<7−3、タイヤコーナリングフォースのスリップ角に対する非線形性とステア特性>

 タイヤ特性の非線形性に関しては、荷重に対するコーナリングパワーの非線形性がステア特性に与える影響について<3−2、重量配分とステア特性(コーナリングパワーの荷重に対する非線形性がある場合)>前述しましたが、ここではスリップ角に対するコーナリングフォースの非線形性がステア特性に与える影響について簡単に書きたいと思います。

定常円旋回している車両については、前後のタイヤ横力の和と遠心力が釣り合っていることから、

 M・g・a+2Yf+2Yr=0    …(7−1)

(式(6−1)と同じ)

ここで、M:車両質量、g:重力加速度、a:旋回G(重力加速度の何倍か=何Gと表すもの)、Yf:前輪1輪のタイヤ横力、Yr:後輪1輪のタイヤ横力。

また、重心点回りのモーメントが釣り合っていることから

 2・Lf・Yf−2・Lr・Yr=0     …(6−2)

よって

 2Yf=−M・g・Lf/L・a    …(7−2)

 2Yr=−M・g・Lr/L・a    …(7−3)

上記のうち、M・g・Lf/LとM・g・Lr/Lは、それぞれ前軸荷重と後軸荷重であるから、YfとYrはそれぞれ輪荷重にα(旋回G:何Gと表すもの)をかけたものと等しくなります。こう書くとややこしいですが、要するに0.5Gで定常円旋回しているときの前左右輪合計のタイヤ横力を、左右輪合計の前輪荷重で割れば0.5になり、後輪の横力の合計を後輪荷重の合計で割れば0.5になるということです。

 ここで7.5のようなスリップ角に対するタイヤコーナリングフォースの特性を考えます。但し縦軸はコーナリングフォースそのものではなく輪荷重で割って無次元化しています。これは旋回Gと同列に扱えるようにするためです。

テキスト ボックス: コーナリングフォース/輪荷重


 この例ではコーナリングフォース(を輪荷重で割ったもの)はスリップ角に対して線形です。一方前輪の特性と後輪の特性が重なっていません。これは例えば前述したフロントの重い車などの例で、前輪のコーナリングフォースが後輪より重い前輪荷重ほどには大きくないことを示しています。要するに荷重に対するコーナリングパワーの非線形性がある例ですが、スリップ角に対するコーナリングフォースは線形です。

 今、この車両がα1Gで定常円旋回しているとすると、そのときの前後輪のタイヤスリップ角は、図からβf1、βr1、また、α2Gのときはそれぞれβf2、βr2となります。

 さて、<2−2、前後輪タイヤスリップ角とステア特性の関係@>の項を思い出してください。定常円旋回している車両は下式が成り立つことを説明しました。

 δ=L/R+βf−βr    …(7−4)

 (式(2−2)の変形)

(ここで、δ:前輪実舵角、L:ホイールベース、R:旋回半径、βf:前輪タイヤスリップ角、βr:後輪タイヤスリップ角)

また、βf−βr>0であればアンダーステアであることも説明しました。

7.5の例はある旋回加速度で定常円旋回しているときのβf、βrの関係がβf−βr>0となっているのでアンダーステアの車両であるといえますが、その特性が線形であるため、旋回加速度を上げていくとβf−βrが一定の割合で増えていく特性であることがわかります。つまり式(7−4)から、旋回加速度を上げていくと実舵角δ(簡単にはハンドル舵角と考えてもよい)を一定の割合で切り増さなければならない車両と言うことです。このことを旋回加速度に対する実舵角δのグラフで表すと、7.6中のAのようになります。

テキスト ボックス: δ=δ(初期)+βf-βr

ここでもしスリップ角に対するタイヤコーナリングフォース特性が非線形だった場合はどうなるか考えて見ましょう。実際のタイヤでは必ずこのような非線形性を有しているのです。

一般的にタイヤは7.7のようにスリップ角を増やしていってもそれほどにはコーナリングフォースが大きくならず、ついにはある値で頭打ちになってしまうことは<7−2、タイヤ横力の非線形性の理由について>の項で説明しました。

テキスト ボックス: コーナリングフォース/輪荷重

この場合は図から明らかなように旋回加速度を上げていくとβf−βrがどんどん大きくなり、ついには無限大となってしまいます。これを旋回加速度に対する実舵角δのグラフで表すと、7.6中のBのようになります。つまり実舵角δは旋回加速度を上げていくとどんどん大きくなり、ついにはフル転舵しても間に合わなくなる、ということです。尚、このような状態を「フロントドリフトアウト」と言い、このときの旋回加速度を「最大旋回加速度」と言います。これはいくら切っても旋回加速度を上げることができず、切れば切るほどタイヤ横力の車体前後成分が大きくなってしまい、走行抵抗になるばかりという状態です。

 余談ですが、安全な車両を作るにはこの「最大旋回加速度」をなるべく高めるということも必要ですが、そこに至る特性(図7.6中B線)をなるべくなだらかに、ドライバーに予測しやすい特性にすることも求められるのです。


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