デジタルでつながる造形・美術教育   

  
 東京都江戸川区立宇喜田小学校 川島

 
1 はじめに

 私が学習パソコンと出会ったのは、葛飾区への学校導入の時期であった。テレビ機能も付いたNECの98キャンビーは、魔法の道具として目に映った。
 その頃は、図工の授業時数が削減され、各教科等でこのようにパソコンが活用されるとは予測していなかった。ただ、表現として、今までの道具をマウスに変えた時の子どもの喜びや変容に造形の可能性を感じながら、実践に夢中になっていた。
 平成8年、1月に導入されたパソコンで、6年生は卒業制作を行い、さらに在校生にカレンダーを卒業記念品として贈ることになった。
 原始美術の洞窟壁画は、狩猟のやり方(情報)を伝えていた。情報化に対応する美術教育とは、心や作品をデジタル化することではない。すべての情報(自然・心・通信技術)をデザインしていく行為だと考えている。ビジュアル教科として、ITとのつながりを無視して、造形・美術教育の未来を語ることはできない。

 
2 図画工作科のホームページ 

 平成9年の「教育課程の基準の改善の基本方向について (中間まとめ)ー教科等の構成及び授業時数等(案)」において、授業数の削減が示された。その年の1月にサイト「小学校図画工作科」を作成して、児童作品と共に、美術教育の大切さとその意義について発信を始めた。当初は、学校サイトにする予定で学校長や教育委員会に相談したが、公式としては許可されなかった。葛飾区の学校ホームページ第1号として、非公認の発信になった。 
 コンテンツ(内容)としては、総合的な学習の時間のねらい「@自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。A学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。」に対して、この教科の目標であり、すでに体験として学習していることを訴えようとした。
 総合的な学習が創設された時期、多くの造形美術団体では総合的な学習や情報教育に無関心を装い、テーマや分科会においても軽視を続けていた。そこでは、アナログ性を前面に推し出し「図工大好き・原初的体験・輝き・ふれあい」などの、ファジーで文学的なコピーで社会の理解を求めようとしていた。しかし、効果は上がらなず、さらに造形・美術教育は狭い学力主義に追い打ちをかけられようとしている。


3 レッスンプランの発信
 
 削減された時間数の回復と創造的な活動の創出のために、「美術と総合の実践事例」をネットで公開することにした。同時に、外国の美術教育サイトとの交流を果たすために、英訳を始めた。何度か英語メールを送ることで、いくつかのサイトと相互リンクすることができたのは喜びであった。
 
 私の好きな実践は、日本の伝統技術を意識した「創作和菓子をつくろう」と、日本のものづくり応援サイト「よいクルマを創ろう」である。 
 活動途中で、使用サイトからリンクや励ましのメールをいただき、学習の社会的な広がりを意識することができた。児童はデジタルカメラを活用したり、画像の処理、お絵かきなどのデジタル表現を体験した。また、それらの成果をインターネットで発信し、アートレッスンプランとしてリンクしてもらったことで活動の励みになった。国立教育政策研究所サイトからは、「美術と総合」の授業例として、総合的な学習の実践校に追加していただいた。

 「芸術は自己表現の1つの形式であるが、地球保護の1つの形式でもあるのだ」。
環境を課題にした総合的な学習も実践の大きなテーマになった。環境新聞、落ち葉の詩、俳画などの活動を行ってきたことが、 「環境goo大賞」での特別賞の受賞につながった。
『環境を考える美術教育』http://www006.upp.so-net.ne.jp/artcommunal/Environment.htm
 
 写生題材は少なくなったが、デジタル(数値)では表されない自然からの貴重な情報を人間的に感じ、表現することは、これからもこの教科の大切な使命だと感じている。
『宇喜田小学校全校写生会サイト』http://www5f.biglobe.ne.jp/~eLearning/index.html





