年金に関する行政評価・監視
結果に基づく第1次勧告
−国民年金業務を中心として−

平成16年10月

総務省


前書き

我が国の公的年金制度は、基礎年金(国民年金)を国民共通の給付として支給するとともに、被用者に対しては報酬比例の年金を支給するものであり、老齢・障害等によって生活の安定が損なわれることの防止を目的としている。

公的年金については、少子高齢化の著しい進行等により、年金財政の運営が一層厳しいものとなることが予測されており、社会経済と調和した持続可能な制度の構築と制度に対する信頼の確保等を図るため、政府は、年金の給付水準と負担額との見直し等の事項を盛り込んだ国民年金法等の一部を改正する法律案を第159国会に提出した。同法律案は平成16年6月、可決成立したところである。

このような中で、国民年金については、多数の適用漏れ者(いわゆる未加入者)が存在している。また、適用者についても、多数の保険料未納者が存在している状況にあり、平成15年度の国民年金保険料の納付率は63.4%となっている。このため、国民年金被保険者の適用業務及び保険料徴収業務をより効果的に実施することが求められている。

また、被保険者に対する年金加入期間、保険料納付期間、将来支給される年金見込額等に係る情報の提供の充実や手続・申請書類等を分かりやすいものとすることも求められている。

この行政評価・監視は、国民年金制度の安定的な運営を確保する等の観点から、①適用業務の実施状況、②保険料徴収業務の実施状況、③情報提供、申請等手続の状況等を調査し、関係行政の改善に資するため実施しているものである。

今回の勧告は、厚生労働省の本省に対する調査に基づき、具体的な改善方策を取りまとめたものである。

現在、本省を引き続き調査するとともに、社会保険事務局等を調査中である。当省としては、この調査に基づき、更なる具体的な改善方策を取りまとめ、速やかに勧告することを予定している。


目次


1 適用業務等の的確な実施

国民年金の被保険者は、①日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、次の②及び③のいずれにも該当しないもの(以下「第1号被保険者」という。)、②厚生年金保険その他の被用者年金各法の被保険者又は組合員若しくは加入者(以下「第2号被保険者」という。)及び③第2号被保険者の被扶養配偶者であって20歳以上60歳未満の者(以下「第3号被保険者」という。)とされている(国民年金法(昭和34年法律第141号)第7条第1項)。

第1号被保険者は、資格の取得、喪失及び種別変更並びに氏名及び住所の変更に関する事項を、市町村長に届け出なければならないこととされている(国民年金法第12条第1項)。

なお、転入届、転居届及び転出届に住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第29条の規定に基づく附記がされたときは、同一事由の届出があったものとみなされる(国民年金法第12条第3項)。

第2号被保険者(共済組合の組合員又は私立学校教職員共済制度の加入者を除く。)については、①資格の取得・喪失に関する事項を、事業主が社会保険庁長官に届け出なければならず(厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第27条)、②被保険者は、氏名及び住所の変更に関する事項を、事業主に申し出なければならないこととされ、申出を受けた事業主は、これらの事項をすみやかに社会保険事務所長等に提出しなければならない(厚生年金保険法施行規則(昭和29年厚生省令第37号)第6条、第6条の2、第21条及び第21条の2)こととされている。

第3号被保険者については、資格の取得、喪失及び種別変更並びに氏名及び住所の変更に関する事項を、配偶者である第2号被保険者を使用する事業主を経由して、社会保険庁長官に届け出なければならないとされている(国民年金法第12条第5項及び第6項)。

また、年金受給権者は、毎年、現況届を、氏名及び住所の変更があったときはその届書を社会保険庁長官に提出しなければならないとされている(国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号)第18条、第19条及び第20条)。

厚生労動省が適用業務(被保険者資格の得喪に関する業務)を的確に実施することは、国民皆年金の実現、老齢年金支給額の算定、年金加入記録の提供等に当たり重要である。

今回、厚生労働省における第1号被保険者の適用業務等の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 第1号未加入者の把握等

社会保険庁の「平成13年公的年金加入状況等調査」(平成13年10月15日現在)結果によると、第1号被保険者になるべき者であって、加入手続を行っていないため基礎年金番号を有していないもの(以下「第1号未加入者」という。)の数は、63万5,000人(第1号被保険者数2,119万人の3.0%)と推計されている。第1号未加入者を特定し、加入手続を行わないと、これらの者が年金を受給できる資格を得られないだけでなく、年金制度の安定的な運営が確保されないおそれも生じることになる。

