「ゆとり」と「生きる力」と図画工作




始めに

 2002年4月、マスコミや社会から学力低下と批判される中で、新学習指導要領が実施された。合わせて、児童のゆとりを願って、完全学校週5日制が導入された。
 円周率を3でしか教えない、学習が3割削減された―などと根拠のない非難を浴び、現場では文部科学省の意向に反して、土曜日に基礎学力の補習や特別授業を行っているところが現れている。
 教育課程審議会が目指していた、知の総合としての『ゆとりある体験学習』を離れて、再び、有名大学に何人入学させたという詰め込み学力論やドリル学習が復活してきたことに、私は強い危機感を抱いている。
 韓国やインドの行っているような、過去の日本の歪んだ学習競争を取り上げ、学力熱を抱かせようとする一部マスコミの企み。それは、「ゆとり=学力低下」というセンセーショナルなとらえ方で世間を煽り、視聴率を稼ごうとする儲け主義のようにも思える。そのような、自分本位と創造性のなさが、銀行の不祥事、雪印の不正表示などに象徴されるように、日本経済・日本信用を失墜させた原因になっている。真の豊かさを忘れた学力主義―成人式で暴れるような「大人」を生み出した戦後教育を、私たちは自省しなければならないだろう。今、学ぶ意義が問われている。
 文部科学省が、新しい小学校学習指導要領で最初に述べていることは、「児童の人間として調和のとれた育成を目指す」という理念である。しかし、小・中学校の目標を有名大学に入れるための単なる準備期間とする風潮が、児童の学ぶ意欲を妨げ、豊かな人間教育と日本の未来を大きく阻害している。


T.教育課程審議会の示した「生きる力」とは…

 1997年、教育課程審議会は第一次答申においては、21世紀を展望した我が国の教育の在り方について、変化の激しいこれからの社会において[ゆとり]の中で[生きる力]をはぐくむことを重視することを提言した。それを受け、1998年、教育課程審議会は教育課程の改善のポイントを下記のように示した。

○ 教育課程の改善のポイント(平成10年7月29日 教育課程審議会)

<改善の基本的視点>

完全学校週5日制の下で、各学校がゆとりのある教育活動を展開し、子どもたちに「生きる力」をはぐくむ。

1.豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚の育成を重視する。
 他人を思いやる心、豊かな感性、ボランティア精神、正義・公正を重んじる心、社会生活上のルールや基本的モラルなどの倫理観の育成を重視するとともに、我が国の歴史や文化・伝統に対する理解と愛情を深め、異文化の理解と国際協調の精神を培う。
 (これは、他人、社会、ルールやモラル、我が国のこと、世界のことを意識できるゆとりである)

2.多くの知識を一方的に教え込む教育を転換し、子どもたちが自ら学び自ら考える力を育成する。
 知的好奇心・探究心をもって自ら学ぶ意欲を身に付けるとともに、論理的な思考力や判断力、表現力、問題解決能力を育成し、創造性の基礎を培い、社会の変化に主体的に対応し行動できるようにする。
 (これは、自ら学び自ら考え、自ら判断し、表現し、解決することのできるような主体的な対応・創造的な行動のゆとりである)

3.ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実する。
 社会生活を営む上で必要な基礎的・基本的な内容に教育内容を厳選するとともに、厳選された内容については確実な定着を図る。一人一人の個性を生かす教育を充実し、中学校・高等学校で学習の選択幅の拡大を図る。
 (これは、基礎的・基本的な内容を厳選するゆとりと定着を図るゆとり、個性を生かせるゆとりである)

4.各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進める。
 教科の内容を2学年まとめて示したり、創意工夫を生かした時間割編成を可能とするなど教育課程の基準の大綱化・弾力化を図り、各学校が地域や幼児児童生徒の実態に応じ創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開し、特色ある学校づくりを進める。
 (これは、各学校が創意工夫をして、特色ある学校づくりを進めるゆとりである)

<教育内容の改善>
1.教育内容の厳選
 児童生徒にとって高度になりがちな内容などを削減したり、上級学校に移行統合したりなどして、授業時数の縮減以上に教育内容を厳選する。
 ・ 例えば、算数・数学、理科などは、新授業時数のおおむね8割程度の時数で標準的に指導しうる内容に削減。
 〔小学校、中学校において削減される内容の例〕(略)

