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INCENSE
伽羅
香りに興味を持ったきっかけは友人の焚いてくれたお香だった。
その友人とは、あるデザイン学校の夜学で一緒のクラスになり
同じ会社に勤めている事が分かってから、急速に親しくなった。
お昼に招かれ訪れると、大島紡ぎの着物を着て出迎えてくれた。
それだけでも驚いたのに、「ちょっと待っていて」と言って目の前
で焚いてくれたのが伽羅のお香だった。
その風雅な計らいに感じ入っていると、品書を筆で書いた和紙
に、裏山で摘んだという野草で精進揚げを作り振舞ってくれた。
当時まだ22歳の友人のなんと大人びてみえた事か・・
急に自分が子供のように感じたのは、お香の魔力かしらと思わ
ずにはいられない程、同じ年の私にはインパクトの強い出来事
だった。後に1年程、専門店の取材のアルバイトをしていた時、
私は迷わず、鎌倉のお香の店を選んだ。
思い起こせば、10代は奈良や京都、鎌倉などの古寺巡りをして
いたので、お香に少なからず馴染んでいた事を思うと、潜在的に
記憶の底に眠っていた香りだったのだ。
でも、とふと思う。子供の頃、母親が良く夏に使っていた扇子は、
そういえば白檀の香りがし、白粉の匂いと混じり合って、子供心
に大人の匂いとして、香り記憶が眠っていたのだという事を・・ |
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