第1号未加入者を把握する方法としては、住民基本台帳法昭和42年法律第81号)第30条の7及び別表第1第76号に基づき、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネットシステム」という。)の情報を利用することが考えられる。住基ネットシステムには、我が国に居住している住民の氏名、住所、生年月日及び性別が記録されており、これらの情報に変更があった場合は、直ちに更新され、最新の情報として維持されている。既に厚生労働省は、20歳に到達することにより第1号被保険者となる者については、海外居住者等を除き、住基ネットシステムから情報提供を受け、対象者の把握を行っている。第1号未加入者についても、同様に、海外居住者等を除き、住基ネットシステムから情報提供を受け、基礎年金番号システムに登載されていない者を把握することが可能である。

また、海外居住者等を除き、年金受給権者の現況届(年1回)並びに氏名及び住所の変更届については、住民基本台帳法第30条の7及び別表第1第76号に基づき、住基ネットシステムを利用できることとされていることから、住基ネットシステムの活用により、その廃止が可能である。

なお、社会保険庁においては、このうち現況届について、今後、住基ネットシステムを活用する予定であるとしている。

一方、被保険者の氏名及び住所の変更届については、今後、住基ネットシステムを活用できるよう措置することにより、廃止することが可能とみられる。

イ 住所変更の届出の改善

第2号被保険者及びその配偶者である第3号被保険者の住所変更届は、事業主が社会保険事務所に行うこととされ、同一の住所に変更する場合であっても、別葉で届出を行うこととなっているため、届出漏れが生じる可能性がある。

したがって、厚生労働省は、被保険者等の現況を的確に把握する観点から、次の措置を講ずる必要がある。

① 住基ネットシステムを活用することにより、第1号未加入者を把握すること。

また、住基ネットシステムを活用することにより、海外居住者等を除き、年金受給権者の現況届を廃止するとともに、氏名及び住所の変更届を廃止することを検討すること。さらに、海外居住者等を除く被保険者の氏名及び住所の変更届についても、要する費用に配慮しつつ、住基ネットシステムを活用できるよう措置することにより廃止することを検討すること。

② 第2号被保険者が住所変更を行う際に、その配偶者である第3号被保険者も同一の住所に変更となる場合は、同時に記載が行える様式とすること。

2 保険料徴収業務の的確かつ効果的な実施

保険料については、国民年金法に次のように規定されている。

① 第1号被保険者は保険料を納付する義務を負い、世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を、また、配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う(国民年金法第88条)。

② 保険料(平成16年度「月額1万3,300円」)については、納付義務が免除されたとき又は保険料を前納した場合を除き、翌月の末日までに納付しなければならず(国民年金法第91条)、社会保険庁長官は、この法律に別段の規定があるものを除くほか、国税徴収の例によって徴収する(同法第 95条)。

③ 保険料を滞納する者があるときは、社会保険庁長官は、納付義務者に対して督促することができるほか、督促を受けた者が、その指定期限までに納付しないときは、国税滞納処分の例によってこれを処分することができる(同法第96条)。

④ 保険料を徴収する権利は2年を経過したときは時効によって消滅する (同法第102条第3項)。

なお、督促は、時効中断の効力を有する(同法第102条第4項)。

厚生労働省が保険料を的確かつ効果的に徴収することは、国民年金制度の維持・安定に当たり重要である。

今回、厚生労働省における保険料徴収業務の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 保険料納付率の実態

保険料の納付率(すべての第1号被保険者が保険料として納付すべき月数(全額免除者の免除月数及び学生納付特例を受ける者の納付猶予月数を含まない。)の総合計のうち、被保険者が実際に納付した月数の総合計の割合)は、平成6年度当時は85%を超えていたが、その後は、年々低下し、14年度は62.8%と過去最低となった。

なお、平成15年度は納付率は若干上昇しているものの、63.4%にとどまっている。

イ 厚生労働省及び社会保険庁における目標設定

上記アのように、納付率が低下している実態を踏まえ、厚生労働省は、厚生労働大臣を本部長とする国民年金特別対策本部を設置し、国民年金保険料の納付率の中長期的目標を「今後5年で納付率80%」と定めている(平成15年8月4日付け庁保発第0804001号社会保険庁運営部長通知)。厚生労働省は、当面の目標を80%に設定したことについては、未加入者対策として20歳到達者に対する手帳送付による適用の通知を全国的に実施した平成9年度の納付率79.6%を目標にしたものであると説明している。

