日本では、1997年施行の臓器移植法により、脳死後の臓器提供は、本人の事前の書面による同意と家族の同意がないとできない。しかし、臨床的脳死の患者の心停止後の臓器提供は、本人の事前の書面による同意がなくても、家族の同意だけでもできるとされている。これは、旧角腎法の規定が経過措置として存続しているからである。そこで、いくつかの自治体では、心停止後臓器提供について、臨床的脳死の患者の家族から同意を得るために、移植コーディネーターが積極的に活動している。
(1)このレポートの前半では、おもに、『腎移植連絡協議会からの提言 -- 献腎提供をふやすための取り組み -- 病院システムの確立を目指して』(高橋公大編集、日本医学館、2002年10月14日)を資料として、そこで使われる用語の解説をしながら、移植コーディネーターの「ポテンシャルドナー」情報確保と、臨床的脳死の患者の家族への(心停止後臓器提供の)「オプション提示」の活動をみる。
(2)レポートの後半では、1997年6月13日の参議院の「臓器の移植に関する特別委員会公聴会」の公述人、玉置勲氏(当時、日本移植コーディネーター協議会会長)の発言をもとに、移植コーディネーターが臨床的脳死の患者の家族にはたらきかけるときの考え方や方法をみる。
(3)まとめ
日本の臓器移植コーディネーターは、その倫理綱領において、次のように定めている。
一、移植コーディネーターは、提供者側及び移植側から独立した第三者的立場であり、常に公平、公正な姿勢を保持する。
一、移植コーディネーターは、誠意をもって臓器提供者及びその家族に接し、提供者とその死を共有する人達の意思を尊重する。
一、移植コーディネーターは、個々の臓器の斡旋に関して、いかなる関係者とも利害関係を持たない。
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移植コーディネーター、院内CO(院内コーディネーター、病院にいる移植コーディネーター)
「静岡県」(p.4)
昨年も話しましたように県の取り組みはずいぶん前からです。1992年に院内コーディネーターの形をとりましたが、実際にはネットワークができて、これで本当に腎臓が増えるのかという危惧はありました。そこで、院内に移植をよく知った人がいればよいのではないかということで協議会が発足しました。そのときに腎バンクと県行政の協力もあり、各施設へ呼びかけたところ、18施設の19人が参加して、これで立ち上がり、毎月移植の勉強会をしようということではじまりました。これはほとんどがパラメディカルの人たちです。図1のデータは、院内コーディネーターの現状ですが、1996年に協議会が発足してからどんどん増えています。なぜかというと、一つは1997年に移植に関する法律が施行され、このときに病院が非常に危機感を感じて、やはり病院のなかに移植を知っている人が1人いるのはよいということで、院内コーディネーターの設置に各病院で協力していただきました。もう一つは県や国からの補助金もあり、各施設において院内コーディネーターが充実化されたと考えております。
「静岡県」(p.10)
実際に施設ごとでみてみますと、今年は16施設が参加していますが、ただし個票の提出が3施設はまだされていません。これはなぜかというと、病院のなかで院内コーディネーターや移植にいたるシステムが整っていないことからです。個票も提出はできるはずですから、この辺をもっとアプローチする必要があると思います。オプション提示に関しても、16施設のなかで11施設が1回でもオプション提示を行っています。言い換えればあとの5施設はオプション提示がされていないこともあるわけです。ですから、この辺をどのように取り組んでいくかが今後の課題だと思います。
「石川県」(p.22-23)
第 4に、県コーディネーター自身による病院・行政・一般への働きかけがありますが、いかに情報担当者から情報をもらえるのか、主治医からオプション提示をしてもらえるのかは、コーディネーターの課題だと思っております。石川県では提供に対し肯定的な人が多い反面、実際の献腎が少ないようです。亡くなる人のなかにはカードを持っているにしろ持ってないにしろ、提供してもいいと思っている人は確かに存在します。その方たちの提供を希望する気持ちをいかにすくいあげてかなえていくことを基本スタンスとして進めていきたいと思っております。また、提供したいという意思を活かすためには、その意思が適切なタイミングで把握されなければなりません。ドナー情報は、病院内の制度化されたドナー情報収集システムの開発により比較的容易に増加することが知られていると述べられています。(”東海北陸ブロックにおけるドナー情報の分析 -- 提供者の意思を成就させるために -- ”、『移植』、36(6), 2001)
「新潟県討論」(p.39-40)
鈴木: しかし、県下の10から15の医療施設で病院開発を行い、ポテンシャルドナー情報伝達システムを構築しようとすると、たんに提供側医師に移植医療のよさを理解してもらうだけでは話が進みません。移植医療のよさを理解してもらったあとの、そのつぎのステップが重要だと思います。秋山さんや大田原さんも言っていましたが、腎提供推進活動を強力に進めるには病院長、副院長、事務局長などの理解と強力が不可欠です。さらに、提供側医師に極力負担をかけずにポテンシャルドナー情報が流れるようなシステムが必要です。ポテンシャルドナーが発生したらどこに連絡して、その後情報がどのように流れて、誰がオプション提示をやるか、ご家族が腎提供に承諾した場合のつぎのステップは、などといった細かな、具体的なフローチャートをつくる必要があります。また、医師は一言、”こんな患者がいるよ”と院内コーディネーターに伝えてくれるだけで、あとの細かな作業は院内、県コーディネーターがやる、主治医の許可を得たあとのオプション提示も行える、というシステムが重要だと思います。
