<4−2、左右荷重移動におけるロールセンター高とロール剛性前後配分>
ところで前述のロール剛性前後配分による左右荷重移動前後配分のコントロールについての説明は、簡略のため重要な要素を1つ省いています。厳密には1つだけではないのですが、ロール剛性前後配分とセットで考えるべき重要な要素という意味で、多少ややこしくても「ロールセンター高」はやはり説明しておくべきだと思います。
車をフロント(またはリア)から見てみてください。車がロールするといってもどこ(どの高さ)を中心にロールするのかという疑問が生じることと思います。この高さがロールセンター高であり、前後それぞれにサスペンションジオメトリによって決まるロールセンター高が存在します。すなわち車はフロントとリアのロールセンター高を結んだ軸の回りをロールするわけです。
フロントもしくはリアサスペンションのロールセンター高はフロント(またはリア)から見たときの左右のサスペンションの瞬間回転中心(<5−2、サスペンションの瞬間回転中心について>参照)とタイヤ接地点を結んだ線の左右の交点になります(図4.4参照)。図4.4の中央の図を例に説明すると、向って左の接地点A’はAを中心に動くので、微小ストロークではA’―Aに垂直に動くことになりその瞬間中心はA’―Aの延長上にあるものと考えられます。B’も同様にB’―Bの延長上にあると考えられるので、左右のタイヤ接地点の回転中心、すなわちロールセンターはその両方が成立するポイントである交点Cとなります。但し独立懸架サスペンションなどの場合、これはこの位置での微小ストロークで成り立つ話で、サスペンションが大きくストロークしていくと車体から見てタイヤ接地点の位置が変化していくため、実はロールセンター高も変化していきます。車高が変わればロールセンター高が変わりますし、ロール(片輪はバウンドで片輪はリバウンド)していけば左右の中心にあるとも限りません。図4.4中央の例でもロールしたあとのイメージである点線で接地点とサスペンションの回転中心を結んだ線の交点はもはや最初の交点と一致しないわけです。サスペンション形式によっては左右のサスペンションの瞬間回転中心自体もストローク位置によって漸次変化していきます。つまりこの概念は厳密に言うと、ある位置(例えば基準姿勢の水平位置)からの微小ストロークに限定した話ということになります。
しかしここではそういう複雑な話は置いておいて、前後のサスペンションにそれぞれある固定したロールセンター高が存在し、車は前後のロールセンター高を結んだ軸回りにロールすると頭においてください。その高さをここではそれぞれHf(前)、Hr(後)とします。また重心高をHgとし、重心位置(前後方向)でのロールセンター軸の高さをHxとします。前後のトレッドをTf、Trとし、車重をW、前軸重をWf、後軸重をWr、フロントのロール剛性をGf、リアをGr、現在の定常円旋回における車体ロール角をφ、旋回加速度をYg。そして前後輪の左右荷重移動量をそれぞれΔWf、ΔWrとします(図4.5参照)。
ここでHg−Hx=ΔHgとすると、重心に旋回加速度がかかることによるロールセンター軸回りのモーメントはW×Yg×ΔHgとなり、このモーメントを前後のロール剛性で受け止めるわけですから、
W・Yg・ΔHg=(Wf+Wr)・Yg・ΔHg=(Gf+Gr)・φ …(4−1)
となります。更にフロントのロールセンター回りのモーメントの釣り合いから、
Gf・φ=ΔWf・Tf−Wf・Yg・Hf …(4−2)
ここでWf・Ygは前輪(左右輪合計)にかかるコーナリングフォースの値で、現在定常円旋回中という前提なので前後輪に働くコーナリングフォースは前軸重、後軸重それぞれに旋回加速度をかけたものとなる(そうしないと重心点周りの前後のコーナリングフォースが釣り合わないので定常円旋回しない。<1−2、ハンドルを切るとなぜ車はコーナリングする?>の項参照)ことから求められます。同様にリアのロールセンター回りのモーメントの釣り合いから、
Gr・φ=ΔWr・Tr−Wr・Yg・Hr …(4−3)
式(4−1)より
φ=(Wf+Wr)・Yg・ΔHg/(Gf+Gr) …(4−4)
式(4−4)→式(4−2)へ代入
Gf・(Wf+Wr)・Yg・ΔHg/(Gf+Gr)=ΔWf・Tf−Wf・Yg・Hf
よって
{Gf/(Gf+Gr)}・(Wf+Wr)・ΔHg+Wf・Hf
ΔWf=――――――――――――――――――――――――――――――・Yg
Tf
…(4−5)
式(4−4)→式(4−3)へ代入
Gr・(Wf+Wr)・Yg・ΔHg/(Gf+Gr)=ΔWr・Tr−Wr・Yg・Hr
