ホリスティック医学・健康学“コラム”No.46

日本の長寿村に共通する“食の特色”――“正しい食”の具体的モデル

2023/05/27

これまで日本各地の長寿村に関する研究が行われてきました。その結果、人間に健康と長寿をもたらす“正しい食”の姿が、浮き彫りにされるようになりました。

長寿村では、多くの老人が健康で長寿を全うし、自然死(老衰)という形で死を迎えています。その事実は、長寿村の老人は「自然法則(摂理)」に一致した生活を送ってきたことを示しています。長寿村の人々が健康で長寿を全うしてきたという事実は、「心・食・運動・休養」という4つの健康条件のすべてが健全であったことを証明しています。もし「心・運動・休養」という3つの健康条件が万全であっても、「食」に欠陥があれば健康は損なわれ、元気で長生きすることはできません。

長寿村における長期間にわたる食生活を通して、そこでの“日常食”が健康長寿の大きな要因であったことが明らかになりました。村人の食習慣が「自然法則」に一致した健全なものであったということです。ホリスティック食事学で言う“正しい食”とは、人々に健康と長寿をもたらす食のことですが、それは長寿村の“日常食”の中に具体的に示されているのです。

昭和10年から36年間にわたって全国各地の長寿村と短命村を訪ね、そこでの生活について調査したのが東北大学の近藤正二博士(1893−1977)でした。(*博士は北海道から沖縄まで、990以上もの町や村を調査しています。)博士は各地の長寿村と短命村を比較し、その原因を徹底して探求しました。その結果、長寿村と短命村を決定する原因が“食習慣”にあることを突き止めました。長寿か短命かを分ける根本的な原因が、若い頃からの食事にあることを明らかにしたのです。

近藤博士が長寿村の調査研究を進めていた当時は、西洋の栄養学が日本に導入されたばかりで、肉や牛乳・乳製品を多く摂ることが体力と体格を向上させるという考えが広がり始めていました。そうした中で近藤博士は、みずから日本各地の長寿村と短命村を訪ねて調査し、長寿と短命の分かれ目が日常の食生活にあることを見抜いたのです。そして健康長寿をもたらすのは肉(動物性タンパク質)を多く摂る食事ではなく、野菜・海藻・大豆・小魚などを日常的に摂る食事であることを実地調査によって明らかにしました。肉の過食は、むしろ短命化を招くようになるという事実を指摘したのです。(『新版日本の長寿村・短命村』近藤正二著/萩原弘道編・解説:サンロード出版参考)

近藤博士の長年にわたる調査研究によって明らかにされた長寿村に共通する食生活は、主に次のようにまとめられます。ここには、きわめて重要な内容が示されています。

  • @ 穀類は雑穀か未精白の米を摂る。白米は摂らない
  • A 大豆または大豆加工品(豆腐や納豆など)を毎日摂る
  • B 野菜をたっぷり摂る。特にニンジンやカボチャなどの緑黄色野菜や芋類を摂る
  • C 海藻を毎日摂る
  • D ゴマをよく摂る
  • E 魚は小魚を摂る。大型魚は少量
  • F 肉はほとんど摂らないか、摂っても少量
  • G 砂糖を摂るときはごく少量。黒砂糖を摂る
  • H 塩分を摂りすぎない
  • I 不自然な加工食品を摂らない

博士はさらに、健康を維持するための条件として、次のような食生活以外の内容も挙げています。

  • J ストレスの少ない生活を送る
  • K 適度な運動をする。毎日歩く
  • L 十分な休養をとる。ぐっすり眠る

近藤博士が示したようなかつての長寿村の食事は、私たちが「食事改善」をするに際して、重要なヒントを与えてくれます。健康長寿が当たり前だった長寿村の人々と同じような食事にすれば、私たちも健康長寿を手にし、老衰という自然な形で死を迎えることができるのです。長寿村の食事こそが、人間にとっての“正しい食”の具体的なモデルです。そしてそれは「ホリスティック食事学」が勧める“正しい食”の内容でもあるのです。

ホリスティック食事学では、食生活改善による食の健全化を重要な目標として掲げていますが、長寿村の食事には食生活改善の大きなヒントが示されています。つまり、「長寿村における“日常食”をモデルにして食生活改善を進める」ということです。

J〜Lの内容は、ホリスティック健康学が掲げる4つの健康条件のうちの「心」と「運動」と「休養」に相当します。長寿村の人々は、日常的に適度な運動をしていました。交通手段が発達していなかったために長い距離を歩き、農作業が日課になっていました。過重労働の時があっても、早く寝て早く起きるという自然のリズムに一致した生活を送る中で、過労に陥らずに済んでいました。

一方、長寿村の人々は、伝統的に素朴な信仰心を持っており、それによって心に安定性がもたらされていました。また、大家族の中で年寄りが大切にされていました。人生の先輩として教えを語り、それを皆が聞くといった親密な人間関係の中で心穏やかな生活を送っていました。当然、現代人のようにストレスを抱え込むことはなく、静かで安定した生活を送ることができていたのです。 

このように長寿村の人々は「食」の健全性だけでなく、「心」「運動」「休養」というすべての健康条件が整っていたのです。


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