2.道徳教育
 道徳教育については、幼稚園や小学校低学年では、基本的なしつけや善悪の判断などについて繰り返し指導し徹底を図るとともに、ボランティア体験や自然体験などの体験活動を生かした学習を充実する。

3.国際化への対応
 中学校及び高等学校で外国語を必修とし、話す聞く教育に重点を置く。小学校でも「総合的な学習の時間」などにおいて英会話などを実施できるようにする。
 国際社会に生きる日本人としての自覚を育てるため、国旗及び国歌の指導の充実を図る。

4.情報化への対応
 中学校技術家庭科において「情報基礎」を必修とし、高等学校において教科「情報」を新設し必修とする。

5.体育・健康教育
 生涯にわたって運動に親しみ基礎的体力を高めることを重視するとともに、新たに小学校中学年から保健に関する内容を指導することとし、自らの健康を適切に管理し、心の健康、望ましい食習慣の形成、生活習慣病の予防、薬物乱用防止などの課題に適切に対応できるようにする。

6.各学校の創意工夫ある教育の推進

 i) 各学校が創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開し、国際理解・外国語会話、情報、環境、福祉・健康など横断的・総合的な学習などを実施するため、「総合的な学習の時間」を創設する。
 ii) 国語、音楽、図画工作・美術、家庭、体育などの教科の内容は2学年まとめて示すこととし、各学校は2学年を見通し児童生徒の実態に応じた弾力的指導を行う。

<各学校段階ごとの役割の徹底>
1.幼稚園
 幼稚園では、遊びを中心とした楽しい集団生活の中で、豊かな体験を得させるとともに、幼児期にふさわしい道徳性の指導を充実する。
2.小学校
 小学校では、読・書・算など日常生活に必要な基礎的・基本的内容を繰り返し学習させ習熟させる。

 ここで注目すべき点は、改善の基本的視点で、「完全学校週5日制の下で、各学校がゆとりのある教育活動を展開し、子どもたちに“生きる力”をはぐくむ。」と唱えながらも、「小学校では、読・書・算など日常生活に必要な基礎的・基本的内容を繰り返し学習させ習熟させる。」と述べていることである。ただ、一般に解釈されているように、基礎的・基本的内容を繰り返し学習させ習熟させてから、生きる力をはぐくんだり、「総合的な学習の時間」を実施するのではなく、「3.ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実する。」の記述に見られるように、これらを併行して学習していくことで、生きる力をはぐくみ、豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人を育成すると解釈できる。
 次に、教育課程審議会が参考にした中央教育審議会の第一次答申における「生きる力」とは以下のように記述されている。


U.中央教育審議会の示す[生きる力]とは…

1997/11 教育課程の基準の改善の基本方向について (中間まとめ)より

 中央教育審議会の第一次答申においては、21世紀を展望した我が国の教育の在り方について、変化の激しいこれからの社会において[ゆとり]の中で[生きる力]をはぐくむことを重視することを提言している。この[生きる力]について、同答申は「これからの子どもたちに必要となるのは、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性であると考えた。たくましく生きるための健康や体力が不可欠であることは言うまでもない」と述べている。
 また、同答申は、「[生きる力]は、単に学校だけで育成されるものでなく、学校・家庭・地域社会におけるバランスのとれた教育を通してはぐくまれる」、「家庭や地域社会での生活時間の比重を増やし、子どもたちが主体的に使える自分の時間を増やして[ゆとり]を確保することは、今日、子どもたちにとって極めて重要なことと考える」として、完全学校週5日制の導入を提言している。そして、完全学校週5日制の下で、[ゆとり]のある教育課程を編成し、[生きる力]を育成するためには、教育内容の厳選が是非とも必要であるとしている。

 新しい教育課程が目指しているのは、学校の机や教科書を超えた、現実の社会への体験・対応学習の導入であろう。過去の文化遺産の受身的な詰め込み主義を改善し、週約3時間ではあるが、いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てようとしている。それと、豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力を合わせて、「生きる力」として示している。
 次に、平成10年12月14日告示された小学校学習指導要領では、「児童の人間として調和のとれた育成」「児童に生きる力をはぐくむこと」の2つが目標(目指すこと)として登場してくる。  


V.文部科学省『小学校学習指導要領』の生きる力とは…

○文部省告示第175号
学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第25条の規定に基づき,小学校学習指導要領(平成元年文部省告示第24号)の全部を次のように改正し,平成14年4月1日から施行する。

