はじめに
仙台市中心部からほど近い西に延びる幹線道路(国道286号線)沿いの台形の敷地に計画された動物病院です。
このエビス動物病院は、東北地方では数少ない高度な眼科治療を行っていることでも知られています。
計画地の近隣で開業し数年を経ていましたが、事業の拡大に伴い、敷地を捜し、移転することになりました。
動物病院という用途に対してシンプルでありながら印象に残るかたちをどこまで引き出せるかが、
計画時点での課題でした。
建物配置は、全体的に大きな四角いボリュームに対して小さいBOX(玄関部・診察室)が両側に飛び出し、
別棟の東屋に対しても同じようなボリュームを繰り返すことで、
敷地全体に対して視覚的・空間的秩序を与えることが出来たと考えています。
配置計画では、大きく二つの提案を行いました。
ひとつは、こうした国道沿いの店舗は、道路に面して大きく駐車場をとり、
奥まった場所に建物を配置しているケースが多くみられますが、建物を看板としても機能させるため、
前面に出しアピールすること。
ついで、公園や雑木林のような雰囲気を作り出し、近隣を散歩する人たちに開放すること。
ペットの状態によっては、外で待たざるええない飼い主たちも多く予想されます。
そうした人たちが、少しでも気持ちよく過ごせる外部空間をつくることを提案しました。
敷地を近隣の散歩をしている方に開放したり、待合空間により飼主と動物が並ぶシルエットや、
外の東屋で待っていた飼い主が動物と一緒に診察の移動を繰り返す姿は、
幹線道路沿の景観にとっても、良い影響を与えるものと考えています。
△ 前面道路東側
手前の東屋で待っている飼い主の姿が、
真ん中の飛び出したBOXにある診察室から良く見えるように計画されています。
東屋には水飲み場とベンチが設置されており、散歩する近隣の飼主さんがふらりと立ち寄れるようになっています。
近隣の散歩をする方に開放されたオープンな雑木林の公園となり、
やがて、植栽が大きくなって森の中の動物病院になっていけば良いと考えています。
△ 前面道路西側
右手は、国道286号線という大きな幹線道路です。動物病院への敷地内出入は西側からアプローチします。
遠方から来られる方、車で通院する飼い主の方が多いので駐車場のスペース確保は大事な課題でした。
駐車場へのアプローチもスムーズになるよう、幅などを工夫しています。
△ アプローチ部分を正面から見る
コンクリートのボリューム自体は立方体ですが、入口が三角に切られていて、半分がポーチになっています。
ちょっとわくわくしますね。
エントランスから待合室に入ると、待合室は2層分吹き抜けになっており、
上部はそのまま大きな窓になっています。
これだけゆったりとした広い待合室をもった動物病院はなかなか無いのではないでしょうか。
コンクリートが岩や土を表現し、木立が地面から伸び、白くふわりと空を覆っている、というように、
自然の地形をモチーフとして空間を構成しています。
「森の中の動物病院」になるよう、イメージを抽象化して表現しました。
インテリアデザインは、OGATA 尾形欣一氏による受付カウンターや樹木と動物のオブジェをレイアウト。
ベンチや棚も、切り株や鹿になっています。
インテリアデザインともコンセプトを統一して、空間をつくり込みました。
△ 待合室から入口方向を見る
仕上材料の構成として、コンクリート・木・ボード+ペンキの表現が明解に分かれるようにしています。
△ 受付カウンター
受付の計画に当たっては、カルテの収納や受付まわりの機器の配置に配慮し、
待ち合わせ室からそうしたものが見えない配慮を行いました。
また、ペットフードの販売など、どうしても収納の動線計画が重要なポイントになります。
収納量や配置、動線については、結構気を遣いました。
△ 診察室3
「3」と言いながら、メインの診察室です。
明るく開放的な診察室とし、ペットや飼い主、先生など、
利用者のだれもが気持ちよく利用できるように配慮しています。
写真は冬なので少々殺風景ですが、「森の中のあずまやの中での静かな療養」のような雰囲気を目指しています。
外の待合室として設定した東屋から、直接この診察室に入ることが出来るようになっています。
ペットの状態によっては他の方々と一緒の空間に居ることが出来ないことを想定した配慮です。
△ 診察室2
当動物病院の目玉である白内障治療に対応し、暗室とすることが出来、エコーを撮ることが出来ます。
診察室2と3は先生の移動が多いので、動線に配慮しています。
△ 診察室1
一番小さな診察室であり、暗室にもなります。
必要な時には、隔離室やお別れ室としても使用できるよう考慮しています。
様々なことに対応できる多目的診察室、といった位置付けでしょうか。
ひとつ加えて、こうした診察室や待合室はびっくりするほど「動物病院っぽいにおい」がしません。
明快な理由は特定できませんが、換気設備にかなり気を配った成果でしょうか?
