そこでポートフォリオによって価格を決めたわけである。(その計算過
程でC1 も確率変数として決まった。)
ところが、新しい確率を導入すると、C0 は期待値と結びつく。
P* =(r−d)/(u−d)とする。
1−P* =(u―r)/(u−d)となる。
Pの代わりに、P* を考える。即ち、
C1= Du 確率 P*
= Dd 確率 1−P*
を考える。(C2 も同様)
すると、
C0 =E*(C2)/r2
になっていることが、前項の計算をたどっていくと、容易にわかる。
即ち、新しい確率を導入することによって、“期待値で計算する”という自然なアプロー
チが実現できたわけである。この新しい確率をリスク中立確率とよぶ。株価の変動(従っ
てこの仮想市場)を支配しているのは元の確率(元のコイン)であるから、リスク中立確
率は、仮の確率である。“元の確率は一時的に仮定したもので、リスク中立確率が、最終
的な正しい確率”と思っている人がいるが、これは全くの誤解である。
然らば、このリスク中立確率とは何者か?
これは、株価過程やオプション過程などの確率過程を、マルチンゲールという特別な
確率過程に変換するための確率なのである。マルチンゲールは重要な確率過程であり、
その性質は詳しく研究されている。その研究結果を武器にして、オプション過程も詳
しく調べていこうというわけである。特にブラック・ショールズが扱った連続モデル
では、これが研究の出発点となる。本稿で扱っている離散モデル(2項N期モデル)
ではそれ程の有り難味はないけれども、例えば次のような応用がある。
我々は、次のような素朴な疑問を抱く。
素朴な疑問
「株と安全証券によるポートフォリオによって裁定機会がないようにコールオプション
の価格を決めて、三証券がでそろった。それでは、この三証券による巧いポートフォリ
オによって必勝法を考案できないだろうか?つまり、この市場に裁定機会はないのだろう
か?」
結論を言えば、この市場には裁定機会はない。それはマルチンゲールを使って次のよう
にして証明される。
証明
「三証券の相対過程は、リスク中立確率によってマルチンゲールになる。マルチンゲール
のどのようなポートフォリオもやはりマルチンゲールになるから、当然無裁定である。
元の確率とリスク中立確率とは同値であるから、元の確率でも無裁定となる。」
離散モデルなら、手計算でもやってやれないことはないだろうが、とてもやる気はしない。
マルチンゲールの威力が分かる。マルチンゲールの直感的なイメージや数学的な定義に
ついては後述する。
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