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変質する原口総務大臣の発言

2009年12月25日、毎日新聞は「住基ネット:選択制に…総務相が法改正検討の意向」と報じました。

原口一博総務相は24日、毎日新聞のインタビューに応じ、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)へ登録するか否かを住民が自由に選べるよう、住民基本台帳法の改正を検討する意向を明らかにした。

【2009年12月25日付け毎日新聞「住基ネット:選択制に…総務相が法改正検討の意向」】

2010年2月23日の総務省政務三役会議に原口総務大臣が提案した「5原則(番号に関する原口5原則)」が、最近、総務省のサイトに公開されて、その後の総務大臣の検討の方向が、だんだん見えてきました。

「選択制」とはほど遠くへと変質していく過程を、原口総務大臣の発言から整理してみました。

1.「選択制」を明言

2009年12月24日の毎日新聞のインタビューでは、原口総務大臣は「選択制」の必要を明言していました。

−− 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)についてはどう考えますか。
 住基ネット(の住民票コード)は、中央政府が国民を管理するために必要な番号。だから反発が出た。番号は人から付けられるものでも、強制されるものでもない。出入り自由が大事だ。(自民党)前政権が作った住基ネットが私の考え方とずれているのは明らかで、自らの利便性の面から、自らが権利行使する番号に変えていくのが一つの解決方法だ。(住民基本台帳法の)法改正も含めた議論が必要と思っている。
−− 住基ネットに入りたいと思う人は入り、入りたくない人は入らないという選択肢を設ける?
 そうだ。入らなければいろんなサービスから漏れることは我慢しますね、ということになる。
【2009年12月25日付け毎日新聞「聞きたい:原口総務相」】

2.「選択制」導入の検討を開始

その後、河村たかし名古屋市長が住基ネット離脱を検討しているとの報道があり、総務大臣が「選択制」検討との関係も報じられました。

ここへ来て原口一博総務相が住基ネットに接続するか否かを市民本人が決める「選択制」導入の検討を始めたとの情報もあり、河村市長はひとまず維持費を計上し、結論を先送りにする可能性もある。

【2010年1月1日付け中日新聞「住基ネット離脱結論を先送りか 効果検証の名古屋市」】

3.住基ネットに代わる新たな番号制度

2010年1月19日に河村市長が原口総務大臣と面会して、国に制度廃止を求めた上で、離脱を含めて考えていくと伝えた際には、次のような対応が報じられました。

一方、原口氏は1年後をめどに住基ネットに代わる新たな番号制度の「下絵作りをしたい」とするが、具体案は不透明。名古屋市が離脱した場合の対応についても「よく相談したい。事務的に詰めたい」と述べるにとどまり、歯切れが悪い。

【2010年1月19日付け共同通信「原口総務相、離脱方針に対応苦慮 名古屋市の住基ネット」】

4.住民票コードを納税者番号に使うことを否定

これに先立つ2010年1月15日の閣議後記者会見で原口総務大臣は、住民票コードを納税者番号に使うことを明確に否定していました。

住民票コード

問: 納税者番号制度についての議論が出てきましたけれども、大臣は住民票コードをその場合に当てるという考えについて、どのようにお考えかという点を伺いたい。
答: そんな考えあるのですか。
問: 納税者番号に基礎年金番号、または住民票コードを当てるという考え方は、前政権の中でも出てきておりました。改めて大臣はそういう考え方について。
答: 私はその前政権の考え方を聞いていないので。私は住民票コードを納税者番号に当てるという考え方について検討したこともないし、今考えてもいません。
問: もう1点、住基ネットの選択性について言及されたことがあると思うのですが、法改正を含めて、そうした議論について今後どのようにお考えか教えてください。
答: 選択性というよりか、今まで私たち民主党で言ってきた、人に番号を付けるなということ、それから、ほかのものに利用するなと。今おっしゃったような約束したものと別のことに使ってはならない、そういう議論を踏まえた上で、住基ネットについてのしっかりとした検討を進めていきたい。あるいは納税者番号制について、これはマニフェストで申し上げていますから、納税者番号制度について、どのような形があるのか、この間もここでお話をしましたけれども、むしろ、一人一人の国民の情報を、自らの情報をコントロールする、そのための番号という別の考え方から出てきていますので、そういうことを踏まえて議論したいと思います。
【総務省 2010年1月15日「原口総務大臣閣議後記者会見の概要」】

5.「自らの情報をコントロールする権利のための番号」に衣替え

2010年1月19日、閣議後記者会見の後の総務省政務三役会議で、原口総務大臣は、住基ネットを「自らの情報をコントロールする権利のための番号」に衣替えして活用していく方向を述べています。

住基ネット(1)

