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凡例〔 〕内は引用者註または訳註


戸籍に代わる韓国の新しい登録制度

1.「家族関係の登録等に関する法律」を公布

韓国の国会は、戸籍制度に代わる新しい身分登録制度を定めた「家族関係の登録等に関する法律案(代案)」を、2007年4月27日、原案どおり可決。韓国政府は、5月17日、法律第8435号として「家族関係の登録等に関する法律」を公布しました。

2008年1月1日をもって民法上の戸主制度が廃止される韓国では、戸籍制度に代わる新しい身分登録制度の導入をめぐり、3件の法律案が国会に提出されていました。

  1. 出生・婚姻・死亡等の申告および証明に関する法律案
    2005年9月28日、ノ・フェチャン議員ら民主労働党の14人が発議。
  2. 身分関係の登録および証明に関する法律案
    2005年12月28日、イ・ギョンス議員ら開かれたウリ党の44人が発議。
  3. 国籍および家族関係の登録に関する法律案
    2006年3月3日、政府提出案。

法律案の回付を受けた法制司法委員会は、審議の結果、3件の法律案を廃棄し、委員会案として「家族関係の登録等に関する法律案(代案)」を本会議に提案。これが本会議で原案どおり可決されたものです。

代案の提案経緯や主要内容については議案原文の抄訳「家族関係の登録等に関する法律案(代案)」をご覧ください。

現行戸籍制度の管掌機関である大法院が、引き続き家族登録制度の管掌機関となるため、今後の焦点は、制度の詳細を定める大法院規則の内容に移るものと思われます。

(2007-06-27、2007-12-30 3法案追記)

2.共同行動・民主労働党の動き

性平等、情報人権保護、多様な形態の家族に対する差別解消などを求めて「出生・婚姻・死亡等の申告および証明に関する法律案」の成立に努めてきた目的別身分登録法制定のための共同行動(以下共同行動)と民主労働党は、「家族関係の登録等に関する法律案(代案)」が国会法制司法委員会を通過した翌日の2007年4月27日早朝、声明を発表し、法律案の問題点に対する立場を明らかにしました。

全訳「[声明]戸籍法亜流水準に留まった新しい身分証明制度に強力な遺憾を表明する!」をお読みください。

(2007-07-09)

共同行動と民主労働党は、2007年6月4日、討論会「‘家族関係の登録等に関する法律’評価と課題」を開催しました。

去る4月国会を通過した戸籍法代替法令である「家族関係の登録等に関する法律」評価と今後の課題模索のための討論会と、3年越しに戸籍制度の代案として目的別身分登録制度を提示し、制度化のため努力してきた「目的別身分登録法制定のための共同行動」活動を評価するワークショップをいっしょに開催します。

일하는 사람들의 희망 민주노동당 뉴스사이트〔働く人たちの希望 民主労働党ニュースサイト〕「[토론회] 가족관계의 등록 등에 관한 법률 평가와 과제〔[討論会]家族関係の登録等に関する法律 評価と課題〕」)

「働く人たちの希望 民主労働党ニュースサイト」に掲載されたファン・ギョンウィ記者の記事「家族関係登録法制定 評価と課題 討論会開かれて」をご覧ください。

(2007-07-21)

共同行動は、2007年11月9日付けの「〈声明書〉穴のあいた法務部の差別禁止法案に反対する」のなかで、次のように指摘しています。

またわれわれは、法務部が戸主制および戸籍制廃止運動過程でもっとも人権親和的でない代替法案を提示したことを記憶しているし、国家身分登録業務を法務部の所管業務に移すために代替立法が遅延した事実を想起したい。

(2007-12-30)

2007年12月31日、共同行動と民主労働党は「〈声明書〉2008年1月1日新しい身分登録法施行を前にして」を発表し、次のように指摘しています。

過去「戸主制と戸籍制」が韓国社会および韓国人の意識と行動を統制してきた国家身分登録制度ならば、いま人権増進と性平等を高めることができる国家身分登録制が実現され得るように大法院をはじめとする社会構成員が努力しなければならないときである。

声明書は大法院に次の3項目の改善を要求しています。

  1. 個人別身分証明制度であることを明らかにするため、「家族関係...」という法律名や登録簿名を変更すること。
  2. 行政便宜に基づく事実上の本籍である「登録基準地」を削除すること。
  3. 各証明書の必須記載事項とされている「登録基準地」や「住民登録番号」について、個人情報を保護する仕組みを準備すること。

(2008-01-02)

3.戸籍電算資料からの移行に限界

(1)抜け落ちた家族の追加構成申請

2008年1月1日の家族関係登録制度開始に向けて準備を進めている韓国の大法院は、電算システムを利用して既存戸籍電算資料から家族関係登録簿に自動転換する過程で父母、配偶者、子女のデータが抜け落ちる問題が発生したため、手作業でデータを連結し、家族関係を再構成していることを明らかにしました。

「『家族関係の登録等に関する法律』がわずか施行7か月を前にして制定されたことで徹底的な時間不足から約150ないし300万名の家族関係証明書に父母、配偶者または子女が載らない可能性がある」とし、全国で家族関係証明書の無料試験発給を実施して確認を呼びかけ、抜け落ちた家族の追加構成申請を受け付けています。

詳細は、大法院が2007年10月26日に作成した報道資料「大法院、家族構成員確認のため家族関係証明書無料発給」をご覧ください。

(2007-11-26)

