プール拡大の期待と倫理的問題」
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/200309pubmedreport.htm


ところで、1993年の大阪の移植コーディネーター湯浅光利、林良輔氏らは、
「多臓器移植に向けての移植コーディネーター活動」(『今日の移植』Vol.5,No.5,1992年9月号,p.477-480)の「考察」で、

最近、脳死問題を絡めた臓器移植医療がマスコミを賑わすようになったため、一般市民の多くは移植・脳死についての知識を持つようになっている。救急医療の現場でも、脳死、あるいは臓器提供に関する説明は以前と比べると時間のかからないものとなっているに違いない。同時に臓器提供に関する説明への反応も、イエス・ノーがはっきりとして短時間に答えが返ってくる傾向にあるようである。
「臓器移植医療における移植コーディネーターの役割」(湯浅光利・林良輔、『移植』Vol.28, 1993年、supplement, p.523-526)の「IV. 考察」で、
脳死問題を絡めた臓器移植医療がマスコミを賑わすようになったために、一般市民の多くは移植・脳死についての知識を持つようになっている。救急医療の現場でも、脳死あるいは臓器提供に関する説明は以前と比べると時間の掛からないものとなっているに違いない。同時に臓器提供に関する説明への反応も、イエス・ノーがはっきりとして短時間に答えが返ってくる傾向にあるようである。
と述べていますが、反対に、1992-1997年以降、臓器移植法や脳死についての論議が盛んになったことが影響を与えて、患者の家族が考える時間が長くなり、脳死後の治療を中止する例が減った、という報告もあります。

共同通信のウェブニュースで読むことができます。 http://kk.kyodo.co.jp/iryo/news/0217noushi.html

同じ記事が、神戸新聞2004年3月24日付第13面「医療」にも載っていました。

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「千葉県救急医療センター データが語る現実 / 脳死判定20年 あなたの肉親にどう向き合う / 家族の選択 多様化」

千葉県救急医療センター(千葉市)は患者の状態把握のため脳死判定を実施。判定後は無駄な延命治療はしないとの考えから、患者の家族に症状や見通しを話して同意を得た上で判定を実施して、家族に治療中止などその後の方針を選んでもらうという方法を二十年続けてきた。

同センターが設置された1980年から2000年まで、医師が脳死ではないかと判断した患者は558人いる。
実態を分析した佐藤章医師(現・埼玉医科大学教授)によると、このうち脳死判定をすることを家族が承諾し脳死判定されたのは390人。判定後に治療を中止するかどうかの相談をしたのは268人で、実際に治療を中止したのは224人。相談した中の84%に上った。
この比率を80-85年、86-91年、92-97年、98-2000年の四期に分けて比較すると、96%, 81%, 73%, 63%とだんだん減少。相談から意思決定までの時間は5.2, 6.6, 21.8, 19.2時間と長くなってきていた。

治療を中止しない理由は当初は単純な拒否だったが、昇圧剤や輸液など一部治療の打ち切り、同じ治療の継続などを求めることが多くなってきた。1997年の臓器移植法の施行で、脳死をめぐる論議、社会の関心が高まったことも影響しているのではないかという。

佐藤医師は「医師の言う通りに任せるのではなく、家族は慎重に判断し、いろいろな選択をするようになってきた」と話す。こうした対応をするには医療側が悲嘆にくれる家族ときちんと接し、集中治療室内に設けた個室で、ゆっくりと家族が患者と向き合えるなどの環境が必要だという。
「脳死判定をしなければ、患者がどういう状態かを正確に知ることはできない。脳死の状態を続けるのは、患者の体を傷めるだけで尊厳を損ねることにもなる。それも含めてすべて話をして家族に選択してもらうのが正しいと思っている」と佐藤医師。

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千葉県救急医療センターの記事で、例に挙げられている家族では、第一回の脳死判定の後で、患者の妻が、「脳死と確定したらどうなるのか」と主治医に尋ね、
(1)治療中止
(2)昇圧剤投与など一部の治療を中止
(3)そのまま集中治療を続ける
という選択肢を示されています。

日本医科大学高度救命救急センター、多摩永山病院救命救急センターの山本保博、横田裕行医師は、「意思表示カードの呈示を目的とした臨床的脳死診断」は必要ない、法的脳死判定の1回目以降で臓器提供、臓器摘出の準備を始めればよい、と述べています。