第1章 総   則
第1 教育課程編成の一般方針
1 各学校においては,法令及びこの章以下に示すところに従い,児童の人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態及び児童の心身の発達段階や特性を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとする。
 学校の教育活動を進めるに当たっては,各学校において,児童に生きる力をはぐくむことを目指し,創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開する中で,自ら学び自ら考える力の育成を図るとともに,基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。



W.生きる力について

  今まで述べてきたように、基礎学力低下が叫ばれているが、「生きる力」とは、基礎を身につけながらも、体験を通して、自ら学ぼうとする姿勢や社会への対応(解決)能力を意図している。それは、まさに今回の教育課程改善の柱とも言えるものである。学校教育においては、各教科、学校行事等は、この生きる力を育む方向で目標の見直しを図っていかなけらばならないだろう。これからは、ただ楽しいだけ・疲れるだけの学習は時間数削減の名目で学校教育において軽減・削減されることが十分予想される。
 『ハリー・ポッターと賢者の石』(Warner Bros)で、ポッターが校長先生に「夢にふけって、生きるのを忘れてはいけない」と咎められていた言葉を思い出す。美術教育においても、「楽しい」「芸術」「アート」「想像」などのキーワードだけでは、児童の「生きる力」として、必要性や役割を理解してもらうのが難しい状況にある。つまり、各学校、各教科、領域がどのような「生きる力」をはぐぐんでいるかを社会に提示することが、これからの学校教育の重要な課題だと言えるかもしれない。

 そこで、「生きる力」と「総合的な学習の時間」のねらいを文部科学省の意向に沿って整理してみた。そこに指導要領−図画工作科の目標をリンクさせることで、教科[図画工作科]の学習が、いかに「生きる力」や「総合的な学習の時間」に重なっているかを理解してもらうことが、この章の趣旨である。

 例えば、図工で6年生が1枚の木を与えられて、「生活に使える作品を作る」という課題を与えられる。その目標は以下の文である。
 (1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
 *実はこの目標は「総合的な学習の時間」のねらい(1)の文章である。 
 次に、図工で3年生が「こんな所で遊んでみたい」という構想画を課題として与えられる。自分で、資料を探す、デズニーランドのパンフレットを持ってくる、インターネットで遊びを検索するなどの活動をする。しかし、情報はヒントにしか過ぎない。その作品には子どもの夢や、自分の置かれている情況、心の様子などが表現されていく。そして、そこにはその子の選んだ生き方が確実に語られている。
 この学習の目標を、以下の文とする。
 (2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て, 自己の生き方を考えることができるようにすること。
 *実は、この目標も「総合的な学習の時間」のねらい(2)の文章である。
 つまり、美術教育の目標は、「総合的な学習の時間」そのものであり、以前からそのねらいを全て含んでいることを示したつもりである。

 図画工作科は、学習したことを表現や製作でまとめる体験学習であり、構想を用具や材料や技術などを総合して創っていく総合学習であり、作りながら環境・デザイン・使いやすさなど、美を追求する行動学習である。即ち、この教科は手先の技術教育や芸術教育だけではない。学習したことを生かし、まとめ、「美に向かう行動」で人間教育を推進している。
―美術教育はすべてを統合して活動している―
 
●私案5つの生きる力の趣旨
  ○文は<改善の基本的視点><中央教育審議会の答申><小学校学習指導要領>より引用
  ◇文は教科<図画工作科の目標>より引用

1.人間的に豊かに生きる力 human nature
 この力は、家庭の愛情・栄養・しつけを基本にして、学ぶための人間の自信と信頼関係を前提としながら、人間として調和のとれた育成を目指す生涯的な生きる力と考える。
 ○自らを律しつつ、他人を思いやる心○豊かな感性○基礎的体力を高める○心の健康○たくましく生きるための健康や体力○個性を生かす教育
 ◇表現及び鑑賞の活動を通して◇つくりだす喜びを味わうようにする◇豊かな情操を養う。◇材料などから豊かな発想をし,手や体全体を十分に働かせ,◇そのよさや美しさなどを感じ取り,感性を高めるとともに,それらを大切にするようにする。