「新潟県討論」(p.41)
高橋: 平成11年よりわれわれ移植医は、県内の十数病院を院内説明会をするために巡回しております。新潟県民 250万人に移植医が数人、県の臓器移植コーディネーターが一人しかいないのですから、ばらばらに行動していても成果が上がりません。現実をみれば、おのずと解答が出てきます。すなわち、病院開発には移植医、県の移植コーディネーター、および病院の窓口となってくれる院内コーディネーターの連携と強力が大切です。
「新潟県討論」(p.42)
高橋: 第 1回目の院内説明会では、移植医が臓器提供の現状やそのすばらしさを身近な症例で説明し、身近な人が社会復帰していることをアピールする必要性があります。もちろん臓器移植のマイナスの面も率直に話します。つぎに移植コーディネーターを病院関係者に紹介し、臓器提供の尊さを訴えます。そして賛同が得られれば、院長にその病院の窓口になってもらえる院内コーディネーターを配置してもらいます。
「新潟県討論」(p.43)
高橋: また、最近の院内説明会では、新潟大学医学部附属病院、というよりも新潟県でつくった臓器提供シミュレーションのビデオを上映します。このストーリーのなかには病院長はもとより脳外科の教授、医師、看護婦、コメディカル、新潟県福祉保健部、新潟県警本部、新潟消防署、および新潟県のマスコミ約20社が協力して参加しています。このビデオをみますと、臓器移植や臓器提供に対してみなさまのイメージが多少変わりますので、みたい方がいらっしゃいましたら私のところにご連絡してください。臓器移植、臓器提供に対して官民一体となって取り組んでいることが理解できると思います。
「新潟県討論」(p.41)
高橋: 新潟大学の高橋です。脳外科の先生はいままでの考え方ですと、自分の仕事以外のことになりますね。しかし、臓器移植法第 2条の基本的理念の一つに”提供者の意思は、尊重されなければならない”という項目があります。こうなりますと脳外科に限らず、医師である以上すべての科の医師にとって臓器提供に携わることが責務になります。世のなかの流れがだんだん変わってくると自然にその方向に進むと思います。率直に述べますと提供者があらわれたならば医師である限りその意思を生かすことがあたりまえになるように少しずつそのような体制に持っていくことが大切です。
「静岡県」(p.4-5)
1996年にこの研究が各病院の開発ということではじまりましたが、最初は死亡データが非常に煩雑で、ただデータを出しているだけで、亡くなられた人の個票まで出すと大変でした。それでポテンシャルドナーだけにしようとしましたら、ポテンシャルドナーの定義とはなんぞやということになりました。実際にはネットワークの出している、いわゆる年齢から医学的なところまでですが、医学的なところになってくると感染症を調べていなかったりいろいろであり、それはポテンシャルではないだろうということになるので、その辺を明確にしました。感染症の有無にはかかわらずポテンシャルが認められ、感染症が分かったところでドナーでなくなる、という形でこの定義を幅広くとりました。年齢も75歳ぐらいまでにして個票がとりやすい状態にしました。15施設が参加したところで、今度はそれをどう評価していこうかということで、ポテンシャルのみの個票にして内容をもっと充実させようと、医学的なデータから家族の心情まで書いてもらうようにしました。
「静岡県」(p.7)
確かに全個票数は減っていますが、これは死亡後の情報量が減っており、カルテから得られる情報が少なくなってきていることからでもあります。死亡前のいわゆるアクティブ情報が増えていますが、その辺で昨年度の数字では、カルテから収集し、ポテンシャルドナーかどうかというところで、出てくる不正確な情報が入っているのではないかと思います。今年度は死亡前の情報は増加しており、半分ぐらいの情報がすでにアクティブ情報になってきています。
「静岡県」(p.10)
実際にポテンシャルドナー数が75例、オプション提示不可能症例が22例ですから、53例がオプション可能ということになります。さらに、このなかからたとえば20%の承諾率としても、年間にもう少し腎臓の提供があってもよいのではないかと思います。それから、実際に39症例の死亡前の情報(アクティブ情報)のなかから急変とか時間が短かったという理由を引くと、17症例で献腎の可能性があったことになります。このなかでさらに受容できていないなどで拒否されることを考えれば、少なくとも静岡県のなかでおそらく20例近く、最低見積もっても18例ぐらいに、月に1例ベースで献腎可能ではないかと考えられます。
「石川県」(p.23-24)
準備の進め方として、はじめに、移植情報担当者設置施設27施設の移植情報担当者に対して説明会を開き、バックアップ協力の依頼をしました。つぎに、27病院の院長宛てに、今回の調査に対して協力可否のアンケートを行いました。