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『移植』Vol.37,No.4,2002年、「救急施設からみた脳死下臓器提供の問題点」p.141-146, 山本保博、横田裕行、日本医科大学高度救命救急センター、多摩永山病院救命救急センター

IV.まとめ(p.145-146)
現在の臓器提供施設では年間推定約4,000人弱の脳死患者が発生している。一方、意思表示カードの所有率が5〜10%であることを勘案すると、現在の脳死下臓器提供はあまりにも少数である。その原因がどこにあるかを臓器提供施設側から考察を試みた。その結果、以下の点が明らかになった。
(1)意思表示カードの呈示を目的とした臨床的脳死診断は手順を複雑化し、脳死判定までの時間を不必要に延長するので廃止するべきである。
(2)法的脳死診断の第1回目と第2回目の間に臓器提供、臓器摘出に向けた種々の手続きの準備が可能のなるようにする。
(3)従来の脳死判定基準では判定が不可能な症例(鼓膜損傷、頚髄損傷、視力あるいは聴力損傷の患者)でも判定が可能な脳死判定基準を作成する。
(4)臓器提供者の特定ができないようなシステムの構築が必要である。

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『今日の移植』Vol.15,No.4,2002年、「臓器提供サイドからみた臓器摘出の問題点と解決策」p.321-325, 山本保博、横田裕行、日本医科大学高度救命救急センター、多摩永山病院救命救急センター

結論
法律の範囲内でより円滑な脳死下臓器提供が可能となるために、以下のことが必要と考える。
1.意思表示カードの呈示を目的とした臨床的脳死診断は廃止する。
2.法的脳死診断の第1回目と第2回目の間に臓器提供、臓器摘出に向けた種々の手続きが可能となるようにする。
3.従来の脳死判定基準では判定が不可能な症例(鼓膜損傷、視力あるいは聴力損傷の患者)でも判定が可能な脳死判定基準を作成する。
4.集中治療室でしばしば使用し、中枢神経系に影響を及ぼす種々の薬剤を使用している際の、具体的な脳死判定の方法を明らかにする。

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しかし、たとえ脳死臓器提供をできる施設でも、「意思表示カードの呈示を目的とした臨床的脳死診断」という考え方は、どうでしょうか。

千葉県救急医療センターの例で言えば、「(4)本人の臓器提供意思を表示したカードがあれば臓器提供する」という選択肢を追加するだけでいいのではないでしょうか。

現行法では経過措置として本人の意思表示がなくてもできるとされている心停止下移植でも、本来、「(4)本人の臓器提供意思を表示したカードがあれば臓器提供する」という選択肢を呈示するに留め、家族の同意で臓器提供できますなどというのは、やめるべきです。


2003年の第39回日本移植学会総会で、東京の移植コーディネーターから、ドナーコーディネーターとレシピエントコーディネーターが連携して、ドナー家族とレシピエントの交流をはかった報告があります。
これは、たいへんよいことだと思います。
移植医療では、ドナーの存在なくしては移植そのものが成り立たず、ドナーの家族のための、臓器提供後の精神的サポートなしに、レシピエントのための移植後の精神的サポートも充実しません。
移植コーディネーターにとって、脳死や死期の迫った患者の家族は、潜在的ドナーの家族であって、臓器提供を承諾してもらうために働きかけ、悲嘆のケアも、臓器獲得の目的遂行のために行ないます。
しかし、悲嘆のケアは、臓器を提供したら終わりではなくて、むしろそこから始まると言ってもよいぐらいです。
それゆえ、移植医療では、ドナーの家族とレシピエントとが、ともに、ドナーの死を悼み、悲しみを分かち合い、レシピエントの健康な人生を喜び合い、ドナー側、レシピエント側、双方満足することを、移植医療の最終目標だとするべきです。
そうでなければ、レシピエントの予後さえよければ、ドナーはただのものいわぬもの、薬のようなもの、医療資源ということになってしまいます。
もっとも、移植コーディネーターは、それを、臓器提供希望者の増加に、より多くの臓器獲得に結びつけようと努力する傾向があり、そうなると、ドナー家族の精神的ケアは、移植医療の宣伝に利用される結果になってしまう恐れがあります。

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第39回日本移植学会総会: 2003年10月26日(日)〜28日(火)
http://www2.convention.co.jp/jst39/
「28 ドナーコーディネーターとレシピエントコーディネーターの連携」
東京女子医科大学腎臓病総合医療センター外科病棟: 岡部祥

