ラ・ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノindexへ
  Super Tuscan e Enologo(スーぺル・トスカンとエノロゴ)



   あのテヌータ・サン・グイドの"サッシカイア(Sassicaia)"に始まり、キャンティはモンテヴェルティーネの"レ・ぺルゴラ・トルテ(Le Pergola Torte)"にて幕を開けた、トスカーナの大地が生み出すDOC,DOCG規定以外、つまりスーパー・テーブル・ワインのことを人々が"スーぺル・トスカン(Super Tuscan)"と呼ばれるようになったのが、90年代初頭のこと。以降、キャンティ・クラッシコ、ノービレ・ディ・モンテプルチャーノ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノなどのイタリアを代表する名DOCG赤ワインを多く抱えながらも、数々の偉大なテーブル・ワインを生み出してきたこの大地、トスカーナ。"キャンティ・クラッシコ"地区では、初期の規定に許されていなかったサンジョベーゼ種100%によるスーパー・サンジョベーゼが世を騒がし、カヴェルネット・ソーヴィニョンやメルロー種などは、各地で素晴らしい成功を収めています。ほんの数年前に施行された改正により、地域により認定されている1品種の含有量が90%を超える時には、IGT"特産品指定(Indicazione Geografica Tipica)"を名乗ることが出来るようになったとは言え、赤ワインに関しては"スーぺル・トスカン"と呼んでしまえばより簡単に済んでしまうほどに人々に浸透している存在であります。

 規定にこだわらず、全ての発想から自由にワインを造り上げることが出来ることによる"創造性"に満ちたところが、感性に溢れるイタリア人の遊び心をくすぐり、ここまでの大ブームを築き上げたのかもしれませんが、それに欠かせぬ大事な要素であったものが、イタリア・ワイン・ルネッサンスの核心部分を占めていた、フランス流れの外来葡萄品種やオーク材によるバリック使用のテクニックなどがもたらした品質向上改革であり、それを知り尽くした技術者(エノロゴ)の台頭でした。サッシカイアの生みの親"ジャコモ・タキス氏(Jacomo Tachis)"を筆頭に、伝統的製法タイプの巨匠"ジュリオ・ガンベッリ氏(Giulio Gambelli)"、キャンティ・クラッシコ地区を知り尽くした男"カルロ・フェッリーニ氏(Carlo Ferrini)"、若手代表では、ボルゲリに名を派した"ルカ・ダットーマ氏(Luca d`Attoma)"などなど、多くのスター・エノロゴが生まれ、イタリア・ワイン史に新たな時代を築き上げたのです。

 ところで、この"スーぺル・トスカン"と呼ばれるもの。伝統的な赤ワインの有名産地では、更なる高級ワイン製造の目的に造られ、強力なDOC(G)を持たぬ産地では、名前をあげるための手段としての目的にありますが、偉大な白ワインの産地、サン・ジミニャーノではどうなのでしょうか。そして、エノロゴの活躍ぶりはいかに。 中部トスカーナの例に漏れず、キャンティ地区に属する、このサン・ジミニャーノ。一時期絶滅の危機にすらあったヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノが、DOC獲得と生産者の団結、努力により見事な復活を果した現在ですが、シエナの丘のキャンティ"キャンティ・コッリ・セネージ(Chianti Colli Senesi)"と呼ばれるDOCG赤ワインは代々生産されていました。しかし、すっかりブランドとなってしまった"キャンティ・クラッシコ"とは大きく違い、日常の食卓用ワイン、つまりそれこそ"テーブル・ワイン"と呼んでしまいたくなるほどに大衆的なワインであり、強力なDOCG"ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ"を一押しする意味合いからも、赤ワインに関しては、それほどの注意が、生産者の間になかったと言えるでしょう。  

 ですが、ヴェルナッチャ種がここまでの大成功を収めたこの唯一の大地で、最高の赤ワインが造れないはずがない、といち早く注目を始めた人は当然いました。友人である名エノロゴジャコモ・タキス氏の教えに従って、カヴェルネット・ソーヴィニョンを苗樹したファルキーニ氏の著名なワイン"カンポラ(Campora)"や、天才と言われるエリザベッタ・ファジュオーリが造り上げるサンジョベーゼ100%"ソーノ・モンテニードリ(Sono Montenidoli)"などが代表的で、まさに大地の実力を証明したワインであったと言えるでしょう。  

 そしてここにもうひとり、大地の持つ力を圧倒的に証明した人がいます。

 "ヴィンチェンゾ・チェザーニ(Vincenzo Cesani)"。マルケ州からの農移民一家に生まれた地区一の働き者。非常に見事なヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノを早くから造り上げていた生産者でありながら、自分の敷地内から生まれるサンジョベーゼ種の内容に自信を持っていた彼は、収穫量の押さえ具合や畑の選抜に執拗な剪定、そして収穫の時期の再検討や実のセレクションなどについて様々なテストを繰り返しては、健康に育て上げた葡萄をギリギリまで完熟させ、比較的遅めに収穫されたサンジョベーゼに15%の長寿コロリーノ種を混ぜる事により、不思議なまでにまとまったボディのワインを造ることに成功。数年に渡るテストの後、残る熟成方法の問題に取り掛かることになりますが、フレンチ・バリックの必要性は充分に分かっていながらも、少ない経験のために技術的な援助を探していたヴィンチェンゾ氏。ふと訪れた地域の農業技術相談所で、一人の若者男性に出逢うのです。  

