今度の「タカマタギ」は、
一緒に連れて行ってあげよう、とリーダーが言った
タカマタギ、
この不思議な名前の山を、私はこの時知った
上越の山で
夏は「藪山」、雪のある時だけ歩けるだそうだ
その頃の私には、
雪山は「猫にマタタビ」だった
少し前に蛾ヶ岳(ひるがたけ)という山梨の雪山を歩き、
雪山の魅力に参っていた
しかし、雪山を一緒に歩いてくれる人がいなかった・・・
知人であるリーダーが、
私が山歩きを始め、夢中になったことを知って誘ってくれた
私は、冬山用登山靴はないし、
12本爪アイゼン、見るも触るも初めてだった
私は、自分が歩けるかどうかの心配より、
連れて行ってくれるものなら何処でも行きたかった
2002.3.17
まさに、「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」 谷川岳への駅、土合の次の土樽に降りた 晴れていたのが嬉しかった 駅を出たら、登山者カード用ボックスがあり、本当の山に来た、という気になった
両脇に雪の積み上げられたアスファルト道を30分く歩くと登山口予定だったが、入り口を見逃し1時間歩いた 私はこのアスファルト道を歩きながら、果たして今日歩けるのだろうかと心配になった 何しろ足が速く、付いて行くのが大変だった
それでも、道の脇で何かを懸命にを摘んでいる人を見て タラの芽なのだろうか、それなら私も摘みたいななどと思っていた(フキノトウだった)この頃、タラの木も知らなかった
最終列車に間に合うように片付けたのだが、登山口に出たら思ったより遅かった
駅に駆け出す人たちがいた 私たちも30分ないと駆け出した
爪先上がりの坂道 十分に疲れた足にアルコール、私は胸が爆発しそうだった
先に行って電車に待って貰うよ、と仲間たちは先を行った
後にも先にも、あれほど夢中になって歩いたことはなかった
駅に飛び込めた時にはホットした まだ列車は姿を見せていなかった
列車の中で、あれだけ歩けるとは見直したよ、と褒められた
トレースを心配したことが可笑しな程、下ってくる人たちに大勢出会った リーダーの「まだ3年前には知られていない山だったが、この頃人気が出たんだ」、という言葉は本当なのだろう
歩き初めて間もなく、下ってくるグループの中に、リーダーの所属する山岳会の人たちがいた 昨夜はテント泊をしたそうだ 私たちは日帰り、テント泊した人が羨ましかった ここの山は一泊するのが一般的なコースと聞いていた 私は、山での泊まりはまだ小屋でさえも経験がなかった 今回、私はピークを踏むこのは無理かもしれないと言われていた
しばらく林の中を歩く、ここはしっかりした道になっていた 林が切れると、トレースはあるものの「足跡」になって来た雪の中に足跡が潜っている 2,30センチだろうか・・ 私は足跡を踏みしめながら歩くことも、時々、ズボッと雪に足を取られることさえ楽しかった
どの位歩いたのだろう・・ もうだめだと思った もう少しでピークだ、ピークの展望は素晴しいんだ、あれを見せてあげたいと励まされ、頑張った
しかし、ピークまでもたなかった あと20,30分でピークだからそこまで行こうという言葉に、私はここで待っていると答えた ピークで待つ素晴しい展望は見たかった、今日ならキレイな山が見えるだろう・・
でも、なんとしてもその時は動きたくなかった 私はここまでで、十分幸福だった 今まで知らない楽しさだった
足跡の数の多いうちはどこかの中に足を入れて歩けたが、だんだん減ってきた キックステップを教わって歩く 雪の斜面が、キックステップを使うと歩ける 初めて自分が出来ることは何でも楽しかった
自分たちの使うトレース以外、何処にも踏み後のない一面の雪原だった 雪に木の落とす長い影がキレイだった 私はあの中にズボッっと自分の人型を付けたいと思った 周りに見える斜面は、一面木の根元が穴になっていて、その面白さに見とれた 穴が出来るのは、木々を流れる樹液暖かさのためと聞くが、春が近いからなのか、積雪が少ないからなのか・・・ 木々は風に吹かれる方向に傾いていた
目は周りの雪景色を喜んでいたが、だんだん急斜面が辛くなって来た これだけの雪の中、キックステップで歩く これは後に歩いた天狗岳でも経験したいない ラッセルとは、どんなに体力がいるのかと考えた
登山口でアイゼンの装着 12本爪アイゼンは本格的だが、木綿のコーディロィズボンを穿いていた私の雰囲気は、山素人だった この後、あちこちの山を歩いたが、いくら服装を整えても私は山素人に見えるらしい
あまり人の入る山ではないのでトレースがあるかと心配したが、前日入った人たちに踏み固められ道になっていた こんな時には、日曜日もいいものだと思う 後に、前日にトレース付けてくれた人のひとりに「おひるねの森」の酒天童子さんがいたことを知る
一緒に待ってくれたリーダーに、幸福いっぱいの写真を撮ってもらう 歩くのが大変で写真が少ない
それまで半袖Tシャツ一枚になって歩いていたのが、休憩の為に座ると急に寒くなった
冷気にさらされる耳が冷たくて、バンダナを被った 私は歩くと暑がりなのに、休むと時は本当に寒がりだ
下ってから鍋にした 林の中での宴会は楽しかった
仲間のどんな経験よりも、その時は今日その日の私が一番幸福だったろう
鍋もアルコールも進み時間の経つこと忘れていた
泊まればピーク踏めたろうなと思うと、今度はテントで行きたかった
私の前日に、「おひるねの森」の酒呑童子さんが歩いています
ピークを踏んだ人だけ見られた、素晴しい写真ががいっぱいです
力量の違う人が歩くと同じ山がこうも違います
やまあるき記・上越で、ぜひご覧下さい
あれこれと山の名を教わったのに、今全く覚えていないのが悲しい