【目的】
当院ではレシピエントコーディネーターの養成を初めて3年が経過した。献腎移植におけるレシピエントの感謝の気持ちを表現する方法の一つにサンクスレターがある。その取り扱いを通してドナーコーディネーターとレシピエントコーディネーターの連携の大切さを学んだので報告する。
【方法】
1期:2001年9月からの1年間はサンクスレターのお預かりと送付のみを行っていた時期。
2期:2002年9月からはサンクスレターのお預かりと送付に関連してレシピエントの近況、ドナー様ご家族の近況について情報交換が行われるようになった時期。1期から2期に移行するに至った経緯と変化をまとめた。
【結果】
2期ではドナー様ご家族とレシピエントがお互いの気持ちを知ることができるようになり、継続してやりとりが行われる例が増えた。ドナー様ご家族の気持ちがわかり気持ちが楽になったなどの反応が聞かれた。
【考察】
ドナーコーディネーターとレシピエントコーディネーターが連携をはかることでドナー様ご家族およびレシピエントの心のケアにつながると考えられる。ひいては移植医療の啓蒙活動にもつながると考えられた。

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*参照
"transplant community" の二つの意味
ドナーとレシピエントの交流について
National Communication Guidelines 抄訳
Pamela Albert (CPTC) の論文抄訳・部分訳
てるてる抄訳、および、考察 2001年5月15日
Pamela Albertは、New England Organ Bankのドナーコーディネーター(CPTC)で、National Communication Guidelinesの作成にも参加しました。論文では、ドナー家族とレシピエントとが直接会ったケースについて報告しています。
David Lewino(CPTC)の論文抄訳
LaRhonda Clayvilleの論文抄訳
てるてる抄訳、および、考察 2001年5月19日
レシピエントと会うことが、ドナー家族のgrief processに与える影響を調べた研究。
レシピエントと対面した5家族を対象に、インタビューによる調査をおこなっています。
5家族のうち4家族は、こどもがドナーで、5家族全部がメディアの助けを借りてレシピエントに会っていました。

こどもの臓器提供について、北海道の移植コーディネーターが1997年の第33回日本移植学会総会で報告しています。

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第33回日本移植学会総会: 1997年9月16日〜18日
シンポジウム28 日本における移植ネットワーク(9月18日)
「S-28-3 小児ドナー(心停止後の腎臓提供)両親の心理学的背景の検討」
(社)日本腎臓移植ネットワーク・北海道ブロックセンター: 西垣文敬、作田真智子、平野哲夫、水戸○○(漢字が変換できない)
市立札幌病院看護部: 佐藤真澄

[目的]
ドナーが小児の場合の両親はとりわけ悲嘆度が強いと推察される。我々は、2例の小児ドナーの経験を踏まえた上で、その両親の心理学的背景の検討を試みたので若干の考察を加えて報告する。
[対象]
事例1: 5歳、男児、原疾患: 窒息(溺水)、蘇生後脳症。提供臓器: 腎臓。
事例2: 8歳、女児、原疾患: 喘息重責発作、蘇生後脳症。提供臓器、腎臓、角膜。
[結果]
提供理由:
事例1、体の一部でも生きつづけてほしい。移植医療への理解(親戚の子供が胆道閉鎖症で死亡、角膜提供。実子が心臓の手術既応)。
事例2、体の一部でも生きつづけてほしい。医療への理解(父親が胃癌手術既応、入院中小児の点滴を見るのが辛かった)。
摘出前の心情:
事例1、面接中涙、遺体を抱いて帰りたい。後悔(そばについていれば)。
事例2、面接中涙ぐむ、回復不可能の説明時に死んだものと考えたが、その夜は辛かった。体に傷をつけるのが辛い。後悔(もう少し早く病院につれて行っていたら)。
その他: いずれの両親も小児レシピエントを自ら希望。
[考察]
両親の悲嘆はその言動から極めて強いものと思われたが、同年代の子供に腎臓を提供することが、悲嘆の軽減につながっている可能性が示唆された。状況によっては、小児ポテンシャルドナー両親への臓器提供の提示を積極的に行い得ると考えられた。また、小児ドナーの場合のレシピエント選択基準の確立が望まれる。

