旧制第一高等学校寮歌解説

一高卒業記念歌
日日なべて

昭和35年 

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1、日日(かか)なべて     四十年(よそとせ)
  若き日の       われらあこがれ
  あゝ向陵に      つどひ學びき

2、人の()の       四十年長く
  交はりし       かの日かのとき
  あゝ昨日(きぞ)のごと   今も思ほゆ

3、年移り         四十年今は
  去りゆきし      友よいくたり
  あゝ柏べに      しのび悼まん

4、いざわれら      百年(もゝとせ)までも
  友情に         生くるよろこび
  あゝ春の夜を     祝酒(ほぎざけ)酌まん
譜に変更はない。最初と最後の小節が不完全小節のアウフタクトの曲。歌詞3行目を前句、後句別に2回繰り返す。これにより、3行から成る歌詞を8小節の一部形式の歌曲にまとめるとともに、前句をサビ、後句をエンディングとし、、起承転結を完結させた。見事な技法である。作詞は「春甦る」の矢野一郎、作曲は「のどかに春の」の氷室吉平で、ともに一高大正9年卒である。

「この歌は卒業後の回顧の情切々たるものが溢れている。
若き日の憬れ。その頃の生々しい思い出。先立った友の数々。実に同窓歌の歌としては申し分のない名歌だと思う。
 作曲に当たっては、歌う連中の年頃や音痴度も考慮に入れて、あまり新しい音楽的なものは不適当と考えた。しかし、何とか寮歌らしいメロディーと思って、第三句にそれを試みた。
 歌い方としては、第一句、第二句は、いきばらずに、しんみりと懐旧的な情緒で歌ってほしい。第三句は、『あゝ向陵につどひ学びき』という一行であるが、作曲の手法からは三行ものはなかなかむずかしいし、又この一行は大いに意味を強めるべきところだから、あゝ向陵に、向陵に、つどひ学びき、つどひ学びき、と繰り返すこととした。氷室さん(作詞者)にも御了解を得た。
 従って、第三句は大いに声に力をこめて充分高らかに歌ってほしい。そして第四句は述懐的にくり返し乍ら、終わりのところを圓くゆっくりと余韻を長く残す気持ちで歌い納めて貰い度い。」(矢野一郎「大正9年一高卒業40年記念歌について」)

語句の説明・解釈          
語句 箇所 説明・解釈
日日(かか)なべて 1番歌詞 日にちを並べて。指折り数えて。
「カガを日日の意とする説もあるが、カ(日)は本来複数の日をいう語なので、カガと重ねることに疑問がある。」(岩波・古語辞典) 「カガ」(屈)と同根、指を折りかがめて日を数える意という。
向陵 1番歌詞 向ヶ丘の漢語的表記。一高のことをいう。もともとは、本郷の向ヶ丘のことだが、駒場に移ってからも一高およびその所在地を向ヶ丘、向陵といった。
柏べに 3番歌詞 柏葉は、橄欖と並び一高の象徴。若き日の三年を共に過した一高時代に思いを馳せて。
            

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