よって
{Gr/(Gf+Gr)}・(Wf+Wr)・ΔHg+Wr・Hr
ΔWr=――――――――――――――――――――――――――――――・Yg
Tr
…(4−6)
ここで式(4−5)と式(4−6)について、 赤字 はそれぞれロール剛性の前後配分のことであり(Wf+Wr)はもちろん車重W、前後のトレッドTfとTrは普通はあまり変わらないので同じとすると、
ΔWf=(ロール剛性フロント配分×W×ΔHg + Wf×Hf)×旋回加速度/トレッド
ΔWr=(ロール剛性リア配分×W×ΔHg + Wr×Hr)×旋回加速度/トレッド
となります。この2つの式を少し考えてみると、もし前後のロールセンター高Hf=Hr(=Hx)=0ならば、
ΔWf=(ロール剛性フロント配分×W×Hg)×旋回加速度/トレッド
ΔWr=(ロール剛性リア配分×W×Hg)×旋回加速度/トレッド
となり、最初の説明のようにΔWfとΔWrはロール剛性前後配分に従うことになります。… @
また、もし前・後のロールセンター高が重心高と同じ高さ、すなわちHf=Hr=Hg
よってΔHg=0ならば、
ΔWf=Wf×Hg×旋回加速度/トレッド
ΔWr=Wr×Hg×旋回加速度/トレッド
となり、Wf、Wr、すなわち初期の前後重量配分に従って左右荷重移動することがわかります。 … A
但し、この場合ロール軸回りに(重心点にかかる)旋回加速度によるモーメントが発生しないため(前後のロールセンター高と重心高が同じ高さだから)、ロール角はゼロ(タイヤのたわみ分は除く)ということになります。
更にΔHg=0(Hg=Hx)ではあるが、HfとHrがアンバランスな場合は
ΔWf=Wf×Hf×旋回加速度/トレッド
ΔWr=Wr×Hr×旋回加速度/トレッド
となり、前後輪の左右荷重移動量はWf×Hf、Wr×Hr、すなわち前後の、初期荷重とロールセンター高の積に従うことになります。 … B
ではここで、実際に数字を入れていくつかの例について計算してみましょう。数字をなるべく単純にするため、例として車両重量W=1000kgf、前後重量配分=0.5(Wf=Wr=500kgf)、トレッドTf=Tr=1.25m、重心高Hg=0.5m、前後トータルロール剛性(Gf+Gr)=5000kgf・m/rad、ロール剛性前後配分=0.5(Gf=Gr=2500kgf・m/rad)、ロールセンター高Hf、Hr=0.25mの車両が旋回G=0.5Gで定常円旋回している例を基準に、前後重量配分を0.6〜0.4、ロール剛性前後配分を0.6〜0.4、前後ロールセンター高を0〜0.8に振ってみてそれぞれ左右荷重移動量が前後輪でどうなるかみてみます。
最初に前後トータルの左右荷重移動量は
左右荷重移動量=車両重量×旋回G×重心高/トレッド
=1000×0.5×0.5/1.25
=200kgf(前後トータル)
つぎにロール角(参考)を計算しておきましょう。式(4−1)から
W・Yg・ΔHg=(Gf+Gr)・φ
よって
φ=W・Yg・ΔHg/(Gf+Gr)
から、Hf=Hr=0.25の場合、ΔHg=0.5−0.25=0.25を代入して
φ=1000×0.5×0.25/5000=0.025rad≒1.43deg
また、Hf=Hr=0の場合、ΔHg=0.5−0=0.5から
φ=1000×0.5×0.5/5000=0.05rad≒2.86deg
また、Hf=Hr=0.5の場合、ΔHg=0.5−0.5=0から
φ=1000×0.5×0/5000=0rad
また、Hf=Hr=0.1の場合、ΔHg=0.5−0.1=0.4から
φ=1000×0.5×0.4/5000=0.04rad≒2.29deg
続いて前後輪それぞれの左右荷重移動量は式(4−5)(4−6)から
ΔWf=(「ロール剛性フロント配分」×車両重量W×ΔHg+Wf×Hf)×Yg/Tf
ΔWr=(「ロール剛性リア配分」×車両重量W×ΔHg+Wr×Hr)×Yg/Tr
よって基準の場合は
ΔWf=(0.5×1000×0.25+500×0.25)×0.5/1.25
=100kgf
ΔWr=(0.5×1000×0.25+500×0.25)×0.5/1.25
=100kgf
となり、左右荷重移動の前後配分は50:50となります。ちなみに前後のロール剛性配分や前後重量、前後のロールセンター高をどのような値にしても、それぞれの前後比が50:50なら、左右荷重移動の前後配分は常に50:50となります。
これに対してそれぞれの要素の値を振った場合の計算結果が表4.1〜4.3です。
表4.1、基準に対しロール剛性前後配分と前後重量配分を振った場合の左右荷重移動
Gf |
Gr |