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こどもの臓器提供、特に腎臓の提供については、1998年の第31回日本腎移植臨床研究会腎移植連絡協議会でも、3件の報告があるのですが、そこで、幼児は、おとなよりも腎機能が保存される時間が長い、と述べられています。
このときは、従来、こどものドナーが出ても、組織適合性を優先して、成人に移植されることが多かったが、むしろ、組織適合性が悪くても、こどものレシピエントに移植したほうが予後がよく、また、こどもの場合、成人からの移植は適さないことがあるので、こどものドナーが出たら、こどもに移植する、という体制をとったほうがよい、という主張で、3件の報告が一致しています。
この主張は、1997年の日本移植学会総会での北海道大学の報告「S-28-3 小児ドナー(心停止後の腎臓提供)両親の心理学的背景の検討」(日本腎臓移植ネットワーク・北海道ブロックセンター)の、ドナー家族の心情を考えると、こどものドナーからはこどもに移植したほうがよい、という主張とも一致します。

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『移植』Vol.33, No.3, 1998年
第31回日本腎移植臨床研究会記録
(p.204-205)
【腎移植連絡協議会】
「1 小児死体腎移植の適応について〜3歳以下のドナーからの小児腎移植〜」
新潟大泌尿器科: 高橋公太

慢性腎不全において成長・発達はもとより通学のためにも腎移植は絶対的な適応であるが、わが国では献腎(死体腎)の提供が少ないため少数の小児腎移植しか施行されていない。小児ドナーからの腎提供は少なく、たとえ小児ドナーからの腎提供があっても、現在の適応基準では、小児レシピエントに適した腎臓も成人レシピエントに移植される機会が多く、現実にわが国の現状でもその傾向が強い。今回は、3歳以下のドナーからの小児移植を提示し以下の結論をえた。移植後の長期腎機能、組織適合性、慢性腎不全患児における透析の困難性、腎移植の必然性、および倫理性などの諸条件から考えて、小児ドナーからの腎臓は、小児レシピエントに移植すべきであり、適切な小児がいない場合に限って、成人レシピエントに選択の枠を拡大して移植すべきである。

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「2小児腎提供の適応〜2歳10ヵ月の女児から成人への腎移植の経験〜」
名古屋第二赤十字病院 移植外科: 幅 俊人

東海北陸ブロックセンター内において摘出され、予後調査が可能であった68名、128腎について検討した。男子比は45:23、平均年齢は44.4プラスマイナス18.4歳であった。死因は若年層で交通外傷が、高齢層で脳血管障害が多かった。移植後生着例のWIT,TITはそれぞれ12.7分と18.2時間であった。20代の提供者で20例中2例4腎がPNF(primary non-function), 50歳以上の症例で63件中2例3腎がPNFであった。一方、16歳未満の症例は6例10腎であり、1例2腎がPNFであったが、他は生着中である。また、2歳10ヵ月の提供者はWITが40分あり、47歳と49歳の成人男性に移植されたが、いずれも良好に機能している(Cr: 1.5, 1.8mg/dl).今回の検討では小児から小児への腎提供は1例のみが確認されたが、良好に機能している。hyperfiltrationによる腎機能低下の可能性を考え、小児腎の成人での使用については検討が必要と考えられる。

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「3小児死体腎移植の適応について」
東京女子医大泌尿器科・腎小児・第3外科: 田辺一成・石川暢夫・太田敏之・白髪宏司・伊藤克己・渕之上昌平・徳本直彦・阿岸鉄三・東間紘

小児腎不全は腎移植の最もよい適応と考えられる。一方、小児ドナーからの腎移植は少なく、適合性のみを優先して移植する場合、小児腎を成人に移植することが多くなると考えられるが、その成績および小児症例の特殊性を考えるとき、これは必ずしも妥当ではないと考える。当科では1983年より1997年までの間に14例の小児ドナー腎を用いた腎移植を行った。このうち組織適合性を重視して移植した9例において、9例すべてが成人に移植されていた。一方、適合性を無視し、小児ドナーから小児ドナーへ移植した場合の適合性は悪く4例でDR0マッチであったが、その成績は成人移植例より良好であった。小児腎不全患者は長期透析に伴う心機能障害などのため血行動態的に成人の腎臓が移植困難である場合、小児ドナー腎でなければ移植できないこともある。また、小児症例では、透析療法そのものが困難であることも少なくなく、その緊急性、重要性は成人例に比べて極めて高い。このよう点を考慮にいれた場合、すくなくとも小児ドナー腎は小児に移植することが妥当であると考えられる。われわれの成績も示しているように適合性がたとえ悪くても良好な成績がえられることから、適合性のみにとらわれない新しい基準が必要になるものと考えられた。

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なお、"Kidney transplantation from non heart-beating donors", N.R. Brook and M.L. Nicholson.でも、若いドナーのほうが、腎臓の機能が保存される時間が長い、と延べています。
http://www.rcsed.ac.uk/journal/svol1_6/10600001.html

>Donor age and warm time should be considered together; it may be possible, for example, to successfully transplant kidneys from a very young donor even if the warm time has extended to 60 minutes.


