連載エッセイ

 <青木純のカンターレ・マンジャーレ・アマーレ>


No31

ペルージャの幻・幻のカンツォーネ

1977年の8月末、イタリア留学初年、夏休みの旅行の最後をペルージャで過ごしていた。ペルージャは中田英のおかげで日本でも有名になった。街は中世の面影が残り、古代ローマ時代からの建物もある丘の上の趣のある街だ。

 滞在数日目の日曜日の午後、街のメインストリートを友人達と散歩していると、どこからかブラスバンドの演奏が聞こえてきた。道ばたにたたずんでいるとやがて向こうの方から若いバトントワラーのきれいな女の子達を先頭にブラスバンドがパレードをしてきた。まずその眩しい娘達に参ってしまった。通りすぎていくブラスバンドの後にぞろぞろついて(チンドン屋サンについていった子供の頃を思い出す!)歩いていく人たちもいる。そしてこの娘達もさることながら石造りの建物と石畳みの街に反響するブラスの音にもすっかり興奮してしまった。その時バンドが演奏していた曲、短調と長調のメロディーが印象的に繰り返されるマーチで、しばらく聴いているうちにすっかりこのメロディーを覚えてしまった。それまで聴いたことのないインパクトの強烈な曲だった。歌詞がついているなら是非歌いたいと思ったし、この曲のレコード(まだCDなんてない時代だった)が欲しかった。周りにいたイタリア人達にこの曲の名前を尋ねるが皆知らないと言う。やがて一人だけ「I vini delli Castelli(カステッリのワイン)」と教えてくれた人がいた。それからレコード屋さんがあると「I vini delli Castelli ない?」楽譜やさんがあると「I vini delli Castelliない?」と訪ねて歩いた。3年間のイタリア滞在中ずっと探していたけど見つからなかった。また一度も聴くことができなかった。しかしメロディーはしっかり覚えていた。

 さてそれから約20年たち、数年前の東京。カンツォーネが好きなイタリア人の神父さんがいるというので会いに行った。彼にこの話をしたところどんな曲だったかと訊くので覚えていたフレーズを鼻歌で歌った(我ながら20数年良く覚えていたものだと思う。ほとんど執念!)。すると何と!それなら楽譜を持っていると言われる!。狂喜乱舞!すぐにコピーもしてくださった。タイトルは主題が「Nanni'(ナンニ)」サブタイトルが付いていてそれが「'Na gita de li Castelli」つまり「カステッリ(ローマ南西の丘陵地域)周遊」だった。『カステッリ』はあってたのに!歌詞を読むと確かに白ワインが美味しいフラスカーティだのマリーニのワイン祭りだのとワインのことが数カ所でてくるからきっとあのイタリア人はあの間違ったタイトルを教えてくれちゃったのだろうと納得。しかし歌詞はローマ方言のため意味のよくわからないところがあったため、訳詞を付ける作業が進まなかった。

 そしてまた数年。つい最近になってカンツォーネのピアノ伴奏では我が国の第一人者、岡倉富敦さんが在日イタリア人にこの歌詞を標準イタリア語に訳してもらったといって持ってきてくれた。詳しい説明も付いていたのでやっと全体を理解することが出来、直ちに訳詞を書き上げた。それをこの11月に開くリサイタルで歌うと決めた。8月に入ってチラシのデザインをそろそろ考えようと思った。チラシにペルージャの街をパレードするブラスバンドの写真を使おうとインターネットで探し始めたが、良い写真が見つからなかった。しかしイタリアのブラスバンド連盟のHPが見つかった。リンクを見ればペルージャの支部がでている。そこで早速経緯を書き、ペルージャを行進しているブラスバンドの写真があったらもらえないかとメールをしてみた。時は8月、バカンスシーズンまっただ中、のんびりしたイタリア人のこと返事がすぐもらえるとは思ってなかった。ところが数時間で返事が返ってきた!!昔は手紙をイタリアに出せばエアメールでさえ早くて10日、どうにかすると1ヶ月・・・。それでも届くだけましという通信事情だった。それがいくらインターネットなら当たり前とはいえ、すごい世の中になったとまず大感激。さて返事はというと、こちらでは写真があれば別にどこのバンドでもかまわないくらいのつもりだったのだが、いくつかある地域のバンドの中から、僕が遭遇したとおぼしきバンドの団長さんのアドレスを教えてくれた。そこでまたすぐそっちにメールを送って、写真の他録音はないかと問い合わせてみた。ところが今度は何日待っても返事はこない。しかし何しろこの季節なので焦らず待つ気でいたらなんと5日目にメールが届いた。重〜い添付ファイルがいっぱい付いてきた!「たぶんあなたが出会ったブラスバンドはうちだろう、資料探すのに時間がかかり遅くなったけど見つかって良かった、あなたのコンサートがうまくいきますように!」と、パレードをしている写真数枚、その中にはちゃんとバトントワラーが写っているのもあった!。さらに'Nanniの楽譜、歌詞カード、そして!・・・、ブラスバンドが演奏している'NanniのMP3ファイルまで付けてくれたのだ!!!。あの若き日にペルージャで聴いたあの曲があの演奏がよみがえった!。インターネットの威力に感謝。親切にもバンドを特定してくださったペルージャ支部の方、そして資料を探し出して送ってくださった団長さんに心からの感謝。うれしくてうるうるになってしまった。そしてますますイタリアが好きになってしまった。

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