凡例:〔 〕内は引用者註
やぶれっ!住基ネット市民行動
代表 〔名前省略〕〔註1〕 殿
2010年6月2日付でいただきました「住基ネット「選択性〔註3〕」検討についての質問書」につきまして、下記のとおり回答いたします。
記
住民基本台帳ネットワークシステムは地方公共団体が連携して主体的に構築・運営されているシステムです。また、住民票の写しの添付や年金の現況届が省略されことにより住民の利便に資するものです。
「番号に関する原口5原則」を踏まえ、社会保障・税に関わる番号制度についての検討を受けて、住民基本台帳ネットワークシステムのあり方を検討してまいります。
社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会等において、今後議論していくこととされています。
住民基本台帳法第30条の5第1項及び第2項に基づき、市町村長は、全住民の氏名・住所等の本人確認情報を住民基本台帳ネットワークシステムを通じて都道府県知事に送信する義務があります。なお、住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為が、住民の権利ないし自由を侵害するものでないことは、平成20年3月の最高裁判決〔註4〕においても、確認されているところです。
「自己情報コントロールの原則」は、自らの情報が不正に利用・ストックされることなく、また、合理的な方法で、かつ、わかりやすい形で、自らの情報に自由にアクセス(フリーアクセス)し、内容の確認・修正ができることを指すものです。
「プライバシー保護の原則」は、番号の利用される範囲が明確で、利用可能とされた範囲を超えて分野をまたがる名寄せが行われることを防ぐことを指すものです。番号の利用される範囲については、社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会等において、今後議論していくこととされています。
住民基本台帳ネットワークシステムは、全住民(国立市及び矢祭町の住民を除く。)の氏名・住所等の情報を把握している唯一のインフラとして国の行政機関等に対し約1億1千万件(平成20年度)の情報を提供するなど、現在も有効にその活用が行われております。
社会保障・税に関わる番号制度における住基ネットの活用については、社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会等において、今後議論していくこととされています。
住民基本台帳ネットワークシステムは、平成14年の稼働開始以来8年間、地方公共団体のご協力を頂きながら〔註6〕、安定的に運用されてきております。
社会保障・税に関わる番号制度の設計においては、国・地方協力の原則を踏まえ、地方自治体と連携・協力しつつ検討が行われるべきものと考えております。
「やぶれっ!住基ネット市民行動」は代表を置かない集まりです。質問書に対する回答を求める都合上、連絡先として便宜的に「代表」を記したものです。
国や地方公共団体などの行政主体の意思を決定し外部に表示する権限を有する行政機関を行政庁と言います。総務省においては、総務省の長である総務大臣(総務省設置法第5条)がこの行政庁にあたります。行政庁たる総務大臣から権限の委任を受けた局長、部長、課長らも、それぞれ委任を受けた範囲内で意思決定・外部表示の権限を有すると考えられます。
回答の発信者である「総務省自治行政局住民制度課」は、住民基本台帳制度に関する事務を所掌する総務省の内部部局に過ぎず、総務省(国)の意思決定・外部表示の権限を有しません。したがって、この回答には総務省(国)の意思決定やその外部表示としての法令上の効果は認められませんので、その点について留意が必要です。
原文のまま。
一般的には「選択制」の誤りと思われますが、総務省のサイトでは、2010年1月15日の「原口総務大臣閣議後記者会見の概要」や、古くは2002年9月3日の「第1回住民基本台帳ネットワークシステム調査委員会会議録」にも「選択制」を「選択性」と書き表す用例が散見されます。総務省においては、この用法が「誤用」ではなく、「常用」化しているのかもしれません。
総務省の回答が引用したのは、最高裁判決(2008年3月6日、最高裁判所第一小法廷)の次の判示です。
行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理,利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。
この判示には、その前提条件として次の二点が明示されていますが、総務省の回答はそれらに言及していません。
- データマッチングは本人確認情報の目的外利用に当たり,それ自体が懲戒処分の対象となるほか,データマッチングを行う目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書等を収集する行為は刑罰の対象となり,さらに,秘密に属する個人情報を保有する行政機関の職員等が,正当な理由なくこれを他の行政機関等に提供してデータマッチングを可能にするような行為も刑罰をもって禁止されていること
- 現行法上,本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しないこと
最高裁判決後、住基ネット本人確認情報利用事務の件数のほとんどを占める年金事務を中心に、介護・医療・健康の個人情報を一元的に管理し相互利用する「社会保障番号・社会保障カード」が実施に向けて準備されており、社会保障番号として住民票コードが使用される虞れがあります。
さらに、利用目的を特定しないまま「社会保障・税に関わる番号制度(共通番号制度)」の導入が検討されており、ここでも共通番号として住民票コードが使用される虞れがあります。
こうした動きは、まさに最高裁判決の前提条件を覆すものであり、最高裁判所の判断そのものが見直されなければなりません。
当サイトに掲載した次のパンフレットとウェブページを併せてご覧ください。
原文ではこの段落だけ、ほかより大きなフォントで表記されていますが、どのような意図があるのかは不明です。
ご丁寧にも開陳していただいた「自己情報コントロールの原則」の定義を強調したかったのでしょうか。ほかの文書ファイルからテキストをコピーして貼り付けた際、フォントの大きさを調整しなかったのでしょうか。
地方公共団体(都道府県と市区町村)の協力を得ながら住基ネットを運用してきたと言う主体が、総務省を指すのか、指定情報処理機関(住基ネット全国センター)を指すのか判然としませんが、いずれにしても地方公共団体を「運用主体に協力する立場」におとしめるものです。地方公共団体が「自治事務である住民基本台帳事務の執行について主体的に判断する立場」にあることなどすっかり忘れ去ってしまったかのようです。
(質問事項1)に対する回答で「住民基本台帳ネットワークシステムは地方公共団体が連携して主体的に構築・運営されているシステムです。」と答えているのとは対照的です。