トリミング室へは、エントランスから直接アプローチできる計画となっています。
ペット専用のドライヤ―が見えます。
この部屋は、設計当初はお別れ室として計画されていましたが、結果としてトリミング室となりました。
手術室は、同時に二つの手術に対応できるよう、二室に分割使用できるつくりとなっており、
手術台も2台設置されています。
そのうちの一室は、X線撮影室と兼用できる仕様です。
FIXガラス・区画扉共に防放射線仕様になっています。
手術室への入口は自動扉となっており、衛生面での配慮も行っています。
奥のガラス越しに見えているのが入院室です。
入院室は二室あり、犬用・猫用に区分できるようになっています。
入院中の動物の容態の変化に気付けるよう、見通しの利くつくりにしてあります。
この動物病院は構造的に特殊な作りになっています。
1階部分の真ん中部分だけが鉄筋コンクリート造りになっており、周囲は木造で覆う形で構成されています。
その理由は以下の通りです。
診察手術部門には、高価な診療機器も多く放射線を遮蔽する堅牢性も必要となり、
入院室にも鳴き声を遮断する防音性が重要となります。
そのために鉄筋コンクリート造がふさわしい。
それに反して、待合室などは風通しや日照などが多く注ぐよう、窓が大きく取れる木造としています。
こうした特殊な構造とすることにより、軽快さと堅牢性の両立を図り、特色ある動物病院としています。
最小限スペースの中に必要なものだけを配置しました。
天井のシェードが印象的です。デザインはOGATA 尾形欣一氏。
夜の待合室はインテリアのイメージが全く違います。
プロジェクターからの映像がコンクリート打ち放しの壁に投影され、訪れた人々を和ませます。
この映像もOGATA 尾形欣一氏によるデザイン。
△ 外観 南側
照明計画は照明デザイナーの梅田さんに参加して頂きました。
建物のかたちを引き立てるように照明がレイアウトされていますね。
△ 外観 北東
照明によって、特異な敷地形状が浮かび上がり、東屋のエッジも良くきいています。
△ 外観 南西
照明計画が建物全体をサインとして機能させているのが良くわかります。
■ NEA 西多賀エビス動物病院 所在地/仙台市太白区 主要用途/動物病院 家族構成/夫婦+子供2人 照明計画/スタジオLUME 梅田かおり 1階インテリア/OGATA 尾形欣一 施工/共栄ハウジング 構造・構法--------------------------------- 主体構造 1F RC造 一部 木造/2F 木造 基礎 柱状改良・直接基礎 規模--------------------------------------- 敷地面積 865.06㎡ 建築面積 198.77㎡ 延床面積 297.12㎡ 工程--------------------------------------- 設計期間 2012年 4月~2012年12月 工事期間 2013年 2月~2013年10月 敷地条件----------------------------------- 近隣商業地域 準防火地域 第4種高度地区 道路幅員 南40.88m 駐車台数18台