総務大臣への質問事項3をめぐるやりとりと私たちの見解

1.質問事項1をめぐるやりとり
国民年金事務における住基ネットの利用について

(1)住基ネットについての質問書

総務省の「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告 −国民年金業務を中心として−」では、年金未加入者について住基ネットから情報提供を受け、基礎年金番号システムとデータマッチングし、基礎年金番号を有していないもの=未加入者を把握することを求めています。また厚生労働省が、20歳に到達することにより第1号被保険者となる者について、住基ネットシステムから情報提供を受け対象者の把握を行っていると記載されています。

しかし本人確認情報は、申請、届出、請求等を行った者の情報が正確であるかどうかの照合を行うために都道府県から提供されると説明されてきました。総務省も、説明資料「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み(註1)において、「市町村の全住民の本人確認情報を行政機関に提供するような情報提供形態は全く想定されない。」とされています。

申請、届出、請求等を行っていない者について、この勧告にあるように住基ネットから一括して本人確認情報を提供を受けられるとする法的根拠を明らかにしてください。

(2005年10月17日付け、「やぶれっ!住基ネット市民行動」の総務大臣あて質問書「住基ネットについての質問書」)
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(2)住基ネットについての質問書に対する回答

「第1号未加入者を把握すること」については、現在社会保険庁において検討が行われているものと承知しています。

なお、社会保険庁に対しては、日本国内に住所を有する20歳に達した者について、住民基本台帳法昭和42年7月25日法律第81号)第30条の7第3項及び同法別表第1の76の項並びに「住民基本台帳別表第一から別表第五までの総務省令で定める事務を定める省令平成14年2月12日総務省令第13号)」第1条第76項第1号に定めるところにより(註2)、住民基本台帳ネットワークシステムから本人確認情報を提供しています。

(2005年11月14日付け、総務省自治行政局市町村課の「やぶれっ!住基ネット市民行動」あて回答書「住基ネットについての質問書に対する回答」)
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(3)住基ネットについての再質問書

(1)「第1号未加入者を把握すること」は、「現在社会保険庁において検討」とされていますが、「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告」は総務省によるものです。このような住基ネットの利用が現行住基法で可能か否かについて、総務省としての見解をお示しください。

(2)20歳到達者の本人確認情報について

@ 社会保険庁に対して住民基本台帳法第30条の7第3項、別表第1の76、並びに省令第1条第76項第1号の定めにより(註3)、住基ネットから提供しているとの回答でした。

総務省の「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告」では、提供先は「厚生労働省」となっていましたが、回答では「社会保険庁」とされています。法別表第1の76も提供先は社会保険庁となっていますが、「厚生労働省に対して」との勧告の文面は誤りと理解してよろしいでしょうか。

A また上記法令により社会保険庁に提供が認められる事務は、「資格取得の届出」「裁定請求」「支給停止解除」「受給権者の届出」等、届出や請求などのなんらかの能動的な行為に対する本人確認とされています。

総務省の「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み(註4)でも、「行政機関が申請・届出を行った者、年金受給者等についての情報が正確であるかどうかの照合を行う場合に、都道府県・指定情報処理機関から本人確認情報を提供。」と説明されています。

「日本国内に住所を有する20歳に達した者」全ての本人確認情報を一括して提供することは、この法令や説明と矛盾すると思われますが、見解をお示しください。

(2005年12月8日付け、「やぶれっ!住基ネット市民行動」の総務大臣あて質問書「住基ネットについての再質問書」)
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(4)住基ネットについての再質問書に対する回答

(1) 現在、社会保険庁において法改正を含めて検討されています。

(2)

① 社会保険庁は、厚生労働省設置法第25条第1項により、国家行政組織法第3条第2項に基づいて厚生労働省に置かれています。

② 社会保険庁に対する20歳に到達する者の本人確認情報の提供は、住民基本台帳法第30条の7第3項、同法別表第一第76項及び住民基本台帳法別表第一から第五までの総務省令で定める事務を定める省令(平成14年総務省令第13号)第1条第76項第1号に定めるところにより(註5)行っています。

(2005年12月28日付け、総務省自治行政局市町村課の「やぶれっ!住基ネット市民行動」あて回答書「住基ネットについての再質問書に対する回答」)
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2.私たちの見解
国民年金事務における住基ネットの利用について

ここで私たちは3点の疑問を聞きました。

1)総務省が「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告」で求めた住基ネットからの情報と基礎年金番号システムを照合(データマッチング)して年金未加入者を抽出する利用は、現行住基法でできるのか?

2)20歳到達者の本人確認情報を提供している先は、「厚生労働省」なのか「社会保険庁」なのか?

3)20歳到達者の本人確認情報の一括提供は、すでに現在行われているとのことだが、これは現行の住基法で認められる提供なのか?

また総務省が住基ネットの個人情報保護措置として説明してきたことに反していないか?


これに対する総務省の回答は、

1)は、「社会保険庁において法改正を含めて検討している」というものです。つまり、現行の住基法では行えない、と判断していると思われます。

なおその後、2006年2月21日の日経新聞では、毎年34歳の人についてデータマッチングをできるようにするために、社会保険庁改革関連法案に住基ネット活用を盛り込む、という報道がされています。

2)は、社会保険庁は厚生労働省の中に置かれている組織、というものです。

3)は、法と省令の定めにより行っている、というだけで、法解釈や説明との矛盾には回答していません。


なぜこの点が問題なのでしょうか。

1)は住基ネットと基礎年金番号システムの本格的なデータマッチングで、それにより「国民年金未加入者」という新しい個人情報が生まれ利用されていきます。従来の、申請等を行った人の本人確認・生存確認ということとは異質の利用法です。

