超初心者のための万年筆講座

 〜 万年筆を買おうと思っているけれど、よく分からないという人のために 〜



購入前の検討段階

■字の太さ
 万年筆の字の太さは、ほとんどが以下の様な記号で表記されています。
   EF(XF)・・・極細字(エクストラファイン)。手帳用、書類作成用。
   F・・・細字(ファイン)。書類作成など。日本では最も一般的。
   M・・・中字(ミディアム)。手紙などに向く。画数の多い漢字等を書くにはきつい。
   B・・・太字(ブロード)。署名用に向く。
この他、FM(中細字)、BB(極太字)、O(オブリークの略。傾斜カットのペン先のこと)が付いた記号のものなど、メーカーによってヴァリエーションがあります。
 同じ記号でもメーカーによって太さに違いがあります。一般的に日本メーカーは外国メーカーに比べて細めです。
 一般的に、万年筆に慣れた人は太字を好むと言われています。その方が万年筆の真骨頂である「滑らかな筆記感」を味わえるからです。






■ペン先の素材
 ペン先の事を「ニブ」と呼ぶのですが、ここでは分かりやすく「ペン先」という一般的な呼称で統一します。

スチール・・・昔は「錆びる」等の宿命を背負っていましたが、技術革新によりその心配はある程度低減しています。万年筆の醍醐味である「柔らかな書き心地」を楽しむにはやや力不足です。「ゴールドプレート」というのは、スチールなどに金メッキを施したものと思って下さい。

14金・・・ペン先としては充分であり、無理に18金を求める必要はありません。

18金以上・・・高級万年筆の必須オプション的な位置づけもあるかもしれません。20金やそれ以上の含有量のものもあります。

 ペン先が柔らかい、硬いというのは金の含有量よりもペン先の形状が左右します。18金でも硬いペン先はあるので注意して下さい。






■インクの補充方式
 大別すると3つの方式があります。

・吸入式
本体にインクを吸い上げる機能が付いているものです。比較的高価な万年筆に付いた機能です(高い精度が必要なので、安価な万年筆にはあまりつかない機能と言った方が正しい)。

・両用式
“カートリッジ”・・・インクが入った使い捨て小型タンク
“コンバーター”・・・万年筆内部に装着してインクを吸い上げ、溜めておける装置
以上の2つを使える方式です。最も普及しており、高級万年筆にも利用されています。

・カートリッジ式
形状の特殊性(「あまりに小型なためコンバーターが適合しない」など)により、カートリッジしか使えないというものです。






■メーカー
日本・・・パイロット、セーラー、プラチナなど。

ドイツ・・・ペリカン、ファーバーカステル、モンブランなど。

イタリア・・・オマス、マーレン、デルタ、アウロラ、ステイピュラなど。

イギリス・・・パーカー、ヤード・オ・レッド、アルフレッド・ダンヒルなど。

フランス・・・ウォーターマン、S・T・デュポン、カルティエなど。

アメリカ・・・シェーファー、クロスなど。実はパーカーやウォーターマンもアメリカが発祥。

スイス・・・カランダッシュなど。

※ ここに列記したメーカーの中には、令和2年5月現在廃業しているところもあります。例えばイタリアのデルタは平成30年2月に廃業しました。同じくイタリアのオマスは平成28年に廃業を発表しましたが、メーカー名を「ASC」と変えて復活したそうです。






■軸の素材
金属・・・金無垢やプラチナなどは初心者には無縁の存在だと思いますが、スターリングシルバー、プラチナコーティング、ヴェルメイユ(バーメイルとも。スターリングシルバーにゴールドプレートを施したもの)などは比較的手の届く価格帯です。

樹脂・・・レジン、アクリル、セルロイド、エボナイトなど。樹脂といっても安いとは限らないので注意。

木材・・・黒檀、楓、竹(正確には木ではないが)、ブライヤーなど。

特殊素材・・・象牙、琥珀、革巻き、漆塗り、金蒔絵、螺鈿細工、カーボンなど。






■中古、アンティーク
 中古品やデッドストック、アンティーク品などは、まずオーバーホールが必要な場合がありますので注意して下さい。






■予算
(値段の目安は定価を元にしています)
・〜2万円
外国メーカーのほとんどがスチールペン先(若しくはスチールにゴールドプレートなどを施したもの)です。各メーカーとも「入門編」という位置づけだと思います。日本のメーカーならば14金や18金など高品質の物が手に入ります。