Wf |
Wr |
Hf |
Hr |
ΔHg |
Φdeg |
ΔWf |
ΔWr |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
1.43 |
100 |
100 |
3000 |
2000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
110 |
90 |
2000 |
3000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
90 |
110 |
2500 |
2500 |
600 |
400 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
110 |
90 |
↑ |
↑ |
400 |
600 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
90 |
110 |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.1 |
0.1 |
0.4 |
2.29 |
100 |
100 |
3000 |
2000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
116 |
84 |
2000 |
3000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
84 |
116 |
2500 |
2500 |
600 |
400 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
104 |
96 |
↑ |
↑ |
400 |
600 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
96 |
104 |
表4.2、Hf=Hr=0及び=0.5を基準にロール剛性配分と重量配分振った場合の左右荷重移動
Gf |
Gr |
Wf |
Wr |
Hf |
Hr |
ΔHg |
Φdeg |
ΔWf |
ΔWr |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0 |
0 |
0.5 |
2.86 |
100 |
100 |
3000 |
2000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
120 |
80 |
2000 |
3000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
80 |
120 |
2500 |
2500 |
600 |
400 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
100 |
100 |
↑ |
↑ |
400 |
600 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
100 |
100 |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.5 |
0.5 |
0 |
0 |
100 |
100 |
3000 |
2000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
100 |
100 |
2000 |
3000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
100 |
100 |
2500 |
2500 |
600 |
400 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
120 |
80 |
↑ |
↑ |
400 |
600 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
80 |
120 |
最初に表4.2をみると、上半分のHf=Hr=0の場合にはロール剛性配分をそれぞれ、60:40、40:60と振ると、左右荷重移動量の前後配分も60:40、40:60となり、前述の@の説明の通りΔWfとΔWrはロール剛性前後配分に従うことがわかります。この場合、重量配分を振っても左右荷重移動量には影響ありません。