協力内容は、4段階にわけて回答をいただきました。
1段階は、死亡症例数のみ情報提供するです。2段階は、死亡症例数とそのうち一般的な脳死症例数を情報提供する。3段階は、2段階の内容に加えて、単純に医学的な面だけの判断での腎提供充足症例数を情報提供する。4段階は、3段階の内容に加えて、警察関与の可能性の部分や社会的な要因を除いた症例で、患者個人票の提供もする、としました。
患者個人票まで提供協力できると回答をいただいたのは、13施設中 5施設でした。また、協力対応科は、全科可能とした病院、脳外・救急・外科のみと指定してきた病院、脳外・救急・外科を含むがその他の科も指定した病院にわかれました。
今年度、石川県で 3例 3施設からの提供症例がありましたが、そのうちの 2施設は、今回の調査において患者個人票まで提供協力するという回答をいただきました。
「新潟県」(p.31-32)
個票の中身は(表 2)、厚生科学研究でも示されている内容ですが、われわれもこの内容を網羅した形で個票を収集しています。先ほど静岡の発表にありましたが、全死亡症例をやっていますと、私もパソコンを打っていまして指が折れるのではないかというぐらいの量が出てくるものですから、腎臓提供ができるであろう症例についてだけ個票を提出していただきました。
「新潟県」(p.32)
個票ですが、はじめた当初は52、昨年は 229、これは有効個票だけです。今年は 201。ほぼ同じぐらいの年度でやってきまして、初年度は 3ヵ月だけですが、大分院内コーディネーターの方がポテンシャル情報を得られるようになり、有効個票が集まるようになってきました。これは非常にありがたいことです。
「新潟県」(p.32)
図 5は1999年10月〜2001年12月31日までの計算ですが、482の個票のなかで87が医学的適応があった数です。具体的には、482例のなかで献腎条件が充足していたのが87例、そのなかで主治医がオプション提示をしたのが21例、私が具体的な承諾作業にかかわったのが 4例です。結果 6腎提供になりまして、献眼10例。実はこの活動のなかで警察とのやりとりも随分増えてまいりました。警察が事件・事故で遺体を捜査していまして、そこからカードが出てくるとただちに警察の法医から私のほうに連絡が入るシステムになっています。そういうことで献眼の取り扱いがほかのデータとはアンバランスに増えているということになります。ただしこれは私が扱っただけの献眼ですので、アイバンクが扱った献眼を合わせますともう少し多いわけです。
「静岡県」(p.6-7)
つぎに情報を提供するにはどうしたらよいのかという説明です。それは各病院で違っています。情報がコーディネーターのところに行くところもあれば、婦長さんのほうから出てくるところもあります。このように各病院の違うフローチャートを別々に作成して、そのなかでどのように情報提供していくかということを説明しました。それから先ほど話しましたように、その研究班に参加しているコーディネーターが毎月集まり、各病院でどういうことを行っているかを検討します。それを各自が持ち帰り各病院でフィードバックしていくわけです。”この症例は確かに家族は大変でしたが、少なくともオプション提示はできたのではないか”ということを病院のなかで話してもらいます。それを年次で取りまとめて、またその病院に、「あなた方の病院は年間を通じ、これだけオプション提示をしていただいたのです」と伝え反省材料としていただきます。
「静岡県」(p.7)
実際に一番ポイントになるのはオプション提示だと思います。ここで言うオプション提示とは、現場の主治医がコーディネーターに協力を求めるかどうか、要するに、「移植ということがあります。それについて詳しい話を聞くお気持ちはありますか」と患者さんの家族に話します。これをオプション提示といっています。実際に移植についての説明はここではしません。
「静岡県」(p.9)
オプション提示は先ほど示しましたように20例あって、医師がオプション提示したものが15例、院内コーディネーターがしたものが 3例、申し出はオプション提示ではないのですが 2例ありました。ですから、院内コーディネーターのなかでも 4施設ぐらいの院内コーディネーターは、医師と話をしたなかで、自分たちがオプション提示をできるという状況になっています。実際にはオプション提示したもので 7症例が承諾、拒否が 9例、不明は、オプション提示はしていただいたのですが、実際にはその返事が返ってきていないものです。これは、一つは現場の医師あるいはコーディネーターがどのようにオプション提示を行えばよいのか戸惑ってしまうのです。問題点として残るところです。ですから、たとえばEDEHPの教育プログラムなどを現場の医師やコーディネーターに体験していただくことで、オプション提示に対し積極的になるのではという気もしています。
「新潟県」(p.36)
ある病院では、”症例をください”ということではなくて、病院全体の死亡症例検討会へ参加して、各主治医に患者さんが亡くなられた状態についてプレゼンテーションしてもらいそのとき院内コーディネーターの方にも、”それはオプション提示をなぜされなかったのですか、データでは献腎条件が充足されていますがなぜでしょうか”ということを話し合い、アプローチしていく方法を少しずつ変えさせていただいております。
