住基ネットについて総務大臣に質問

住基ネットが稼働して3年がすぎ、運用の実態がだんだん明らかになってきました。それとともに、具体的な運用についての疑問も生まれています。

私たちは住基ネットについて、とりわけ住民票コードによって個人情報の照合・結合が容易・迅速になり、住基カードにより個人の行動が追跡可能となり、行政による監視・管理が強化されて個人の人格的自立と民主主義が脅かされていくことを警戒してきました。

その立場から、住基カードの使用や本人確認情報の利用に関する事項のうち、いま特に問題と思われ、かつ総務省自身が公に関与している次の3点の事項について、総務大臣あてに質問書を出しました。

1.質問内容

(質問事項1)
住基カードの本人確認書類としての使用通知について

住基カードの交付は伸び悩み、利用も広がっていません。それは住基ネットに利便性がないことの現れであるとともに、住基ネットに対する不安が根強いことも示しています。

そのなかで総務省は住基カードの普及のために、写真付き住基カードの表面記載を本人確認書類として使用させようとしています。以前から「本人確認書類として使える」という宣伝はしていましたが、2005年4月20日には都道府県にあてて担当課長名で、住基カードを本人確認書類として使用することの周知徹底を求める通知を送りました。

しかし住基法には、どこにも住基カードの表面記載を本人確認書類として使用する規定はありません。何を本人確認に使うかは使う側の判断ですが、総務省が法的根拠もないまま「使え」と求めて普及をはかるのはおかしいではないか、という疑問から、通知の法的根拠を問いただしました。

詳しくは「総務大臣への質問事項1をめぐるやりとりと私たちの見解」をご覧ください。

(質問事項2)
本人確認情報の利用拡大における、自治体からの意見聴取および調査委員会での協議について

住基ネットは市町村の管理する住民情報(本人確認情報)を国等の機関に提供するシステムです。国等が本人確認情報を利用できる業務は、当初の93事務から264事務に、さらに2005年3月時点で275事務に拡大し、いまも増え続けています。本人確認情報、特に住民票コードは、それを共通番号として使いデータをマッチング(照合・結合)すれば、事実上、国民総背番号制となっていくものであり、その提供先や利用方法は私たちの基本的人権にかかわります。

総務省は、個人情報保護のために本人確認情報の利用拡大にあたっては、「地方公共団体の意見を十分に踏まえ、第三者機関である住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会の審議を経て行う」と説明してきました総務省「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み」pdfファイル、658KB、2004-05-12 13:59:43、2ページ末尾

ところが実際には、このいずれの手続きも経ないまま利用を拡大しているのではないか、という疑問が浮上しました。

そこで、どのような手続きで本人確認情報の利用拡大がされているのか、その実態を問いただしました。

詳しくは「総務大臣への質問事項2をめぐるやりとりと私たちの見解」をご覧ください。

(質問事項3)
国民年金事務における住基ネットの利用について

住基ネットから本人確認情報を提供している利用件数の99%は、年金関係の事務です。

その年金事務での住基ネット利用が、法令に違反しているのではないか、との疑問があります。仮に法令違反とはいえないとしても、住基ネットについて「住民票コードはデータ結合のための番号ではないから、国民総背番号制ではない」と説明されてきたこととは矛盾する利用が行われようとしています。国民年金での利用を突破口に、住基ネットが「国民総背番号制」に成長していくのではないか、という不安を私たちは抱いています。

総務省は2004年10月、「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告−国民年金業務を中心として−」を発表しました。

そこでは、年金事務における住基ネットの利用として、3点を述べています。

  • a.20歳に到達することにより第1号被保険者となる者は、既に住基ネットから情報提供を受け対象者把握をしている。
  • b.第1号未加入者についても、同様に住基ネットから情報提供を受け、基礎年金番号システムに登載されていない者を把握することが可能。
  • c.年金受給者の現況届と氏名・住所の変更届については、住基法第30条の7及び別表第1第76号で住基ネットを利用できるとされており、活用すれば廃止が可能。

このうち、「c」については、住基ネット稼働時の93事務で地方公務員共済年金などの利用が規定され、すでに行われています。国民年金については264事務に拡大した際に、国民年金法による「被保険者の資格の取得の届出」「年金である給付に係る権利の裁定」が社会保険庁への提供事務として追加され、2006年度中の利用開始が計画されています。

稼働時になぜ国民年金を提供事務から外したのかというと、そこまでいれると世論の反発を招いて住基法改正が危うくなるという判断があったことを、旧自治省のトップは述べていました。ただ問題はあるものの、この提供には法的根拠はあります。

しかし、現在すでに行っているという「a」は、20歳到達者すべてを一括して提供するというもので、法令を素直に読むかぎり、このような利用を認めているのか、疑問があります。

そして「b」については、住基ネットシステムと基礎年金番号システムのデータマッチングであり、明らかに現行法には規定されていない利用です。

この点について、法令の解釈とともに、従来の総務省が個人情報保護のための取組みとして説明してきたこととの矛盾について、質問しました。

詳しくは、「総務大臣への質問事項3をめぐるやりとりと私たちの見解」をご覧ください。

2.質問経過