(3)臓器提供を申し出る家族と申し入れる移植コーディネーターのすれ違い

1993年、脳死と診断された息子さんから心停止下で腎臓を摘出することを申し出た柳田邦男氏は、「犠牲(サクリファイス)」(文藝春秋社、1995年、および、文春文庫、1999年)で、そのときの移植コーディネーターとの会話を書いています。

このときの主治医は日本医科大学多摩永山病院救命救急センターの冨岡譲二医師を含む4人、移植コーディネーターは、東京都八王子医療センターで当時厚生省地方腎移植センター主任移植コーディネーターを務めていた玉置勲氏でした。

「犠牲(サクリファイス)」(文春文庫、1999年、p.182)

「血圧が五十を切っても、いつまでも心停止しないときは、腎機能に異常をきたす可能性があるので、そのときは、心停止前に冷却した腎保存液の注入を開始したいのです。それによって心停止が数分から十分程度はやまる可能性があるのですが、よろしいでしょうか」
玉置氏が冨岡医師に同席してもらって、そういった。
心停止を早めるというと大袈裟だが、もともと無駄な延命を拒否して昇圧剤の点滴をやめたことは、すでに心停止を早める措置を行なっているに等しいのだから、それがさらに腎保存のために数分ないし十分程度短縮されたからといって、本質的には何の新しい事態でもない。感情的にも何の抵抗感もなかったから、私は、「異存ありません。最善の腎移植が行なわれるような方法を選んでください」と答えた。
柳田氏は、既に延命治療を諦めたのだから心停止前から処置して心拍停止が早まってもかまわない、と考えています。

臓器移植法が施行される前、柳田邦男さんは、息子さんに脳死下臓器提供させてもいいと思ったが、本人の事前の書面による同意の意思表示もなかったので、骨髄移植の登録から本人の意思を推定して、心停止下の腎臓提供を行いました。

柳田邦男さんが臓器提供の承諾書に記入するとき、移植コーディネーターの玉置勲氏は、

「腎臓以外に膵臓の提供も如何でしょうか。腎臓病と糖尿病の両方を持つ患者さんには、最近は膵も移植するという治療が行なわれるようになっているんです」(前掲書、p.145)
と尋ねます。
このとき、柳田さんのもうひとりの息子さんが、
「ただ弟の臓器を利用するというのでなく、病気で苦しむ人を助ける医療に弟が参加するのを、医師は専門家として手伝うのだ、というふうに考えてほしいと思うんです」(前掲書、p.145)
と答えています。

脳死と診断された患者の家族からの臓器提供の「申し出」と、移植コーディネーターからの「申し入れ」のすれ違いが、ここに表われていると思います。

移植のための臓器はいつも不足しており、ES細胞を使って臓器を再生する研究に期待が持たれています。しかし、それにもまた、受精卵や未受精卵の提供を必要とします。ES細胞の研究に受精卵を提供しようと考える夫婦への説明にビデオが使われることがあり、最相葉月さんのサイトで、そのビデオを情報公開請求して見たという女性の意見が紹介されています。

受精卵は人か否か
http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/news/newsmokuji.html

http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/news/news040304-1.html
2002年6月10日付
京大で受精卵をもらうための説明ビデオ見ました(匿名)
 「こんな風に`もらうためのビデオ`は作られるのかー」がはじめの感想です。以前の何も知らない私が、生殖技術を利用し待望の我が子を抱くことが出来た後にこのビデオを見せられていたら、「提供します!」と思わず言っていた可能性大だなーと思いました。なぜならこのビデオは、噴水と緑と子供の笑顔で始まり、あの痛くつらい採卵場面はほんの一瞬で、あとは神経系の病で全身がふるえ筋緊張が強く不随意運動などもあって静座の出来ない本当につらそうな病者を映し出しているから・・・。その次の場面では、この悪しき病を退治すべく「こーんなすばらしい研究が進んでいます!」と心拍動している器官を映し出し、クライマックスは正義の味方のように見える?研究者が「尊い命の萌芽である受精卵が大切なのはよくよくわかっていますが、そこのところはひとつボランティア精神で宜しくお願いします」と殺し文句がくるから・・・。これを見て「それでもやっぱり嫌だ・・・」といった後、どんな気持ちが残るのでしょう・・・。

