オリーブオイル研究所



研究員物語
プロローグ
エピソード1
エピソード2
エピソード3
エピソード4
エピソード5
エピソード6
エピソード7
エピソード8
エピソード9
エピソード10
研究員物語 (愛と涙そして・・・ ツッコミ 笑い)

エピソード2:本物の味


週一回のオペラコースの授業が終わっても私はまだ、伴奏の講師であるその先生に聞きたい事が山ほどあった。

教える側にとってみればしつこくて迷惑な学生であったろうと、今思えば反省しきり・・


だがその物腰柔らかい端正な面立ちの先生は、私のグ〜と鳴ったお腹気持ちを察してか

「これから
行きつけの店で食事するけど、一緒にどう?」と誘ってくれた。


行きつけの店!? ・・・かっこい〜い。

私はオペラについての話を聞きたかっただけなのに・・・
まるでTVドラマのような台詞に、オペラのことなど頭の中から消えていた。

顔だけ遠慮しつつも、しっぽを振りながら促されるまま後について行くと、駅へ向かう学生の多い通りから少しそれて細い路地に入り、半地下にある入り口に向かって薄暗い階段を降りていった。

(へぇ、こんな所に店があるんだ)などまた内心わくわくしながらも、私は多少緊張していた。

階段から見える植木を配したそのガラス張りの外装から、すでにいつも行くチェーン店とは違う
"高級な匂い"を感じていた。

先生は慣れた感じで、木のドアを開けて「今晩はー」と入って行った。

正面に洋酒が並ぶカウンターがあり、その中からあごに形のよい
を生やしたマスターが、先生に笑いかけた。


かっこい〜。

私は三たび内心(外国のドラマみたい!)と思った。


店の中心部には一辺に5〜6人は座れる大きな正方形のテーブルが置かれ、全体が黒で統一された店内には薄いグリーンの葉の細い木が配されていた。

今思えばあれは
オリーブの木だったかも知れない。

私達はその大きなテーブルではなく、外に面したガラス張りの側にある4人掛けくらいの小さな席に座った。

まだ早い時間だったので、客は私達だけ。私の緊張が続くなか、バーテンダーがメニューを持って来た。

先生は「
いつものサラダね。あとリゾットをお願い」と言うと

「あなたは何にする?」と私にメニューを差し出した。

私はいつもなら
興味津々でメニューをくまなく点検してさんざん迷った挙句に選ぶのだが、その時ばかりは先生のスマートさにすっかり恥ずかしくなってしまい、

「私も
同じものを・・」とつぶやいた。

「あらいいの?私は
マッシュルームのサラダなんだけど、それって本当にマッシュルームしか入ってないのよ」と言われ、どんなものか想像もつかないので、私はとりあえずにっこりとうなづいた。

貧乏学生の私は
どきどきする内心を隠して、ひたすら先生に合わせて落ち着いた会話をしていたと思う。

先生は授業の時とは違って、自分の仕事をはじめたきっかけとか新人だった頃の話をしてくれた。その時の静かな情景は今でも薄暗い店内とともに目に浮かぶ。

だが、その後運ばれてきた食事は私の
の方に深く刻まれることになった。

マッシュルームのサラダ。ただ真白いマッシュルームが薄切りにされ、レモンが添えられ、ドレッシングがかかっていた。

「え、
美味しいの?」と疑問に感じる程シンプル

しかし、フォークで口に運んだ
途端その疑問はすぐに否定された。


味が深い。


おいしい。


いつも食べるようなドレッシングの味が浮くサラダではない。

オイルはかかっているのに、
素材淡白な味うまみを感じる。

小さな一皿なのに満足する、これ。。

サラダに
感動していたらリゾットが運ばれてきた。
が、これまた
シンプル

具らしいものは見えず、
とろりとよい感じのお米だけ。

この皿も直径15cmほどしかない。(いつもの店なら30cmはあるのに・・・)

わずかにクリーム色がかっているのは何だろうか・・・?

チーズだ。

しかも
プロセスチーズ常食だった私には、チーズの味がこんなに優しいなんて、新発見だった。

そしてこの
リゾットもまたお米の味がうまいのだ。

こんなに
味を引き立てる調味料って何だろう?

その時の私の疑問はその後長いこと解決されなかったが、わからないながらもこの時はじめて
”本物の味”を体験したのだと私は思う。

だって、体のワリにたくさん食べる私が、小さな2皿に満足したんだもの・・・


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