洗練された機関投資家仮説グーグル従属ビジネス
下落相場を乗り切る投資判断キャッシュをつぎ込むビジネスモデル
「堀の広い」株への投資決算書の本続・キャッシュをつぎ込むビジネスモデル
四季報夏号で気になったコメント銘柄選択の優先順位
チャートという早期警戒システム干上がる中間層

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ショートコラム(2019年6月)

■干上がる中間層(2019年6月30日)

以前から気になっていた本『記者、ラストベルトに住む』を読んでいます。その中で、心に突き刺さった言葉がありました。

アメリカでは富裕層はどんどん豊かになり、貧困層は政府の福祉で暮らしてきた。それで中間層が取り残されて、干上がっている。

我が国はアメリカの後追いにつき、近い将来、きっとそうなるでしょう。今、それなりの企業に勤めて「自分は中流だ」と慢心し、将来に向けた有効な手立ても打っておかなければ、いずれ干上がってしまう可能性を否定できません。

すでに一部の大企業で45歳以上が早期退職の対象にされるなど、その前兆が表れ始めました。

ちなみに私は、1990年代における日本経済の窮状を目の当たりにして「一昔前のように、もはや普通のサラリーマンがハッピーリタイアできる時代ではない」という危機感を持ち、株式投資家になることを決意しました。

今から思えば、一足早く行動しておいて、本当に良かったと思っています。逆に「あのとき決断できていなければ」と思えば背筋が寒くなります。

入社時に700人以上が勤めていたかつての職場は、今では社員数が200人を切っています。責任感の強いリーダークラスが精神的に病んでしまい、相次いで退職したという話も聞きました。

もし「何とかなるさ」とばかりに現状維持路線を歩んでいれば、今頃どこかの飲食店でアルバイトをしながら、その日暮らしの生活を送っていたかもしれないのです。


■チャートという早期警戒システム(2019年6月28日)

アントニー・ボルトンを「地球上で最も優秀な投資家の1人」として、その投資手法を紹介している『億万長者の黄金律』より引用します。

彼は各種チャートを早期警戒システムとして活用し、投資先企業で形成されつつあるトラブルを検知しようとする。

ボルトンにとってチャートとは、当該株に対する基本意見をある一時点で要約したものであり、ときとして将来の問題発生をあらかじめ警告してくれる。

バリュー投資家は、チャートを軽視したり、極端なケースでは非難したりします。そんな中で、アントニー・ボルトンはテクニカル分析を積極的に取り入れている稀有な存在です。

かくいう私自身も、テクニカル分析を早期警戒システムとして使っています。現に2018年は、チャートの形よりウォッチ買いを見送ったり、手持ち銘柄を早めに売却できたりして、難を逃れました。

チャートを見慣れてくれば「どうも値動きがおかしい。何か悪材料を抱えているのでないか」ということが事前に分かる場合もあります。実利主義者としては、上手に活用したいものです。


■銘柄選択の優先順位(2019年6月25日)

今の局面において、個別銘柄を選ぶ際、ファンダメンタル分析で何を重視すべきかについて、改めて整理してみました。

1.株価が割安であること
2.健全なBSを備えていること
3.FCFが潤沢であること
4.何らかの強みやユニークさを有していること
5.経営者が誠実であり、自社株を持っていること

ひょっとすると、収益性や成長性が入っていなことを疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。長らく好景気が続いていたため、直近の数字が当てにならないケースがあり、あえて外してみました。もちろんチェックすべき項目ですが、優先順位としてはこの5つより下です。

まず定量面では、次の不況を乗り越えられる、健全なBSと潤沢なCFの組合せがポイントです。さらに定量面のバリューに対する定性面での裏付けがあること、株主と利害を共にするオーナーによる実直な経営のなされていることが望ましいです。


■四季報夏号で気になったコメント(2019年6月23日)

会社四季報夏号を読んでいて、気になったコメントがありました。飯田グループGHD(3291)の記事欄です。

競合が増税前の駆け込み見越して分譲在庫を積み上げ。当社は仕入れ厳選や借入金を積み増し、市場崩壊へ守りを固める。

オーナー経営でなければ実行できない逆張りです。ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏やニトリの似鳥昭雄会長に近い考え方でしょうか。私はこのような同業他社とは横並びの経営を行わない会社に注目しています。


■続・キャッシュをつぎ込むビジネスモデル(2019年6月20日)

下図は6月14日付のショートコラム、キャッシュをつぎ込むビジネスモデルを図式化したものです。拙著『角山智の銘柄分析力“強化”トレーニング 貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書編』に掲載しました。

上段がキャッシュ・フロー計算書、下段が貸借対照表です。このような図式の続いている企業は、どこかで歯止めをかけない限り、やがて風船のように膨らんだバランスシートに耐えきれなくなります。