レスピレーターオフの承諾
「静岡県」(p.10)
オプション提示できなかった理由として最も多いのは急変です。充分な時間がなく、とうぜん家族がまだ受容できていない状況だったからです。また、オプション提示前に急変して亡くなられたという症例もあります。一番問題なのは、レスピレーターオフがありますが、これはオプション提示されていません。しかしレスピレーターオフにすることを家族が承諾することは、オプション提示ができる状態だと思いますが、結局されていません。
「静岡県」(p.11)
先ほども話しましたように、ご家族がレスピレーターオフを承諾されているにもかかわらず、献腎のオプション提示がなされていない場合があります。それは最も改善しなければならないことです。「臓器提供があるのです」と、レシピエントの患者さんのことを考えると、オプション提示をしていくべきと、主治医にはお願いしています。
自己決定権の尊重
「新潟県討論」(p.45-46)
鈴木: 追加させてもらいますが、いま使っているオプション提示という言葉は、患者家族に対して移植に関する話を聞きますか、というオプションを提示するという意味です。患者家族が話を聞きたい、ということになれば県コーディネーターが改めて心停止後の腎提供に関する説明を行い、腎提供承諾の有無を訪ねる、ということになります。いま、大田原さんが言われましたが、自己決定権の尊重というのを最近すごく考えています。本日はいらっしゃってませんが、東邦大学の長谷川先生は病院評価機構検討委員会の委員もされていますので、患者さんの権利を守っているかどうかということが、これからの病院評価の一番の大きな柱になると述べています。
そうすると臓器提供の場合は四つの権利があるんですね。臓器移植を受けたい、臓器移植を受けたくない、臓器を提供したい、臓器を提供したくない、この四つの権利をすべてきちんと病院が守っているかどうかというのが、ある意味病院評価で非常に大事なことになります。
それを脳外科の先生によく話をして、オプション提示というのはあくまでその人の自己決定権を尊重するための一つの手段である。とうぜん臓器移植を増やしたいということはあるのですが、そういう意味合いも持っているのですよという話をすると、案外”ああ、そういうもんですか”とおっしゃっていただくこともあります。
「静岡県討論」(p.13)
高原: 「心停止後の摘出マニュアル」を使用するためには、脳死判定が必要です。しかし”脳死”という言葉を使用しない施設も多いと思われます。今回発表された施設はどうでしたか。大田原: 脳死という言葉は使われません。ただそのなかでいわゆる臨床的な脳死だから脳死ではないと不明にしているところが現状です。
高原: 「心停止後の摘出マニュアル」を使おうと思えば、どこかで脳死という言葉を使わざるをえません。その施設の独特の基準であれ、ドクターの基準であれ使わざるをえません。つまりこのマニュアルは、あまり使われていないと思われますがいかがですか。
大田原: あまり使われていません。
入院時の臓器提供意思表示カード所持の確認
「新潟県討論」(p.43)
高橋: もう一つ私が昨年病院開発で回ったことで経験したことをみなさまに紹介したいと思います。昨年(2001年)8月17日に新潟市民病院で全国で17例目のドナーが出ました。そこの院長先生は、以前お話ししたときは”本病院は臓器提供には賛成だが、消極的に賛成です”と言われました。臓器提供が決まったとき、記者会見が行われております。そのとき遺族のほうから「この病院では、臓器提供意思表示カードの所持を入院時になぜたずねないのか」という要望が出たそうです。そこで市民病院ではその後窓口でカード所持しているのか、してないのか聞くことになったそうです。このように少しずつでありますが、確実に臓器提供に関して前向きに進んでいきますし、患者さんやその家族の声は影響が大きいと思います。
「新潟県討論」(p.48)
深尾: いまここにいらっしゃる先生方の病院でどうされているか、一つお聞きしたいのです。入院患者全部に関してカードを持っているかどうかを確認している病院を教えてもらいたいのです。筑波大学では入院患者全員にアンケート形式でカード保持の有無をたずねています。毎月約2%の患者さんが持っていることがわかっています。その方がもしお亡くなりになられたときお話ししようということが事務レベルでもわかるようにしてあります。いまご出席の先生方の病院ではどのようにされているか、教えてください。
「新潟県討論」(p.50)
秋山: 先ほど市民病院の症例があって、新潟の市民病院では入院患者さんに聞くという準備をしています。具体的には救急病棟の重症入室者のみです。第17例の脳死下症例のあとで、担当した当時の主治医がおもしろいコメントをしています。テレビの個別に特別番組の中でのお話しですが、”私たちは助けたい、なんとか助けようと思って頑張ったのだけど、それができなかったことは悔しい”と。自分も患者さんと同じ年だしという感情移入もあったかもしれませんが、そのなかで”しかし、今回の症例を受けて、実は私たちは何十人、何百人という臓器提供希望者の意思を見逃してきたのではないかという反省を持ちました”とおっしゃったのです。
ステップアップ
「新潟県討論」(p.47)