2.社会的に適応して生きる力 ( 社会性を身につける)learn to fit into society
 この力は一人では学習できない。まさに社会のルール、道徳、言語、文化、風習を学ぶカルチャーとしての学習である。
 ○基本的なモラル○ボランティア精神○正義・公平を重んじる心○社会生活のルール○社会生活を営む上で必要な基礎的・基本的な内容◇造形的な能力を働かせるとともに,◇自分たちの作品や身近にある作品,材料のよさや美しさなどに関心をもって見る

3.国際的に協調して生きる力 international mind (協調の精神) a spirit of cooperation
 これは、グローバルな国際社会に対応する生きる力であり、訓練と体験が必要な学習である。過去の知識や書籍などはあまり有効ではない。むしろ、生きた経験を聞くことが大切な学習方法になるであろう。
 ○日本人としての自覚の育成○我が国の歴史や文化・伝統に対する理解と愛情○異文化の理解と国際協調の精神○個性を生かす教育
 ◇見ることに関心をもち,その楽しさを味わうようにする。◇様々な表し方や見方に触れ,◇美しさなどに関心をもって見るとともに,それらに対する感覚などを高めるようにする。

4.自ら考え、自ら学んで生きる力 〔自立的〕independent;〔自発的〕voluntary, 〔自主的に〕independently; voluntarily
(自主独立の精神がある) have an independent spirit
 これは、「総合的な学習の時間」の大きなねらいである。ある意味では、2.の生き方を価値的に超えて生きる力である。間違った社会の規範やルールに疑問を持ち、伝統を乗り越えたりすることも予想できる。また、3.の生きる力である国際的な「イエスマン」から、自ら考え、他国と衝突を引き起こすことも予想される力である。つまり、自分勝手ではなく、総合的に考え、歴史を理解しながらも前向きに考えて、学んで、判断していくする力である。この力は2.と3.の生きる力を改良・修正しながら、5.の社会の変化に対応して、変革する力に導くものである。
 ○知的好奇心・探究心をもって自ら学ぶ意欲○ゆとりのある教育活動○基礎・基本の確実な定着○中学校・高等学校で学習の選択幅の拡大○創意工夫を生かした特色ある教育活動
 ◇自らつくりだす喜びを味わい,◇自分の表現方法でつくりだす喜びを味わうようにする。◇進んで表現する態度を育てるようにする。

5.社会の変化に主体的に対応して生きる力(時勢に対応する)keep up with the trend of the times
(これが我々の当面する課題だ)This is the problem which now confronts us.
(円満(平和的)解決を望んでいる)We are hoping for an amicable (a peaceful) solution.
(解決する)settle; solve; work out a solution

 ○論理的な思考力や判断力、表現力、問題解決能力○よりよく問題を解決する資質や能力○創造性◇創造活動の基礎的な能力◇豊かな発想をするなどして,体全体の感覚や技能などを働かせるようにする。◇表し方 を工夫し,つくりだす能力,デザインの能力,創造的な工作の能力を伸ばすようにする。◇想像力を働かせて主題の表し方を構想するとともに,美しさなどを考え,創造表現の能力,デザインや創造的な工作の能力を高めるようにする。

 この力が、今回の改訂でねらっている最も大きな目標であると認識している。人間が計算ドリルや漢字ドリルをくり返しても、それらが「考える葦」ばかりでは地球は救えない。また、その高?学力を横領、汚職に使う高級官僚が後を絶たない。
 現代は、一瞬にして地球が滅びる時代である。そのためには、総合的に全体の美(デザイン)を考え、美(善)に向かう審美的な行動力が人類・地球を救う唯一の方法である。
 必要なことは、読み書き能力だけではない。よい(美しい)心である。よく生きようとする気持ちが基礎である。学校で学んだ基礎学力を、社会でどのように活かせるかが問われている。心と学んできた知を総合する、その貴重な体験学習が―社会の変化に対応する行動力が―今、最も教育に求められているのである。