 "パオロ・カチョールニャ(Paolo Caciorgna)"。偉大なベテラン・エノロゴ、アンドレア・マッツオーニ氏の元で醸造学を学んだ彼は、80年代にかのテルッツイ氏のワイナリーで経験を積み、90年代初頭にエノロゴとしての活動を始める。既に"フォンタレオーニ(Fontaleoni)"や"パラディーゾ(Paradiso)"で、本格的に働いていた彼の得意はまさにバリック仕込みの長熟タイプ赤ワイン。チェザーニ氏の訪れの前に、彼の仕事振りやワインのことを噂に聞いていたカチョールニャ氏は、"是非一緒に働いてみたい"との意欲に駆られ、前向きな方向での協力関係がスタートすることになります。  

 カンティーナを訪れて、チェザーニ氏自慢のモストを試飲したカチョールニャ氏は、想像以上のレベルの高さに愕然としたという、
 「これだけの葡萄を造る生産者となら・・・・・・」
 本当に完璧な葡萄を育て上げて、それを完璧な状態で収穫することは決して簡単なことではありません。そこへ必要となってくるものは、ひたすら献身的な仕事振り。
 「ワインの質は葡萄で決まる。そして、本当に良い葡萄を育て上げるには、毎日、葡萄、そして天候とにらみ合うことが必要。そうすると自ずからやらなければいけない仕事が見えてくる。」 ヴィンチェンゾ氏を良く知るものはこの言葉の真意をよく実感しているはず、何故なら、彼はいつも畑にいるから・・・・。

 一方、カチョールニャ氏も、その他の同業者のごとく事務的なエノロゴではない。
 「家族代々、農耕業をしていたからかな?畑にいると心が落ち着くのさ。だから、その畑を汚したくはないし、守り、そして成長させていきたい。仕事としてのパートナーにも、同じような志を共に抱いていける人たちを選んでいるよ。この仕事のスケジュールを決めるのは、計算された予定表でもなければ、ボスの一言でもない、"大地"なのさ。"健康"な葡萄を造り上げることは、大地が求める時にそこに飛んでいく人たちにしか出来ないこと。そして可能な限り僕もそこにいたいから、幾十ものワイナリーを掛け持つ気はないね。指図だけしてそこにいないのは自分の性格に反するし、第一、そんなパートナーとの人間関係だって、葡萄の質に生きてくると思っている。そして僕が何よりも求めているのは、"完璧な葡萄"。つまり、"料理"と同じで素材が一番重要だってことさ。」  

 今思えば、これ以上に強力なタッグは存在し得なかったであろう。本気の人間が揃えば、それだけの作品が生まれるもの・・・。  

 こうしてこのサン・ジミニャーノの地に生まれることとなった本物のスーぺル・トスカン、"ルエンツオ(Luenzo)"。稀に見る奥深さの集中力に溢れ、樽の甘い香りとスパイス香が程よく馴染んだ艶やかなブーケが辺り一面を包み込んでは、こなれたタンニンと豊かな下触りのボディが喉ごし軽く流れ込んでゆく。そして、口に残るほろ苦さがやさしく語り付けるものは、あたかも木霊するかのように響く偉大な存在感と心地良い清涼感・・・。一人の熟練生産者と時代のニュー・ホープであるエノロゴが生んだ、サン・ジミニャーノに新たなる活力とその可能性を切り開いた一流ワインだと言えるでしょう。  

 他にも、カチョールニャ氏が真価を発揮している素晴らしいワインが特にこの近年生まれています。"サクサ・カリダ(Saxa Calida)" "パテルノU(Paterno U)"、サン・ジミニャーノ委員会会長のワイナリー、"ポデーリ・デル・パラディーゾ(Poderi del Paradiso)"が掲げる、ボルドー品種ワインと樹齢50年のサンジョベーゼ種100%が奏でる神話たち。"ジセル(Gisele)"、スイス人夫妻のワイナリー、"ランパ・ディ・フニャーノ(Rampa di Fugnano)"が生んだ、スーパー・メルローの4本。  地道な生産者たちのみによって生まれる、サン・ジミニャーノのスーぺル・トスカンたち。今後、ますます目が離せないでしょう。


 
その他のスーぺル・トスカン

  "ネイテア(Neitea)"
:モルモライア(Mormoraia)
  "ロヴァイオ(Rovaio)"
:ラ・ラストラ(La lastra)
  "ソーディ・ルンギ(Sodi Lunghi)"
:ヴァニョーニ(Vagnoni)
  "ミッランニ(Millanni)" "ソドーレ(Sodole)"
:グイチャルディーニ・ストロッツイ(Guicciardini)Strozzi