たとえ経営破たんは免れたとしても、株価が大幅に下落して、投資家も深刻なダメージを被るでしょう。景気の状況を鑑みれば、そういった事態が表面化するまで、あまり時間が残されていないかもしれません。

キャッシュをつぎ込むビジネスモデル


■決算書の本(2019年6月18日)

6月13日付のショートコラム、下落相場を乗り切る投資判断を読まれた方より、「バランスシートとキャッシュフローを理解するためのおすすめ書籍を紹介してください」という問い合わせがありました。

他に知りたい方もいらっしゃるかと思いますので、こちらに書かせていただきます。

まず決算書の基本を理解したい方には『決算書はここだけ読もう〈2019年版〉』を読んでみてください。図表を多用して分かりやすく書かれています。もともとビジネスパーソン向けに書かれた本ですが、投資家にも好評だそうです。

次に決算書の勉強を一通り終え、投資にどのように活用すべきか知りたい方には『決算書の暗号を解け! ダメ株を見破る投資のルール』をおすすめします。著者の勝間和代さんがブレイクするきっかけとなった名著です。何かと無味乾燥になりがちな類書と異なり、読んでいて感動すら覚えた本でした。

とにかく最初は苦戦するかもしれませんけど、バランスシートとキャッシュフローが分かるようになれば、不況を投資チャンスと思えるようになります。

というのは世間が不況に陥ると、大半の企業で一時的に収益が伸び悩むからです。もしそうなれば、売上と利益しか見ていない投資家の投げにより、ほとんどの銘柄が売られます。

しかしバランスシートが健全でキャッシュフローの潤沢な企業にとっては、低コストで将来に向けた投資を行える不況期こそが飛躍のチャンスなのです。

このことをよく分かっているごく一部の投資家だけが、不況で十把一絡げで売られている株の中から、銘柄を吟味して安値を拾い、やがて景気が回復した暁には大きな利益を手にすることができます。そのための一歩として、バランスシートとキャッシュフローの勉強が必要です。


■「堀の広い」株への投資(2019年6月16日)

WSJの記事、バフェット氏が好む「堀の広い」株、買うべきか?を興味深く読みました。

バリュー投資の世界では、「経済的な堀」が幅広く持続可能である企業の株を選ぶべきという、ウォーレン・バフェット氏の意見が受け入れられています。

しかしながら、「堀」の格付けを2002年に始めたモーニングスター社の調査によれば、堀のない株(No Moat)の年間平均リターンが15.4%だったのに対して、堀の広い株(Wide Moat)は11.4%に留まるという、皮肉に結果となりました。

堀の広い株が人気化し、機関投資家などが横並びで組み入れたため、株価が割高となってリターンを引き下げてしまったのです。

モーニングスターのトーマス・イドゾレク氏は、この件に関して「偉大な企業が必ずしも偉大な投資先ではない」とコメントしています。

やはり株式投資でいちばん肝心な点は、人気株(=割高銘柄)に手を出さないことでしょうか。たとえ、どれだけ広い堀を備えている企業であっても。

Morningstar Economic Moat Ratings


■キャッシュをつぎ込むビジネスモデル(2019年6月14日)

昨日のショートコラムで取り上げた、アンソニー・ボルトン氏が指摘していた「キャッシュをつぎ込むビジネスモデル」の具体例を示しましす。

下表は、ある不動産企業の有価証券報告書から抜き出した「主要な経営指標等の推移」です。この会社は過去5年間で、帳簿上では166億円の利益(親会社株主に帰属する当期純利益)を計上しています。

ところが本業の現金収支(営業活動によるキャッシュ・フロー)合計は、235億円の赤字となっています。事業の構造上キャッシュアウトが多かったり、身の丈以上の成長を目指し、売上債権や棚卸資産を急増させている会社に見受けられるパターンです。

同社では、さらに将来に向けた投資なども行っているために、現金が出ていく一方です。それゆえ都合で720億円の資金調達(財務活動によるキャッシュ・フロー)を行いました。

結果的に手持ちのキャッシュ(現金及び現金同等物の期末残高)は123億円から301億円にまで増えています。でも果たして、儲かっていると言えるのでしょうか。

この手の会社は、景気が悪化して、つい今しがたまで「いくらでもご用立てします」と親身になっていた銀行が手のひらを返した途端に、収益源を失ってしまいます。

もしそうなったときに、大きな貸倒れが発生したり、極度の販売不振に陥れば、最悪のケースでは資金ショートに陥ります。リーマンショック後に相次いだ上場企業の経営破たんは、ほとんどがこのケースです。

