本人確認情報の利用業務は、当初の93事務から2003年2月の「行政手続オンライン化3法」施行で264事務に拡大したことを経て、2005年3月時点で275事務に拡大しています。
総務省のホームページに掲載されている説明資料「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み」(註1)では、「情報提供を受ける行政機関や利用事務を変更する法律案を検討する場合、地方公共団体の意見を十分に踏まえ、第三者機関である住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会の審議を経て行う。
」とされています。
しかし私たちの知るかぎりでは、275事務への利用拡大にあたって、地方公共団体からの意見聴取や調査委員会での審議は行われていません。
この利用事務拡大の経過と、その都度、いつどのように地方公共団体からの意見聴取と、住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会での審議がおこなわれたのか、明らかにしてください。
行政手続オンライン化3法後に追加された証券仲介登録業者の登録や信託業の免許などに関する事務については、いずれもそれ以前に別表に記載されていた事務と性質を同じくするものであり、他の法律の改正により追加されたものです。住民基本台帳ネットワークシステムの利用事務等に大きな変更等を伴う動きについては、地方公共団体や住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会に報告し、意見を伺っているところです。
ご回答では、行政手続オンライン3法後に追加された事務については地方公共団体や住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会への報告・意見聴取はしておらず、その理由は「それ以前に別表に記載されていた事務と性質を同じくする」「他の法律の改正により追加されたもの」であり、「利用事務等に大きな変更等を伴う動きについては」報告し意見を伺うとのことでした。
総務省の「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み」では、「情報提供を受ける行政機関や利用事務を変更する法律案を検討する場合、地方公共団体の意見を十分に踏まえ、第三者機関である住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会の審議を経て行う。」とされており、「性質を同じく」「大きな変更等」の限定は記載されていません。
@ 同じか否か、大きな変更か否か、は、どこでどのような基準で判断することになっているのか、ご説明ください。
A 従来、本人確認情報提供事務は「継続的に行われる給付行政」と「資格付与に関する行政事務」における本人確認と説明されてきましたが、たとえば平成15年法律第69号の公職選挙法改正はこれとは性質を異にすると思われます。見解をお示しください。
B また「他の法律の改正により追加されたもの」だからとされていますが、他の法律の改正による際は、地方公共団体や調査委員会への報告・意見聴取は行わない、ということでしょうか。提供事務の追加を決める手続きについて、ご説明ください。
C なお、「他の法律の改正により追加」されるために、本人確認情報の提供事務の現状がたいへんわかりにくくなっています。前回の質問書でお願いしました現在までの「利用事務拡大の経過」のわかる資料をお示しください。
またとくに平成17年6月10日法律第55号「旅券法及び組織的な犯罪処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律」による改正の内容について、ご説明ください。
① 住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)別表に既に定められている事務と比較して判断することになります。
② 公職選挙法の一部を改正する法律(平成15年法律第69号)により、住民基本台帳法別表に対して、公職選挙法第48条の2による期日前投票の際に選挙人が引き続き同一都道府県の区域内に住所を有することの確認が追加されたところです。これは、同一都道府県内の他の市町村に住所を移した者が期日前投票を行う際に、その者が当該都道府県の議会の議員及び長の選挙権を有することを確認するためのものです。
③ 前回お答えしたとおりですが、最終的には国会の審議を経て法律により改正されるものです。
④ 住基ネットから本人確認情報を提供することができる事務の現状については、住民基本台帳法別表に定められているとおりです。
また、旅券法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第55号)により紛失盗難旅券の再発給制度が廃止されたこと及び紛失盗難旅券に係る失効制度が導入されたことに伴い、住民基本台帳法別表から改正前の旅券法第10条による再発給に関する事務が削除され、また、改正後の旅券法第17条による一般旅券が紛失し、又は焼失した旨の届出に関する事務が追加されたところです。
総務省の回答によって、本人確認情報の利用拡大という、個人情報保護と地方自治に大きくかかわる問題について、個人情報保護の不備が明らかになりました。
まず、説明されてきた「地方公共団体の意見を十分に踏まえ、第三者機関である住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会の審議」という手続きをしないで拡大が行われていることが明らかになりました。
その理由は「それ以前に別表に記載されていた事務と性質を同じくするもの」「他の法律の改正により追加されたもの」だから、と説明されています。しかし「同じか否か」「大きな変更か否か」を判断する基準は、示されていません。また「他の法律の改正」によればこれらの手続きは不要、となれば、ほとんどの利用拡大で不要ということになります。
さらに、追加された公職選挙法改正による事務について、その内容を説明しているだけで、従来本人確認情報の提供対象と説明してきた「給付行政」「資格付与」事務に該当していると判断した、という説明ではありません。この事務自体にとくに問題があるとは思われませんが、従来と違う事務にも提供範囲を広げるなら、どのような事務に本人確認情報を利用するのか、改めて基準と説明が必要なはずです。
また「利用事務拡大の経過」についての説明もなく、利用事務の現状は法律を読めという回答では、説明責任の放棄です。
これでは、
といわざるをえません。
本人確認情報は、もとをただせば市町村が管理する住民情報です。それをどこに提供するかは、「国会で決める」前に情報の管理者である自治体に確認するのが当然です。またそもそも「住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会」は総務大臣の私的諮問機関でしかなく、住基法上の権限のある第三者機関ではありません。「第三者機関の審議を経て行う」というのならば、住基法を改正して第三者機関の設置と利用事務変更の際の諮問を法定し、審議の内容を公開する仕組みをつくるべきです。