問: 大臣すみません。先ほどの河村市長との住基ネットの関係なのですが、大臣の御認識としては、住基ネットの接続、河村市長は接続の切断するということもおっしゃっていますけれども、接続の切断はやはり違法という認識なのか。それで、もし違法という認識であればですね、切断というのは認められないのか。そして、その認められないということがあれば、福島県の矢祭町とか、国立市には是正要求とかをされましたけれども、そういう切断という場合になった場合には、その是正要求等をやって接続するように求めていく形になるのか、それをお願いします。
答: ありがとうございます。それはですね、私たちはこの住基ネットの廃止法案を4回にわたって出してきた、その政権ですね。今日もお話をしたように、その立場から事務方に指示を命じているので。ただ、今日、河村市長に申し上げましたのは、今、年金の記録の、消えた年金の記録を回復するために、1億数千万件の内の、1億3,000万件だったと思いますけれども、その中の1年間に住基を使う、約7,000から8,000が年金なのですね。で、そのことの作業が滞らないか、あるいは市民や国民に実際に、もうオペレーション動いていますから、その中でどのようにすればいいかということを名古屋市とも話を詰めていきたいと思っています。

住基ネット(2)

問: 先ほどの住基ネットの件で、もう少し質問をしたいのですけれども、名古屋市が、例えば大きな都市なので、例えば切断ということになると、ほかの自治体でも追随するような動きが出てくる可能性があるのですが、その場合原口大臣としては、やはり一つずつ対処していくということでよろしいのでしょうか。
答: そうですね。直接切断というふうには、今日は市長はおっしゃらなかったわけです。つまり、新たなこの仕組みに向けたいろいろな議論を進めていこうということをおっしゃっているわけで、今ある法律というのは、私たちも、その法律に当時反対したからといって、成立している法律は守らなければいけないわけです。その前提の中で、仕事を進めていきたい。これが私の答えです。

住基ネット(4)

問: 大臣、すみません。先ほどの住基ネットの件ですけれども、将来的な住基ネットの改正は別としてですね、現行のままでは、仮に選択肢として、河村市長は切断というふうに言っていますけれども、それは認めないということでよろしいんですよね。
答: そこはよく市長と相談したいと思います。だから、私たちはずっとこの法律を、さっき質問にも答えましたよね。今までの法律を反対してきた立場なのですね。これでいいのかと。彼と一緒に戦ってきた。新たな制度に向かうまでにどうするのかというのを、総務省顧問ですから、よく話を事務的にも詰めていきたいと思います。
【総務省 2010年1月19日「原口総務大臣閣議後記者会見の概要」】

それから住基ネット。これを私たちは新たな、これも指示をいたしますが、新たな国民が自らの情報をセキュリティも含めた自らの情報をコントロールする権利のための番号としてやっていきたいと。

税調で昨日も議論しましたけれども納税者番号も含めた議論を1年程度の期間で、一つの方向から菅財務大臣とも相談しながらまとめていきたいと思います。消費税は、この納税者番号というものの話が無くてですね、消費税の議論に入れるわけないし、....

【総務省 2010年1月19日「総務省 政務三役会議 議事概要」】

原口一博総務相は19日の総務省政務三役会議で、名古屋市の河村たかし市長の住基ネット離脱方針を受け、「国民が、セキュリティーも含め自らの情報をコントロールする権利のための番号という形でやっていきたい」と述べ、来年の通常国会への法案提出も視野に、住基ネットを衣替えした新たな仕組みを検討する考えを表明した。

ただ、原口氏は「住基ネットは年金照合に使われている部分が多いので、急にやめるわけにはいかない」とも指摘。その上で、政府税調で検討される納税者番号制度も含めた議論をし、3月までに一定の方向を出すと語った。

新たな仕組みのイメージとしては、IDとパスワードを入れると自分の情報を取り出せる▽認証を受ければ様々なサービスを受けられる▽行政処理の飛躍的な効率化を図れる――などを挙げた。ソフトウエアやデータをインターネット経由で使う「クラウド・コンピューティング」の活用にも言及した。

【2010年1月20日付け朝日新聞「住基ネット、新たな仕組み検討 原口総務相が表明」】

6.「番号に関する原口5原則」を提示

2010年2月23日の閣議後記者会見で原口総務大臣は、「オーストリア」方式の共通番号制度をモデルにすると述べています。その後に開かれた政務三役会議では、小川淳也政務官がまとめた「番号に関する原口5原則」について原口総務大臣が説明しています。

3番目は、今日も少し報道に出ていますけれども、国民IDの考え方についてであります。私たちは住基ネット、いわゆる管理のための番号ということについては非常に慎重な姿勢をとってきました。オーストリアが入れているように自らの情報のセキュリティ権、こういったものを中心とする考え方、番号についての考え方、今日政務三役会議の中で私の方から、私の素案、五つの原口素案、基本的な考え方、ドクトリンというものを提示して、そして政務三役会議の中でオープンで議論をして、菅副総理をトップにしている新しい国民の権利を保障する番号のあり方の検討会議において詰めてまいりたいと考えています。