平成19年度までに納付率80%という目標を達成するためには、納付率や口座振替率について、年度別の目標値を設定することが効果的と考えられる。しかし、厚生労働省は、平成16年度に社会保険庁が達成すべき目標において、保険料等収納事務に関する事項として、「平成19年度までに保険料納付率を80%とする中期目標の達成に向けて、前年度を上回る保険料納付率とすること。」及び「前年度を上回る口座振替実施率とすること。」と設定しているのみで、年度別の目標値は設定していない。

また、社会保険庁が納付率80%という目標を達成するためには、毎年度、例えば、現在収納対策の中心として実施している戸別訪問や電話による納付督励等の実施件数などについて目標値を具体的に設定し、これに基づいた業務管理を行うことが効果的と考えられるが、現在のところ、これらのような目標値は設定されていない。

ウ 効果分析に基づく納付督励等の実施

社会保険庁は、納付率80%という中期目標を達成するために、基本的な収納対策として、①戸別訪問や電話による納付督励等の強化、②免除制度等の周知、③広報・教育の推進、④保険料納付意識を徹底させるための強制徴収の実施を図るとともに、平成16年度以降の新たな収納対策として、⑤多段階免除制度の導入、⑥納付しやすい環境作りのため、口座振替に対する保険料割引や若年者に対する納付猶予制度の導入、⑦自治会や業界団体等納付協力組織の活用などを順次、総合的に実施するとしている。

このうち、納付督励等については、未納者全員に年6回催告状を発送し、それでも納付しない者に対しては、委託業者による電話納付督励、国民年金推進員による戸別訪問督励、さらに職員による電話督励・戸別訪問督励・集合徴収が行われている。しかし、これらの納付督励等がどの程度納付率の向上に結び付くかは明らかにされていない。また、これまで、それぞれの納付督励等の業務ごとに、保険料納付額等という成果(アウトカム)指標からみた費用対効果が不明確なまま納付督励等を実施している。

したがって、厚生労働省は、保険料徴収業務を効果的に実施する観点から、次の措置を講ずる必要がある。

① 厚生労働省(本省)は、納付率について、中期目標を達成するため年度別の目標値を設定するとともに、口座振替実施率について、毎年度、目標値を設定すること。

また、社会保険庁は、納付督励等の実施に当たって、毎年度、それぞれの業務ごとに目標値を設定し、これに基づき、全国の社会保険事務局等の業務管理を行うこと。

② 社会保険庁は、それぞれの納付督励等の業務ごとに、どの程度納付率の向上に結び付いているかについての分析結果及び保険料納付額等という成果(アウトカム)指標を用いた費用対効果についての分析結果を踏まえて、有効な納付督励等を積極的に展開すること。

3 被保険者等に対する情報の積極的な提供

年金制度に対する国民の信頼を確保する観点から、被保険者及び年金受給権者に対して、年金制度や本人の年金加入期間、保険料納付期間、将来支給される年金見込額等の個人年金情報を積極的に提供することの重要性が指摘されている。


今回、厚生労働省における被保険者等に対する情報の提供状況を調査した結果、次のような状況がみられた。

ア 基礎年金番号以外の年金手帳記号番号の基礎年金番号への登録の促進

平成9年1月の基礎年金番号導入前は、複数の年金保険制度に加入していた者に対しては加入していた制度ごとに年金手帳記号番号が付されていた実態があった。そのため、社会保険庁は、年金給付の併給調整(配偶者が亡くなったことによる遺族給付と自分の老齢給付というように、二つの受給権が発生した場合の調整)に係る届出漏れ、年金相談及び年金裁定時における記録確認に時間を要するという問題を解消することや年金受給権を有しない者の発生等を防ぐ観点から、基礎年金番号導入以後、基礎年金番号に基礎年金番号以外の年金手帳記号番号を登録し統合を図ることとした。

具体的には、基礎年金番号に平成9年1月前に加入していた国民年金及び厚生年金保険の年金手帳記号番号を登録するため、基礎年金番号を本人に通知した際に本人から複数の年金手帳記号番号を有するとの申出のあった者及び申出はなかったが名寄せ処理(基礎年金番号と国民年金及び厚生年金保険の情報を突合し氏名・生年月日・性別が一致するものを抽出すること。)により複数の年金手帳記号番号を有すると思われる者約1,880万人のうち、約1,330万人に対して10年度から15年度までに照会を行い、回答を求める等の確認作業を行うとともに、社会保険事務所等において日常業務の処理の過程で確認作業が行われており、その結果、確認できた者が約950万人となっている。平成16年3月現在、残りの約380万人(回答がなかった者約340万人、郵便が宛先不明で配達されなかった者約40万人)についてはいまだ確認されていない(残る約550万人については、平成16年度から18年度までに照会を行うこととしている。)。

