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マーケットに参加するための8つの心構え

はじめに

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「長期的に見て株式投資で成功する人は5%、95%は失敗する」証券アナリストの戸崎裕隆氏は著書『バリュー投資再入門』でそう述べています。はっきりとした統計はないのですが、株式投資に失敗する投資家が後を絶たないことから、マーケットでの勝者が少数であることは確かなようです。

そんな中で、私はこの11年間、個人投資家として生き残ってきました。思うに、株式市場で成果をあげれるか否かは、銘柄分析の手法よりも、投資に取り組む姿勢やマーケットに参加する心構えによるところが大きいです。

残念ながら『バリュー株で勝つための<図解>「決算書&企業価値」分析ドリル』では、構成の都合上「心構え」についてはほとんどふれることができませんでした。この小冊子で補足しておきたいと思いますので、序章のつもりで読んでいただければ幸いです。

注)この「マーケットに参加するための8つの心構え」の原文を作成したのは2007年1月です。そのため、現時点での見解と異なる部分は注釈をつけています。


その1.まず、生き残ること

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上げ相場では、誰もが儲かります。むしろ「むこうみずな」投資家の方が高いリターンあげたりします。ところが、マーケットでは、皆がハッピーな状態はそう続かないものです。

 「好事魔多し」という言葉をご存じでしょうか。株価の値上がりが続くと、投資家は自信過剰になります。信用取引をはじめて、値動きの激しい新興市場に集中投資を行いがちです。人々は知らず知らずのうちに「両刃の剣」を手にしているのです。

株式市場の興奮が最高潮に達したとき、歴史は繰り返し、振り子は逆に振れます。「両刃の剣」は自分に突き刺さり、致命傷となります。そして、多くの投資家が、マーケットから退場させられるのです。

誰もが「手っ取り早く儲けたい」と思っています。私だってそうです。これは、狩猟生活が長く、今日を生きるだけで精一杯であった祖先から私たちが受け継いでいる本能なのかもしれません。

株式市場は、長期的には右肩上がりですが、短期的な変動が激しいという特性を備えています。株式投資で資産を形成するためには、長年に渡ってマーケットに参加し続ける必要があります。そのためには「まず、生き残ること」を優先すべきです。

具体的には、次の3つがポイントです。

●信用取引には手を出さないこと
●適度な分散投資を心掛けること
●経験が浅いうちは、新興市場を避けること

私は、投資歴11年になりますが、未だ信用口座を開設していません。現物より売買手数料が安かったり、口座に現金がないときに使える便利さはありますが、人間「魔が差さない」とは限らないからです。

特に、一昨年(2005年)は信用取引ができないため、歯がゆい思いをしたものです。他人のパフォーマンスを横目に「私も信用買いができれば、倍は出ていたのに・・・」と唇を噛んだこともありました。ところが、昨年(2006年)の新興市場の動きを見るにつれ「信用取引を行っていたら、冷静さを失っていたかもしれない」と振り返っています。

集中投資か分散投資かについては、議論のあるところですが「生き残るため」には分散投資をおすすめします。集中投資では、一つのミスが致命傷になるからです。自分の分析が当たっていれば大儲けですが、もし、間違っていればどうなるのでしょうか? 経営者でも先行きははっきりわからないのに、どうして外部の人間が確信を持てるのでしょうか?

ちなみに、分散投資では、同じ経済要因の影響を受ける組み合わせを避けるのがコツです。経済要因の主なものは、円高、金利上昇、原材料価格高騰などです。

また、新興市場は株価変動が激しく、値動きも一方通行になりがちですので、初心者向きではありません。ベンジャミン・グレアムは名著『賢明なる投資家』で「投資家が最大の損失を被るのは、好景気下で優良とはいえない証券を購入したときだ」と述べています。この本の初版は1949年に書かれたものですが、半世紀を経ても、マーケットの本質は何も変わっていないのです。

昨年(2006年)は、新興市場の下落が続きましたが、東証マザーズや大証ヘラクレスといった市場の新設により「優良とはいえない証券」が大量に上場したことも原因の一つといえます。グレアムは、天国から、この光景を感慨深げに眺めていることでしょう。