逆に下半分のHf=Hr=0.5の場合には重量配分をそれぞれ、60:40、40:60と振ると、左右荷重移動量の前後配分も60:40、40:60となり、前述のAの説明の通りΔWfとΔWrは初期の前後重量配分に従うことがわかります。この場合、ロール剛性配分を振っても左右荷重移動量には影響ありません。
次に表4.1の上半分をみると、基準(Hf=Hr=0.25)に対してロール剛性配分と重量配分のそれぞれ一方を60:40、40:60と振ると、左右荷重移動量の前後配分が55:45、45:55となります。これはどうゆうことでしょうか。この例では基準仕様のHf=HrがHgのちょうど1/2のため、左右荷重移動の前後配分に対する「ロール剛性配分の影響」と「重量配分の影響」はそれぞれ半分ずつ表れるということです。つまり一方が50:50なのでこの分でトータルの左右荷重移動量200kgfの半分の100kgfが、前50kgf:後50kgfとなり、もう一方の要素が60:40なので残りの100kgfに対して影響を及ぼして60kgf:40kgfとなり、合計で(50+60)kgf:(50+40)kgf=55:45となるわけです。
表4.1の下半分はHf=Hr=0.1にした仕様を基準に、左右荷重移動の前後配分に対するロール剛性配分と重量配分の影響をみたもので、基準(Hf=Hr=0.1)に対してロール剛性配分と重量配分をそれぞれ、60:40、40:60と振ると、左右荷重移動量の前後配分がロール剛性配分の場合は58:42、42:58となり、重量配分の場合は52:48、48:52となります。これはHg=0.5に対してΔHg=0.4(Hf=Hr=0.1から)のため、ロール剛性配分の影響と重量配分の影響が4:1で表れるためです。つまりトータルで前後200kgfの左右荷重移動のうち160kgfはロール剛性配分によって決まり、残りの40kgf分が重量配分によって決まるということです。ロール剛性前後配分が60:40なら、その影響による左右荷重移動量は160kgfをこの割合で分けた96kgf:64kgfとなり、このとき重量配分が50:50なら残りの40kgfをこの割合で分けて20kgf:20kgf。トータルして左右荷重移動の前後配分は、(96+20)kgf:(64+20)kgfとなるわけです。ロール剛性配分が50:50で、重量配分が60:40の場合は、(160×0.5+40×0.6)kgf:(160×0.5+40×0.4)kgf=104kgf:96kgfとなります。
表4.3、ロールセンター高の前後バランスを振った場合の左右荷重移動量
Gf |
Gr |
Wf |
Wr |
Hf |
Hr |
ΔHg |
Φdeg |
ΔWf |
ΔWr |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.5 |
0.5 |
0 |
0 |
100 |
100 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
0.8 |
0.2 |
↑ |
↑ |
160 |
40 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
0.2 |
0.8 |
↑ |
↑ |
40 |
160 |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.25 |
0.25 |
0.25 |
1.43 |
100 |
100 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
0.4 |
0.1 |
↑ |
↑ |
130 |
70 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
0.1 |
0.4 |
↑ |
↑ |
70 |
130 |
2500 |
2500 |
500 |
500 |
0.4 |
0.1 |
↑ |
↑ |
100 |
100 |
3000 |
2000 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
140 |
60 |
2500 |
2500 |
600 |
400 |
0.357 |
0.089 |
↑ |
↑ |
135.7 |
64.3 |
最後にロールセンター高の前後バランスの影響について数字を当てはめてみましょう。表4.3の上3段はΔHg=0でHfとHrを0.8m:0.2m(80:20)にした場合で、左右荷重移動は前が+60kgで160kg、後ろが−60kgで40kgとなります。つまり前述のBの説明のように左右荷重移動量はWf×Hf=500×0.8、Wr×Hr=500×0.2から80:20の割合になることがわかります。