X.ゆとりについて考える

 「受験勉強にゆとりなどない」。これは、言葉としては正しいのかもしれない。そのために、多くの親がゆとり教育に反対している。しかし、勉強の目標と方法を考えると誤っている。受験のための学びではない。よりよく生きるための学びである。教育課程審議会の改善のポイントは、「知識を一方的に教え込む教育を転換し、子どもたちが自ら学び自ら考える力を育成する」ことである。
 子どもを覚え込むだけのロボットA.I.[ARTIFICIAL INTRLLIGENCE]にしてはならない。直訳すると『人工知能』というこの映画は、そのことを訴えているように思える。
 主人公のDAVID(ディビット)に対して、ロボット制作者は話しかける―「君以前のロボットは夢を持たず、自分から何も望まなかった。方法も君が考えた、“夢を追う能力”を君は持つ。こんな意思を持つ機械は存在しなかった、君は新種の第1号だ、DAVID(ディビット)」。つまり、ゆとりの中で生きる力をはぐくむ教育とは、単純な覚える知能ではなく、新種の人間を目指しているのである。
 そして、DAVID(ディビット)は懇願している。「どうか、僕を本当の人間の子どもにして下さい。ママに愛され、ママと暮らしたい」。ここでも、この映画(Warner Bros and DreamWorks LLC.)は訴えている。現代の家庭・学校教育が忘れていることを、スピルバーク監督は世間に警告している。
 「ゆとりがあると遊んでしまう」。これも現実問題として、半分正しい。しかし、夢を追う遊びの中にも貴重な体験があり、多くの創造的な発明・発見・新説がそんな主体的な時間(ゆとり)の中で生まれてきたことも事実である。
 科学が分析して、哲学は総合するという言葉がある。学んできたことを自ら振り返る、組み合わす、懐疑するような試す時間(ゆとり)が、今までの学習課程では少なかったと感じている。

●学校にほしい7つの「ゆとり」
ゆとりは、もちろん無数にあるが、文部科学省の示すゆとりを書き出してみる。
1.学習したことを、まとめる、試す機会(ゆとり)―表現・体験的な学習・課題解決学習
2.社会や、地球のことを考える余裕(ゆとり)―環境・平和・福祉学習
3.家庭や地域で主体的に使う時間(ゆとり)―完全学校週5日制
4.新しい道具(コンピュータ)、情報に触れる場面(ゆとり)―情報教育
5.外国に触れるチャンス(ゆとり)―国際理解学習
6.本物を味わう学習(ゆとり)―自然体験・社会体験・博物館、美術館学習
7.自分で学習したいことを探究する時間(ゆとり)―児童の興味・関心等に基づく学習
8.学校独自の教育活動としての創意工夫(ゆとり)―特色ある学校づくり



Y.学校で「総合的な学習の時間」を取り入れるために

 ゆとり教育に賛成する立場で論を進めてきたが、言うまでもなく教育公務員には学習指導要領を遂行する義務がある。私的に、ゆとりや「総合的な学習の時間」に意義を唱えても、教師はそれを実施しなければならない。一方、ゆとり教育に賛同する人の中には、「基礎的・基本的な内容の確実な定着を図る」ことに意義を唱えている人はいない。両方が有機的に結びつくことで、社会に対応できる生きる力が育まれていく。つまり、新学習指導要領の基礎的・基本的な内容の確実な定着だけを強調して進めようとしている人は、偏った教師と言わざる得ない。
 そこで、実際に「総合的な学習の時間」を創るために、指導要領の内容を、7つのねらい[S]、7つの課題[K]、22の学習活動[G]にまとめてみた。参考にして頂ければ幸いである。

第3 総合的な学習の時間の取扱い(文部科学省より)
1 総合的な学習の時間においては,各学校は,地域や学校,児童の実態等に応じて,
横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする。
2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1)[S1]自ら課題を見付け,[S2]自ら学び,自ら考え,[S3]主体的に判断し,[S4]よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。 
(2)[S5]学び方やものの考え方を身に付け,[S6]問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て, [S7]自己の生き方を考えることができるようにすること。

