外傷による視機能障害・手術後の後遺障害   13.7.19  1.001 本文へジャンプ
・外傷による裂孔原性網膜剥離、黄斑円孔、視神経・網膜損傷、手術後の増殖硝子体網膜症、視機能回復不良、眼圧上昇、眼痛や違和感などの諸症状

○外傷による視機能障害
○手術後の後遺障害
○院長からひとこと


はじめに

・眼科領域の針治療を専門としている千秋針灸院には、これまで様々な相談や問い合わせがありますが、針治療で著しい効果が得られた症例から、残念ながら不十分な症例まで、多くの治療実績を積み重ねてきました。外傷や手術により、眼が受けたダメージは通常の疾病と異なり、また個々の症例で様々なことから、回復可能性を予測することは難しいのですが、概ね傾向は分かってきましたので、患者さんが針治療を検討される際の目安になりましたら幸いです。

外傷による視機能障害

・外傷による視機能障害の原因には様々なものがありますが、交通事故や飛来物(ボールなど)により顔面部を強打して生じるものや、目に異物が刺さる等により角膜や水晶体、網膜などを損傷して生じるものがあります。多く見られる症状として、眼周囲の違和感や前頭部痛、複視、眼球麻痺、眼瞼下垂、視力低下などが挙げられ、角膜や虹彩などの前眼部の損傷、黄斑円孔、裂孔原性網膜剥離、視神経損傷、網膜損傷など様々な状況が生じています。外傷は基本的に眼科での処置や手術が必要になりますが、その後の回復状況が思わしくない場合には、針治療が効果を挙げるケースがあります。また針治療を行っても十分な回復は難しい場合もありますので、障害の程度や治療の方法によっても結果は異なりますが、概ねの目安として記載します。

外傷性網膜剥離・黄斑円孔
・ボールが当たるなどの外傷が原因で手術の必要な裂孔原性網膜剥離と、術後に生じた増殖硝子体網膜症については、まずは眼科での処置や手術が必要となります。針治療については、手術後の視機能回復を促すことが目的であり、術後1ヶ月は針治療は控え、その後6ヶ月〜1年を目安に針治療を行います。受傷・手術から時間が経過していない症例ほど、回復は順調です。黄斑円孔についても同じく、術後の順調な回復が期待でき、眼科医の予想を上回る視力の改善や中心暗点の縮小などが期待できます。

外傷性視神経障害

・外傷性視神経障害には視神経管骨折の状況とは別に、視神経乳頭部位の出血や浮腫を伴う視神経前部の障害と、後部の視神経管内の視神経損傷や出血、浮腫、循環障害による視神経管内視神経の障害があります。前部の視神経障害では外傷後1週間、後部の視神経管内視神経の障害では2週間以降に視神経乳頭の蒼白化がみられ、1ヵ月後には視神経萎縮を生じます。眼科での光干渉断層計(OCT)検査では、時間の経過とともに網膜神経線維層が薄くなることが確認できます。

・針治療では視神経管骨折などで光覚が全く無い状態については適応外です。少なくとも光覚があり、幾らかでも視力がある場合には針治療を行うことで、視機能が回復してくる場合があります。ただし、視神経の損傷自体が回復するわけではありませんので、損傷の程度により視野欠損や感度低下が残存したり、視力の上昇幅が限られる症例もあります。眼科での治療のみに比較すれば、良い結果が得られる場合も少なくないのですが、過大な期待は難しいものと考えて下さい。やはり受傷・手術から時間が経過していない症例ほど、回復の可能性が出てきます。千秋針灸院の場合は3ヶ月毎程度で視機能の改善を評価していきますので、まずは3ヶ月程度を目安に試してみることも良いと思います。

・最近の症例では、受傷後数ヶ月が経過し視神経萎縮の診断により、眼科での治療が症状固定として終了していても、3ヶ月程度の針治療で視力は大幅に改善(0.04→0.4・眼科検査)、その後も回復が続いているケースがあります。他の症例も含めた結果からは針治療を行った場合には視神経萎縮の有無よりも、OCTで確認できる網膜神経線維層の厚みが回復の予後に関係すると考えられます。受傷から早期の網膜視神経層が薄くならない内に針治療を開始することで、最大限の回復が得られる可能性が期待できるようです。

穿孔性眼外傷
・鋭利な刃物が刺さるなど、様々な原因で眼球や周辺部に穿孔を伴う障害が生じた場合、まず眼科での手術や処置が必要になります。針治療については、その後の後遺障害の軽減や回復を促す目的で治療を行っています。程度にもよりますが、眼周囲の違和感や痛み、痺れ感に対しては針治療の効果が良好なケースが多いです。一方、受傷後の眼筋麻痺については多少の改善はあっても、大きな回復は難しいケースが多いようです。また視力をはじめとした視機能については、ある程度の視機能が残っている場合には、受傷・手術後1ヶ月以降のできるだけ早い時期に針治療を開始することで、良好な回復が得られる可能性が高まります。

