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夢映し


透明人間になった夢を見た。

夢の中で透き通った私は、時間と言う概念から解き放たれ、透明なだけでなく、
何処でもドアのように、現在・過去・未来・・世界の果てまで行けてしまう。

不思議な夢だった。
映画 『ガタカ』 の世界のように、透き通った青いスケルトンの世界。
時計の針が高速で逆周りしていき、シュールで現実感のない空間に、星にな
った祖父母や、縁のあった人々、幼友達。思いがクロスせず疎遠になってしま
った人などが、記憶の中の姿のままで、みな一堂に会している。そんな夢・・

それは、もしも叶うことなら思いを残した事や、心を置いてきた場所に戻って、
最後の1ピースー空白の部分に、欠落したものを補い、上書き保存したいとい
う願望の現れなのかもしれない。

透明人間の夢を見る時は、大抵、心が弱っていたり、伝えられなかった思いに
気持ちを捕らわれていたり、めそめそとして意気地なしの時だ。

そんな風に少し心の回路がショートすると、カメラを持ってふらりと一人で海を見
に行ったり、知らない街を歩いたりする。

現実の世界では、知らない街ですれ違う人から見たら、私はどこの誰でもなく、
夢の中に出てくる透明人間のようでもあり、それは時に潔よい程に気持ち良い。

そんな日は、気持ちがどんどん井戸の底のように深い場所に降りていく。
心から日常を排除して、もくもくと歩いていると、知らずに夢に出てくる人を思い
浮かべたりしている。一緒に歩いている。
暗い気持ちではなく、雑念を濾過した不純物のない柔らかな気持ちで・・

色々な事から距離を置いて、雑音のない所で自分の歩いてきた道を、空の上
から眺めるように俯瞰で見るとき、自分に関わってきた人がいて、今の自分が
あるのだと謙虚に思える。
反対に言えば、意識してそういう状況に自分を置かないと、大切な事を見失って
しまいそうだから、時々一人になるこんな時間が必要なのだと思う。

そう言い聞かせ、小さな停車場から、現実行きの列車に飛び乗る。
フィルムを早送りした様に遠ざかる町を、眺めてる内にふと過る思い。
もしかしたら、この列車は逆行しているのでは?

心を残す事があると、幽霊みたいに足元が透明で、あぼつかない生き方をしな
くてはならないのだろうか?

だとしたら、私の旅は、まだ終わらない。

写真は私の心を映し出しているだろうか?