★TOPIXとJASDAQの指数推移

TOPIXとJASDAQの指数推移

TOPIX(994505.T)とJASDAQ(23337.Q)の指数推移。ここ10年だけ見ても、新興市場の歴史は、急騰と暴落の繰り返しであることがわかります。

注)現時点では、信用取引口座を開設しています。ただ、目的はリスクヘッジ(信用売り)であり、信用買いを行うつもりはないです。

関連ブログ:投資スタンスと柔軟性


その2.マーケットの下落時にも自分の投資を続けること

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長期投資では、何度となく、下げ相場に遭遇します。株式投資を行う以上、下げ相場から逃れることは不可能です。そして、投資家の明暗を分けるのは「マーケットの下落時にも自分の投資を継続できるか否か」です。

マーケットでは、毎年のようにプラスのリターンを得られるものではありません。もちろん、よい年もあれば、悪い年もあります。問題なのは、多くの人々がよい年の「お祭り騒ぎ」で投資をはじめて、悪い年に投資をやめてしまうことです。これでは、長期的に資産を形成することができません。株式投資でも成功をおさめたケインズがいっているように「定期的にこうむる損失に黙って耐えるのが」投資家の義務なのです。

株価の下落は嫌なものですが、その結果、割安株が生まれます。これから資産を増やしていきたい投資家にとって、株価の値下がりは「恵みの雨」になります。実際、私が株式投資で上げたリターンの大半は、下げ相場を乗り越えた後に達成しているものです。

株式投資では、実際に経験してみないとわからないことがたくさんあります。知識は書籍やセミナーで身に付けることができますが、頭でっかちの投資家が生き残れるほど、マーケットは甘い世界ではありません。実践を経験することにより、知識は知恵となり活用することができるのです。時には、辛い思いをしなければなりません。

一昨年(2005年)の上げ相場により、個人投資家のブログが増えたことは喜ばしいです。どの投資家の持株もあがり、書いてあることはもっともで、皆が投資の達人に思えました。

ところが、若きブロガー達は、マーケットの風向きが変わり、持株が値下がりをはじめると、発言が支離滅裂になったり、自暴自棄で投げやりな投資態度に陥ったりしました。更新の止まったブログも続出します。そんな中でも、1997年の平成金融恐慌、2000年のITバブル崩壊、2003年春の日経平均8千円割れといった試練を、傷だらけで乗り越えてきた強者は平常心を失っていませんでした。

下げ相場は、ビギナーの方にとって、マーケットが提供してくれる、最高ともいっていい「勉強の機会」です。下げ相場への対処方法は、実践で痛め目にあって学ぶしかありません。いつになるかはわかりませんが、株式ブームが再燃したとき、高値で再参入して同じ失敗を繰り返すつもりですか?

私がこの11年間、株式市場の動きを通じて学んだことは、投資家の気持ちが高揚するほどリターンは低くなり、気分が落ち込むほど将来の受取額は多くなるということです。

注)下げの渦中に「買い向かえ」といっているわけではありません。「休むも相場」といいます。時には現金化してチャンスを待つことも立派な投資です。


その3.株価の予想は当たらない

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新聞・雑誌では、専門家が次から次へと登場して、株価や為替の予想を行っています。高級そうなスーツをまとい、専門用語のちりばめられたストーリーは魅力的で、つい魅せられてしまいます。ところが、米国の調査では「専門家の一致した意見は77%の割合で誤りであった」ことがわかっています。

私が聞かれて一番困るのが「今後の株価をどのように予想されますか?」「角山さんの相場観を教えてください」といった類の質問です。

私は、相場観を持っていません。株価が目先、上がるか下がるかなんてわからないものです。わかっているのは、資本主義社会である以上、株式市場は長期的に右肩上がりであるだろうということだけです。投資家は起こったことに対応していけばいいと思っています。バリュー株が多く発見できるときは投資のチャンスですし、少なくなれば日本株以外に投資対象を求めるのも一案でしょう。

下手な「相場観」は「先入観」になります。人間がもともと持っている偏見は、投資に対して好ましくない方向に作用します。「相場観」を持つと、ますます「心のバイアス」を増幅させてしまうのです。 「今後どうなるかわからないけど、この銘柄は企業価値に対して割安だから、少し買っておこう」といった感じでちょうどいい、そう思っています。


その4.損切りは必要、ナンピンは厳禁

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損切りとナンピン買いについて、現時点での私の考え方をまとめておきます。

私は、買い値より15%下がった時点で損切りを検討して、30%下がった時点で強制的に売却しています。経験則から、買い値より15%下がったのは投資の失敗であり、30%下がると元に戻ることはかなり難しいと感じています。