このことについて、社会保険庁は、58歳到達時において年金加入期間を通知することとしており、その時に被保険者はそれまでの年金加入期間の確認を行うこととしているが、このような状況の下では、平成20年度(2008年度)にポイント制(注)が導入されても、基礎年金番号以外の年金手帳記号番号がありながら回答がないために基礎年金番号への登録が行われていない被保険者については、年金加入期間、保険料納付期間、老齢年金支給見込額等についての正確な情報が提供できないこととなる。

(注)ポイント制とは、今回の国民年金法等の改正で、平成20年度(2008年度)から、被保険者に対する定期的な通知として導入されるもので、その内容は、国民年金及び厚生年金を対象として、保険料の納付実績を点数化し、将来の年金見込額を年1回程度郵送で通知するもの。

イ 被保険者に対する情報提供

社会保険庁は、現在、58歳到達の被保険者に対して年金加入記録の事前通知を送付するとともに、希望する者に対しては将来支給される年金見込額を通知しており、また、55歳以上の被保険者については、インターネットにより年金見込み額試算の申出があった者に対して、将来支給される年金見込額に関する情報を郵送により提供している。

しかし、これら社会保険庁が提供している情報についてみると、厚生年金基金の加入歴がある者については、将来支給される年金見込額を知る上で重要な厚生年金基金の加入期間等に関する情報は表示されていない。

ウ 社会保険庁のホームページの積極的な開設・充実

国民が身近な情報を得る手段としては、インターネットを利用することが有効であると考えられるが、社会保険事務局等(47社会保険事務局、265社会保険事務所)においてホームページを開設しているのは、7社会保険事務局にとどまっている。

しかしながら、これらのホームページでは、各地域の担当事務所の地図や出張年金相談等に関する事項など、地域住民にとって有用な情報が掲載されており、他の社会保険事務局等においても、地域に密着した情報を提供する有効手段として積極的に開設することが望まれる。

したがって、厚生労働省は、次の措置を講ずる必要がある。

① 基礎年金番号以外の年金手帳記号番号の照会に回答のなかった者等に対して、例えば、納付書を送付する際、自己の加入歴の状況を申し出るよう注意喚起する等の措置を講ずること。

② 被保険者に対する個人年金情報の提供に際しては、厚生年金基金の加入期間を表示すること。

③ ホームページを開設していない社会保険事務局等においては、積極的にホームページを開設し、地域に密着した情報の提供に努めること。

4 社会保険事務局等の定員配置の見直し

行政機関は、簡素かつ効率的な行政組織を実現する観点から、業務量の増減に応じて、絶えず定員配置を見直し、その適正な配置を行うことが求められる。

厚生労働省における社会保険事務局等の年金関係業務の実態及び定員配置の状況等については、現在調査中であるが、今回、社会保険事務局等の定員配置について、次のような状況がみられた。

社会保険庁の平成16年度末の定員は1万7,466人であり、その内訳は本庁(内部部局)286人、施設等機関(社会保険大学校及び社会保険業務センター)598人、社会保険事務局等1万6,582人となっている。

社会保険庁は、国民年金業務、厚生年金業務及び政府管掌健康保険業務を主要業務としている。そこで、業務量と密接な関係を有するとみられる国民年金の被保険者数、同基礎年金受給者数、厚生年金保険の事業所数及び政府管掌健康保険の事業所数を取り上げて、都道府県ごとに置かれている社会保険事務局等の職員1人当たりの被保険者数、基礎年金受給者数及び事業所数を単純合計して比較すると、総じて都市部を抱える社会保険事務局等が地方の社会保険事務局等より職員1人当たりの数値が高く、社会保険事務局等間でかなりの格差がみられる。

この状況からみる限りにおいては、各社会保険事務局等の定員配置については、見直す余地がある。

したがって、厚生労働省は、定員の適正配置を行う観点から、各社会保険事務局等の定員が業務量に応じて均衡のとれたものとなるよう、社会保険事務局等の定員配置を見直すことを検討する必要がある。

▲目次