トップへ戻る

手術後の後遺障害

・手術は成功を期待して行われるものですが、例えば安全とされる白内障手術でも概ね200回に1回程度は合併症が出現し、眼内炎などの重篤な場合も少なくありません。針治療は手術による物理的な欠損、例えばレーザーの誤照射による虹彩や網膜上に生じた絶対暗点へは無効ですが、視力・視野を含めた様々な視機能の低下や、頭痛や眼痛、違和感などの症状に対しては、良好な結果が得られるケースが多くあります。ただし針治療を十分に行えたとしても、障害の程度に予後は大きく左右され、時間が経過した症例ほど、回復の可能性は低下する傾向です。針治療を検討される場合に、参考にしていただけたら幸いです。

網膜剥離・黄斑円孔手術後の回復不良
・網膜剥離や黄斑円孔による網膜の手術では、手術自体は成功していて数ヶ月が経過していても、視力や視野の回復が不十分な場合は少なくありません。こうした場合には適切な針治療を行うことで、視力や視野は大きく回復するケースは多いです。手術後早期ほど好結果が期待できますが、数年程度経過していても良好に回復される症例も多いです。手術後の回復が思わしくない場合には、適切な針治療もご検討下さい。

増殖硝子体網膜症(硝子体手術)
・裂孔原性網膜剥離への硝子体手術後に発症する増殖硝子体網膜症は、手術時の硝子体摘出が不十分な場合に見られます。眼科での対応が基本になりますので、針治療単独での回復は期待できません。問い合わせの多い合併症ですが、原則として針治療の不適応疾患と考えるべきです。針治療は再手術後の良好な視機能回復を促す目的であれば、お勧めできます。

硝子体牽引(硝子体手術)
・網膜剥離に対する硝子体手術後に生じた周辺部の硝子体牽引は、手術時の残存硝子体が原因となり、網膜の再剥離が生じる可能性や、難治性の増殖硝子体網膜症を生じることがあります。基本的に硝子体による牽引については、針治療での回復はありません。硝子体や増殖膜を除去する再手術が必要になります。硝子体手術後一ヶ月程から針治療を行うことで、眼科の予想以上の良好な回復が得られることも少なくありません。

強膜バックリング後の後遺障害など(硝子体手術)
・裂孔原性網膜剥離への強膜バックリングは、術後の屈折異常や眼球運動障害、眼痛などを生じることがあります。針治療は障害の程度にもよりますが、屈折異常や眼球運動障害に対しては若干の改善が得られる可能性があり、また眼痛や眼周辺の違和感に対しては良好な場合があります。針治療は手術後の後遺症では一部の視機能や、特に随伴症状に対して大きな効果が得られる場合があり、検討される価値があります。

汎網膜光凝固後の絶対暗点と瘢痕拡大(糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞症へのレーザー)
・糖尿病性網膜症に対して行われる汎網膜光凝固(レーザー)に伴う網膜障害は絶対暗点となり、針治療を行っても回復する可能性はありません。ただし針治療が網膜の血流を改善し、網膜が良好な状態となることから、視力をはじめ残存する視機能は改善する場合も多く、再度の汎網膜光凝固が不要・遅らせられる場合があり、汎網膜光凝固に伴う瘢痕の拡大は抑制できる可能性があります。

・糖尿病性網膜症への針治療は、A1cの値を抑えつつ低血糖を避けながら視機能を改善させ、汎網膜光凝固をはじめとする手術を可能な限り回避することが目標となり、眼科のみの治療と比較して良好な視機能を長期間維持できる可能性が高くなり、千秋針灸院でも多くの患者さんが治療に取り組まれています。比較的若い患者さんでの治療成績が良い傾向です。

・詳しくは糖尿病網膜症のページや、網膜静脈閉塞症のページを参考にして下さい。

眼内注射やPDT(光線力学療法)後の視力低下(網膜黄斑変性、黄斑浮腫などへの眼内注射、レーザー)
・加齢黄斑変性や脈絡膜新生血管などへの、アバスチンやルセンティスに代表される抗VEGF薬の眼内注射や、ポリープ状黄斑変性へのPDTを行った後、新生血管などは消失したものの、網膜の健康状態の低下により、視力が十分に回復しないケースは少なくありません。この場合、針治療を行うと低下していた視力が、大きく改善する症例がかなりあります。眼内注射やPDTを行って新生血管が消失しているのに、3ヶ月以上も視力が改善しないケースなどでは、針治療を積極的に検討すべきです。この状態で漫然と眼内注射を続けることは、反って視機能の回復を阻害していることもありますので、眼内注射は避けるべきです。