一方、真ん中の3段のようにΔHg=0.25でHfとHrを0.4m:0.1m(80:20)にすると左右荷重移動は前が+30kgで130kg、後ろが−30kgで70kgとなります。上の例に対して半分の+30、−30kgとなるのは、ΔHg=0.25でHgの1/2のため、左右荷重移動の前後配分に対する「ロール剛性配分」と「重量配分」の影響はそれぞれ半分ずつ表れることになりますが、「ロール剛性配分の影響」はイーブンで、残り半分に対してHfとHrがWf×HfとWr×Hrの形で影響するため、上の例と同じくHf:Hr=80:20としてもその影響は半分しか表れない(50:50→80:20だったのに対して半分の65:35になる)ということです。
下3段はΔHg=0.25のまま、Hf:Hr=80:20としたものを基準に、ロール剛性配分と重量配分の一方をそれぞれ60:40に振った場合です。ΔHg=1/2Hgでかつこの場合はHfとHrが等しくないので「ロール剛性配分」と「Wf×Hf:Wr×Hr」の影響をそれぞれ半分ずつ受けることになります。最初の例はロール剛性配分が60:40ですから、全荷重移動量200kgfのうちの半分の100kgfについては60kgf:40kgfで左右荷重移動することになります。残りの100kgfは重量配分が50:50なので、(50×80):(50×20)=80kgf:20kgfで左右荷重移動することになり、合計で(60+80)kgf:(40+20)kgfとなります。
最後の例ではロール剛性配分は50:50で重量配分が60:40、Hf:Hr=80:20(重心位置が変わっているのでΔHgを合わせるため数字が変わっている)なので、左右荷重移動量全体200kgfのうちの半分の100kgfは50kgf:50kgf、残りの100kgfは(60×80):(40×20)=6:1=85.7kgf:14.3kgfの前後割合で左右荷重移動することになり、合計で(50+85.7)kgf:(50+14.3)kgfとなります。
実際にはロールセンター高はゼロでないことが多く、前後で異なり、かつ重心高の方が高いのが普通なので、前後輪の左右荷重移動量は、それらのミックスで「ロール剛性前後配分」「前後重量配分」「重心高に対する前後のロールセンター高」により決まってくるということです。
整理すると、『左右荷重移動の前後配分に対しては、重心高に対するΔHgの割合で「ロール剛性前後配分」と「前後重量配分」の影響の割合が決まり、後者はさらに厳密には前後のロールセンター高の影響を受けて、「Wf×HfとWr×Hrの割合」で決まる』ということになります。例えば、前輪側の左右荷重移動を大きくしてアンダーステア傾向を強くしようと思えば、「前後重量配分」はフロント寄りにし、「ロール剛性前後配分」をフロント寄りに、「前後のロールセンター高」のバランスはフロントを高くすれば良いということになります。また「重量配分」の影響より「ロール剛性配分」の影響が強く出したい場合には「前後のロールセンター高」を低くしてΔHgを大きくすれば良いということです。
尚、最後の「前後のロールセンター高のバランスはフロントを高くする」について補足すると、これは式(4−2)、式(4−3)からわかるように例えばフロントの左右荷重移動量ΔWfはサスペンションのロール剛性×φ分とタイヤが発生しているコーナリングフォース×ロールセンター高のモーメントをΔWf×Tfで受け持たなければならないことから理解できると思います。ロールセンター軸が前上がりだとフロントが浮き上がり、リアにのしかかるような対角ロールからのイメージで、リアの左右荷重移動がフロントより大きくなるように感覚的に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは対角ロールにより重心点が幾何学的に前後移動する分のイメージであり、ロール軸が前後に傾いていた場合のロールに伴う前後荷重移動量はロールセンター軸の傾きをθとすると、
W・ΔHg・sinθ・sinφ
となり、φやθが微少な領域ではsinが重なっていることからもわかるように、極めて微少な値(かつ前に移動)となります。コーナリングフォース×ロールセンター高のモーメントによる影響に対して無視できるオーダーということです。
但しロールセンター高はサスペンションのジオメトリによって決まり、このジオメトリ決定には様々な要素が関連するため、前・後の左右荷重移動量をコントロールするだけのためにロールセンター高を設定するということは実際にはありません。