これが認められれば、今後住民票コードを使って行政機関内の個人情報を結合・加工して、本人の知らないプロフィールがつくられていくことになります。

2)について、本人確認情報の提供先を規定した住基法別表では、提供を受ける国の機関又は法人として、社会保険庁と厚生労働省を分けて規定しています。

たとえば、社会保険庁として健康保険法、船員保険法、厚生年金保険法・・・の事務が列挙され、厚生労働省として労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの事務が列挙されています。

もし総務省の回答でよければ、すべて「厚生労働省」にしておけば済むことです。たぶん提供先を厚生労働省とした「総務省勧告」の文言は、単なるミスなのでしょう。しかし総務省の回答では提供先が曖昧にされていき、たとえば提供先が「内閣府」となっていれば、防衛庁や警察庁にも提供できてしまうのか、ということにもなりかねません。

3)は、20歳になった全国民のデータを、一括して社会保険庁に提供するものです。これは「住基ネットは本人確認のためのシステム」という説明にも反しています。このような一括提供が許されるのなら、たとえば18歳到達者リストを自衛官募集のために防衛庁に送る、といった活用法も可能です。


この総務省の「年金に関する行政評価・監視結果に基づく第1次勧告」は、つぎのように述べています。

国民年金の被保険者は、以下の3つに分かれています。

@「第1号被保険者」(日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、次のA及びBのいずれにも該当しないもの)

A「第2号被保険者」(厚生年金保険その他の被用者年金各法の被保険者又は組合員若しくは加入者)

B「第3号被保険者」(第2号被保険者の被扶養配偶者であって20歳以上60歳未満の者)

このうち「第1号未加入者」(第1号被保険者になるべき者であって、加入手続を行っていないため基礎年金番号を有していないもの)の数を63万5,000人(第1号被保険者数の3.0%)と推計し、この第1号未加入者を特定し加入手続を行わないと、これらの者が年金を受給できる資格を得られないだけでなく、年金制度の安定的な運営が確保されないおそれも生じることになる、と指摘しています。

そしてこの未加入者を把握する方法として勧告は、「住民基本台帳法第30条の7及び別表第1第76号に基づき、住民基本台帳ネットワークシステムの情報を利用することが考えられる。」「既に厚生労働省は、20歳に到達することにより第1号被保険者となる者については、海外居住者等を除き、住基ネットシステムから情報提供を受け、対象者の把握を行っている。第1号未加入者についても、同様に、海外居住者等を除き、住基ネットシステムから情報提供を受け、基礎年金番号システムに登載されていない者を把握することが可能である。」と勧告しています


はたしてこの「勧告」がいうような住基ネットの利用は、現行の住基法で認められているでしょうか。

この住民基本台帳法第30条の7は、都道府県知事からの本人確認情報の提供を定めています。

第三十条の七(都道府県知事の事務)

(1・2項 略)

3  都道府県知事は、別表第一の上欄に掲げる国の機関又は法人から同表の下欄に掲げる事務の処理に関し、住民の居住関係の確認のための求めがあつたときに限り、政令で定めるところにより、保存期間に係る本人確認情報(第三十条の五第一項の規定による通知に係る本人確認情報であつて同条第三項の規定による保存期間が経過していないものをいう。以下同じ。)を提供するものとする。

(4〜10項 略)

そして提供事務を定めている「別表第1の76の項(現行:別表第1の77の項)」は、こうなっています。

[提供を受ける国の機関又は法人]社会保険庁

[事務] 国民年金法による被保険者の資格の取得の届出、年金である給付に係る権利の裁定若しくは支給の停止の解除又は受給権者に係る届出に関する事務であつて総務省令で定めるもの

そしてこの「総務省令」(住民基本台帳法別表第一から別表第五までの総務省令で定める事務を定める省令)第1条第76項(現行:第1条第85項)で、具体的に以下の事務が定められています。

76(現行:85) 法別表第一の七十六の項(現行:七十七の項)の総務省令で定める事務は、次のとおりとする。

一  被保険者の資格の取得の届出を行う者の氏名、出生の年月日、男女の別及び住所の確認

二  年金である給付に係る権利の裁定の請求の受理、その請求に係る事実についての審査又はその請求に対する応答

三  年金である給付に係る支給の停止の解除の申請の受理、その申請に係る事実についての審査又はその申請に対する応答

四  受給権者に係る届出の受理又はその届出に係る事実についての審査

五  受給権者に係る届出に関する受給権者又は給付の額の加算の原因となる者の生存の事実又は氏名若しくは住所の変更の事実の確認

以上の法令をみるならば、(質問事項3)の3点について、次のように言えます。

1)現行法で認められているのは、資格取得の届出や給付の請求等を行う者についての事実確認です。「加入手続を行っていない」第1号未加入者は、住基ネット利用の対象とはなっていません。

総務省もこの利用については、法改正が必要と判断しているようです。しかし単に住基法別表に利用事務を追加すれば済むことではありません。データマッチングという住基ネットの新たな利用について、住基法そのものの再検討が必要です。

2)提供先機関は「社会保険庁」であり、「厚生労働省」ではありません。

3)現行法で認められているのは、なんらかの能動的な行為をした場合の確認(届出の際の確認、裁定請求や申請に対する審査や応答、受給権者の生存・氏名・住所の確認)であり、その行為をしていない者も含めて一括して特定の年齢到達者の本人確認情報を送る規定はありません。

そしてこの一括提供は、総務省の「住民基本台帳ネットワークシステム 個人情報保護の取組み」で、「(住基ネットは)行政機関が申請・届出を行った者、年金受給者等についての情報が正確であるかどうかの照合を行う場合に、都道府県・指定情報処理機関から本人確認情報を提供。したがって、市町村の全住民の本人確認情報を行政機関に提供するような情報提供形態は全く想定されない。」と説明されていることとも矛盾します。

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