4 Web展覧会の発信


 平成10年、勤務する中青戸小学校では、開校40周年を迎えた。記念行事開催で体育館には作品展示できないため、教室とインターネットで発表することにした。Web40周年展覧会として、記念行事やクラブ、家庭科作品を含め、約150点の作品を英訳付きで発信した。
 学力テストの結果だけではなく、児童作品のweb発表は児童の表現力、確かな学力を示していくための有効な方法になると期待している。異動した学校に於いても、Webの展覧会を実施することができた。平成16年度では、BGMとして展覧会の雰囲気を盛り上げるデジタル音楽も挿入した。
『平成16年度 宇喜田小学校展覧会Student Art Exhibition at Ukita Elementary School 2004』  
 現在、宇喜田小学校では「つながりをつくるミュージアムづくり」として、世界の学校美術館を紹介するサイトを作成して参加を呼びかけている。
 
 
 

 
5 学校ホームページの発信

 平成13年、江戸川区に異動してからすぐ、区内での全校HP作成の要請が教育委員会から出され、情報主任として、初めて公認サイトの作成を任された。同じように数人の図工専科教諭が学校HPの作成に関わっていた。図工部会では、web学校美術館の開設を呼びかけ、区内で多くの美術館がその年に開設された。本校では、図画工作科、家庭科、書写、情報科の4つの部屋でで学校web美術館を開設している。
  国際美術教育学会(INSEA)からは開設メールの後で、相互リンクの返事をいただいた。外国サイトとの国際交流は、HP立ち上げ時からの夢であった。
 造形美術では視覚的に交流ができるのが大きな強みである。しかし、作品の発表をサイトで行うには、デジタル撮影、画像の処理、展示HPの作成、承諾書の配布・回収と多くの段階があり、その苦労が私の課題になっている。
 なお、 児童作品、学習活動のお陰で、第1回全日本小学校ホームページ大賞(J-KIDS大賞)東京都優秀校に選ばれた。
 情報化時代に対応して、学校のHPでは、特色ある活動、学力偏差値、児童作品などを発信していくことになるだろう。よいHPでは、コンテンツ(内容)・スキル(技術)・デザイン(見やすさ)の3要素が必要になると考えている。
 つまり、パソコンがアイコン(絵記号)の活用でで急激に普及し始めたように、造形・美術はネット社会では大きな役割(デザイン力)を果たしていくだろう。例えば、プレゼン発表とは、ビジュアルに相手に訴える表現力なのである。
 そのような、スライドデザイン・Webデザインなどの領域的な広がりだけでなく、造形・美術教育の情報実践力としては、洪水のように押し寄せる情報を選択し、整理して、構成して発信する『情報デザイン』の視点が今後、大きくクローズアップされていくだろう。
 デジタルで作品をつくる、つくらないについては、まだこの教科では、選択の余地がある。それはアート教科の懐の広さであり、指導者の判断が許されているからである。しかし、大きく美術を捉えると、情報の種類・解釈・発信で多くの表現様式が生まれてきた歴史は無視できない。表現主義とは、自分の心の情報を第一に発信してきた派とも解釈できる。
 結局、情報とは個性・創造性の育成と大きく関わっていく。言い換えれば、これからの時代に創造的に生きていく人は、「情報活用力」のある人であり、単にパソコンの出来る人のことではない。ただ、多くの情報がインターネットから受容でき、多くの表現がコンピュータから生まれようとしている。授業者はハードだが、個人の嗜好を超えて、造形・美術教科で何ができるかを児童と共に探っていくことも、創造的な教科の使命だと感じている。
 

6 美術のeラーニング
 
 校内LANのが環境が整い、本校(篠崎小学校)では美術のeラーニングを模索しながら作成した。いつでも、どこでも学べるweb学習として、造形・美術教育を進める一つの方向になるかもしれないと期待している。現在62題材をインターネットで発信しているので、小学校から大学、さらには生涯学習として利用していただき、感想を送ってもらいたいと願っている。

7 おわりに
 
 デジタル化する「テクノロジー」だけでは地球を救えない。創造性と魂の「アート」が地球を蘇らせ、「ハート」との交流が人間を健全にしていくのであろう。やはり、アナログである人間の五感を失ったら、人類は滅亡である。それが映画『アイ、ロボット』(20世紀フォックス)のテーマだと感じている。
 現実的には、個人サイト運営には費用がかかっている。そのため発信は期間限定である。今後は、造形・美術サイトのアーカイブス化が課題になっていくと希望を込めて予想している。

*この文章は、教育美術2005年5月号〈財団法人教育美術振興会〉に掲載されたものを一部編集したものです。4/1/2009

図工・美術科と総合的な学習の時間