・詳しくは若年性黄斑変性のページや、加齢性黄斑変性のページ、当院の統計症例報告を参考にして下さい。

副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科手術、緑内障手術後の眼圧コントロール不良(緑内障、眼周囲などの手術)
・副鼻腔炎や眼窩周辺部での腫瘍などへの手術や、緑内障などで眼圧を低下させるための線維柱帯切開術など、手術直後や相当な時間経過の後にも眼圧が上昇する場合があります。手術時自体が眼房水の流れに影響を与えたり、手術中・術後のステロイド薬の使用や、線維柱帯切開周辺部での組織の増殖による再閉塞などが原因として挙げられ、基本的には再手術が必要です。

・しかし手術後に原因不明の高眼圧が続き、強い頭痛や眼痛を伴い、視神経への圧迫による視野欠損が生じることがあります。非常に眼圧が高い場合には線維柱帯切除などが早急に行われますが、30mmHg未満では眼圧を低下させる点眼薬を使用して経過観察を行うケースが多くなります。この場合、点眼薬で速やかに眼圧が正常になれば問題はないのですが、眼圧降下が不十分な場合には、視神経へのダメージが徐々に大きくなることから、針治療も併用して早期に眼圧を低下させる試みも検討して下さい。

・通常の緑内障においても点眼薬に加えて針治療を併用すると、特に高眼圧の症例ほど大きな眼圧降下が得られやすく、頭痛や眼痛などの随伴症状は速やかに軽減します。漫然と経過観察を続けるのではなく、視神経へのダメージを最小限に抑え、慢性の頭痛や視野欠損などの後遺症を残さないように、針治療の併用も検討すべきでしょう。ただし手術による障害の程度が最も関与しますので、針治療の効果も症例ごとに差異が大きくなります。

顔面麻痺、眼筋麻痺、眼瞼下垂などへの手術に伴う、腫痛感やドライアイ、複視などの症状(眼周囲の手術)
・顔面部や前眼部での手術後に生じる症状については、程度にもよりますが針治療で改善するケースが多いです。しかし手術後から残存している麻痺や複視など、器質的な障害については改善が難しい部分があります。手術後に様々な後遺障害を残している場合では、針治療を行うことで大きく回復する部分と、ほとんど変化が認められない部分が出てくることが多いです。一般に針治療は各器官の機能障害や炎症、疼痛などの症状に対して効果が高く、各器官が完全に傷害される器質的な障害、例えば切断や滅失、時間の経過した麻痺などに対しては無効もしくは軽微な改善までに留まることが多いです。このあたりを理解して針治療を検討すべきでしょう。

トップへ戻る

院長からひとこと

・交通事故や怪我による眼外傷は、まずは眼科での治療が行われますが、受傷状況により適切な手術や処置を行っても、全ての症例で完全に視機能や症状が回復する訳ではなく、視機能の回復が不十分だったり、痛みや痺れなどの症状が残ったりするケースは少なくありません。こうしたケースでは針治療についても、全ての症例で良好な回復が得られるわけではありませんが、眼科医の想定を超える順調な回復を促したり、残存した後遺症が軽減したり解消することも少なくありません。

・しかしながら、視機能が完全に失われているような場合には、針治療を行っても回復は難しいことは間違いなく、過大に期待していただくことには無理があります。状況にもよりますが、週2回・3ヶ月程度(20回以上)の針治療を行ってみて自覚的にも、また当院もしくは眼科での結果が得られない場合には、それ以上に継続しても結果は期待できません。

・このページで紹介している内容は、当院での継続した治療や症例数から、ある程度分かってきたことですが、外傷や手術などでの合併症は、程度や状況の差が大きく、実際に針治療を行ってみないと、結果が予測できないケースも多いです。また私は眼科領域を唯一の専門として全力で取り組んでいますが、眼科内でも様々な専門医が存在していることでも分かるように、眼科の疾病や手術ひとつをとっても専門性が極めて高く、個人で全てを網羅することは困難です。専門医以外で外傷や手術の内容を詳しく理解するには、どうしても限界があることは、ご了承下さい。

・千秋針灸院での眼外傷の針治療は意外にも多く、様々な状況の治療を経験し、また患者さんからも勉強させていただきました。眼外傷・手術の合併症への針治療は決して容易ではありませんが、状況によっては適切な治療により、大きく視機能や症状を改善させることに繋がります。眼科での処置や手術後の状況が思わしく無い場合には、当院や提携治療院での針治療も、検討されることをお勧めします。現在も様々な症例を治療させていただいていますので、新しく分かってきた内容がありましたら更新していきます。このページが少しでも皆様のお役に立てたなら幸いです。

トップへ戻る

   ・本ページの内容は現代の眼科医学及び中医学、千秋針灸院の治療実績に基づいて書いているものです。
 ・内容や画像は千秋針灸院の著作物です。無断での転用や複製はお断りします。