長らく好景気が続いてきましたが、景気循環と信用サイクルを考慮すれば、いつ不況に突入しても不思議ではありません。いくら低PERであっても、時節柄「キャッシュをつぎ込むビジネスモデル」の企業に関しては、注意が必要です。

主要な経営指標等の推移


■下落相場を乗り切る投資判断(2019年6月13日)

カリスマ・ファンド・マネージャーの投資極意』の著者であるアンソニー・ボルトン氏が、相場がどん底だった2009年3月に発行されたフィデリティ・ニュース・レターにて、下落相場を乗り切る投資判断について述べていました。要点を引用します。

銀行からの借入金に依存せず、潤沢なキャッシュフローや流動資産を持ったバランスシートの強い企業は、業績の悪化を最小限に抑え、不況をむしろ次なる回復期に向けた投資機会とすることができます。

「キャッシュを生み出すビジネスモデル」は、「キャッシュをつぎ込むビジネスモデル」よりもはるかに優れていると確信しています。

自社の株式を相応保有する経営陣は、自身の利益と株主としての利益が一致しますから、自社の収益力を高め、投資先としての価値を高めることに集中できます。

マーケットは同じことを繰り返しにつき、たぶん次の不況でも、以上の3点がポイントになるでしょう。この中で、経営陣の持株比率は会社四季報などでに確認できます。

しかしバランスシートとキャッシュフローを理解するためには、多少なりとも勉強が必要です。今のうちに、取り組んでおかれることをおすすめします。


■グーグル従属ビジネス(2019年6月10日)

6月7日に発表されたイトクロの業績下方修正で、次の文面が目に留まりました。

当初の計画では、塾ナビのリスティング広告の運用を強化することで、業績拡大を見込んでおりましたが、Googleの広告枠に対するテクノロジー変更等に伴いリスティング広告の費用が高騰したことが影響し、利益重視型スタイルへの軌道修正をすることにしました。

この件については、苦瓜達郎氏が著書『ずば抜けた結果の投資のプロだけが気づいていること 「すごい会社」の見つけ方』にて指摘済です。

端的にいえば、「グーグルに従属しているネットサービスは危ない」ということです。(中略)「グーグル従属」のビジネスは、グーグルの施策一つで、一気に経営環境が変わってしまうリスクがあります。

奇しくもイトクロでは、グーグル従属ビジネスのリスクが表面化してしまいました。自社サイトへの集客に対して、その大部分をグーグルに依存しているネット企業には注意が必要かもしれません。


■初夏の南紀小旅行(2019年6月7日)

6月5日から6日にかけて、鉄道旅行で紀伊半島を一周してきました。

天候に恵まれ、ちょっとした観光も楽しめました。普段はなるべく控えているお酒も、旅行中はOKにしています。熊野水軍という米焼酎が美味かったです。

長期投資では、安値を我慢強く待たねばなりません。また投資を行った後も、再び株価が上がるまで、相当な忍耐を必要とします。

その間の時間を、もっと人生を楽しむために使いたいです。

紀勢本線の車窓

紀勢本線の車窓

普通列車と特急列車の交換

普通列車と特急列車の交換

新宮の阿須賀神社

新宮の阿須賀神社


■洗練された機関投資家仮説(2019年6月3日)

ディスカッションペーパー「アノマリーを活用しているのは機関投資家か、それとも個人投資家か?日本の株式市場における検証」に興味深い記述がありました。

要点をまとめると次のとおりです。

機関投資家は情報通のプロの投資家として、市場の非効率、アノマリーを活用して最終顧客に超過リターンをもたらすことが一般的に期待されている。

こうした見方を「洗練された機関投資家仮説」と呼ぼう。

ところが日本の株式市場においては、機関投資家が全体としてアノマリーを活用しているようには見受けられない。

逆に機関投資家の追随的な投資行動がミスプライシングを引き起こし、アノマリーの原因となっている。

その一方で、個人投資家は全体としてアノマリーを活用して、正の超過リターンを得ている。

実は私自身も、株式投信の月報をチェックしながら「どうして、この銘柄を今さら買うのか、今さら売るのか? なぜ、どのファンドも同じような銘柄を持っているのか? そもそも、こんな投資でベンチマークに勝てるのか?」不思議に感じることが多々ありました。

普段の感覚からして、長期間のデータ分析でも「機関投資家はアルファを得ていない」という結論を得られたことには、まあ納得できます。ある意味で「洗練された機関投資家仮説」というのは、最高の皮肉ですね。

個人投資家に関しては「全体として」となっている点がポイントです。おそらく、一部の投資家が相当に儲けているのではないでしょうか。

これは日頃から思っていることですけど、ある程度の目利きができるようになれば、株式投信なんか買わず、自分で銘柄を選んで売買するのが一番です。



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