報道資料のなかで大法院は、既存戸籍電算資料の自動転換によりシステム上、父母と子女を自動連結することができない限界として、次の二つの場合を挙げています。

  • 過去の紙戸籍を電算化する以前に別戸籍となり電算化された戸籍簿に記載のない家族の場合
  • ハングル表記の違いから戸籍上、子女の父母の名前が互いに不一致になる場合

報道資料によると、家族関係追加構成申請書の受付は2007年11月30日まででしたが、家族関係登録簿には「2008年1月初め、登録基準地で最終的に原資料を確認して最終記載」されます。

(2007-12-30)

(2)漢字姓のハングル表記を実際の発音どおりに訂正

これより先の2007年7月20日、大法院は「2008年1月1日から新たに施行される家族関係登録制度の安定的なシステム構築のための措置」として大法院戸籍例規第723号「戸籍上の漢字姓のハングル表記訂正に関する事務処理指針」を決定し、2007年8月1日から施行しました。

大法院の2007年7月26日付け報道資料「漢字姓のハングル表記に頭音法則例外認定」によると、戸籍上の漢字姓の表記方法は、時代によって次のように変遷してきました。

時期 記載方法 記載例
1994年8月31日以前 漢字のみ記載 柳一男
1994年9月1日〜1996年10月24日 漢字とハングル表記(頭音法則適用可否不分明) 柳一男(リュ・イまたはユ・イ
1996年10月25日〜現在 漢字とハングル表記(頭音法則適用) 柳一男(ユ・イ

頭音法則とは、小学館『朝鮮語辞典』によると「語頭で特定の子音が制限される現象。(1) r音は語頭でn音に変わる。(2) 語頭のn音の後に〔ya〕 〔yae〕 〔yeo〕 〔ye〕 〔yo〕 〔yu〕 〔i〕が続くときn音は脱落する。」と説明されています。

たとえば「柳」という姓は、「ユ」と発音する人と「リュ」と発音する人がいますが、頭音法則を一律に適用する現在の戸籍記載方法では、いずれも「ユ」と記載されることになります。

今回の事務処理指針は「日常生活において漢字姓を本来の音価のとおり発音し表記して使用する場合に限って、戸籍上の漢字姓のハングル表記を実際と一致することができるように戸籍訂正を許容する。」と頭音法則の例外を認め、2007年8月1日から法院で戸籍上の漢字姓のハングル表記訂正許可申請の受付をはじめました。

許可を受けた人はさらに、法院許可決定謄本を受けた日から1か月以内(2007年に決定謄本を受けた人は2008年1月1日から1月31日まで)に、市・区・邑・面の長に対して訂正申請をしなければなりません。

2007年12月23日付けの聯合ニュース「<호적 성씨 `유'→`류' 변경 2천여명 신청>〔戸籍姓氏‘ユ’→‘リュ’変更2千余名申請〕」は次のように報じています。

23日、大法院によると、頭音法則の例外を認めるように改正した戸籍例規を8月1日施行した後、10月31日までに受け付けされた訂正許可申請は、柳(リュ)氏2,045名、羅(ラ)氏50名、李(リ)氏15名など全部で2,110件である。

ハン・ギチョ事務官は「わが国に李(イ・リ)氏姓をもつ人だけで780万名である点に照らしてみれば、予想していたほど訂正申請者が多くはない」とし「来年1月1日から戸籍制に代わる家族関係登録制度が施行されれば、申請者がもっとふえるものと予想される」と述べた。

大法院は、2007年10月26日作成の報道資料「大法院、家族構成員確認のため家族関係証明書無料発給」のなかで、漢字姓ではなくr音を伴う漢字名のハングル表記の不一致(「김○례〔キ○レ〕」と「김○예〔キ○イェ〕)を例示していることから、問題は漢字姓の訂正だけでは済みそうもありません。

(2007-12-30)

(3)11万人の住民登録番号が住民登録と戸籍で食い違い

2007年12月3日付けの聯合ニュース日本語版「国による住民登録と戸籍の記載間違いが11万人」は次のように報じています。

行政自治部と国民苦衷処理委員会、大法院(最高裁に相当)の3機関は3日、住民登録上の人口4900万人と戸籍人口5400万人(在外国民を含む)を対象に両文書の電算記録を照らし合わせた結果、同一人物にもかかわらず記載内容が食い違うケースが11万人あったことを明らかにした。住民登録番号は13けたで表示されるが、これが住民登録と戸籍で一致しなかったことになる。

住民登録番号は、家族関係登録簿の記録事項(家族関係の登録等に関する法律第9条第2項)でもあることから、その影響は家族関係登録簿にも及ぶものと思われます。

2007年12月3日付けの聯合ニュース「11만명 주민등록.호적 불일치 논란〔11万名住民登録・戸籍不一致論難〕」は次のように報じています。

大法院関係者は「立法・司法・行政部を網羅した全国家的な次元の対策が速やかに準備されない限り、記録不一致による国民の不便と社会的費用問題は今後引き続き発生するよりほかに仕方がない」と述べた。

(2007-12-29)

4.「家族関係の登録等に関する規則」を制定

2007年10月11日、法院行政処長は「家族関係の登録等に関する法律」の具体的な内容と手続きを定める「家族関係の登録等に関する規則案」を立法予告し、10月26日まで意見書の提出を受け付けました。

2007年11月28日、大法院規則第2119号として「家族関係の登録等に関する規則」が制定されました。規則は2008年1月1日から施行されます。

2007年12月10日、大法院は「登録事務処理手続き等に関し規則で定めない必要な事項」(規則第88条)を定める「家族関係登録例規」第1号ないし第274号を決裁しました。

(2007-12-23)

(井上和彦・記)


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初版:2007年07月01日、最終更新日:2021年03月08日
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