高橋: いままで一度も臓器提供の経験ない病院で、臓器提供のオプションをいきなりすることは、それに関わる先生にとってたいへんな負担だと思います。まず第 1例目は、患者や家族からの臓器提供の申し出や臓器提供意思カードの提示が家族側からあった場合は、主治医にとって抵抗が少ないと思います。まずそのような症例を経験してからステップアップすれば理想的です。
また昨年に脳死下に臓器提供の経験のある新潟市民病院では、今年の 1月にもカードを持った患者さんがあらわれました。残念でありましたが、その患者さんは 1年前に腹部の癌の手術を受けておりましたので、眼球のみが提供されました。このように 1例 1例経験を積むことにより少しずつ現場の意識やレベルが上がっていきますので、その時点で患者家族との信頼関係ができている症例にオプションすればよいのではないでしょうか。
新潟県もおかげさまで、コンビニストアでもカードが配置されるようになって、カード症例が出てきたのではないかと考えております。いきなり三段跳びは無理だと思います。時間をかけて辛抱強く待つことも大切です。われわれが作成したビデオも家族からの申し出ということで、そのストーリーは、”すべてはこの一枚のカードからはじまりました”で開始されます。
*参照
第38回日本移植学会総会(2002年10月17日〜19日)
(p.192)
「ドナーアクションプロトコール〜新潟県の試み〜」
(財)新潟県腎臓バンク、新潟県臓器移植コーディネーター、新潟大学大学院、腎泌尿器病態学分野、秋山政人、斎藤和英、高橋公太
【結果】院内Coは10病院に配置され、1999年10月〜2001年12月31日までの個票集計では482を収集し、うちポテンシャルドナー数87例、オプション提示が21例であった。結果、献腎は6腎であった。
【総括】オプション提示が増えれば献腎も増える、と言う事は当然のことであるが、それが地域システムとして確立することは重要である。
-------------------------------- 「静岡県における献腎病院普及活動」
浜松医科大学泌尿器科、焼津市立総合病院、静岡県腎臓バンク、大田原佳久、清水牧子、鈴木利昌、石川晃、鈴木和雄、藤田公佳
【目的】静岡県では平成11年度より厚生科学研究に参加し、静岡県の病院における献腎普及啓発活動を行ってきた。3年目となる平成13年度の結果を中心にその成果を比較検討した。
【方法】移植医、移植コーディネーター(CO)、県行政と一体となって各病院に移植の現状報告と、献腎への協力依頼に訪問した。16病院で既に設置されている院内COを中心にポテンシャルドナー(PD)の報告とドナー家族への臓器提供情報の提示(OP提示)をお願いし、収集した患者個票より、各病院の評価と、献腎増加の協力を依頼した。
【結果】平成13年度は16病院で113の有効個票(PD情報)が収集された。そのうちドナー家族にOP提示されたのは31件(OP提示率27%)で、献腎を承諾されたのが7件(承認率23%)であった。家族からの申し出2件、研究協力施設外からの提供2件をあわせると、平成13年度の静岡県内での献腎は11件18腎であった。
【考察・結語】協力施設が増加したが有効個票数の増加はみられなかったが、これは提供の可能性の高い個票が選択的に提出されてきたものと考えられた。また提供患者の主治医の意識が高まり、献腎のOP提示率は増加している。結果的に大幅な献腎数の増加がみられ、過去最高の献腎数を得ることができた。
------------------------------------------------ 第84回 静岡県院内移植コーディネーター協議会要旨
開催日時 平成15年6月2日(月)16:00?18:00
開催場所 静岡県庁 別館7階 第2会議室
参加者 参加施設21病院26人(欠22人)
5. ロールプレイ
・3班に分けて以下の症例で検討
Aグループ 「標準症例」 鈴木
患者:55才、女性。原疾患:脳出血。
家族構成:夫60才、長男30才、長女25才(共に既婚し、別居)
経過:患者は5日前に道路で倒れている所を発見され、救急搬送されていた。本日、脳外科A医師より「入院中の患者が今朝から血圧が低下し、家族に献腎についての選択肢についてお話したところ、Coの話を聞きたいとのお返事がありました。説明をお願いします。」との連絡が入った。A医師からの連絡は今回が初めてである。家族は比較的平静な様子で出来るだけの治療を望んでいるとの事。
臨床状態:JCSV-300、収縮期血圧:82、入院時Cr0.9、感染(?)、カードなし
検討事項:A医師への対応およびその後に取る行動
家族面談前に確認すべき事項
患者急変時の調整事項Bグループ「緊急症例」 大田原
患者:63才 男性 原疾患:脳動脈瘤破裂による出血
家族構成:妻58才 子供 長男32才(既婚別居)、長女25才(同居)
経過:午後8時ころお風呂で意識を失って転倒、救急搬送される。
搬送途中で心拍停止、到着後蘇生。自発呼吸なし。CTで脳底部の動脈出血で手術は不可能と診断。
翌日脳死になることはほぼ確実ということで、主治医よりドナー対象かどうかの問い合わせ。
家族の悲嘆状況は強く、特に妻の悲嘆状態は非常に強く、医師に何とかして欲しいと懇願状態。
血圧も不安定でいつ亡くなるか分からない状態。
臨床状態 GCS300, 収縮時血圧80?120、尿量50ml/hr、感染(?)、カードなし、SCr0.7
検討事項:院内コーディネーターに問い合わせがきたときにどのような行動をとるべきか?