・2万円〜4万円
外国メーカーの14金や18金ペン先が手に入ります。各メーカーミドルクラスの価格帯です。各メーカーともそれなりに手の込んだ物を出してきます。

・4万円〜8万円
各メーカーのフラッグシップモデルが出てきます。一生使える物が欲しいとなると、このあたりを狙うのが妥当かと思います。

・8万円以上
素材に凝ったもの、手をかけて作ったもの、限定品などが出てきます。もう趣味の域です。最初から手を出さなくてもいいでしょう。






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購入時の注意

■購入先
・大規模文房具店、デパートの文房具売り場
 定価販売。掘り出し物は見つかる可能性薄。アフターケアは期待しない方が賢明。店員さんの知識も期待してはいけません(ちゃんと知識がある人もいますが)。

・万年筆専門店
 原則定価販売。掘り出し物がある可能性有り。アフターケア有り(アフターケアが出来ない専門店では買わない方がいいでしょう。専門店と言えません。)。ただし、専門店といっても過信は禁物。

・個人経営の一般文房具店
 原則定価販売。掘り出し物がある可能性有り。アフターケアについてはやや心許ない。販売の主力は国産メーカーである場合が多い。

・アメ横などの販売店
 大抵は値引きされている。掘り出し物が見つかる可能性高し。アフターケアは不明。

・通信販売
 大抵は値引きされている。実物は届くまでわからないので、試し書きが出来ない。アフターケアは不明(期待しない方がいいかもしれませんが)。






■試し書き
 出来る限りしましょう。させてくれないところで買うのはやめたほうがいいと思います。同じ製品でも個体によってペン先の癖は微妙に違います(とは言っても「試し書きしなくともうちの製品は大丈夫です」という自信を持って販売しているところもあります。その方針をどう思うかは個々の判断に委ねますが。)。
 この時、ペン先に多少の引っ掛かりを感じても、ある程度ならば使っていくうちに解消されていきます。「ちょっと引っ掛かるから自分には合わない」と、すぐにダメ出しするほど神経質になる必要はありません。
 また、ペンの重さや持った時のバランスにも気をつけてください。長時間の筆記でも疲れない重量・バランスなのか、キャップをペンの後ろに装着するか否か、自分の手の大きさと合っているか等、結構チェックポイントは多いです。






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購入後の注意

■とにかく大切に使いましょう。万年筆というのは美術工芸品に近い繊細なものです。

・他人に貸さない
 他人の書き癖がついてしまいます。今まで滑らかな書き心地だったのに急に引っかかるようになったと言う事態も起こりえます。

・インクを入れたまま放置しない
 乾いてしまって目詰まりを起こすなど、トラブルの原因です。長い間(2週間ほど?)使わない万年筆はインクを抜いて洗いましょう。

・インクについて
 基本は「万年筆と同じメーカーのインクを使う。メーカーが同じでも違う色は混ぜない。」です。インクは化学薬品です。インク同士が化学反応を起こして万年筆本体がダメになったと言うことはよくあることです。
 例
  @ A社のインクを使った後、ペン先をよく洗わないまま、B社のインク若しくはA社の別の色のインクをいれてしまった。
  A 2種類以上のインクを混ぜる、いわゆるインクのカクテルをやってしまった(@に近い状態)。
  B A社の万年筆(新品若しくはよく洗った状態でも)にC社のインクを入れてしまった。
以上は万年筆本体に重大なダメージを与えることがあります。
 ただし、今はカクテルするのを売りにしたインクも発売されていますし、相性さえ良ければ万年筆本体とインクの会社が違っていても不具合は起こしません。
 ちなみに、噂ではペリカン(純黒インク「ファウントインディア」は除く)とウォーターマンのインクは比較的他のメーカーの万年筆と相性が良いと言うことですが、僕は決して推奨はしません。
 いずれにしても「万年筆と同じメーカーのインクを使う、メーカーが同じでも違う色は混ぜない」が大原則です。基本を逸脱する時は全て自己責任で。

・ペン先の洗浄
 ペン先を洗う時は、水かぬるま湯で。 僕の場合は万年筆洗浄用のコップに水をため、ペン先を入れてしまいます。こうすることで、インクがペン先からにじみ出てくるからです。
 ペン先にたまったインクはとてもしつこく残っており、僕の場合は「6時間おきにコップの水を取り替えながら3日間費やす」というのがパターンとなっています。このくらいやらないとインクは抜けません。