 

心停止下臓器提供の話を、脳死または死期の迫った患者の家族にする移植コーディネーターの話にも、そんなところがないかな、と思います。

http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/news/news040304-2.html
2002年8月22日付
京大で受精卵をもらうための説明ビデオ見ました パート2(匿名)
 今回は、再度「説明ビデオ」の元となった映像を見せてもらいました。それには、NHKのTV番組『サイエンス・アイ』の「再生医療」に関する特集が一部使われていました。「患者さん用の説明ビデオを作るのにTV番組なんかも利用するんか・・・」と帰る段取りをしていると、担当者の方がぼそっと「まぁ、この採卵場面だけはドギツイんでカットしょうかということになっています。」と言われた。私が「どなたが、どうドギツイと思われ、カットしようと判断されたのですか?」と聞き返すと「・・・それは言えません。」ということでした。私もはじめて採卵場面(内診台にのり両足を広げている姿)を見た時、以前の自分自身の姿と重なり、恥ずかしさや情けなさ、今度こそという期待とまたダメかもという不安など色々な気持ちをもちながら採卵の痛みに耐えていた頃が思い出され、胸がぎゅーっと痛くなりました。この場面をカットするということは、それらのプロセスもカットするということだと思います。実際このビデオを見るご夫婦というのは、体外受精により2~3人の子供が授かり子育て真っ最中の時期だと思います。しんどいプロセスを経て子供が授かったということは、心に深く留まっているものだとは思いますが、現実はそんなしみじみ感に浸っている時間も、ましてや凍結受精卵の提供の是非についてじっくり考える時間もないと思います。そんな中で採卵場面もなく再生医療のすばらしさとボランティア精神を訴えかけるこのビデオを見せるという設定は、提供者の状況を十分に配慮したものかと疑問に思います。また、今、目の前で泣いたり笑ったりする我が子の日々の成長とその出会いに感動しているご夫婦にとって、病院の冷凍庫に残している受精卵はどのような存在なのでしょうか?「たまたま医師が選んだ受精卵がこの子供たちだった。」という思いや「保育園に残した子供をまだ迎えに行っていないような気持ちがする。」など、同じ"いのちの重み"を前にどう決心すればよいのか複雑な心境になる方もおられると思います。

 私は、研究をされる方の「うゎー人間ってすごい!これをこうするとこんな風になるんだ!」という気持ちも遠い世界ながらわかります。そして、病気でご本人にとってつらい状態の方が、少しでも安楽に過ごされる事が出来れば・・・とも思います。しかし、その研究のために「あ!ここにあるやん。」という感じで受精卵を使って欲しくはありません。なぜ今、不自然に多くの受精卵がここにあるのか・・・。過剰排卵をさせなければ成功につながりにくい事や、しんどい体外受精を何度もして子供が授かった後にすんなり自然妊娠をしたという報告など、今は生殖技術の見直しがまず必要だと思います。

 

受精卵提供の説明で、採卵場面も含めてビデオを使うことが必要であると思われるように、臓器提供の説明にも、臓器摘出場面も含めてビデオを使うことが必要かもしれません。
杉本健郎医師は、息子さんの腎臓摘出手術に立ち会いました。その経験から、立ち会った親も、臓器を摘出される子も、痛みを感じるのであり、親の同意でこどもの臓器提供をしてもいいというのなら、親が希望すれば摘出手術に立ち会えるようにするべきだ、と述べています。
*参照
2003/09/13(土)杉本健郎さんの講演会の感想など
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/20030913report2.htm

>「あ!ここにあるやん。」という感じで受精卵を使って欲しくはありません。
>「ただ弟の臓器を利用するというのでなく、病気で苦しむ人を助ける医療に弟が参加するのを、医師は専門家として手伝うのだ、というふうに考えてほしいと思うんです」

本人の同意の意思表示がないときに家族に心停止下臓器提供の話をする移植コーディネーターも、臓器摘出場面を含めたビデオを家族に見せるほうがいいかもしれません。


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