このような「株価の値動き」を投資判断に使用することに疑問を持たれる方もいるでしょう。「バリュー投資の考え方と相反するのではないか」と。

購入時の投資判断が100%正しければ、損切りの必要性はないと思います。しかしながら、株式投資において、完璧な投資判断はありえません。損切りを行わないのは「自分の判断が正しく、マーケットが間違っている」といっているのと同じことです。株式市場は、投資家が思っている以上に効率的なものです。ときには「自分の判断が正しく、マーケットが間違っている」かもしれませんが、たいていは「自分の判断が間違っており、マーケットが正しい」ものなのです。

そもそも、運用においては「塩漬け株を作らない」ことが肝要です。なぜなら、投資資金が死んでしまうからです。私のポートフォリとには「本当は売りたいけど、損がでるので売るに売れない」塩漬け株は一つもありません。税金面で有利になることもあり、損失は積極的に出しています。

当然、ナンピン買いは「禁じ手」です。ナンピン(難平)とは、1,000円で買った銘柄が900円まで値下がりしたとき、さらに買い増して平均買い値を950円に下げる行為です。こうしておくと、株価が950円に戻った時点でトントンになり、1,000円まで戻ると利益が出ます。一見すばらしい方法に思えます。

しかし、株価が800円まで下がればどうなるでしょうか。投資額が倍増しているので、損失額も倍になります。ナンピン買いの危険なのは、ポジション(資金量)を無視しているところです。「ここが底」とばかりに買い増しを続けても株価は下がり続け、資金が尽きた頃にとんでもない悪材料が表面化するのが関の山です。いわゆる「ナンピン地獄」に陥り、その銘柄だけにやられてしまいます。信用買いを絡めていれば、結末は悲惨です。

投資というものは、まず銘柄に対するポジションを決めます。「この銘柄はポートフォリオの5%まで」といった風にです。そして、買付はポジション内にとどめるのが鉄則です。よくあることですが、ポジションを使い切った後、さらに株価が下がった場合は「見ているだけか、損切りするか」どちらかになります。


その5.迷ったときにはETF

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誰しも、自分の銘柄選択に自身を持てなくなったり、何を買ったらいいのかわからない時期を経験します。野球選手のスランプのように、やることなすことがことごとく裏目に出ることがあるものです。そういうときはTOPIXのETFも候補に入れましょう。

マーケットは、おおむね効率的です。特に、大型株はほぼ妥当な株価がついているものです。株式市場が右肩上がりである以上、市場平均も悪くないと思います。また、普段はTOPIXに投資をしておいて、マーケットの歪みを見つけた場合のみ個別銘柄に移行するという投資方法も考えられます。

実は、私も少しだけTOPIXのETFを持っています。


その6.他の投資対象にも目を向けよう

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2〜3年前は、日本株が割安だったので、私も集中投資を行ってきました。ところが、一昨年(2005年)の大幅上昇により、もはや割安とはいえなくなりました。そんなこともあり、昨年(2006年)からは、米国株や個人向け国債、J-REITなどに分散投資を行っています。おかげさまで5月以降の新興市場下落の影響をほとんど受けずにすみました。日本株だけでなく、他の投資対象にも目を向けましょう。

次のグラフは過去15年間における各アセット・クラス(資産クラス)別リターンの推移です。1990年、日経平均は3万9千円の高値をつけたばかりでした。やがて、資産バブルではじけ、日本の株価は低迷します。このような状況では、日本株の中で銘柄をうまく選んだとしても、資産を増やすのは至難の業です。

この15年間は、日本株のパフォーマンスが冴えなかった時期に当たります。それでも「運が悪かった」ですむ問題でしょうか。株価は、ここ2〜3年でかなり戻りましたが、株価下落による資産の目減りに耐えられず、1998年や2002年といった最悪のタイミングで株式を売却してしまえば、目も当てられない状況になっていたはずです。

実際に、私も1995年から株式投資をはじめましたが、2002年までの7年間はほとんど成果をあげることができませんでした。

一方で、外国株は、4倍近くまで上昇しています。普通に銘柄を選んでおけば、相当の成果があげられたはずです。さらに、資産を日本債券・日本株式・日本株式・外国株式を4等分しておけば、年による変動も少なく、リターンも15年間で2倍半近くと悪くありません。

資産運用を長期的に行う場合「日本株の中でどの銘柄を選ぶか」より「資産をどう配分するか」で、成果のほとんどが決まります。これを「アセット・アロケーション(資産配分)」といい、大切な考え方です。