【2010年2月23日付け「原口総務大臣閣議後記者会見の概要」】
○原口大臣
それから二点目、小川政務官が来ていただいてからと思っていましたが、番号に関する原口5原則ということで皆さんにお示しをしたいというふうに考えています。これは後で御報告をいたしますけど、この間からも、お話をしていたように、単なる管理のための番号でない。逆に言うと、一人一人の情報セキュリティ権を考えた原則でございます。....
○渡辺副大臣
それでは協議事項ですが、今も言及されました番号に関する大臣の五原則につきまして。
○原口大臣
これは小川政務官、皆様に投げかけてお願いをしたもので本来なら小川政務官からいただくところですが、理事懇(に出席している最中)ということで私の方から。原則、五つございます。
一つは先程申し上げました、国民の権利を守るための番号であると。今、ICT化が急速に広がると、自分の情報をどこで誰が管理しているかわからない、あるいは、情報と情報をくっつけて様々なプライバシーの侵害というか、個人の侵害、こういったことも起きている。オーストリアのモデルを中心に、社会保障給付や種々の行政サービスの提供を適切に受ける国民の権利を守るための番号であり、あるいは、個人情報を自らコントロールできる、重複なく、漏れなく、正確かつ安全に付番を行うということで、まず、原則1、国民の権利を守るための番号であること。
原則2、自らの情報を、先程申し上げましたけれども、不正に利用・ストックされず、確認・修正が可能な、自己情報をコントロールできる仕組みであること。例えば、ホームページに全く根も葉もないことが長く置かれている。個別名は言いませんけれども、それっていったい何なのか。自らの情報が不正に利用・ストックされることなく、また、自らの情報にアクセスし、内容の確認・修正ができる。自己情報コントロール権というものを、確立をしたいと思います。
原則3、利用される範囲が明確な番号で、つまり、何のために使われるかわからんというのは許しませんよ。プライバシー保護が徹底された仕組みであること。自らの情報についてどのような行政機関がどのような目的で利用するのか明確な制度とするとともに、最新の暗号化技術により情報漏洩防止に万全を期し、分野をまたがる情報の名寄せを防ぐ。これは、名寄せをされただけでですね、あなたは何月何日にどこどこに行きましたねと、こういう買い物の傾向がありますねと、そんなことまでわかってしまう。これは、個人の権利の侵害です。
原則4、費用が最小で、確実かつ効率的な仕組みであること。既存インフラを有効活用し効率的な仕組みを構築する。私たちは住基ネットについては、ずっと反対をしてきました。ただ、これはもうあるものなので、それを発想を変えて、利用することも含めて検討する。これは、後で渡辺副大臣から、あるいは、内藤副大臣からお話をいただくと思いますが。また、クラウドコンピューティングの手法により、各分野内でのシステムの共同利用を積極的に進める。番号を作ると、また、新たな番号利権みたいなものがあってですね、そして、莫大なお金がかかって、損をするのは国民だけ、などということは絶対に許さない。
原則5、国と地方が協力しながら進めること。より良い行政サービスを提供できるよう、国と地方が協力しながら電子政府を推進する。こういうことで、よろしくお願いしたいと思います。何かご意見ございましたら、よろしくお願いいたします。
(小川大臣政務官が到着)
○原口大臣
(小川)政務官、今、番号に関する原則について、僕の方から説明をしました。よろしいですか、今ので。「なんとか原則」ということについて、簡単な名前を付けてくださるとありがたいです。これを親会の方にですね。
○渡辺副大臣
はい。次回の社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会の時にまたこういうものを提出したいと思います。
【総務省 2010年2月23日「総務省 政務三役会議 議事概要」】
●会議資料:総務省 2010年2月23日「番号に関する原口5原則」(2010年2月23日 総務省政務三役会議「会議資料(PDF)」から2〜8ページを抜粋)

原口一博総務相は23日の政務三役会議で、政府が税や年金などの共通番号を検討していることに関連し、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の番号活用を検討する考えを明らかにした。

原口氏は総務相就任前、住基ネットそのものに反対していたが「発想を変え、利用することも含めて検討する」と表明。新番号に関する「原口5原則」として(1)国民の権利を守る(2)自らの情報を確認・修正できる(3)利用範囲が明確でプライバシー保護が徹底される(4)費用が最小で効率的(5)国と地方が協力しながら進める―ことを掲げた。

政府は今月8日に検討会を発足させ、番号の利用範囲などをめぐり議論しており、原口氏は近く検討会に新番号に関する見解を伝える。

住基ネットは、住民票を持つ国民に11けたの住民票コードを割り当て、氏名や生年月日、住所、性別と情報の変更履歴をデータベース化。行政機関が本人確認に利用している。

【2010年2月23日付け共同通信「新番号制で住基ネットの活用検討 総務相」】

Copyright(C) 2010 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2010年12月12日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/juki-net/sentakusei/henshitsu.html