旧制第一高等学校寮歌解説

上村中将の歌

 

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荒浪吼ゆる風の日も  潮(むせぶ)ぶ雨の夜も
   津島の沖を守りつゝ   心を碎く人や誰
   天運時をかさずして   君幾度かそしられし
   あゝ浮薄なる人の聲   君眠れりと言はヾ言へ
   夕日の影の沈む時   星の光の冴ゆる時
   君海原を打眺め     偲ぶ無念の感如何に

2、時しも八月十四日     東雲(しののめ)白む波の穂に
  煤煙薄く棚引きて     はるかに敵の影見えぬ
  勇みふるへる丈夫(ますらを)の   血肉は躍り骨は鳴る
  見よやマストの旗の色  湧き立つ血にも似たる哉
  砲聲天に轟きて      硝煙海を蔽ひては
  茜さす日も打煙り      荒ぶる潮の音高し

3、蔚山沖の雲霽れて     勝誇りたる追撃の
  艦隊勇み歸るとき     見よ沈み行くリューリック
  恨は深き敵なれど     捨てなば死せん彼等なり
  英雄の(はらわた)ちぎれけん   助けと君は叫びたり
  折しも起る軍樂の      響と共に永久(とこしへ)
  高きは君の功にて     匂ふは君の譽なり
譜に変更はない。左右のMIDI演奏は、同じ演奏である。
途中、第3段目でト長調からハ長調に転調する。元歌の七高造士館校歌集「上村将軍の歌」は明治38年作曲で、拍・調子は2拍子・変イ長調である。末尾に参考として載せるように、歌詞の文句も少し異なるところがあるが、ほぼ同じ。

もともとこの歌は七高造士館の歌だが、一高でも端艇部がストームの歌として大いに歌われた。

語句の説明・解釈
語句 箇所 説明・解釈
津島の沖 1番歌詞 対馬海峡西水道、朝鮮海峡。
蔚山 3番歌詞 朝鮮慶尚南道の都市。明治37年8月、蔚山沖合いで、上村中将率いる第二艦隊とロシア・ウラジオストク艦隊が海戦を行なった。古くは1597年末、加藤清正らが立て籠もって明・朝鮮軍を防いだ城址がある。
リューリック 3番歌詞 ロシア・ウラジオストク巡洋艦隊の装甲巡洋艦。他に「ロシア」「グロモボイ」がこの海戦に参戦した。日本軍の砲撃により自沈したのはリューリックのみであったが、他の二艦もウラジオストクに逃げ帰ったものの、砲弾の破孔を修理できず二度と出撃することはなかった。
助けと君は叫びたり 3番歌詞 海軍軍人の鑑として、世界中に伝わり絶賛されたという。       
            
先輩名 説明・解釈 出典
井上司朗大先輩 之は日露戦争当初、対馬海峡の哨戒の任に当った上村艦隊が、度々露艦の通過を許したため、国民の非難が集中したのを、中将は必ずなすある日を自ら信じて、黙々苦しい任務につき、遂に、黄海海戦で戦列を離脱したリューリック以下を蔚山沖で捕捉全滅した偉功をたたえた歌だ。 「一高寮歌私観」から
園部達郎大先輩 入寮した昭和4年4月14日、落着かぬ寝床の中で、遠く鳴る太鼓に『ストームだ』、音には聞いていたが、出会うのは初めて。乱入したダイチャン連に、真暗闇にど突かれ、箒で顔に泥水を塗られ大変だった。太鼓は遠いと思っていたのに、『新入生歓迎ストーム』とあって、一年部屋許り襲撃、それでやけに早く襲われたのだ。たしか、その翌年頃、『總代会』(寮の国会)で『ストーム禁止案』が可決されたはずだが。 「寮歌こぼればなし」から


(参考)七高造士館「上村將軍の歌」との歌詞文句の違い

一高 七高
1番 潮咽ぶ  大潮咽ぶ
津島 對島
偲ぶ  忍ぶ
2番 波の穂 波の上
煤煙薄く 煤煙低く
はるかに 遙に
勇みふるへる丈夫の 勇みに勇む丈夫が
血肉は躍り 脾肉は躍る
似たる哉 似たるかな
硝煙海を蔽ひては 硝煙空に渦巻きて
打煙り 打ち煙り
荒ぶる潮 荒るる潮
3番 雲霽れて 雲晴れて
勝誇りたる 勝ち誇りたる
叫びたり 叫びける
君の功 君の績

      
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