必要なデータと状況把握
主治医の態度の確認
OP提示の可否と可ならその時期と方法
家族のフォローのあり方Cグループ「小児症例」 石川
患者:15歳、男(中学生)
家族構成:両親、大学生の兄。看護師長より情報入手済み。
経過:7/20自転車とトラックよる交通外傷。急性硬膜下血腫、骨折。入院時E1V1M2、瞳孔不同、対光(?)
減圧開頭血腫除去術施行。脳低体温療法施行3日間。7/25脳波、ABRフラット→臨床的脳死と診断。
主治医から臨床的脳死診断のあと連絡を受ける。
脳死状態の説明は一度行っているが、「できるだけ治療をして欲しい」と希望された。
本日夕方家族に脳波、ABRの結果を知らせる予定。
臨床状態:血圧110/60。昇圧剤7γ使用。入院時Cr0.6、感染なし。
(2) 第140回 参議院 臓器の移植に関する特別委員会公聴会 01号 1997/06/13
腎臓移植の一つには親兄弟から提供いただく、これは生体腎移植と申します。ここで多分に誤解があるんですが、脳死からの提供も、脳死は生きているんだからこれは生体腎移植だというように誤解されているところが多々あります。これは脳死体ではあっても、死体腎移植ということに含まれております。
そして、腎臓移植ネットワークで勤務する我々が行っている業務は、提供者、要するにこれは私は悲嘆家族と申しますが、脳死と判定されたお身内の家族に対して、腎臓提供という選択肢があるというようなことを話をさせていただくようになりました。これはどうしてかといいますと、ドナーカードを持っている方々をずっと待ってはいたんですが、なかなかドナーカードを持っていらっしゃる方がいなかった。臨床的にどうしても移植が必要なときに、家族の意思によって提供されることが当時普通でございました。
そこで、厚生省の地方腎移植センターの拝命のもとに、東京医科大学八王子医療センターでは、悲嘆家族に、まず本人がどういう考え方であったか、または御家族がどういう考えであるかというようなことを聞くようなシステムをつくったわけです。
そのときに白羽の矢が当たりまして、私は悲嘆に暮れる家族に接するようになったわけですが、今言われているような移植コーディネーターはブローカーとかそういうものではございません。私自身も相手の悲嘆を十分認識しながら、相手の行動、顔色、反応を見つつ移植の話を進めていくわけでございますが、この中で一から十の話を全部しなきゃいけないということで、その席に着きますと、悲嘆家族、御家族に大変御迷惑、心労を加えるわけです。
そういう意味で、臓器提供の御説明をする上で一番重要なところ、相手の心情を十分酌んでこちらはあくまでも情報提供に徹するというやり方を考え始めたわけです。そうしますと、こちらが積極的に、説得はしませんけれども、説得に近い話で家族を圧迫するよりも、こちらがリラックスしてこういった話があるんですよという話をすることによって、一時期六〇%の提供率をいただきました。これは提供率の競い合いではございませんので、私は余りこういう話はしたくはないんですが、日本の国民も腎臓提供、これはあくまでも心停止後の移植ということで限らせていただきますが、心停止後の移植でありましたらかなり御協力いただける。
しかし、その後の家族のフォローというのがこれまた重要でございます。これを救命救急のお医者様方がその家族のところへお伺いして移植後の状況等を説明することは困難でございます。そういった代役をさせていただくのが移植コーディネーターの任務だ、業務だと私は考えております。
そういうことで、臓器提供というのは、臓器提供を受けて健康を取り戻し救命された患者さんのみならず、提供をした家族の中にも、私の書いた論文がお手元にあるかと思いますが、これは悲嘆の軽減、カーブがあるわけですね、臓器提供をした家族、しない家族というところで。そのした家族、しなかった家族のポイントを計算しております。これは心臓停止を十点といたしまして、個々の家族に、病気になったときから臓器提供した後の報告を受けるまで、そういった項目をつけまして点数をつけてもらいました。
そうしますと、病気が発生したり事故が発生したときに病院に駆けつけたときの悲嘆というのは、その心停止のもう十倍から二十倍の数値になります。しかし、心停止を十点にした場合、移植を提供した後のポイントを見ますと四点前後に下がっております。これは何かといいますと、やはり提供したことによってある程度だれかの役に立った、または身内のどこかの提供した一部がどこかで生きているということに喜びといいますか、悲嘆の軽減になっていることがわかったわけですね。
そういう意味で、移植コーディネーターはだれかの臓器をとってくるとかそんなことは考えておりません、あくまでも救命されればいいと願っているわけです。そういう感性を持ち合わせております。しかし、それでも、脳死判定をされて脳死となった人から一例たりとも生き返った方はいらっしゃらない、息を吹き返した方はいらっしゃらないという厳然たる事実がある上で臓器提供の説明をさせていただき、あくまでも現行法でやっています心停止の後の摘出ということでお話をさせていただければ、提供する家族は結構多いということをまずお話をさせていただきました。
