旧制第一高等学校寮歌解説
柔道部凱歌 |
大正4年
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1、仇敵北に壘して 幾その春を占めにけむ 豎子徒に名を成せば 香陵春は訪れず 鐵衣のまゝに臥する夜は 昔を見する夢もなし 2、征戰常に功ならず 榮冠塵を被りぬ あな香陵に人なきか 忍べる年は老いゆくを 恨の太刀を振り佩きて など宮城野を撞かざらん 3、聞け攻め鼓香陵を 搖り動かして鬨の聲 大軍北に嚮へるか 嵐の如く渦なして 捲土重ねて白旆は 萬里の道を驅けるかな 4、懸軍道は遠けれど 廣瀬の流堰き敢へず 靑葉の城をのる駒の 蹄の露と屠りたる 十八人の武士は これぞ名に負ふ一高軍 5、包むに餘る悦びに 着つゝなれにし袂さへ 今日こそいとも短かけれ 我勝歌を高誦せば 天はどよめき地はなりて 旌旗南に歸るかな |
譜は明治38年南寮々歌「平沙の北に」の譜と同じ。柔道部の部室は南六(南量6番)にあった。 滅多に歌わないが、譜が「平沙の北」の譜であるので、誰でも歌える。 |
語句の説明・解釈
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
仇敵 | 1番歌詞 | 二高柔道部。 |
1番歌詞 | こわっぱ。未熟者を軽蔑して言う言葉。青二才。二高柔道部のこと。 | |
香陵 | 1番歌詞 | 向陵、一高のこと。 |
鐵衣 | 1番歌詞 | よろい。ここでは柔道着のこと。 |
征戰常に功ならず | 2番歌詞 | この柔道部凱歌の作られた大正4年まで、対二高柔道戦は5回行なわれたが、成績は一高の1勝4敗。一高柔道部は雪辱に燃え、猛練習を繰り返す日々を送っていた。 |
捲土重ねて白旆は | 3番歌詞 | 「捲土重来」は一度敗れたものが、再び勢いを盛り返してくること。「白旆」は、一高の柏葉旗。 |
懸軍 | 4番歌詞 | 後方の連絡なく遠く敵地に入り込むこと。また、その軍隊。 |
廣瀬の流 青葉の城 | 4番歌詞 | 二高のある仙台の廣瀬川、伊達氏居城青葉城。 |
蹄の露と屠りたる | 4番歌詞 | 「蹄の露と屠りたる」も「我勝歌を高誦せば」も勝利を期待しての歌詞で、実際には試合はなかった。 大正3年の第4回対二高柔道戦に敗北以降、大正7年に最終戦を行なったが、一高柔道部は敗れた。一高柔道部が二高柔道部に勝利したとするこの凱歌は、切歯扼腕して猛練習に励み、復讐に燃える一高柔道部が二高柔道部に勝利した時に備え、予め作った凱歌であろう。大正10年1月を期して、一高柔道部は復仇の決戦を挑むべく、二高の得意とする寝技本位の練習に切替え準備に入ったが、学制改革(学年の開始を9月から4月に改めた)のため中止したい旨、二高校長からの通知があり、第6回戦は中止のやむなきに至った。この後、両校の間で柔道戦が行なわれることは二度となかった。 「三年が間、血を啜り身を削りて一意捲土重来を期せし我等の壯図も空しうなりぬ・・・・・我等如何に切歯扼腕するも、敵に戦意無きを如何せん。我等はここに涙を呑みて交渉を打切ると同時に、断々乎と して更に将来に於ても、対二高柔道試合を絶対に廃止する旨を二高に通牒せんと決意せるなり。」(「一高應援團史」) |
我勝歌を高誦せば | 5番歌詞 |