3 各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例えば[K1]国際理解,[K2]情報,[K3]環境,[K4]福祉・健康などの[K5]横断的・総合的な課題,[K6]児童の興味・ 関心に基づく課題,[K7]地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
4 各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めるものとする。
5 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1)[G1]自然体験や[G2]ボランティア活動などの社会体験,[G3]観察・実験, [G4]見学や調査,[G5]発表や討論,[G6]ものづくりや生産活動など [G7]体験的な学習,[G8]問題解決的な学習を積極的に取り入れること。
(2)[G9]グループ学習や[G10]異年齢集団による学習などの多様な学習形態,[G11]地域の人々の協力も得つつ[G12]全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制,[G13]地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること。
(3)国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは,学校の実態等に応じ,[G14]児童が外国語に触れたり,[G15]外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。
第5 指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項(一部略)
(8)各教科等の指導に当たっては,児童が[G16]コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,適切に活用する学習活動を充実するとともに,[G17]視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
(9)[G18]学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り,児童の主体的,意欲的な学習活動や読書活動を充実すること。
(10)[G19]児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにすること。
(11)開かれた学校づくりを進めるため,地域や学校の実態等に応じ,[G20]家庭や地域の人々の協力を得るなど家庭や地域社会との連携を深めること。また,[G21]小学校間や幼稚園,中学校,盲学校,聾学校及び養護学校などとの間の連携や交流を図るとともに,[G22]障害のある幼児児童生徒や高齢者などとの交流の機会を設けること。


終わりに

文部科学省の「生きる力」に賛同して、私なりに解釈しながらも、教科図工の大切さを述べたつもりです。この長文を最後までお読みいただいた皆様に、深く感謝申し上げます。 2002/07/14  Written by Makio Kawashima



たけしのTVタックルアンケート
(一部略)

Q1 教師になってどれくらい経ちますか?
 秘密

Q2 教師になったきっかけは何ですか?良かった点・悪かった点はどこですか?
 秘密

Q3 4月から施行されているゆとり教育。何か変化を感じられましたか?
 学校5日制のねらいは、子どもに家庭での活動体験を多く確保させようとしたものだと解釈している。ゆとりを持って郊外などに出かける家族、塾や習い事に行かせる家庭など、様々な取り組みが見られているが、多くの子ども達は喜んでいる。しかし、2日間の比較的自由な活動の後、月曜日から始まる教室での学習に落ち着いて取り組めるかどうかは心配である。

Q4 あなたは現在、施行されているゆとり教育に賛成ですか?反対ですか?
   (理由もお答え下さい)
 
   賛成・反対  賛成です。
   (理由)
 ゆとりとは、いろいろな体験をしてゆっくりすることだけではなく、自分から興味を持って行う学習、習ったことを生かす学習、社会に対応する学習を増やしていくことだと認識している。それが、「総合的な学習の時間」創設の理由になっている。今まで、受験のために行ってきた受動的な詰め込み教育が、外務省などに見られるようなゆがんだ日本エリートを生み出してきたことを、深く自省していかなければならないだろう。
 ゆとり教育とは、知的な(主に記憶)の能力優先ではなく、人間的なトータルな学習(体験)をさせることで、これからの社会に生きる力を身につけさせようとしている。

Q5 ゆとり教育が始まってから、あなた自身が取り組んでいることがあれば、お答え下さい。
●地球環境など、自分たちの周りに関心を持たせるような環境学習に取り組んでいる。
 http://www006.upp.so-net.ne.jp/artcommunal/Environment.htm
●情報時代を迎え、コンピュータを活用した情報の収集や、新しい表現の制作に取り組んでいる。
 http://www006.upp.so-net.ne.jp/artcommunal/Integrated.htm
●日本を支えてきた職人の世界に気づかせ、それを伝承させようとする体験的な活動にとりくんでいる。
 http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/wagashi.htm
●後退してきた日本のものつくり産業を、デザイン、コンセプトから応援しようとする企業体験学習。
 http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/automobile.htm

Q6 ゆとり教育が始まることにより、教育は変わっていくと思いますか?
  変わっていくと思う。ゆとりとは、ゆっくりすることではなく、じぶんらしい生き方、美しい生き方をさがすことだと思う。


*アンケート回答の後、ゆとり賛成者1番として番組に出演した。賛成4人、反対5人での構成であった。
途中で意見を何度も妨げられ、放送でカットされ、思ったことの半分も語れなかったと後悔。
番組レギラー陣や制作者は、文部科学省のねらいなど全く読んでいないで批判していたことに不満を感じた。
でも、その日出演した教師、塾の先生方と私たちの貴重な体験学習を祝い、ビールで打ち上げ。再会を誓った。
*テレビ放映は2002年7月22日の予定。 あまり見ないで欲しい。

BACK美術と総合の実践事例

直線上に配置

ゆとりと生きる力

フレーム
 よいクルマをつくろう
江戸川区立宇喜田小学校で平成12年度に実施された「総合的な学習の時間」の実践記録です。