あと、コーディネーターの役目といいますと、話が前に戻りますが、救命センターなどで家族が腎臓の提供を申し出た場合、本来ならば救命の先生が話をしていただいてその後我々が専門的な話をさせてもらうというのが筋でございますが、中には、呼吸器関係の病状によりほとんどもう助かる見込みがない、そういった方々から提供があったことも過去にございます。これは心停止後の腎臓提供となりますと、脳死を経ない提供もそういった提供したいという人がいた場合に可能になってくるというところで、腎臓の提供の中には脳死を経ない提供者もいるという現実もあるわけでございます。
そのほかに、腎臓提供の説明をするときに、例えばこれは経験から話をさせてもらいますと、悲嘆に暮れてお嬢ちゃまが号泣されておりました。我々の施設、当時の東京医科大学八王子医療センターでは、すべての脳死判定をされた方に腎臓提供の意思があったかどうかということを確認しようという一つの方針がございました。私はその号泣されたお嬢ちゃまに、大変申しわけないけれどももう脳死判定をされた、今後のことは皆さんがどうするかと考えなきゃいけません、その中に一つの選択肢として腎臓提供というのがございますという話をしましたら、そのお嬢ちゃまはぱっと泣きやみました。お嬢ちゃまといいますか奥さんなんですけれども、何が提供できるんですかということで、移植ということをお母さまが知っていらっしゃったということもございまして、私に聞かれたんです。私は、心臓停止後でいいから腎臓提供というのがあります、もし提供いただけるんでしたらそのことに対しては我々が協力をさせてもらうということでお話をさせていただきました。
その後、心停止を迎えて腎臓提供になりましたが、我々は腎臓移植がどうなったかということを御家族のところに報告に参りました。するとお嬢ちゃまは、手をたたかんばかりに、腎臓の提供をしてよかったというようなお話を我々にされました。
そういうことで、腎臓提供は、あくまでも移植を待っている患者さんのみならず、提供した家族にも、多少ではありますが悲嘆の軽減になっているというところをまず御理解いただきたいと思います。
*参照
国会会議録検索システム詳細検索で第140回参議院(平成09年06月11日〜09年06月16日)を検索
臓器提供とドナー家族の悲嘆心理 -- 内外の文献研究から -- 岡田篤志
横浜総合病院脳神経外科・救急センター部長平元周「善意の臓器提供意思を無駄にしないために」
日本救急医学会雑誌 (JJAAM)第13巻(2002年)総目次
琉球新報2003年3月30日
第7回JATCO徳島県移植コーディネーター研修会概要(2003年7月17日)
(3)まとめ
1. 本人の事前の書面による意思表示についての考え方
日本の移植コーディネーターは、臓器移植法第 2条(基本的理念)の
「死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。」
という条項を、本人の意思と家族の意思とを区別せず、家族の意思で代行できると思っている。
これは、人のからだは、他人のための医療資源である前に、その人自身の最も基本的な生存権、人格権の対象となることを忘れた考え方である。自己決定権は本人自身に限定してこそ意味がある。本人の事前の書面による意思表示によらない臓器提供は、自己決定権の侵害である。
たとえば、8割がたの人が「臓器を提供する」という意思を表示したカードをもつようになり、それらの人のまた8割がたの家族が同意するようになって初めて、「臓器を提供しない」という意思をカードで表示した場合だけ、移植コーディネーターが家族にはたらきかけるのをやめよう、というのならば、現行の臓器移植法の、本人の事前の書面による同意を必須とする要件をはずしてもよい。
2. ターミナルケアとしての臓器提供
臓器提供をターミナルケアの選択肢の一つとしてとらえる考え方は、移植コーディネーターのみならず、救急医療の側にもある。レスピレーターオフの承諾時に臓器提供の話をすることも、入院時の臓器提供意思表示カード所持の確認も、その考え方のもとに認められる。
私は、てるてる案で次のように述べている。
以上の認識のもとに、この試案では、「はじめに」でとりあげた、ぬで島次郎の、
しかし、現行法のもとで入院時に臓器提供意思表示カード所持を確認することには、強い批判もある。
末期医療選択カード(例)
臓器提供意思表示カード(例)
「脳死否定論に基づく臓器移植法改正案について(てるてる案) 」
4)末期医療選択カードについて
現在でも老人や末期患者(成人)のカルテには、緊急時主治医が間に合わないとき、
公述人、日本移植コーディネーター協議会会長(当時)、玉置勲氏の発言より
まず、腎臓移植の現状についてお話しさせていただきます。
「脳死・臓器移植」専用掲示板過去ログハウス 2001年02月13日〜02月21日
2002/09/30脱稿
大阪大学大学院医学系研究科医の倫理学教室『医療・生命と倫理・社会』第二号,62-82頁2003年3月20日掲載。
岡田篤志は、USAの文献とともに、日本の移植コーディネーターの文献や臨床的脳死の患者の心停止後臓器提供を申し出た家族の手記を分析している。移植コーディネーターの側からは、概して、臓器提供が脳死患者の悲嘆を軽減する好影響が述べられるのに比較して、提供者家族の側からは、臓器提供が患者の死を受け容れるための物語作りに組み込まれ、臓器提供の決断は事実としての死の受容の段階で行われたにすぎず、情緒的な死の受容は、むしろそのときから後々まで長く続くことが述べられている。岡田は、提供者家族の提供後の長期間にわたる喪の作業や、レシピエントの情報への欲求に、移植医療関係者が細やかな心配りを行う必要を認めつつ、それを新たな臓器提供促進に利用して、人々に臓器提供への心理的圧力をかけたり、移植医療への批判を封じることのないよう、注意をうながしている。