★アセット・クラス別リターン

アセット・クラス別リターン

企業年金連合会の資料より作成。合成指数は国内債券、国内株式、外国債券、外国株式に25%ずつ投資したもの


その7.結局、投資は孤独な作業である

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投資家の視点は、サラリーマン的な発想とは合わないものです。むしろ、逆といった方がいいかもしれません。そんなこともあり、職場に疎外感を持たれている方も少なくないと思います。以前は、書店の株本コーナーで数少ない投資の良書を探し、一人で投資について黙々と考えるのが投資家の日課でした。

今では、インターネットを通じて。個人投資家どうし意見交換ができるようになりました。人間は、この上なく社会的な動物です。私たちは、他人とのつきあいを楽しみ、共通の関心事を分かち合うのを好みます。個人投資家にとって、投資家仲間との情報交換はとても楽しいものです。ところが、投資に関しては、この性質はとても危険なのです。

たとえば、あなたがA社への投資を検討していたとします。その話を投資家仲間のBさんにすると「実は、私もそう思っていました」と返事がありました。2人は「意見が合った」ことによりA社への自信を深め、投資を実行します。一般的には、集団の意見は中庸になるとされていますが、同じような考えを持った個人が集まると、極端になることがあります。

そして、あなたはA社の優れている点や優秀な投資家Bさんが目をつけていたことを自身のブログに書き込みます。ブログを読んでCさんが買い付けます。そうなれば「皆が買っているから」と大勢の追随者が出るのです。いわゆる「パクリ投資」です。

ここで問題になるのは、皆がある分野(銘柄)に投資しているときは、過剰な価格がついている場合が多いこと。そして、追随者の多くが、困難のきざしが見えるとすぐにパニックを起こして売ってしまう「素人」である可能性が高いことです。実感として、昨年(2006年)は、個人投資家のブログで取り上げられていた銘柄の下げがきつかったです。

私自身、自分で調べた銘柄を投資家仲間に話してみて、否定的な意見が出たものほどその後のパフォーマンスが良く、皆が買っていたものほど悪かった経験があります。実際に買いそびれてしまい「あの話をしなければよかった」と後悔したこともあります。

将来のリターンが高いのは、今はほとんど顧みられていないものです。そんな銘柄を買い付ければ「あんな銘柄をよくもまあ」といってもらえればいい方で、周囲のあらわな非難を受けるかもしれません。つまり、最高レベルのパフォーマンスを目指すと、通説に従っている投資家コミュニティとの連帯感は生まれないのです。

昔話で恐縮ですが、2003年春に日経平均が8千円割れを起こしたとき、みずほ銀行とUFJ銀行は破綻のうわさで持ちきりでした。もし、買っていれば、投資家仲間から「角山はおかしくなったのか」といわれたことでしょう。ところが、みずほ銀行をあのときに買っていれば10倍以上になっているのです。

この世界では「マーケットの勝者は少数であり、誰でも儲かるのはおかしい」のが真実です。結局、投資とは孤独な作業であり、自分自身で考えるべきものなのでしょう。


その8.投資とは、豊かな人生を送るための手段である

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銘柄分析のやり方がわかり、投資の腕前が上達してくると株式投資は面白いものです。つい、熱中してしまい、投資中心の生活を送りがちです。そして「株が趣味」のようになってしまいます。

投資とは、豊かな人生を送るため手段であり、株式投資そのものを目的にしてしまうのは、本末転倒です。マーケットでは、楽しい出来事は一瞬にして終わり、苦しい時期が圧倒的に多いものです。人生には、株式投資より楽しいことが、もっとたくさんあるはずです。

私は、多くの個人投資家にお会いしています。朝から晩まで投資のことばかりで頭がいっぱいの方は、どうも思考に偏りがあるように感じました。一方で、バランス感覚に優れているのは、仕事にやりがいを感じ、家庭や友人も充実していて、限られた時間でうまく投資を行っている方々です。

私自身、一時期は資産1億円を目標にしていたことがありました。ところが、ふとしたことから「1億円という数字に何の意味があるのだろうか?」と思い始めました。最近は「いかに充実した時間を過ごすことができるか」を考えています。

株式投資が、人生の真ん中にあるようであれば、その生活はどこか間違っているのではないでしょうか。最後に「投資とは、豊かな人生を送るための手段である」ことを再認識してもらいたいと思います。



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