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2009年3月17日

総務大臣 鳩山邦夫様

やぶれっ!住基ネット市民行動

国立市への「住基法の規定に基づく事務執行の指示」に対する抗議・要請書

貴職は2009年2月13日、東京都知事に対して「国立市の住民基本台帳法の規定に基づく事務の執行について」の指示をおこないました。東京都知事はこの指示を受けて、2月16日国立市長に対して「是正の要求」を行いました。

この指示および是正の要求は、住基ネットに対する市民の不安を受け止めて住民情報に対する安全管理義務を果たそうとする市町村の努力にまったく配慮しない不当なものであり、私たちはこの指示・要求に抗議するものです。

1.貴職が果たすべき役割

貴職は都知事に対する指示において、国立市が住基ネットに接続していない状態は住基法の規定に反している、と、住基法の規定を列挙しています。しかし国立市が切断しているのは、現在の住基ネットに接続することは住基法第36条の2が市町村長の責務として課している住民情報の安全管理責任を遂行できないと判断したためです。

総務省みずからも住基ネットの「技術的基準」において、データの漏えいのおそれがある場合に住基ネットシステムの全部又は一部を停止することを含む事務処理体制を整備することを、市町村に求めています。総務省は停止を緊急時の一時的措置だとしていますが、プライバシーを危険にさらす状態が継続しているために切断が長期化しているのであり、国立市の措置は総務省の基準に照らしてもこれに反するものではありません。また個人情報保護法が「地方公共団体は、その保有する個人情報の性質、当該個人情報を保有する目的等を勘案し、その保有する個人情報の適正な取扱いが確保されるよう必要な措置を講ずることに努めなければならない。」と規定している趣旨にも合致しています。

貴職がなすべきことは、住基法の文言を形式的に押しつけて自治事務に対する不当な圧力を行使することではなく、市町村長が安全管理責任を果たしうるような制度に変えることです。

2.放置された住基ネットの危険性・問題点

国立市は住基ネットを切断するに当たり、とりわけ問題のある3点の理由を指摘しています。住基ネット稼働5年半での現実は、これらの危惧・疑問が正しく、未だ改善されていないことを明らかにしています。

第1に、国立市は「住民から届けられた個人情報の管理者として、住基ネットで拡散する個人情報が、どこでどのように取得・管理・消去されるのかを具体的に把握できず、かつ、その安全性を確認できない」ことを指摘しています。この状況は現在も改善されていません。

一例をあげれば、私たち「やぶれっ!住基ネット市民行動」は2005年、貴職に対して住基ネットの運用に関する3点の質問を行いました。その中で、住基ネットから国等の機関に提供される本人確認情報の利用事務が拡大していく際に、総務省が説明していた「地方公共団体の意見を十分に踏まえる」という手続がとられていないのではないかと質しました。総務省の回答は、国が以前の提供事務と性質を同じくすると判断したり、ほとんどの場合がそうですが他の法律の改正により追加されたりするものについては、自治体の意見は聞いていないというものです。さらに利用の仕方も、指定情報処理機関と提供先が結ぶ協定によっており、市町村は協定にまったく関与できない仕組みです。

そもそも住民情報は、住基ネット開始以前においては、市町村への照会や市町村の個人情報保護の手続を経て外部に提供されていたため、市町村の関与と責任は明確でした。しかし住基ネット稼働後は、まったく市町村の管理が及ばないところで利用範囲が拡大し、利用方法が決定されています。わずかに稼働後の2003年、「技術的基準」が改正され、市町村長が都道府県知事を経由して国の機関等に本人確認情報の管理状況の報告を求めることができるとされましたが、自治体が利用事務を確認しようとしても官報の形式的な記載を見るしかないのが実態で、空文化しています。

第2に、国立市は「住基ネット稼働による情報漏えいの危険性およびその結果の重大性と比較して、住基ネット稼働によって現段階で市民にどの程度のメリットがあるのかが明確でない」と指摘しています。この指摘の正しさは、今や誰の目にも明らかです。当初、住民サービスの向上と謳われた「住民票写しの広域交付」や「転出転入手続の簡素化」はほとんど利用されず、次にサービスの目玉とされた住基カードは、無料化などなりふりかまわぬ拡大策を講じながらも5年たって国民の2%にしか普及していません。最近は「電子政府・電子自治体の基礎となる住基ネット」と宣伝されていますが、電子申請の利用率は低く、外務省の旅券電子申請や文科省・防衛省のシステムなどが利用中止となっています。自治体でもとりわけ住基ネットを使った公的個人認証による電子申請の利用状況は低迷しています。その結果、住基ネット推進派でさえ「現在の住基ネットは電子政府のボトムネック」と認める状況です。

第3の理由として、国立市がストーカー・DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者に対する支援の一つとして、住民票の写し等から当該被害者らに係る記載事項を削除する手続などを定めたことを無意味なものとする可能性があると指摘しています。2005年3月に住民基本台帳の閲覧制度を悪用して母子家庭の少女を狙った強制わいせつ事件が発覚し、閲覧を制限する法改正がされました。この経緯をみても、住民情報が漏洩することの危険性は明らかです。住基ネットにより全国の市区町村・都道府県のみならず、提供先の国等の機関で、住民情報を知ることが可能になりました。貴職の指示では、非接続により年金受給権者現況届の省略ができないことなどを指摘していますが、この省略のために年金事務と住基ネットは常時住民データがリンクされるようになりました。そのため「覗き見」事件などの発生した全国の社会保険事務所1万か所などで住基情報が照会可能になりました。利用拡大は漏洩の危険を増大させています。

3.最高裁判決の前提を覆す制度改悪

貴職は指示の中で最高裁判所の判決・決定を引用し、住基ネット非接続状態が違法であるかのように述べています。私たちは、これら判決・決定は自己情報コントロール権を認めず自治体の裁量権を制約する誤った憲法解釈だと考えますが、貴職の今回の指示はこれをさらに拡大解釈する不当なものです。

最高裁判決が「具体的な危険」の存在を否定した前提である、住基ネットからの提供事務で個人情報を一元的に管理できる機関が存在しない、ということは、判決後、住基ネットを利用した社会保障番号・納税者番号など個人情報の一元管理が検討され状況が変わりました。

また杉並住基ネット訴訟最高裁決定は、「横浜(段階的参加)方式」は住基法に規定がなく違法でそれを採用する裁量権は区市町村にはない、とするものであり、そもそも今回の国立市の非接続とはまったく別の問題です。

貴職は今国会住基法改定案を提案しましたが、国立市の指摘した問題の解決にまったくふれないばかりか、住基カードを転出先でも利用可能にし、ロゴを全国統一にし、ICチップ内の本人確認情報を民間でも利用可能にしようとしています。これは住基ネット稼働時に心配された住基カードの「国民必携の登録証」化や民間利用に道を開くものであり、最高裁判決が「仕組みはない」とした、住基カードに記録された本人確認情報が利用先機関のコンピュータに残る危険を発生させ、さらに住基ネットの危険性を高めるものとなっています。

私たちは、貴職が自治事務に対する不当な指示・干渉を直ちにやめ、期待した利便性が実現できず人権侵害の危険が増大している住基ネットの運用を中止するよう要請します。


原典について


Copyright(C) 2009 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2009年03月20日、最終更新日:2009年03月27日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/kunitachi/zeseiyokyu/kogi-yosei090317.html