総務大臣への質問事項1をめぐるやりとりと私たちの見解

1.質問事項1をめぐるやりとり
住基カードの本人確認書類としての使用通知について

(1)住基ネットについての質問書

平成17年4月20日付で各都道府県住民基本台帳担当部長あてに、総務省自治行政局市町村課長より「本人確認書類としての住民基本台帳カード利用の周知・徹底等について」が通知されています。

この通知において、写真付きの住民基本台帳カード(以下、住基カードと略)を本人確認書類として利用できることの周知・徹底を、各部局、関係民間団体等、市区町村に対して求めています。

住基カードは、①住民票写しの広域交付や転入転出の特例処理 ②住基法別表に定める事務を行う際の本人確認 ③市町村が条例で定める事務への使用 ④公的個人認証において電子証明書や秘密鍵を保存するために使用することは、法律に規定されていますが、それ以外の利用は規定されていません。

関係民間団体等が住基カードの表面記載を本人確認書類に使用することは、それぞれの判断によることです。住基カードが、本人確認書類、公的な身分証明書として使用できるとすることの法的根拠を明らかにしてください。

(2005年10月17日付け、「やぶれっ!住基ネット市民行動」の総務大臣あて質問書「住基ネットについての質問書」)
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(2)住基ネットについての質問書に対する回答

写真付きの住民基本台帳カードを本人確認書類として使用できることについては、例えば、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律施行規則(註1)平成14年7月26日内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第1号)第4条、旅券法施行規則平成元年12月8日外務省令第11号)別表第2(註2)などの法令において定められています。

(2005年11月14日付け、総務省自治行政局市町村課の「やぶれっ!住基ネット市民行動」あて回答書「住基ネットについての質問書に対する回答」)
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(3)住基ネットについての再質問書

写真付きの住民基本台帳カードを本人確認書類として使用できることについては、金融機関等本人確認や旅券法の施行規則などの法令において定められているとの回答でした。

しかしこれらはいずれも質問書にも述べたように、本人確認を求める関係民間団体や行政機関の側がどの書類を本人確認書類として使用することを認めるか、という規定であり、それぞれの団体・機関がその責任において判断する事柄です。

それに対して平成17年4月20日付の総務省自治行政局市町村課長通知は、総務省の立場から本人確認書類としての使用できることの周知・徹底を都道府県や市区町村を求めるものであり、これらの法令はその根拠となるものではありません。

私たちは、住基法には住基カードの表面記載を本人確認書類・公的な身分証明書として使用できるとする規定はないと理解していますか、総務省として「使用できる」とする法的根拠を、改めておたずねします。

(2005年12月8日付け、「やぶれっ!住基ネット市民行動」の総務大臣あて質問書「住基ネットについての再質問書」)
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(4)住基ネットについての再質問書に対する回答

住民基本台帳カードを本人確認書類として利用できることを定めている法的根拠は、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律施行規則(註3)平成14年7月26日内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第1号)第4条、旅券法施行規則平成元年12月8日外務省令第11号)別表第2(註4)などの各種の法令です。

(2005年12月28日付け、総務省自治行政局市町村課の「やぶれっ!住基ネット市民行動」あて回答書「住基ネットについての再質問書に対する回答」)
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2.私たちの見解
住基カードの本人確認書類としての使用通知について

総務省の回答は、関係機関の側が本人確認に際して住基カードを使用してよい、としている規定を示しているだけです。

再質問に対しても、結局、住基法において住基カードの表面記載を「本人確認書類、公的な身分証明書として使用できるとすることの法的根拠」は答えられないままでした。

総務省の通知は、単なる住基カードのお知らせではなく、都道府県、そして市区町村に対して「本人確認書類として住基カード利用の周知・徹底」を求めるものです。文面では「しかしながら、敬老パスの本人確認書類に住民基本台帳カードが位置付けされておらず、利用できなかった等の苦情もいまだに寄せられているところです」などと、まるで使用しないことがルール違反であるかのようなことまで書いています。

住基カードは、偽造や成りすまし事件が続いています。自治体情報政策研究所の黒田充さんは杉並区の住基ネット訴訟に提出した意見書「住民基本台帳ネットワークについて」(pdfファイル、甲第42号証、15〜16ページ、2006-01-10)で、以下の事例をあげています。

券面記載事項を偽造・改ざんする事件は、2004年9月佐賀県伊万里市、10月東京都新宿区、2005年6月東京都北区、10月愛知県名古屋市と起きています。また不正取得事件も、2004年2月佐賀県鳥栖市、3月福島県相馬市、9月埼玉県所沢市、10月福島県原町市と北海道札幌市、2005年3月愛知県名古屋市、5月大阪府大東市、10月愛知県名古屋市、11月兵庫県神戸市と大阪府羽曳野市で発生。いずれも総務省が本人確認の厳格化やカードに偽造防止の幾何学模様を入れるよう通知しても、歯止めになっていません。

その他、北九州市内で2005年8月と12月に本人に成りすまして住民基本台帳カードの交付を受け、携帯電話の不正購入や銀行からの不正融資をうけた事件が2件続いたことに対して、2006年1月には市民グループが住基カードの交付停止などを求める申し入れ書を市に提出しています。

住基カードは偽造されにくいと総務省は説明してきましたが、それはICカードとして利用する場合です。券面記載の偽造は容易で、しかも全国2000市区町村がそれぞれのデザインで作成する住基カードは、偽造かどうか判別するのが難しい、という特徴があります(自治体情報政策研究所 黒田充さんの指摘参照)。

しかも有効期間が10年間というのも、偽造・成りすましを発覚しにくくしています。

そもそも住基ネットは「地方公共団体共同システム」であり、法に定められていない本人確認書類として住基カードを使う周知をするかどうかは自治体の自由です。総務省に「使え」と指示されるいわれはありません。むしろ偽造や成りすましによって自治体が損害賠償請求される危険を考えれば、本人確認書類としての利用の抑制をPRする自治体があっても、まったく問題はありません。

法的根拠もないまま、あたかも義務であるかのような「お願い」をしているこの通知は撤回すべきです。

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