<2−2、前後輪タイヤスリップ角とステア特性の関係@>
前述の概念的説明を、図を用いてもう少し詳しく見てみましょう。
最初に旋回円上に停止している車両の様子と、ある速度を持って旋回している車両の様子を図で示し、そこから前輪スリップ角βfおよび後輪スリップ角βrと、ステア特性の関係を説明したいと思います。
図2.3はある旋回半径にぴたりと合わせて車を停止させたときのようすを表しています。
図で、G:車両重心点、δ:前輪舵角、L:ホイールベース、Lf:前軸〜重心点距離、Lr:後軸〜重心点距離、Rs:旋回半径、Os:旋回中心、βs:重心点の車体スリップ角です。
この状態では車速がないため遠心力(求心力)は働いていないので、前輪・後輪ともにタイヤにスリップ角は付いていません。従って前輪位置では前輪そのものの方向、後輪位置では後輪そのものの方向に進もうとしていると考えることができます。従ってその旋回中心は前後輪の向きに直角な線の交点Osになります。これらから作図上、
Rs×sinδ=L
ここでδが微少である(LはRsに対して十分小さい)とすると、
sinδ≒δ から Rs=L/δ …(2−1)
となります。尚、旋回中心Osと重心点を結んだ線に直角なベクトルが重心点の進行方向で、この作図からも(重心点の)車体スリップ角βsが最初、進行方向に対して車両が外を向いている状態であることがわかります。またその大きさは、
sinβs≒βs=Lr/Rs
となります。
次に図2.4は先程の車両が同じ前輪舵角δで、ある速度を持って旋回している状態を表しています。
図で、G:車両重心点、β:重心点車体スリップ角、δ:前輪舵角、βf:前輪タイヤスリップ角、βr:後輪タイヤスリップ角、ω:ヨーレイト(旋回角速度)、L:ホイールベース、Lf:前軸〜重心点距離、Lr:後軸〜重心点距離、R:旋回半径、O:旋回中心、です。
この状態では車速があるため重心点に遠心力(求心力)が働いており、これに対応してタイヤはコーナリングフォースを発生していなければなりません。従って前後輪にタイヤスリップ角がついています。また旋回に伴い、車両にはその車速と旋回半径に対応するヨーレイトω(旋回角速度)が発生しています。
さて前後輪にタイヤスリップ角が付いているので、前輪位置、後輪位置の進行方向はタイヤの向きからそれぞれβf、βrずれた方向となります。そして旋回中心はそれぞれの進行方向に直角な線の交点Oとなるので、旋回半径Rは作図上
R×sin(δ−βf+βr)=L
ここで(δ−βf+βr)が微少なら、
sin(δ−βf+βr)=(δ−βf+βr)
よって
R×(δ−βf+βr)=L
R=L/(δ−βf+βr) …(2−2)
となります。
また、車速=0のときの旋回中心Osに対して、車速>0のときの旋回中心Oは、βfやβrの分だけ車体から見て前方に移動し、その量は旋回加速度が高いほど(βf、βrが大きいほど)増えることがわかります。
尚、図2.4の円中のβ、βr、Lr/Rの関係から、車体スリップ角βは、
β=Lr/R−βr
となることがわかります。つまりβは最初βs=Lr/Rs(車体が外向き)で、βrが大きくなるにつれ(旋回加速度が上がるにつれ)外向きの角度が減っていき、やがて0となり、さらには内向きになると言うことです。ここで車両が半径一定の定常円旋回をしている、つまりR=一定であれば、βの(外向き角度の)減少量はβrに一致します。これをグラフで表せば、図2.5のようになります。
さてここで(2−2)の式からも、また作図上からもわかるように、もし前輪タイヤスリップ角βfと後輪タイヤスリップ角βrが等しければ、
βf−βr=0 となり、よって
R=L/δ となって、すなわち式(2−1)より
R=Rs となり、
これは車速が上がっても旋回半径が変わらない「ニュートラルステア」特性であるということがわかります。
同様にもし
βf−βr>0 ならば、式(2−2)の分母である(δ−βf+βr)は
(δ−βf+βr)<δ となり
R>Rs となって
車速が上がると旋回半径が大きくなる、すなわち「アンダーステア」特性であることがわかります。
同様に
βf−βr<0 ならば、Rの分母である(δ−βf+βr)は
(δ−βf+βr)>δ となり
R<Rs
すなわち「オーバーステア」特性というわけです。
まとめると、定常旋回状態において前輪のタイヤスリップ角が後輪よりも大きい場合は「アンダーステア」であり、等しい場合は「ニュートラルステア」、小さい場合は「オーバーステア」であるということです。