横浜総合病院脳神経外科・救急センター部長平元周氏は、2002年の第30回日本救急医学会総会・学術集会の「一般演題」で、「善意の臓器提供意思を無駄にしないために−脳死患者を扱う非4類型施設はどう対応すべきか」という発表をした。その後、2003年3月29日那覇市の
日本臓器移植ネットワーク西日本支部主催の講演会「第2回 県における献腎についての会議 -- いかに伝えるか、臓器提供の選択肢」や、
2003年7月17日の第7回JATCO(日本移植コーディネーター協議会)徳島県移植コーディネーター研修会で、同じ演題「善意の臓器提供意思を無駄にしないために」の講演を行っている。平元氏は、臨床的脳死の患者の家族に、延命治療をどこまで行うのか、人工呼吸器をどうするか、などの話をし、そのなかで、臓器提供の話もすると述べている。臓器提供の話をターミナルケアの一貫として積極的に評価し、
「脳死患者家族に安らかな気持ちで死を迎えさせてあげたいというのが私の脳死患者に対するターミナルケアです。実際に腎臓提供にいたり、臓器提供が脳死患者家族の精神的な意味でのターミナルケアになっていることがいくつもありました。」
と述べ、臓器提供後七回忌まで連絡をとった家族の例を紹介している。
【第9号(第30回日本救急医学会総会・学術集会 抄録)】
日本臓器移植ネットワーク西日本支部主催講演会「第2回 県における献腎についての会議―いかに伝えるか、臓器提供の選択肢」
(2)特別講演「善意の臓器提供意思を無駄にしないために」
二つのポイントがある。
臓器移植法第 2条(基本的理念)、自己決定権の尊重、ステップアップ
そのため、自己決定権の尊重とは、家族の決定権の尊重になっている。
それゆえにこそ、本人が臓器提供の意思を表示したカードを持っている場合だけ、臓器提供について家族に話すのを第一段階ととらえ、さらにすすんで、本人が臓器提供に意思を表示したカードを持っていないときにも、臓器提供について家族に話すのをステップアップと考えている。これは、現行の臓器移植法の経過措置で許されている心停止下の臓器提供についてのみならず、脳死状態での臓器提供にも適用すべきと考え、臓器移植法改正を訴えている。
レスピレーターオフの承諾、入院時の臓器提供意思表示カード所持の確認
どうすれば、移植医療を望む人々の生存を保障しつつ、臓器を提供する立場となる人々の、延命治療を受ける権利と末期医療を受ける権利とを守り切れるか、そのための自己決定権を保障できるか、というのは、どこの国でも模索中であり、模範的な制度というものはどこの国にもない。
「脳死の問題は、現代医学ではもはや救えなくなった患者をどう扱うかという、末期医療の問題」
という考え方に基づき、「脳死」後の臓器提供を、末期医療の選択肢の一つとして扱う。
てるてる案では、臓器提供意思表示カードのほかに、末期医療選択カードも提案しているので、これに人工呼吸器の停止についての項目を追加したものを入院時に確認するとよいと思う。
そして、末期医療の選択カードと、別に、臓器提供意思の表示カードと登録カードを作る。
1.私は、『脳死』後、集中治療室(ICU)で心臓の停止まで「積極的治療」または「消極的治療」を受けることを望みます。
2. 私は、『脳死』後、集中治療室(ICU)の外の病室で心臓の停止まで治療を受けることを望みます。
3. 私は、『脳死』後、移植の為に臓器を提供して、『脳死』状態を終えることを望みます。
4. 私は、『脳死』後、心臓が停止してから、移植の為に臓器を提供します。
5. 私は、臓器を提供しません。
署名年月日
本人署名(自筆)
保証人署名・連絡先(自筆)
連絡先:日本臓器移植ネットワーク
1.私は、『脳死』後、移植の為に○で囲んだ臓器・組織を提供して、『脳死』状態を終えることを望みます。
心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球(角膜)・血管・心臓弁・皮膚・骨・そのほか()
2.私は、心臓が停止した後、移植の為に○で囲んだ臓器・組織を提供することを望みます。
腎臓・膵臓・眼球(角膜)・皮膚・骨・そのほか()
署名年月日
本人署名(自筆)
保証人署名・連絡先(自筆)
臓器提供拒否権者署名・連絡先(自筆)
連絡先:日本臓器移植ネットワーク
現代文明学研究:第3号(2000):139-179
「この方は人工呼吸器は不要」との記載があります。
公然とこれがまかりとおっています。
選択例の表示の中に人工呼吸器の扱いをどうするかが明確にすべきと思います。
たとえば、第4の「私は、「脳死」後心臓が停止してから移植のために臓器を提供します」という場合、
人工呼吸器を何時外すか、脳死診断の6時間後なのか、それとも消極的治療後心停止をまってなのか?
いま、臨床の場では、脳死と思われる状態の時、移植と関係なくとも、何時人工呼吸器を外すべきか?
がおおきな問題になっています。